結局、この廃墟の中で見つけられたものは、EGO以外には役に立ちそうな物は何もなかった。せめて飲み水くらいあれば良かったけど、それさえない。今のところはよく解らない赤い液体を飲みたくなるほど、喉は渇いてないのが救いなのかな。
「ここにずっと居ても仕方ないし、外に出よう……」
誰が聞いてる訳でもないけど、自分に言い聞かせて、この廃墟の外に出る。すると、なんだか見覚えのある景色が広がっていた。本当に最近、誰かの記憶の中だっけ。少なくとも解るのは、これは煙戦争だったはず。
「そうだ、少し思い出した。確かこの後、誰かに話しかけられたはず」
記憶では、誰かに話し掛けられたと思っていたけど、廃墟から出て荒れた道を歩いているけど、誰かに話し掛けられるどころか、誰も居ない。記憶の中にはこんなに静かだった覚えは無いんだけど。
「……どうしよう」
このまま進んでも何かありそうでもない。他にも崩れかけた建物がいくつもあるし、そこを調べた方が良いだろうか。それで怒るような人も居そうに無いし、問題ないと思います。何かしら見つけられたら良いですけど……
「……うん。何もなさそう」
崩れかけた建物を幾つか調べてみても、何かこの状況を打破出来そうなものは何もなかった。何となくだけど、これ以上この場所を探しても、意味はないような気がする。私に出来ることは、道を辿って、ただ前に進むことだけらしい。
「手が降ってきて、潰されるみたいなことが起きないと良いけど」
ふと、頭の中に浮かんだ光景を振り払って、無心で前に進んでいく。どれだけ歩いたんだろうか、景色は全く変わらないけれども、気がつけば私の前、道を塞ぐかのように誰かが立っていた。
「……誰だっけ」
その姿は、頭が虫のようになっていて、軍人が着るような服をまとっている。とりあえず、何を聞くべきか考えてると、その人は無言で鋭い虫の腕を振り上げた。
「何をするんですか……!」
そして、振り下ろされる虫の腕をEGO……リストカッターで受け止める。なんとなく、話し合いは無意味なんだとわかった。そのままリストカッターに力を入れて、腕を弾いて。返す刃でそのまま斬りつけようとしたけど、相手も解っているのか、距離を取られて空振り。
「くっ……! どうにか方法は……」
向こうの攻撃には対応できる。腕を振るってきたらリストカッターで弾いて、突きの動作を見たら避けに転じる。だけど、私の攻撃も見切られているみたい、どの部位を攻撃しても、受け止められてしまう。このままだと、私の体力が持たない。
それは、解ってるけど。まだ何も方法が見えてこない。攻撃を受け止めて、攻撃を受けとめられて、こっちは疲れてきてるのに、向こうは疲れている様子も見えない。
「……なにか」
もし、なにかあるとすれば。私の手にあるのはEGOであるリストカッターだけ。これがただのナイフという訳ではないはず。断片とはいえ、その幻想体の力を引き出すのだから。
「あぁ、そっか……」
虫の人が私の振るったリストカッターを腕で防いだ瞬間、私は何も持たない方の手で、相手の腕を掴んだ。どれだけ弱々しい力だったとしても、掴まれた方は抵抗できない。
もう、何処にも属せない哀しさは、力で振り払えるようなものでは無いから。先に沈んでしまった仲間達は、それを振り払えるようなものでは無いんだと知ってしまっているから。
「置いて行かないで」
虫の人は脱力して、腕が垂れ下がる。まるでこれから起きることに無抵抗になるように。そして、そのまま私は、リストカッターを心臓に突き立てた。
こんな話を聞いたことがあるような気がする。この場所は別に青い部屋では無いけれど、リンゴを貫くというのは、別に違ったものではないから。
「……先に進まないと」
私には、倒れた虫の人に捧げられるものは無かった。せめて、その哀しさが薄れる事を願って、前に進むことにした。どうして進んでいるのか、何も解らないけど、そうしないといけないみたい。
私も、いつかは一人で沈むことになってしまうんだろうか。そうなるなら、仲間と一緒に沈んだ方が良かったんじゃないかと、そう考えてしまう。生きたいと、死にたくないと願ったのは、間違いだったんでしょうか。