星に願いを   作:曇らせ旅団

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まだ情報が何も開示されていないので無敵です。


クルニスとクソボケ

 

 

 神器とは、祈願箱に恩恵の神への願いを込めながら開けると手に入る道具である。

 

 しかし、その願いの代償として、僅かばかりの記憶を失ってしまう。

 

 失う記憶は千差万別だ。

 例えば、ある日犬の散歩をした記憶。例えば、ある日友達と遊ぶ約束をした記憶……

 

 神器を集める巡遊者は、いつかは慣れていく。

 記憶を失うことなど、転がり込む大金と比べれば安いものだ。

 

「……で、お前は?」

 

 目覚めると、そこはどうも診療所のようで、一人の女性がニヤけた面を浮かべて近寄ってくる。

 

「嫌だなあ、キミは。私とあんなに激しい夜を過ごしたというのに」

「……済まないが、全く記憶にない。同行してた巡遊者か?」

「メスを手に取るような人間が、巡遊者のナリに見えるのかい? ……まあ、大当たりだけれどもね」

 

 今にして思うと、この医者の装いをした女性を、なぜ最初から巡遊者だと決めつけていたのか、不思議でならなかった。

 少し部屋を見渡し、自分の身体を見る。病衣を着させられているが、身体には傷一つ見当たらない。

 

「本当に、キミは不思議だよ……じゃあ、今日も身体を診察させてもらうよ」

「は? 嫌だが」

「どうして拒むのかな。私は医者だというのに」

「俺の身体は何ともない。訳の分からない理由でドーラを巻き上げようというのなら、俺にも考えが……」

「いやいや、お金なんて取らないよ。キミは興味深い研究対象で、キミは私に付き合わされているだけなんだ。寧ろ、日頃の協力への謝礼を支払わせて欲しいくらいだね。いるかい?」

「要らねえ……」

 

 日頃、という単語に突っ掛かる。少なくとも俺は、この女性について何も知らない。

 しかし相手は、さも俺と旧知の仲とでも言わんばかりにグイグイと詰め寄ってくる。

 

 ……どうやら、俺はこの女性の事を忘れてしまったらしい。

 

 だが、あんな大きさの祈願箱を開けた程度で忘れるのだから、どうせ大した仲では無かったのだろう。こんな場所に長居する必要もない。

 

 ベッドから下りると、直ぐ側には俺の装備がまとめられていた。確認してみると、神器含め、何も取られていないようだ。

 それを抱えて、診療所を出ていく。

 

「世話になったな」

「おや、もう行くのかな? 今日はこの骨剪刀で、キミから少し標本を頂こうかと思ったのだけれど……」

「そうか、じゃあな」

「つれないねぇ……病気なり怪我でもしたら、また私の所に来ておくれよ。ドーラさえあれば、どんなものでも治してあげよう」

 

 覚える気は無かった。もう、二度来ることもないだろう。

 俺は、自身の借りている宿に向かった。

 

 ここも借りてそこそこが経った……そろそろ、アモールから離れていも良い頃合いかもしれんな。

 

 ふと、デスクに飾った写真立てを見た。

 幼い俺と、もう名前さえ忘れた少女との2ショット。

 

 最初は、彼女を探して巡遊者となった。だが、今では半ば諦めているのようなものだ。

 

 大陸中の街を色々と巡ってきたが、未だに手掛かりはない。

 

 このまま、俺は巡遊者となった理由さえも、段々と忘れるのだろうな……

 

 

 

 

 

 

「……また、キミはそんな無茶をするんだね」

 

 倒していた写真立てを起こす。

 

 そこに写る彼を、何年も隣で見てきた。彼が巡遊者となってからも、ずっと。

 

『俺がクルニスを守ってやるよ。骨とか人体は好きでも、星骸みたいなガラクタにはとんと興味ないだろ。モノを壊すのは俺の方が向いてる』

 

 一緒に星ノ塔に登り、巡遊者として神器を集める。

 ただ、それだけだったはずなのに。

 

「忘れっぽくて困っちゃうよ、私は……」

 

 なぜ、私だけを忘れていくのか。その原因究明は、私の至上の命題でもあった。

 

 しかし、星ノ塔は、祈願箱は神秘そのものだ。決して解明しきれるものではない。

 故に触れさせないようとも試みた。でも駄目だった。

 

 彼は、巡遊者なのだから。

 

「なあ、────くん。いつになったら、私を迎えに来てくれるんだい……?」

 

 薬指を右手で撫でながら、今日も騒がしさの増す街を見やる。

 

 また、私は彼を追うことになる。場所を転々とする彼を追って、そこに診療所を開くのだ。

 この街とはもう、お別れだろう……

 

「──先生、急患だ!!」

「落ち着け、ミネルバ。私は大丈夫だから」

「んなわけねぇだろ! 変な魔法食らってたじゃねぇか! 何かあってからじゃ遅えんだぞ!?」

 

 感慨に耽る私の思考は、知り合いの大声に殴り飛ばされた。

 

 はあ、と溜息を吐きながら、徐ろに椅子から立ち上がる。

 

 何度か面識のあるウィンドアッシュの団長が抱えていたのは、どこか大人びた銀髪の少女。

 二人の容態を目視でなんとなく把握してから、敢えて二人に尋ねる。

 

「キミたちさ、診療所では静かにしてくれないかな。……それで、どっちが患者なの?」

 

 今日の診療は一段と長引きそうだ、と覚悟を決めながら、私は写真立てを片付けた。

 

 

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