沈んでしまった平凡なリンゴ   作:レー.NULL

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2章 愛することのできない

 少しの間、意識を失っていた気がする。別に記憶があやふやって訳ではなくて、ちゃんとあのリンゴに止めを差した所も覚えてる。まぁ、風呂で意識を取り戻した時以前は、未だにあやふやではあるんだけど。

 

「それは、それとして。ここは何処なんだろう」

 

 現実から目を背けるのはここまでにしておこう。今までも急に景色が変わることはあったけど、見覚えがある場所だったからか、そこまで困惑する事は無かった。だけど、私の記憶の中にはこんな場所は無かった筈なんだけど

 

「えーと、カジノで良いのかな……。でも、なんでカジノ?」

 

 そう、今私が居る場所は煌びやかなカジノで、行ったことなんてあるはずがない。今までの場所を考えるに、私の記憶にある場所に移動するものだと思っていたのだけど、別にそう言うわけでは無いらしい。

 

「うーん……。だけど、どちらにしても出来るのは、前に進むことだけだね」

 

 そして、多分。ここも先に進んでいくとまた別の場所に行くんだろうけど、ずっと進んでいたら、何処に行くんだろう。本来私は、あのリンゴの時点で道が終わっていた筈だから、そこで終わっていなかったらの可能性かな……。いや、でも、それでカジノに行くのはやっぱり意味が解らないかも。

 

「今までの感じだと、そろそろ誰かが出てくると思うんだけど」

 

 見渡すと、マラカスを持った見慣れない衣服の人が居る。不敵な笑みを浮かべてはいるけど、何か話しかけてくるような事はない。そういえば、誰も言葉を発してない。うーん、考えても意味はないような気がしてきた。

 

「少なくとも、傷を付けられる精神があるなら、問題ないよね」

 

 見慣れない衣服の人が、マラカスを私の方へ向けると、どこからか同じ様な服を着た人が数人、現れて向かってきた。手には刃物を持っているけど、あまり脅威には感じない。人数は増えたけど、こっちの攻撃が通じるのなら、ただ沈んでいくだけだから。

 

「そのまま、沈んで」

 

 攻撃を弾いて、体制を崩して、一撃傷付ければ。それだけで深い憂鬱に沈んで動けなくなる。それを人数分繰り返すだけ、その間も、マラカスを持ってる人は表情一つ変えずにその場に立ってるだけ。

 

「まるで、どうでも良いみたいだね」

 

 ロボトミーでも、職員の扱いはそんなものだった。必要なのは規定量のエネルギーを生成する事だけで、それ以外の事柄に関しては、本当にどうでも良かった。そうして皆沈んでしまう。誰かは知らないけれど、誰も、愛することのできない人なのかと、ふと思ってしまった。

 

「あなたは、何も思わない?」

 

 特に意味は無いと思うけど、マラカスを持っている人に対して聞いてみる。他の人は皆沈んで、一人だけ残っているのに、それでも何かを思う様子は無いみたい。そうだよね、やっぱり、ここはそういう所だったよね。

 

 残りの一人、マラカスを持った人は急に、こっちに向かってきた。私に振るってきたマラカスを、他の人と同じように弾こうとしたけど、思ったよりも力が強くて、私の方が圧される形になってしまった。

 

「囲まれてたらやばかったかも……」

 

 体制を崩した私に、マラカスで追撃をしてくる。何とか防いでるけど、状況はあまり良くない。刃物よりもマラカスの方が強いなんてとも思ったけど、EGOの色んな形状を考えると、そういう事もあるのかもしれない。

 

「どうにかしないとなんだけど」

 

 攻撃を防ぎつつ、今度はもう片方の手で相手を掴もうとするけど、俊敏な動きで避けられてしまう。前と同じようにはいかないらしい。だけど、今回は私が何か対策するような必要は無いみたい。

 

「貴方は仲間と思っているか解らないけど、先に沈んだ人達が待ってるよ」

 

 私が相手に向かって踏み込むと、攻撃を避けようと後ろに下がっていく。だけど、偶然その足元には、誰かの手が落ちていて、それに足を掬われてる。だから、そのまま更に踏み込んで、リストカッターで切り裂いた。

 

「少しでも、関心を向けることが出来たなら、こうはなっていなかったのかもしれないね」

 

 もしかしたら、本当はこういう風に思ってた訳ではないのかもしれないけど、ここではただ、そうであっただけなのかも。それでも、考えたところで何も意味は無いのかもしれない。私は、ただ先に進まないといけないだけ。

 

「先に進まないと」

 

 私の同僚達も、一緒に沈むことを願っていたんでしょうか。私だけ這い上がってしまった事に、何を思っていたんですか。それを違うと抗うことに、何か意味は在るのでしょうか。抱えて進んでいかないといけないのかな。あの人の言葉の通りなら。

 

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