星に願いを   作:曇らせ旅団

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・主人公
基本お人好し。割と刹那主義で、後先考えないことが多い。祈願でごっそり記憶が無くなるので、知り合った大体の人間を忘れている。

・クルニス
主人公の探してる過去の幼馴染その人。主人公の祈願による忘却体質を改善するため、旅をしている彼を常にストーキングしている。怪しい言動で近づくので、当の主人公からは警戒され、そして忘れられ、また警戒されを繰り返している。

・魔王
キュートな女の子。かわいいね。


チトセとクソボケとポーシアと

 

 

「サータ。多分これは、君のロスレコじゃないか?」

「……ああ、ボスか。本当に俺のものか?」

「チトセも写っているが、元になった記憶は君のようだ」

「……チトセってのは誰だ」

「そうだった……君はそういう体質だったな」

 

 俺はとある一件から、魔王(ボス)なる人物と契約を結んだ……らしい。

 

 記憶を失う前に書いたのだろう俺のメモによれば、それは『魔王プロトコル人材派遣カンパニー』という、入社条件の胡散臭さが目立つような会社だった。

 

 彼女……カンパニーのボスは、特殊な力を持っている。

 その一つが、契約者のロスレコを引き出す能力だ。本来は星ノ塔で見つかる、恐らく巡遊者達がこれまで代償としてきた、記憶の断片とされるものだが……ロスレコの記憶とその記憶の持ち主が合致するなんて、都市伝説レベルの話だと思っていた。

 

 記憶は 曲の形式になっていて、聴いていると何かしらを想起させる。

 そのジャケットにも、その記憶から抜き取られた画像が焼き付けられているので、それで誰のものかを判別できるという寸法のようだ。

 

 ⋯⋯その自分のロスレコが、これだと。

 

「なら、それは是非君が持っていてくれ」

「いいのか?」

「私がただ持っているだけでは意味がないしな⋯⋯君の大事な記憶だ。思い出せずとも、そういう事があったのだと、心に留めるくらいはしても良いんじゃないか?」

「⋯⋯まあ、そういう事なら」

 

 彼女はロスレコを俺に渡すと、業務に戻ってしまった。

 

 長く巡遊者をしているが、一体どんな記憶を失くしてしまったのか、皆目見当もつかない。

 

「⋯⋯流してみるか」

 

 ジャケットは、二人だけの焚き火。

 見知らぬ少女⋯⋯チトセとやらと囲んで、何やら話しているように見える。

 

 レコードを再生用の神器にセットする。

 

 〜〜〜〜♪

 

 グロッケンとピアノだけの、静謐な音楽とともに、記憶が流れ始めた──────

 

 

 

『⋯⋯初めてでございます。抜き身の刀と分かっておられながら、共に行動しようとする方は』

『まあ、そりゃ付き合い方の問題だろ。お前は強いし、頼りにできるから連れて行ってる』

『いえ⋯⋯チトセは、鍛錬の足らぬ未熟な身⋯⋯真の刀には、程遠いのです』

 

 その少女は、自らを刀と称し、所有されるに相応しき主を求めて旅する不思議な巡遊者だった。

 

 だが、その身に宿す鋭利な魔力は、触れるだけで他者を斬りつける。俺も例外ではなく、指を斬られかけた。

 

『鈍らも使いようだ。どんな道具だろうと、上手く扱う方法はある。俺の武器も、普段はガラクタみたいなもんだしな』

『チトセは、鈍らでも良いと⋯⋯?』

『あー⋯⋯チトセは鈍らっていうか、まな板まで両断するような斬れ過ぎる包丁だけどな。気休めを言うつもりはないが、そんな包丁でも、おっかなびっくり使える奴は居る。もしくは⋯⋯抜き身の刃を素手で掴めるような恐れ知らずが居れば、良い主人になれるだろうな』

『⋯⋯サータ殿は、違うのですか』

『俺は⋯⋯違うな』

 

 俺がチトセの頭を撫でようとすると、魔力が波濤の刃となって斬りつけてくる。

 それを指先に集めた魔力で受け流した。こんな小手先の技術でしか、俺はこの子に触ることができない。

 

『サータ殿ならば、きっとチトセを!』

『やめとけ。きっと、碌な事にならない』

 

 多分、俺は他の巡遊者より物忘れが激しい。

 いつも、どんな街でも、顔も知らない人間から声を掛けられる。きっと、俺が忘れていった人達だ。

 

『記憶を無くして、なのに誰かを追い求めて⋯⋯世界で一番無駄な事をやってるのが、俺なんだ。そんな奴に使われるには、お前は勿体無いよ』

 

 朝にはチトセの下を去ると、次の塔への扉を探す。

 

 神器は置いてきた。俺が願ったものは、大抵高く売れる。当面、彼女が路銀に困る事も無いだろう。

 

 いつか忘れる。そうと分かっていても、この一期一会を大事にしたかった。

 彼女が一振りの刀として、主に使われる事を祈って────

 

 

 

 

 

 レコードの再生が終わる。

 

 なんとも言えない気持ちだった。誰かの映画を見ているような、自分とは懸け離れた感覚もありながら⋯⋯しかし、やはり自分という事か。

 

 俺は、あの少女に関する一切の記憶を無くした。今の俺にはもう、この事に何も言う資格は無い。

 

 一息を吐き、宿を出ることにした。

 

「さあ寄ってらっしゃい! フラヴィオ随一の天才マジシャン、フローラのショーの席は残り僅かだよ〜!」

 

 エンタメの街なだけあり、目に付くものはギラギラとしたものばかり。しかし、そんなものを楽しむような気分ではなかった。

 

 盛り上がりを見せる街から目を逸らし、外に向かって歩いていく。

 

 中心部から離れると、木々が生い茂って、次第に森の様相を呈してくる。星ノ塔の入口も、ここでなら見つかりそうだ。

 

 そう思って散策していると、一つの影が目の前を横切った。

 何かと思えば、それはロスレコで視た彼女だった。

 

「⋯⋯サータ殿?」

「あー……どちら様ですか?」

 

 しらばっくれることにした。当然だが、あのロスレコ以外彼女に関する記憶はない。

 もし知っていた素振りを見せても、その内ボロが出るだろう。変に期待させるより、きっとこうする方がいい。

 

「チトセでございます! 半年ほど前、私に神器を残して、サータ殿はどこかへと姿を消して……」

「済まないが、人違いじゃないか」

「人違いではございません」

 

 そりゃそうだ、と短絡的な回答を恥じる。

 困ったな……と頭を悩ませた末、俺は正直に答えることにした。

 

 人を傷つけずに避けるなど、結局は不可能なのである。

 

「……すまない。俺は祈願すると多くの記憶を取られるもんでな。お前の事は、もう覚えちゃいないんだ」

「え……そ、そんな……あの時、チトセと交わした、約束は……」

「……それも、もう覚えてない」

 

 これはロスレコにも無かった情報だ。答えられるはずもない。

 チトセの顔が歪む。俺に縋り付くように、膝から崩れ落ちてしまった。

 

「チトセは、チトセは……ようやくお会いできたのに……」

 

 関わりが生まれても、この仕事をしている限り忘れてしまう。

 こんな事があるから、俺は極力一人でいたというのに。何をやってんだよ、前の俺は……

 

 その表情を見る限り、まさに絶望といった形相だ。自分が撒いた種で、彼女はこんなにも傷付いているのだと思うと、胸が痛む。

 

 ……俺が原因なら、その責任くらいは取らないと駄目だろ。

 

「いや、そのな。なんだか、他人事みたいに聞こえるかもしれないが……俺で良ければ、その約束、かつての俺に代わって果たしても……」

「良いのですか!?」

「うおっ」

 

 近い近い。多少は年の離れていそうなものだが、十分に魅力がある少女だ。

 どうも俗世には疎い節がある。これは、扱いには苦労しそうだ……

 

「……そ、その前にだが、この塔の神器だけ回収していってもいいか?」

「構いません。迅雷の如く、終わらせてしまいましょう」

 

 そう言って、やる気満々で昇降機に乗り込んだ。

 本当に大丈夫か、この子……

 

 不安が拭えないまま、星ノ塔に入る。

 

 属性は火。得意でもなく不得意でもない。

 だからこそ、俺にとっては楽にはいかないんだが……

 

「凪島流抜刀術……」

 

 だが、あり得ない実力者がここにいた。

 

 一歩踏みしめれば、抜刀術で敵を纏めて一閃。かと思えば、蛇やら水やら影やらが追撃して、何秒と掛からずにフロアの扉が開いてしまった。

 いや、もう剣術というか曲芸の類だろ、これ。

 

「サータ殿、次へ」

「お、おう……」

 

 おい、前の俺。どうやってこれに追いついた……?

 

 俺の実力じゃ、寧ろ足手まといにしかならないような。

 

「あ、コインは回収していくぞ」

「はっ……忘れていました。すみません、サータ殿」

「まあ、必ず必要って程でもないがな。一応だ」

 

 塔の物である以上は外に出たら無くなるために、それ自体に価値があるわけでは無いが、コンビニで使うことができる。

 便利に使って攻略を楽にできるのなら、それに越したことはないからな。

 

 第二階層、第三階層と、チトセが暴れまくり、本当に俺の出番が消滅しかけていた頃、コンビニのフロアに辿り着いた。

 

「いらっしゃいませ〜……って、またあんたなの? サータ」

 

 見慣れた顔が現れた。

 というかこの顔しか見ない。

 

 相手も俺の顔を見ると、あからさまに態度を崩した。

 

「悪いな。最近、少し探索のモチベが出てきたんだよ」

「今週で何回目だっての? ったく……今はセール品は無いかんね」

「そうか。じゃあまたな」

「うわ、ドケチ〜」

 

 コンビニ店員のポーシア。常連だからか、顔どころか名前も覚えられてしまった。

 これまで、何回忘れて何回覚えたのか……まあでも、それでも今まで完全に忘れたことは無い。

 

 塔の連中は、大体忘れても登れば会うからな。

 

「じゃあさー、コレ安くするからせめて一つくらい買ってよ」

 

 セール品にとして差し出されたのは、梅のおにぎり。なんとも言えないラインナップ……紅鮭なら少し迷っていたが。

 しかも、塔の中で食べたものは、塔の外に出たら胃腸の中ごと綺麗さっぱり無くなってしまう。栄養なんて取れないから需要は皆無に等しい。

 

 なので大抵の巡遊者は、塔の外から携行食を持っていくようにしているものだ。

 

「いや、要らない……」

「買いますっ!」

 

 と思ったら、突然後ろから手が伸びて、割引おにぎりをお買い上げ。

 まあ、このコインはほぼチトセが倒した敵のドロップだから、俺が口を挟む権利はないな。

 

「……えっ、ホント?」

「下さい。これで」

「あ、確かに……ありがとうございました〜」

 

 チトセがおにぎりを大事そうに握りしめると、椅子に座ってぱくぱくと食べ始めた。可愛い。

 

「おにぎり、好きなのか?」

「はい、お米は力です。塔に登る間のみではありますが、我が刃を振るうには欠かせません」

 

 稲作でもやったら、みるみるうちに強くなりそうなセリフを言うと、またも小さい口でもしゃもしゃしだした。可愛い。

 

「期限の売れ残りだったから助かったー……廃棄で店長にドヤされるとめんどかったし、あの子には感謝しなきゃ」

「お前んとこの店長、そろそろすげ替えてもいいだろ」

 

 俺が情報を残してるメモ書きにも、星ノ塔のコンビニ店長はブラックの権化とあった記憶が。

 表舞台に出てきた覚えはないが、どうせこの塔の人間だ。碌な奴では無いのだろう。

 

「店長は無茶なことしか言わないんだよな〜。ワンオペでやるのキツいよ」

 

 ポーシアは服から溢れるような巨乳をレジの押し付けて、ぐったりと横たわった。

 コイツも自分に無頓着なタイプだから、時々目のやり場に困る。

 

「ねーねー、サータさー、またバイトやってくんない? ここんとこシフトきつくって……」

「おい、いつの話だ。もう忘れたぞそんなの」

「……うーん、五年前?」

「……ちなみに初めて会ったのは?」

「うんと、ひいふうみい…………もう十三年も前かも」

 

 まだ十五とかの頃か。その頃の記憶なんてあるわけがない。俺が覚えてるのだと、古くても二年前くらいの記憶だ。

 しかも、ベアトリスに泣きながらビンタされるとかいうとんでもない記憶だ。もっとマシな記憶を残して欲しかったんだが……

 

「もう祈願箱取るのやめたら? どうせ忘れてくだけなんだし」

「全国を旅したり、情報を集めるのにも金が必要なんだよ」

「これまで何千回登ってんのさ……もう十分金あるでしょ」

「なんか無いんだよ」

 

 理由は全く覚えちゃいない。だが、現実に手持ちは五万ドーラしかないのである。

 単に忘れているだけなのかもしれないが……あるいは、あのロスレコのように、手放しているのか。

 

「一緒に塔に住んで、お前の面倒見てやった時もあったのに……この恩知らずめ」

「そんなの忘れたって、もう」

 

 すると、がたりとチトセが音を立てて椅子から立ち上がった。

 

「……住んでいた、とは?」

「そのまんま。一年ちょっとくらいかなー……住んでたっていうか、二人でコンビニ暮らしなんだけど。なんか落ち込んでたから、誘ったらオッケーしてくれて、バイトしてくれてさ。それが五年前の話」

「……ですが、この塔に長く留まると、外に出られなくなると」

 

 実際、それで行方不明になった巡遊者は数知れず。

 まあ、それでもコンビニはまだ良心だ。被害があるとするなら、主にあの害悪愉悦姉妹のせいだろう。

 

「サータは特殊なんだよね。塔に認められた人間で……あーでも、あたしら以外で、ここで生活して無事に外に出られるのは、サータくらいなもんだよ」

 

 おい、なんか初耳すぎる情報が舞い込んできたぞ。

 

「俺、星ノ塔で生活できたのか……」

「それも忘れてんの? 道理で最近セールしても買ってくんなかったんだ……はぁ」

 

 おいおい、勘弁しろよ過去の俺……メモに書いてたらどんなに楽だったか……

 

 毎朝要チェックリストに、星ノ塔での活動無制限と記す。

 これまでの異常な神器収集数から察するに、もしかすると塔の連中のように、俺は星ノ塔間を自在に移動できたのかもな。

 

 今となっては、まるで方法も分からんが。メモすら億劫に思う物臭な性格が祟ってしまったらしい。

 

 ……そういう、反省も忘れるから、俺はいつまで経っても前進できないんだろうなあ。

 

「やはりサータ殿は、端倪すべからざるお方です」

「でしょ。……まあお人好しすぎて、しょっちゅう変な虫が付くんだけど」

「……それは、チトセの事を言いたいのでしょうか」

 

 さっとペンを走らせて顔を上げると、なんだかポーシアとチトセが険悪ムードに陥っていた。

 

 お前ら、さっきまでおにぎりで利害一致してなかったか……?

 

「サータ殿、斬りましょうか」

「やめとけ。恩恵の神に殺されるぞ」

 

 そんで、あの姉妹が飛んできてアリーナでもさせられたら敵わん。

 朝まで星骸と血みどろ連キルダンスはもう嫌だ。一度でもいいから、あのデカい胸を横から思い切りぶっ叩いてやりたい。

 

「ありゃ? ようやくあたしとバイトする気になってくれた?」

「ならん。ほら、とっと行くぞチトセ」

「ご同行します」

「つれないなー……じゃ、またね〜」

 

 どうして塔の連中は、こうもイカれた連中ばっかりなのか。

 

 ……ああいやでも、ベアトリスだけは例外か。あれが本当の良心というものだ。

 

 

 

 

 

 星ノ塔、第十階層。

 

「……殺されたいのですか?」

「おい、ナースの第一声」

 

 野生のベア子が現れた。

 

 




記録周回と指名手配の点数更新しかやること無くなったので初投稿です。

シアの通常一段目を連発する回避ダッシュキャンセル、強すぎる……
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