蝮蛇の異能   作:猫吸い抜刀斎

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「今日の歴史の授業で出た河上彦斎って人、「職業ヒーローの前身に当たる自警時代を担った一人」って書いてあるのに、なんでヴィランの所にも載っとるんやろ」
「教科書では暈してあるが、河上彦斎はヴィランを捕縛する事はなく、基本的に斬殺する事で対処していたんだ。人々を救う英雄的側面もあるが、容赦のない人斬りの側面も忘れてはならないという事だろう。事実として、ロードアイランド新州法が制定され、日本でも正式にヒーロー公認制度が設けられた後も、河上彦斎はヒーローとして登用される事はなかった」
「さっすが委員長。予習もカンペキだな」
「勉強は学生の本分、予習復習は基本だぞ!」



睨み合い

 荒れ果てた集合住宅の合間、数名が身を寄せあって暮らしていた小さな集会場に、鈍銀が奔る。

 

「お前は、人斬り────…かひゅっ!?」

 

 有無を言わせぬ一閃によって喉笛を断たれ命を落とした賊を気にも留めず、人斬りと呼ばれた少女、彦斎は、刀に付いた血を振り払い、鞘に納める。

 今宵もまた、食料を求めて人斬り行脚。

 その悪名も本人の知らぬ間に随分広く知れ渡ったようで、彦斎が何かを言うより先に、集会場の者が適当な量を差し出していた。

 

「げ、彦斎さん……こちら、お礼です……」

「……私の事、知ってるのね。どこかで会った?」

 

 彦斎が食料の入った小さなカバンを受け取りつつそう聞けば、集会場にいた者の内一人が、困ったような顔をしつつ答える。

 

「かなり有名だと思いますよ……?少し前までは【自警団】の方々がいましたが、今はもう、こうして各地で異能持ちを倒してくれるのは彦斎さんくらいですので……」

「自警団……そう。まぁ、いいわ」

 

 いまいちピンと来ていない反応だったが、流石に目の前で人を殺されては問い返す勇気など湧かないようで、彦斎がその場を離れるまで、ついぞ声は上がらなかった。

 

「(最近、実入りが良い気がする。私の名前が知れ渡ると、こういうメリットがあるのは良いけど……少し考えものね)」

 

 彦斎は先程受け取ったカバンの中身の一つであろうおにぎりを頬張りながら、自身の名の広まりようについて思案する。

 というのも、人斬りの名が売れた事で「対価の食料を渡せば守って貰える」と考えた者が多いのか、最近になってその手の依頼が舞い込むようになったのだ。

 しかし、特にそういった考えがある訳でもなく、得意な分野で人助けをして、その対価に食料を貰えるという生活に味を占めていただけで、彦斎としては、人斬りを生業にするつもりなど毛頭なかった。

 

 故に、彦斎は迷う。

 

「(()()()の事もあるし、あまり派手な事はしない方が良いのかしら)」

 

 思い返すのは数日前の出来事。

 超常黎明期の日本に於いて唯一()()()()()と言われる地域を通りがかった際、とある賊が「ヒラクチの彦斎」という通り名を叫びながら彦斎に襲いかかるという一幕があった。

 増強系の異能を持っていたのか、付近にあったトラックを持ち上げ振り回すという、大味な戦い方をする男だったが、彦斎は特に苦戦する事もなく、いつも通りに斬り伏せた。

 

 戦い自体は珍しくもない幕切れであったが、斬った当人が気にしているのは全く別の事柄。

 

「……視られていたみたいだし」

 

 彦斎の深く昏い瞳は、まだ見ぬ敵を睨んでいた。

 


 

 自警団とは、異能を用いて人々を脅かす者に対し、同じく異能によって対抗する勢力である。

 社会から差別され、蔑まれ、抑圧されて尚、正義の心を支えとして悪と戦う、自警団と名乗る戦士達の姿に、希望を見る者も多かった。

 

 しかし、光が強まれば強まる程、闇も深くなる。

 自警団が正義の勢力であるなら、その反対、悪の勢力も存在する。

 そして今、勢力図は悪の側に大きく傾いていた。

 

 悪の首魁は【オール・フォー・ワン】。

 異能を奪い、与えるという、神の如き力を持つ男。

 ただ異能を持っているというだけで迫害を受ける現状では、異能を奪う異能という凶悪な力にも、縋りたくなる者は多い。

 

 何より、オール・フォー・ワンには、それを容易に受け入れさせるカリスマがあった。

 異能を忌み嫌う者からは奪い、異能を求める者には与え、そうしてオール・フォー・ワンは一大勢力を築き上げた。

 正義より先に、悪が人々を救い、徒党を組んだ。

 力の差や異能の強さもあるが、その手の速さこそが現在の勢力図を形作った最たる理由だろう。

 

 そんなオール・フォー・ワンは、今。

 

「また手酷くやられたようだね、【ドクター】」

「おお、オール・フォー・ワン!それが、またあの()めに狩られたようでなぁ……」

「蛇……ヒラクチか。いい加減、アレも鬱陶しくなってきたね」

 

 そこかしこで一飯欲しさに人を斬っている彦斎に、頭を悩ませていた。

 

「試しに複数の異能を与えた部下を放ってみれば、ピンポイントに狩りに来る。偶然とは言い難い」

 

 オール・フォー・ワンが持つ異能によって与えられる異能の数は、()()()()際限がない。

 それはあくまで理論上の話であり、与えられる側の器の大小や、異能同士の相性などでも数は変わる上に、安定するのはせいぜいが二つ、多くとも三つで、外れ値こそあるものの、平均はその程度。

 

 だが、異能が複数ある時点で、そこらの異能持ちとは一線を画す強さへと化ける。

 基本的に一人につき一枚しか持っていないはずの手札をもう一枚持っているのだから、ほとんど反則と言って差し支えないだろう。

 異形型と見て大まかな能力を予想していたら、唐突に全く関係のない異能が飛び出して来て初撃を貰う、というシチュエーションは想像に難くない。

 

 それを今の所全ていなし、斬り伏せている彦斎の存在が、オール・フォー・ワンの目には不気味に、それでいて興味深く写っていた。

 

「彼女の異能、まだわかってないんだろう?」

「うむ。異形と競り合う身体能力からして増強系かと思ったが、それにしてはあの蛇の刀は()()()()()()()()。ともすれば、刀の方にこそカラクリはあるのやもしれん」

 

 そう言って、ドクターと呼ばれた老爺は目の前のモニターへと目を向ける。

 映し出されたのは、筋力増強の異能にものを言わせ、トラックを持ち上げて振り回す男と、鞘に納められたままの刀で【居合】の構えを取る彦斎の姿。

 

「今回送った彼は半ば囮じゃった。狙い通り、監視カメラが設置されている区画内で戦闘を起こしてくれたわい」

 

 一瞬の出来事すら見逃さないよう、コマ送りで再生されているはずの映像は、しかし唐突に状況が移り変わった事で、ドクターに倣ってモニターを覗き込んだオール・フォー・ワンに疑念を与えた。

 

 刀を構えた彦斎の姿がブレたと思えば、次のコマには振り抜いた後の残心に入っており、男はそれに気付かず、つい先程まで彦斎がいた場所にトラックを叩き付けようとしている。

 数コマの後に、トラック諸共男の首が断たれ、土埃が舞い、晴れた頃には彦斎の姿は消えていた。

 

 だが、オール・フォー・ワンが疑念を抱いたのは、彦斎の素早さや刀の斬れ味ではなく。

 

「……どうやら、まだ牙を隠しているみたいだね」

 

 土埃が晴れた後に残った男の死体、その断面からは()()()()()()()()()()




・河上彦斎
 最近名が売れてきて逆に困っているし、そも「ヒラクチの彦斎」という呼び方があまり好きではない。
 オール・フォー・ワンの統治が最も強い地域に、そうとは知らず単身乗り込み、自分狙いと思しき異能持ちを斬った。
 その日暮らしが極まっているので世情に疎い。
 自警団の話も知らなかった(実は何度か出会してはいる)し、何ならオール・フォー・ワンの名前も「聞いた事あるかも……有名人?」くらいの認識。
 彼が差し向けた配下をピンポイントで斬ってるのは偶然、或いは運命。

・集会場の人々
 最近名が売れている彦斎が現れてくれたので、聞いていた話通り対価を渡した。
 あまり長続きしなかった。

・首を斬られた賊
 魔王の手先でも何でもない盗人。
 まだ騒ぎにすらなっていなかったので、ただただ運が悪かった。

・トラック男
 彦斎用の囮というだけあり、持っていた異能は【膂力強化】と【斬撃耐性】で、実は貴重な耐性系の異能を与えられていた。
 血が流れなかったのは彼の異能のせいではない。

・トラック
 2トン。

・ドクター
 この時点では脳無の研究も異能の複製もしていない、割と一般研究者。
 既に学会からは追放されており、オール・フォー・ワンの甘言に負け与する事に。
 彦斎が持つ謎の異能に興味津々。

・オール・フォー・ワン
 涼しい顔をしているが、彦斎にかなり煮え湯を飲まされている被害者筆頭。
 後の時代で台頭するオールマイト程ではないが、貴重な異能を与えた配下を斬られまくっている。
 人を殺す事に抵抗がなくどこの派閥にも属していない彦斎を何とか手駒に出来ないかと思っていた時期もあったが「この手の異常者が初めからこちら側についていない時点で結果は見えている」と勧誘を取り止めた。
 彦斎が持つ謎の異能に興味津々。
 (続いたら出すつもりだったのをすっかり忘れていたため、人物紹介の見出しに中点を使ったのを凄く後悔している)



めっちゃ読まれてる、怖……となったので続きを書きました
感想と評価、モチベかもです
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