花人間が麦わらの一味に加入したようです   作:絹毛鼠

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花人間が麦わらの一味に加入したようです(出会い)

 快晴かつ風は穏やか。アラバスタでの戦いを終えた麦わらの一味は、偉大なる航路では珍しい絶好の航海日和の中を進んでいた。

新たな仲間となったニコ・ロビンへの詰問も終了し、陽が沈み始めたころ。その平穏は、ゾロの一声によって束の間のものとして消え去った。

 

「あぁ?なんだありゃ」

 

 釣りをしていたゾロの目線の先には、不自然に海に浮かぶものがある。キラキラと宝石のように太陽を反射しながら、波間にただ浮いている何か。

 魚にしては生物らしい動きはしていない。舟にしてはやけにキラキラしているそれは、海流に乗って少しずつメリー号に近づいてきている。

 

「おい、なんかこっちに流れてきてるぞ」

「なんだ~?」

「何かがこっちに来ているわね」

「わかんねぇ。おいウソップ!あっち見てみろ!」

「ちょっと待ってろ!えーと…?」

 

 双眼鏡を持っているウソップが、漂流物を見極めるべく双眼鏡をのぞき込む。

 木目のある外装。流線型のフォルム。よく見慣れた形で、今も自分たちが乗っているもの。その内側からは、流れるように金糸が零れ落ちる。

 

―――――それは、人間が一人が乗れる程度の小舟であった。しかもだれか倒れているようである。

 

「小舟だ!しかも誰か乗ってんぞ!?」

「なにー!?」

「ウソップ、ちょっと見せてみろ!」

 

 ひったくるようにサンジが双眼鏡を奪って覗き込む。

 レンズに映るのは、この大海原を渡るには無謀極まりない大きさの小舟。そこから零れた、人の髪の毛と思わしき金の糸。

 長く、遠目にも滑らかだと分かるほどの金の髪。漂流者が女だと確信したサンジの行動は早かった。

 

「レディの危機だ!すぐ行くぞ!」

「おいサンジッ!って、行っちまった…」

「あのマユゲ、女が絡むといつもこう…」

「ウソップ、船を寄せて!」

「おれ、タオル取ってくる!」

 

 ロープを持ったサンジが海に飛び込み、得意の泳ぎで小舟に向かっていく。その間にナミとウソップが船を寄せ、チョッパーがタオルを運んでくる。

 5分もしないうちに、小舟に到着したサンジはすぐに小舟にロープの先端を巻き付け、メリー号の仲間に合図を送る。

 合図を受けた男衆がロープを引く。続けてロープに引かれるサンジは、その隙にと漂流者の髪を避けてその顔を確認した。

 

「な、ぬぁんて可憐なレディなんだ~~♡」

 

 美しい金糸の下の顔は、絶世の美女と言っても過言ではないほどの美貌だった。

 意識が無いのか、その瞳は閉じられたまま。白い肌にはシミ一つなく、顔のパーツはいっそ芸術的と言っていいほどにバランスが取れている。均整の取れた手足。絡まることを知らない髪には、鮮麗なクロユリの髪飾りが咲いていた。

 おそらくロビンよりも高いであろう体躯は白いマーメイドドレスに身を包み、手足はその道を知る者でなくとも高価だとわかる装飾品によって飾り立てられていた。

 

 おそらく、ロビンと同じころの年齢。

 豪奢に咲く華のような。理想的な形に生まれた者が、理想のままに育ったような。

 

 そんな、絵画からこぼれ落ちたような女がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ロープを使って、小舟ごと女を引き上げる。かなり揺れた、どころか、先に船から抱き上げられていたにも関わらず目覚めない女の様子に、一味の中で不安な空気が流れていた。

 

「チョ、チョッパー。こいつ、死んだりしてねぇよな?」

「息も鼓動もあるし、水を飲んだ様子もないから命に別状は無いぞ!でも、ここまで目が覚めないのは不安だな…」

「にしてもこいつ、すっげぇキラキラしてんなぁ〜」

「もしかして、ビビみたいに何処かのお姫様かしら!あの時諦めた10億ベリー、もらえるかも!!」

「眠り姫な君もステキだぁ〜♡」

「お前らそればっかかよ…。おい、いい加減起きろテメェ」

 

 ゆさゆさと女の肩を揺らすゾロに「レディに乱暴するんじゃねぇクソマリモ!!」とサンジが蹴りを繰り出し、「起こしてるだけだろうがクソコック!」と刀で反撃していつもの喧嘩が始まる。

 その様子にナミ達は呆れつつも、今後について話し合っていた。

 

「にしても、このまま起きなかったらどうすんだよ?」

「ずっと置いておくことは出来ないもんな。次の島の医者に預けようぜ」

「それしか無いわね。この人の持ってるアクセサリーを換金して、一緒に預けましょう。」

「…いっぱいあるんだし、1個くらい貰っても良いわよね〜」

「「えぇ〜…」」

「うっさい!この船ただでさえ金欠なんだから、助けた分くらいは貰って良いでしょう!」

 

 ウソップとチョッパーに呆れられつつも、ナミは頭に付いている、クロユリを模した髪飾りを外そうと手に取った。

 その瞬間。

 

「きゃっ!?」

「うぉっ!?め、目が覚めたのか!」

「びっくりした…お前、中々目を覚まさなかったから心配したんだぞ!」

「…………」キョロキョロ

「おい、どうした?」

「…大丈夫?話はできるかい?」

 

 ガバッと勢いよく女が目を覚ました勢いで、ナミが尻餅をつく。ウソップとチョッパーが恐る恐る話しかけるが、周りを見渡すばかりで答えない。

 その様子を見て、喧嘩をやめたゾロとサンジが話しかけると「は、はい。問題ありません」としっかりした答えが返ってきた。

 

「すみません。寝惚けててすぐ反応できず…ここは何処でしょうか?」

「ここは海賊船よ。あなたが小舟で漂流しているところを引き上げたの。貴女、名前は?」

「わたくしはマリー。チョコレートリリィ・マリーと申します」

「お前、何であんな小舟で偉大なる航路に居たんだよ」

「ああ…それはあのブタ貴族のせいですね」

「ブ、ブタ貴族??」

「わたくし、とある貴族の方に妻となるために拐かされまして。伴侶とするには論外レベルの醜男でしたので、ドレスだけ頂戴して三行半を叩きつけて逃げてきましたの」

「ぬぁにー!!?レディに対してなんて事を!確かに君は可憐で目の醒める綺羅星のような美女…手に入れたい気持ちは理解するが、レディの意思を無視していい理由にはならねぇー!」

「そ、それは災難だったわね…行く当てはあるの?」

「故郷に帰らなければならないのですが、とても距離がありますね…。偉大なる航路後半の海にあるんです」

「後半!?そりゃあえらい遠くまで連れてこられてしまったんだな…」

「ええ。そこで取引がしたいのです、海賊さん」

 

 ピンと指を立て、得意げにアメジストの瞳が輝く。得意げに、絶対の自信を持って。

 

「わたくし、お金を稼ぐ術と逃げ足には自信があります。お荷物にはなりませんので、この船に乗せていただけませんか?」

 

 

 

「おう!いいぞ!」

「ええぇ〜〜本当かぁ〜い♡」

「いきなり決めるなぁ!!」

 

 ガン!とルフィの頭にナミのげんこつが突き刺さる。驚きのあまり固まるウソップとチョッパー。女性の加入に喜ぶサンジに、怪訝な顔をするゾロ。警戒するロビン。

 この身元不明の女をそのままで乗せる訳にはいけないと、ナミは質問を重ねる。しかし、既にその目はベリーの形になっていた。

 

「あんた、お金を稼ぐって言ったわね!一体どうやって!?」

「まず聞くことがそれかよ!」

「わたくしの種族はメリア。これだけでも、どれほどの価値になるかは分かるのでは?」

「「「「???」」」」

「「「……!!」」」

 

 女の言葉を聞いて、東の海からのメンバーは首を傾げるが、偉大なる航路からのメンバーとサンジには覚えがあったらしい。はてなマークを浮かべる面子とは対照的に、驚愕の表情を浮かべていた。

 

「メリア…別名、人間擬態植物。いるとは聞いていたけど、実際に見るのは初めてだわ」

「おれは物語で聞いたことがある。つまり…君は花のプリンセス!?」

「医学書で見た事あるぞ!確か体から生えてる花の蜜が、薬になるって!」

「ええ。彼女達の花の蜜は多くの傷病に効く特効薬。売れば、グラム単価が5万を超える高級品よ」

「5万!!?ちょっとあんた、それどれくらい作れるの!」

「1日で5g程ですね。わたくしが普段使うことはありませんので、全部お譲りしますよ?」

「ってことは、一日25万ベリーの定期収入!?いいわ、うちの船に乗りなさい!!」

「「はえぇよ!」」

 

 目をベリーの形に輝かせて、ナミが乗船を命令すると、すかさずゾロとウソップがツッコミを入れる。

 ナミはもう役に立たないと、ウソップが代わりに質問し、加えてサンジやロビンからも情報を確認した。

 

「サンジ、ロビン。メリアってのは、いったい何なんだ?」

「偉大なる航路に生息している、【人間に擬態する植物】の事よ。人の血を吸い、毒を吐き、高い身体能力に加え、不思議な力でバリアを張ることが出来ると言われている神秘の種族。世界政府や海軍は危険生物として、一体につき5,000万ベリーの懸賞金を掛けて捕獲しているの」

「ぎやぁぁあぁ!!じゃあやっべぇじゃねぇか、そいつ!」

「血を吸うって、吸血鬼ってことか!?カッケー!」

「嘘では無いですけど、印象操作が酷すぎません、その要約!?」

「嘘じゃねえのか…」

「バリア張れるのか!?スッゲー!」

「彼等は必ず体から花が生えていて判別しやすく、世界政府に『人類』として認識されていない。だから、彼等の身柄を売買することを海軍は取り締まっていない…というのが、私の知るメリアの情報ね」

「あ、じゃあそのクロユリの髪飾りって…」

「正真正銘、体から生えてます」

 

 ウソップがロビンから知らされた情報に怖がり悲鳴をあげる。反対にルフィはバリアという単語に反応して目を輝かせていた。当の本人は不満気な顔をしつつ、続きを大人しく聞いている。ナミは花飾りだと思っていた物が、本人の体から生えているものだと知って驚き目を見開いた。

 

「おれが知ってるのは、昔読んだ童話に出てきたってだけだ。ノーランドっつー男が冒険する話なんだがよ。その中に、人の形をした植物の王国の話があるんだ」

「へぇ〜、植物の王国か!おんもしろそ〜!」

「毒を撒く森、熱波が吹き荒れる草原を超えた先にある、賢くて長命な人の形をした植物達の国。彼等の国は争いを知らず平和で、訪れたノーランド達を心から(もてな)した。国宝までもを見せて貰ったノーランドは感動し、国外に興味があった少年を1人、彼等の旅に加えて国を後にした…ていう話だ。

 つまり!マリーちゃんは花のプリンセスってわけだ!その体に咲くクロユリも素敵だ〜!」

「ちょうめい?」

「長生きって事よ。メリアの寿命は500年ほどもあると言われているわ」

 

 サンジは一通り語ったあと、いつものようにクネクネしながらマリーを褒め称える。それを受け流しながら、ナミは2人の情報を頭の中で整理していた。

 

「情報の差が凄いわね…ロビンの話だと怖い植物って感じだけど、サンジくんの話だと賢くて友好的な種族って感じね」

「おれは蜜が薬になるって事しか知らねぇから、本当かどうかは分からねぇな…」

「せっかくだし、本人に確認して貰いましょ。クロユリさん、さっきの話で間違ってるところはあったかしら?」

「えっ?」

 

 話を聞きながら落ち込んでいたところに話しかけられ、マリーは面食らう。ああ、と一言置いてから、どうしても訂正したい場所だけは直そうと口を開く。

 

「完全な嘘、は無いです。でも、訂正したい箇所が2箇所ほど」

「あら、どこかしら」

「人の血を吸う、というのがまず1点。わたくし達は液状のものしか食べられませんが、基本的に食事は摂りません。光合成で十分ですから」

「光合成!?あっ、そうか植物だからか!」

「マリモもいっつも寝てんだから、見習ったらどうだ?」

「うるせぇクソ眉毛!」

「液状という事は、飲むこと自体は出来るのね?」

「はい。でも、水と光があるのならまず飲みません。食事を摂る、という文化自体がメリアにとって希薄なので。

 けれど動物、特に人の血を飲むことで身体機能を向上させる機能も持ち合わせています。なので正確には、人の血を飲むことで強化するが、飲む必要の無いもの、というのが正確な評価でしょう」

 

 ふむ、と納得した様子のナミ。光合成が出来るのなら、食費もかからなくていいかもと考えているのか、少々不穏な笑みを浮かべている。

 対して、まるで吸血鬼のような伝承に不安になったウソップは、そわそわして落ち着かない様子で質問を投げかけた。

 

「飲む必要は無い…でも、実はすごく美味しくてつい飲んじまう、みたいなことはねぇのか?」

「…まあ、酒のような感覚に近いので、1度飲んだら癖になるというのはあります。別に我慢出来ないものでも無いですが」

「酒だったら無理だろ」

「マリーちゃんをテメェと一緒にすんなクソまりも!」

「お酒っていうのも例えでしょ!実際、血を飲むつもりなら私以外にしなさいよね!」

「そこは追い出してくれナミ!」

「イヤよ!せっかくの25万ベリーは欲しいもん」

「いざとなったら、戦闘で相手から吸血するのでそこは大丈夫でしょう。そもそも、本来はあまり飲みたいものではありませんし」

「あら、そうなの?」

「本能的に美味であると感じはしますが、悪酔いするような醜態を晒す気は無いので。

 第一に、我慢できないほど血を求めるメリアは『一度血を飲んだことのあるメリア』に限られます。わたくしは生まれてから一度も吸血したことが無いので、そもそも吸血行為は忌避してすらいます!」

 

 吸血行為を心から嫌悪するしているようで、眉間にしわを寄せ、二の腕を指するマリー。その様子にある程度納得したのか、お、おう…と後ずさるウソップ。

 

「2点目ですが、毒ガスを撒くという点。わたくしは光合成で酸素を排出することはあっても、少ない量で人体に害を及ぼすような気体を生産することは出来ません」

「そう…なら、どうしてそんな伝承が残ったのかしら…」

「…吸血したメリアであれば、高濃度の酸素を排出することが可能です。生命維持に必要不可欠な酸素とて、減圧と単体で取り込めば毒でしかありません。恐らく、それが毒ガスの所以かと」

「なるほどね。戦闘を行ったメリアの様子を伝えようとしたから、吸血鬼と毒ガスのイメージがついた…面白い話だったわ」

 

 興味深い話を聞けて満足したのか、ロビンは手すりに体を預ける。

 マリーは一つ頷き、一礼してから声を上げる。

 

「いえ、価値がある話が出来たのなら、わたくしも嬉しい。

 さて皆様。以上がわたくしからのセールスポイントです。クルーとなるには、わたくしの性能は足りていますでしょうか」

 

 優雅な姫君の一礼。呆気にとられながらも、皆で顔を合わせる。いまだ不明な所はあれど、このまま放っても置けない。

 

 何より、船長の意志はもう決定していたので。

 

「おう!おれの仲間になれ!おれはルフィだ、よろしくな」

「ええ、よろしくお願いします!」

「故郷に着いても、離してくれないかもよ?」

「一度帰って、皆の顔を見れれば十分です。元々旅に出ていた身ですので、いつまでもお供いたしますよ」

 

 こうして、麦わらの一味に新たな仲間が加わった。

 波に揺られ漂流していたクロユリは、こうして羊の船に迎え入れられたのだった。

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