悪魔のはびこる世界に正義のヒーローは必要でしょうか?   作:一夜漬 唄刃

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ちょっと間が空きましてすみません
ソラVS台風の悪魔です


第7話:五月雨

 

 巨大な体躯を持つ悪魔は、移動するだけで周囲の木々を山肌ごとこそぎ取って吹き飛ばす。

 荒れ狂う嵐の中を瓦礫や木や岩が飛び交って、それ自体が敵の侵入を拒む結界になっている。その様はまさに天変地異に等しく、只人が立ち向かえる領域ではない。

 そんな中で、私は暴風の中を飛び回りながら接近を試みる。

 

 ――やはり、天変地異に限りなく近い性質を持っている。この悪魔の能力は、まさしく台風だ。周囲に嵐を起こして全てを薙ぎ払う。古くから繰り返されてきた、人類への洗礼。

 

 台風の悪魔だとするなら、この脅威度も納得だ。通常の悪魔の単位で言えば、間違いなく上位。

 その上で、どう戦うか、だが……

 木や風に浮かされた瓦礫を足場にすれば、三次元的な高速移動が可能。この悪魔は攻撃範囲と被害規模こそとんでもないが、私のようなタイプを捉えるのはそこまで得意ではないようだ。

 

 ――範囲火力は凄まじいですが、一点への集中や攻撃の精度は大した事ありません。対抗することは十分に可能です。

 こんな風に戦略もなにもなく力を振り回し、暴れるだけなら、対処自体はそう難しくない。

 

 しかし、だからといって簡単に勝てる相手かと言うと断じて否だ。

 襲い来る暴風や瓦礫による妨害は、純粋に攻撃としても機能しているし、その領域内を動き回って本体への距離を詰めるのだって並大抵のことじゃない。

 

 木を蹴って、抉れ上がった地表の上を走って、ある程度近付くと巨体を見据えて足腰に目一杯の力を込める。

 

「これは、ご挨拶!!」

 

 飛びあがって、浄化の力を込めたキックを一閃。一際大きな岩に打ち当てる。

 岩は浄化の力を得て強度を上げ、特大の弾丸となって悪魔へと飛んでいく。だが、それは悪魔に命中する前にそれ以上に巨大な岩や暴風によって阻まれて届かない。更にそれだけじゃない。

 

「くっ!」

 

 攻撃の瞬間に動きを止めたのが仇となって、空中で体勢を整える前に暴風が体を捉える。凄まじい速度で吹き飛ばされ、数度ほど障害物に激突してバウンド。

 

「――ハァ!!」

 

 だがここで集中。

 次の瓦礫に体をぶつけられる前に即座に体勢を立て直し、拳を放ち粉々に粉砕。

 それを飛んでくるもの全てに見舞う。砕かれた瓦礫を足場に再度跳躍、速度を上げながら悪魔の周囲を大回りに回転するようにして駆ける。今度は動きを止めずに、全方位から大岩を打ち放つ。

 

 だがこれも焼け石に水で、決定打には程遠い。

 

 私自身の踏破力では、これ以上内部へは近づけない。

 遠距離からこうしてちょっかいをかけ続ける。心中には焦りも猛りもない。ただひたすら冷静に、高級な料理を吟味するようにじっくりと戦う。

 

 ――中心に近付くほど風は強くなって、身動きが取りづらくなる。無暗に突っ込んでも返り討ちにあうだけですが……しかしこの"遠さ"から出来ることはもう殆どない。

 

 この空域がリスクなく動き回れるギリギリのラインなのだが、強大な相手を前に腰が引けてばかりではいけない。

 結果は分かり切っているが、いっそのこと一度やれるところまで近付いてみるか。やつの風の防御がどの程度なのか、この身を持って体感し最後の一手へと繋げよう。

 

「まあ、死にはしないでしょう」

 

 決心すれば早いもので、怖じ気など一切なく台風の中心に向かって突っ込む。

 エネルギーを体に纏い身体能力も底上げした上で、神風の中を一心に進み、弾丸のような速度で飛んでくる山のような足場を走って飛んで経由する。そのまま行けば悪魔の懐まで届くだろうか。

 答えは否。

 

「うわっ!?」

 

 風があまりにも強すぎる。

 突破力に秀でた馬のようなものでもあれば、こんな風の中でも進めただろう。だが私はこの通り単身、この身一つで地を蹴るのは二本の細足だ。そんな(てい)では当然、中心付近に吹く最大の難所は抜けられない。

 

 身体が見事に耐えきれず自由を失い、中空で荒れ狂う。

 まるで洗濯機の中に放り込まれたかのように暴風で振り回され、私そんな中でなるべく身を堅めて体勢の制御を効かせ、岩や浮かび上がった地面などに激突する度にくるっと体を回転させて上手く衝撃を逃がす。

 

 何十回かそうした末、なんとか叩き付けられるようにして地表に着地した。

 

「っ、やってくれますね」

 

 乱暴に口端からチラついた赤い滴りを拭う。

 体へのダメージ自体は大したことなく、結果も思っていた通り。無理やり攻めて勝つのは土台不可能なことを改めて認識した。

 

「……下がりながら戦えばこちらの体力は温存できる上、長期戦に持ち込める。ですが、そうすれば町へ近付けてしまう事になります。それだけは絶対に避けなければなりません」

 

 後退しながら戦えば勝率は今無理をするよりマシな値になるだろう。だがダメだ。こんな大規模災害の権現みたいなのが町へ降りたら、何百人の罪なき人が命を落とすか分からない。

 故にここで確実に倒す必要がある。そもそも私が始めた戦いなのだ。是非もない。

 

「届きさえすれば、私のスカイパンチ(全力の一撃)は確実に奴を屠れる」

 

 飛んできた岩をジャンプして避ける。

 当然、考えている間にも足は止めない。

 ひたすら動いて奴の周囲を飛び回り続ける。

 

「問題はどうやってそれを当てるか……」

 

 さっきも実践した通り、この暴風の結界は相当な踏破力がなければ正面から抜ける事はできない。

 本気で無理をすればやれない事は無いが、こっちもただでは済まない上に失敗したら終わりだ。こんな無理矢理な手はまともな勝ち筋とは呼べないし、本当の意味で後がなくなった際の最後の手段だ。

 

「浄化の力は様々な応用が効く。きっとなにか方法があるはずです」

 

 それ以外に、この風の結界をどうにかする手段。

 質量で押すのはさっきやって無理だった。こういう時、ましろさん―――プリズムならどうするだろう。彼女は大技ですぐには倒せないと判断した時、決まって光の弾を一つではなく何十もの小さな(つぶて)にして放っていた。

 

 そうした場合、手数が多くなって攻撃を一点に集中するよりも面での制圧力が高くなる。

 この風の結界においてやっかいなのは、暴風もそうだが取り巻く岩やその他の障害物だ。

 

「そっか。風穴をあけるなら、なにも一点突破じゃなくていいんだ」

 

 相手が範囲での攻防に秀でているなら、こっちも面の攻撃で相殺すればいい。

 試してみる価値はある。

 

「私がましろさんのように、遠距離から手数の多い攻撃をするにはそれなりの工夫がいる。ですが、絶対に出来ないという訳ではありません」

 

 浄化の力は物体に伝播する。

 この作用を発見して以降、私は様々な応用を効かせて危機を脱して来た。

 今回も同じだ。

 

「やってみましょう」

 

 作戦は決まった。

 私は地表に着地して、周囲の地を軽く浮かばせるくらいの威力で踏み込む。そうすると、両手にありったけの浄化の力を溜めて嵐を見据える。

 

「行きます!」

 

 迸るほど高められたエネルギー。

 目前に無数に飛び交うつぶては全て『弾丸』だ。

 

「ヤアアァァァァアアアア!!!」

 

 覇気と共に吠え、拳を何度も打ち出す。

 最高速度での連打は全て、飛んでくる弾を繊細に捉えて、それらが浄化の力を纏い雨あられのように風の結界へと飛翔する。プリズムが得意な光弾の連射を疑似的に再現した技。これは一回限り打って終わりの重撃と違って、私の体力が続く限りずっと打ち続けることができる。

 

 大抵のものの耐久力は有限だ。

 例え修復が早くとも、加速度的に消耗し続ければやがて瓦解する。

 

 物量を優先した攻撃ではあるが、一発一発に必殺の意思が込められており、威力は十分。殺到する流星によって、台風の結界がついに綻び始める。

 

「っ――なるほど、周囲を回ってるそれ()も身体の一部なんですね!」

 

 ここで私にとって都合のいい出来事が起こる。

 嵐による防御を抜け始めた乱れ打ちを次に阻んだのは、悪魔の本体の周囲を拘束で回る肉の触手らしきもの。ただしこれらは、悪魔の本体に繋がっていた。ゆえに、そこに負荷がかかれば少しずつだが本体にもダメージが入る。

 

 当然これは、今し方分かったこと。嬉しい誤算というやつだ。

 そして、浄化の力を纏った攻撃をここまで喰らえば、悪魔の力自体も弱り始める。

 

「見えた。ふっ」

 

 短く吐息して、足腰に込めた力を一気に解き放つ。

 風が消え、邪魔な障害物も無くなったか細き活路。そこを一直線に飛びあがり、一瞬にして悪魔に迫る。

 

「ヒーロガール……」

 

 青い浄化のエネルギーを纏った拳をひきしぼり、

 

「スカイパァーンチ!ハァアアアア!!」

 

 渾身の一撃が放たれる。

 浄化の力が青く輝いて鋭い刃となり、無防備になった悪魔の巨体に深々と突き刺さった。注ぎ込まれる無限大の浄化エネルギーが、悪魔の巨体をかけ巡る。

 

【グギャァァァアアアアアァアア…………!!!!】

 

 悪魔の悲鳴だ。

 巨体から溢れんばかりの浄化の光が、眩い粒子となって噴き出し、極光の柱が天へと立ち昇る。

 それは空を覆っていた黒い雲を晴らし、綺麗な青空が開き陽光が降り注ぐ。

 

 その光の根本には、絶望の力が消え去った悪魔の骸が横たわり。

 スカイブルーのツインテールを靡かせた、ヒーロガールがひとり立っていた。

 

 

 

 

 

 

「嬢ちゃん……お前ほんとうに人間か?」

 

「まあ、一応はそのつもりですけどね」

 

 駆け付けた岸辺さんが周囲の惨状をみて言う。

 私はキュアスカイの姿のままその場に留まって、彼を待っていた。今回のように町を壊滅させかねないレベルの力を持つ強大な悪魔を倒した場合は、いつものように対応を丸投げして去るという訳にもいかないので、例外的に私も居残ることになっている。

 

 私は手頃な岩の上に座り、岸辺さんは悪魔の骸を観察している。

 

「幼体とは言え、相手は災害の名を持つ悪魔だ。町などに現れた場合、国家が特別な隊だのを派遣するレベルの敵とされている。個人で倒せるような相手じゃない」

 

「実際、それなりに手こずりました。今まで戦った中でもかなり手強い部類でしたね」

 

「オーケー、お前は最高にイカした奴だ」

 

 岸辺さんはそれから悪魔の骸を調べて、生命活動の停止を確認すると公式に任務完了となる。

 

「ふむ………確かに『台風の悪魔』の討伐を確認した。引き継ぎも問題ない」

 

「そうですか。じゃあ、後はお任せしま」

 

「待て、まだ帰るな。仕事とは関係ないが、ちょっと個人的に話がある」

 

 デビルハンターとしての私の役目は終わって、いつもならここで帰ることができるのだが、今日ばかりは少し違った。

 

「……なあ、スカイ。お前、モルモット(・・・・・)って知ってるか?」

 

 聞かれて、私は疑問符を浮かべた。

 

「何ですか?急に……」

 

「いいから答えろ。どっちだ?」

 

「………二つの意味で、とだけ……」

 

 そこまで言えば彼も理解する。

 おそらく質問の意図に対して、回答の趣旨は間違っていないはずだ。

 

「分かっててその態度とは……お前の言う"正義のヒーロー"ってのは随分と捻くれてるんだな」

 

「今更それを言いますか?以前、私に対して『宙ぶらりんな心構えに意味はない』って言ったのはあなたでしょう」

 

「折り曲げろとは言ってない。俺としちゃ今の歪な感じの方が好みではあるがな」

 

「分かりました。もう二度とこの話はあなたとはしません」

 

 時間を無駄にした。

 そう心底思って、私は立ち上がって歩き出す。

 

「では、また今度」

 

「あぁまだだ、あと一個ある」

 

 その背中を呼び止められ私は足を止めて振り返る。ちょっと煩わしげに睨むも、岸辺さんはどこ吹く風と問いを投げた。

 

「『銃を握らせ引き金を引くように指示した親』と『銃を握らされ引き金を引いた子供』……今のお前にとってはどっちが悪だ?」

 

 それは数年前の続き。

 私がまだこの世界に来たばかりで、何もかも知らず、分からず、ろくに何も成せない甘ちゃんだった頃に彼から投げられた問いだ。なぜ今またそれを聞いてきたのか、その意図はわざわざ聞くまでも無い。

 分かっていて、私は告げた。

 

「私の意思は変わりませんよ。意味がない(・・・・・)ので『無回答』とさせていただきます」

 

 さようならと、今度こそ言い残して私は飛び去った。

 




・浄化の力は物を伝播する
スカイがこっちの世界に来てから見つけた性質
応用する事で様々なことが可能
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