花人間が麦わらの一味に加入したようです   作:絹毛鼠

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リリィ・スカイ(空島編5)

「…見事」

「ナミさんすごいです!」

 

 パガヤが持ってきたのは、修復されたウェイバーだった。しかもコニス達から借りたものより段違いのスピードが出る、“噴風貝(ジェットダイアル)”という絶滅種を使ったものだったらしい。

 

 コニスとパガヤが迎えに来てくれたはいいものの、今ここにいるのは待機組の4人のみ。このまま脱出は出来ないため、最初に約束した海岸へ船をつけようとするナミ。あの4人が揃っていれば敵もないとというナミだが、その言葉を見知らぬ少女が否定する。

 

「4人組なんて島にいないよ…多くても2人組…4人で動いている奴らがいたらわかるもん、あたい!」

「“心綱(マントラ)”…神や神官が使えるってやつね…」

「生まれつき使えるんだあたいは‼ …だから怖いんだ…“声”が消えていく怖さが、あんた達にわかるもんか……」

 

 そう怯えて膝を抱えるアイサという少女をナミは茶化す。だがそのおかげで、アイサは少し強気になれたらしい。

 アイサは“声”が消えていく様子にいてもたってもいられず、ウェイバーで一人この島にやってきたらしい。仲間らしい人の名前を呟くアイサに、ナミも皆が無事かどうか不安になった。

 

「…ねえマリー。あんた、テレパシーで周りの状況が分かるって言ってたわよね?あいつらの状態って分からない?」

「大変申し訳ないのですが…わたくし、メリアの中でも受信の能力は低い方なんです。半径2kmほどが限界ですので、視力よりは若干マシ、といったレベルです」

「そっかぁ……範囲内なら、誰がどんな状態とかは分かるわけ?」

「感情…疲労感などが読み取れるので多少の怪我の具合は分かるでしょうけど、そこまでですね。壁の向こうの敵の位置が分かる、という利点はありますが、人間の味方に対して使う意味はあんまりないかと。索敵のほうがまだ使い道が………!!

 ナミ、落ち着いて聞いてください。そこのシマシマ…」

「……!……!」

 

 船で東の海岸へ向かう途中、咄嗟にマリーが声を抑えてナミの口をふさぐ。急なマリーの行動に抗議を示す様に、ナミはマリーの腕をバシバシと叩く。

 マリーは倒れた倒木であろう縞模様の大木を指さしている。マリーがその木について話しだそうとした瞬間、「また一人、声が消えた…!」と叫んだアイサが海に飛び込んでしまった。

 

「ちょっと……!ダメよ!」

 

 アイサを追って、ナミも急いでマリーの腕から抜け出し、Tシャツを脱ぎウェイバーをもって海に飛び込む。

 マリーは引き上げるためにロープを探しに行った。

 

 仲間の戦士を助けるんだと喚くアイサをナミが一喝し黙らせる。「ブツわよあんた」と言って涙目になるアイサを、自分のとこのクルーも二人やられていることを説明し、子供に何ができると思い知らせる。

 大人しくなったアイサをナミがウェイバーに引き上げた瞬間、シマシマの倒木だと思われていた大蛇が頭をもたげた。

 

「ええ!!?」

「あ、やっぱり!ナミ、その蛇の中に船長さんが…!」

 

 マリーがナミに、テレパシーで気が付いたことを伝えようとした瞬間、大蛇が咆哮ともいえる鳴き声を上げ、木々を巻き込みながらナミたちを追いかけまわし始めてしまった。

 ナミはそのままウェイバーに乗って、森の中にアイサとともに消えて行ってしまった。

 

「………………‼」

「………ど、ど、どうしましょう。森へ入ってしまった……!」

「ひとまず、当初の予定通り、この船を東の海岸へ移します。」

「で、ですが、ナミさんが戻るまで待たなくてもよろしいんですか?」

「ナミの方向感覚は抜群です。ウェイバーがある限り、この場所に戻ってきても一人で東の海岸へとたどり着けます。

 問題は船長さんたちですが…まあ、元気ではあるみたいですし船長さんは心配しなくてもいいでしょう。他の皆さんも、ナミかロビンと合流できれば無事に帰還できるでしょう」

 

 マリーは船の進路はそのままに、コニスとパガヤとともに東の海岸へと進む。

 

 

 船が東の海岸に着きしばらくしたころ、船に近づく人陰をマリーがテレパシーで察知する。その相手がひどい傷を負っている事を知ったマリーは、コニス達が持ってきた手当の道具を持ち出した。

 それに数分遅れて、雲ギツネのスーが鳴き声をあげて接近者を知らせる。

 まったりと寛いでいたコニスとパガヤは、マリー達の反応に驚いたが、すぐ近くに黒焦げの人間が倒れているのを見かけると、すぐに手当てを始めた。

 

「あ…あなたはもしや“神隊”の方…!(ゴッド)・エネルに捕まっていたのですね!?」

「……ハァ……そうだ我々…は6年間…‼閉ざされた空間で…‼」

「ええ、みんな心配しておりましたとも…!」

「知らせてくれ…!エネルは…すべてを還す気だ!」

「え!?」

「スカイピアは青海へと落とされる!この国は…なくなるんだ!」

「!!?」

「雷の能力者程度が、どうやって…?数億V程度で、大地が落とせるとは思えませんが…」

「もう時間がない…!早く伝えてくれ!エネルは…」

 

 

「空に住む一切の人間を消し去る気なんだ!」

 

 

「待ってください。そんなことをすれば、エネル自身の居場所はどうなるのです」

「“方舟”がある!“方舟マクシム”!俺たちは―――」

「………!!コニス!!」

 

 6年間その空飛ぶ船を造らされた。そう言い切ることもできないまま、神隊とパガヤはエネルの雷霆によって大地ごと抉られた。

 コニスはエネルの雷霆を察知したパガヤとマリーによって、船に突き落とされ、雷霆の餌食になることはなかった。

 

「あ、あ、あああああ!父上、父上が!」

「コニスさん、落ち着いて」

「でも、父上が…!」

「…少なくとも、即死はしていませんでした。下の白海に落ちていれば、まだ生きている可能性はあります」

「………!」

「それよりも、コニス。今の話を、皆さんに伝えてください。住人を避難させなければ」

「そ、そうですね…!泣いている場合じゃありません…」

「私も島に向かい、船長さんを探してきます。コニス、もしもの時は任せました」

「わかりました!必ず戻りますので、皆さんをよろしくお願いします!」

 

 コニスはウェイバーに乗って、エンジェル島へと駆け出していく。マリーは先ほどナミを追いかけた大蛇に向けて駆けだした。

 

(あの能力者は、おそらく雷の自然系(ロギア)。船長さんのゴムの能力なら、覇気を修めていなくても無効化はされないはず…!)

 

 マリーはエネルの瞬間移動や自身が受けた雷の一撃から、エネルが雷の自然系(ロギア)、少なくとも電気系統の能力であると予想していた。そのため、有効打となりえる船長の救出を最優先に動くことにした。

 

「“戴冠(クラウン)”『大蛇はどこだ』」

『おちた』『おちた』『おっきなジャックから落ちた』『おおきなおおあな』『したのたてもの』『しゃんどらにおちた』

 

「『案内しろ』」

『こっち』『こっち』

 

 森の案内に従い、木々の間をすり抜けるように走り抜けるマリー。猛スピードで駆け抜ける中、幾人ものゲリラと神官が倒れているのを横目に見ながら、巨大な豆の木のようなものにたどり着いた。

 

「この下ですか…何やらあの大蛇、気絶しているようですが…中の船長さんは無事なようですね。もう一人は…アイサ?なぜ?」

 

 遺跡を枕にして眠るように気絶している黒焦げの大蛇を見る。下に向かい階段のようなものは無いかと探してみるが見当たらない。仕方なく巨大な豆の蔓のようなものを滑り台のようにして下っていく。

その途中で、ゾロたち負傷者が目に入る。ルフィたちは大した怪我無く気絶した大蛇の中から出ようとしているのがテレパシーで確認できたため、マリーはけが人のほうに向かうことにした。

 

「ロビン!ゾロ!チョッパー!」

 

 ゾロとチョッパーは意識はないようだが、現状命に別状はないらしい。ロビンも意識はあるが、まだ指一本動かせないようだ。ゾロとロビンは、電流が通過したことによる火傷。チョッパーは刃物のようなものによる出血多量。チョッパーが持ち歩いていた止血薬と火傷薬を使って処置を施していく。

 

 そこに大蛇から脱出したルフィが駆け寄ってきた。

 

「マリー!?お前、その腕どうしたんだ!?ゾロやロビンも、なんで…!」

「わたくしの腕の事はお気になさらず。この程度、自然治癒できるレベルです」

「だ、大丈夫ならいいけどよ…!ナミは!?さっきまで一緒の蛇の中にいたんだ!」

 

 他の探索組が全滅している惨状に愕然とするルフィ。マリーの焼け焦げて裂けた腕にも驚きを隠せないが、マリーの淡々とした対応にすこし冷静さを取り戻したらしい。

 アイサがゲリラのリーダーらしき人間のありさまに哭する。ルフィも強かったと認めていた相手がボロボロになっているのを見て、誰にやられたんだと困惑するのを見て、アイサが「エネルだよ!」と叫ぶ。アイサの心綱(マントラ)でも様子は分からなかったらしいが、これだけのことが出来るのはエネルしかいないと。

 そんな中、少し動けるようになったらしいロビンが、ナミが連れていかれた、と零した。必死に体を起こそうとするロビンを、ルフィが支える。

 

「……おい…待て…ゆっくりでいいよ…“神”のやつに連れていかれたのか!?ナミは!?どこへ!?」

「……わからない……でも、よく聞いて……」

「?」

「……このままだとこの国は…このスカイピアは消滅してしまう……」

「空島が!?」

「……あ…あたい達の村も!?」

「“全て”よ……!空にいるすべての人々を地上へ還すと―――」

「…わたくしも、それを伝えに急いで東の海岸からここまで走ってきたんです。船長さんに、エネルを倒すようお願いするために」

「エネルは“黄金の鐘”を手に入れるといった…あの大きな蔓の先に、“黄金の鐘”はあるはず…」

「……じゃあ、エネルは…後で必ずその“黄金の鐘”のある場所に現れるのか‼」

「ええ…それが確実。…下手に探し回って行き違っては、もう取り返しがつかなくなる……」

「大丈夫だよ!」

「!?」

「あたいわかる!この島で、“声”が2つ動いてる」

「…きっとナミと、エネルだ!……おれを、そこに連れてけ!」

 

 アイサの話に、すぐにエネルのもとに向かおうとするルフィ。空の騎士とともにいたはずのピエールに乗って走りだそうとする直前、マリーとロビンに告げる。

 

「マリー、わりぃけど、ゾロたちを船に連れて行ってやってくれ!」

「かしこまりました。それと、わたくしからも確認を、船長」

「ん?なんだ?」

 

 マリーは深呼吸をして話し出す。これだけは知らせておかなければならないと。

 

「エネルはおそらく、雷の自然系(ロギア)。武装色の覇気を誰も修めていない状況では、倒せる手段は限られています。」

「??」

「絶縁体であるゴムの超人系(パラミシア)であるあなたでしか、現状まともなダメージを与えられないでしょう。ですので…」

「おうっ!おれは絶対負けねぇ!」

 

 ニカッ!と笑みで返すルフィ。それに心配はいらないなと、マリーは笑みで返した。

 

 ルフィとはそこで別れた。アイサとピエールに乗ってエネルのいる場所に飛んで行ったルフィ達を見送って、マリーはゾロたちを上層に運ぶことにした。

 ロビンは自力で動けるまでに回復したというので、自分で歩いてもらうことになった。軽いチョッパーをロビンに抱えてもらう。鎧を着たままの重いガン・フォールはそこら辺にあった蔓で縛って引き摺り、ゾロとゲリラの長であるワイパーとやらを両脇に抱えて上層を目指した。

 

「…重い人たちを任せてしまってごめんなさいね、クロユリさん。船長さんとの会話は聞こえていたけれど、その腕、本当に大丈夫なの?手の先から肘にかけて縦に黒焦げになって裂けているけれど」

「問題なく。この程度の損傷であれば、3日ほどもあれば全快します。まあ、本っ当に痛いですが、そうも言ってられる状況ではありませんし」

「そうね…。エネルはさっき、この島で動いているのは私たちだけだと言っていたけれど、コックさんたちは?」

「…海岸に寄せる途中で、エネルの襲撃に逢い気絶しています。命に別状はありませんが、しばらく目を覚まさないでしょう。恐らくわたくしも、腕をやられたことで戦線離脱と判断されたのでしょうね」

「そう…じゃあ船は今、怪我をしている二人だけ?」

「タイミングが合えば、コニスが船で待っているはずです。今はスカイピアの住人を避難させるため、エンジェル島に向かっているはず。それが終わり次第、船に戻ると言っていました」

「コニスだけ?パガヤさんは?」

「…エネルの雷霆で、おそらく白海まで落ちました」

「……なら、なんとしても船にたどり着かなくちゃね」

「ええ………って、あれは……!!?」

 

 ロビンとともに上層の豆の木のそばで一休みしていると、唐突に地響きのような、岩を削るような音が鳴り響く。雲の影とは違う、不自然な影が落ちる。

 その方向に二人して視線を向けてみれば、それはやはり雲ではなかった。

 たくさんのプロペラに、船の向きを制御する無数のオール。伝説にも語られない、空を往く船が大地を砕いて現れたのだ。

 

「船……!?」

「飛行船…!?うそ、あの形、あの材質で?!」

「知ってるの、クロユリさん」

「故郷でも移動用に使われていますが…まかり間違っても、木材と黄金で作るものではありませんよ!?確かに船体を木材で作り、中にガス袋を入れるタイプの飛行船も存在しますが、その場合確実に甲板などの人間の移動できる場所は下側になるはず…!いったいどんな構造になってるんです!?」

「…クロユリさん、ちょっと楽しくなってない?」

「あ…失礼、取り乱しました。未知の構造物を見るとつい…」

 

 照れたように、ロビンから刺さる視線から目を背けるマリー。故郷でも見たことのない木造飛行船という存在に、つい興奮してしまっていた。

 そうこうしている間に、船は地上から飛び立ち自分たちの頭上を通過していく。その最中、船の煙突のような部分から黒い不気味な雲が立ち込めていた。

 

「船から黒い雲が次々とあふれ出てる…おそらく雷雲ね」

「あの雷雲から雷が落ちれば、とんでもない威力になる…エネルが言っていた空島の破壊とは、アレを用いたものだったんですね」

「………」

「ロビン、どうしました?」

「…やっぱり、船は大鐘楼へ向かっているわ。クロユリさん、テレパシーで航海士さんたちの居場所はここからわかる?」

「ちょっと待ってください……あれ?」

「どうしたの?」

「…船にいるのはエネルだけ。アイサと船長さんは今、先ほどの遺跡から駆け上がってきています。ナミはなぜかサンジとウソップと一緒にこの周辺をウェイバーで移動しているようです」

「何ですって?」

「ロビ~~ン‼」

「「え」」

 

 どこからともかく、ルフィがロビンを呼ぶ声が響く。声が聞こえた方向に視線を向けると、ピエールとアイサがロビンに向かって投げ渡された。

 ルフィの腕にはなぜか黄金の球体がくっついており、少々珍妙な姿となっている。その様子についてロビンが尋ねるが、ルフィはその言葉を無視しては改めてエネルの目的地をロビンに確認した後、猛スピードで巨大な蔓を上っていった。ロビンはルフィを止めようとしたが、それを口に出す前に走り出してしまった。

 その直後、ウェイバーに乗ったナミたちと合流することが出来たのだった。ウソップはボロボロになったゾロたち4人を見ていつもの大口をたたいていたが、マリーの腕を見て仰天していた。

 

「チキショーめ、みんなやられちまって…‼ってマリー!?お前、その腕どうしたんだ!?」

「エネルの雷による電熱で沸騰した水分によって、内側から爆発しただけです。3日ほどで完治する予定ですので、お気になさらず」

「アイサ‼ルフィはどこ!?一緒じゃないの?」

「ルフィなら今、ナミを助けに蔓を上っていったよ!エネルのところに行ったんだよ」

「ええっ!?しまったすれ違い!?」

「たった今よ。止めようとしたんだけれど」

 

 間の悪い奴だと、ウソップが悪態をつく。今からナミがウェイバーで迎えに行くから、先にメリー号へ戻れと言うが、そこにマリーが待ったをかける。

 

「待ってナミ。船長を連れ帰らないで、エネルのもとへ届ける手伝いをしてあげてください」

「はァ!?こんな時に何言ってんの!?早くここから逃げないと、私たちも空島の崩壊に巻き込まれちゃうのよ!?」

「エネルとあの船がある限り、逃げ場などどこにもありません」

 

 マリーはエンジェル島の上空を眺める。本来のマリーの電磁波の感知範囲からは遠く離れた空の上。しかしその強力かつ不自然な電磁波は、マリーにさらなる脅威を伝えていた。

 雷雲そのもの(・・・・)が、意思を持って動いている。マリーはそんな神の如き現象を、その能力で察知していた。

 雷雲から、極太の雷が落ちる。それは森を焼き、遺跡を砕き、衝撃による風だけでウソップ達を吹き飛ばし悲鳴を上げさせる。

 

「ナミ、相手は雷の自然系(ロギア)です。それが、自身の能力の一環で作り出した雷雲そのもの(・・・・)を操れないと思いますか?」

「雷雲…そのもの?」

「雷雲の中に貯められている電気の一部が放電される現象…雷ですら、先ほどわたくしたちを吹き飛ばした威力です。その大本が、すさまじい気流の渦と一緒に落ちてくる。…エネルはそれが出来ると、私は予想します」

「……‼‼」

「そのスピードも、船で逃げるよりも早いでしょう。私たちが逃げようと、エネルが私たちを消し去る方が速い。だから何としても、船長にはエネルに勝ってもらわなければいけません」

「……やるしかないってことね」

「ええ」

 

 恐怖に震える手を押さえつけ、ナミはウェイバーのハンドルを握る。そしてルフィを追って、巨大な蔓を上っていった。

 

 ナミのウェイバーのエンジン音で目が覚めたのかワイパーが立ち上がり、ゾロとガン・フォールが目を覚ます。まだ意識の戻らないサンジとチョッパー、ピエールがいるが、急いで船に戻ろうとロビンが声をかけるが、マリーがそれにストップをかけた。

 

「急ぎましょう、ここにいても何もできない」

「何もできないのは同感ですが…今から森に入るのはお勧めできませんよ。木に落ちた雷は周囲も感電させる。背の高い木々がない此処のほうがかえって安全では?」

「…だからって、ここで何もせずに待つのかよ!このままじゃみんなあのバカみたいにデケェ雷に打たれて死んじまう!」

「船のスピードでは、雷に追撃されては太刀打ちできない。わたくしには、船長さんがエネルを打ち負かすことを信じて待つことしかできません」

「でも……っ!」

「エネルの居場所が、黄金の鐘付近ということが分かっているのです。倒してしまえば、すべて解決できるでしょう。…それを、船長さんにしか任せられないということが不満でなりませんが」

 

 苦々しそうに吐き捨てるマリーは、蔦の元から動こうとしない。それはルフィへの信頼ではなく、逃げても意味がないという確信から。そして、万が一の際にルフィの力となるため。

 そう思って発した言葉に、以外にもワイパーが食いついた。

 

「黄金の鐘……!?貴様、今そう言ったのか…?」

「ええ」

「この大きな蔓の頂上付近だと、ロビンから伺っています」

「…この下層にあるシャンドラの遺跡…都市の中心部を、大地ごと湖の蔓が貫いている。だけど大鐘楼も同じ位置にあったと遺跡の地図に記されていたわ。つまり鐘は蔓に突き上げられた衝撃で、さらに上空へ飛ばされたと考えられる」

「……っ!!!」

 

 その言葉を聞き終わるや否や、ワイパーが蔦を上ろうとし始めるのをアイサが止める。そのワイパーの形相は必至とという言葉では足りないほどで、あらん限りの悲壮さを感じさせた。

 最終的にその行動を止めたのはアイサでも無い。空から突如として振ってきた、焼け焦げた蔦の先端だった。

 

「蔓の先端…!上で何が…」

「ワイパー!ほら、そんな体じゃ無理だよ!」

「………この真上にあるんだ…大戦士カルガラの、切望の鐘が…」

「カルガラの…?」

「そうだ…それこそが、俺たちの真の目的…!エネル…貴様なんぞに渡せるものかァ!!」

 

 ワイパーが砕けた腕を抱えて叫ぶ。天を睨む。一味がどこかで聞いた名前だと首を傾げる横で、己が無念を叫んでいた。

 蔓が落ちてきた空をにらみながら、マリーが呟く。

 

「…どうやら、船長さんとエネルが接敵したようですね。エネルが船長さんと距離を取るために足場を崩した模様。もうすぐナミとも合流します」

「ナミがいるんなら、エネルのとこまでには行けんだろ」

「だといいのですが…」

「……見て、雲が…!」

 

ロビンが雲の異常に気が付く。エンジェル島の上空だけ雲が開け、そこに新たに球場の雷雲が集まっていく。それはゆっくりと下降しにエンジェル島を飲み込まんと、天を割るような音を立てて地に落ちた。

 

 空が、雷雲が地に落ちる。それがエネルの“雷迎(らいごう)”。それによって発生した爆発の如き雷は、世界の終末かのような音を立てて、エンジェル島を消滅させた。破壊、ではない。まさしく塵一つ、海雲すら残さず消滅させたのだった。

 

「何だ今の爆発は…!しかもまだ“雷の雨”は続くのか…!もう、生きて帰れる気がしねぇよ…!」

「……エンジェル島を…消しおったのか…!?…………何という、何という非道を…‼エネル…‼」

 

 エネルの行った破壊に恐怖するウソップに、その様子を見て勝てないと絶望したのか、膝をつくガン・フォール。

 ガン・フォールは、まるで理解が出来ないというように一味に問いかけた。

 

「まだあの麦わら帽子の小僧が戻ってきていないが…まさか、まだエネルと戦っているのか…」

「そうだよ!早くルフィを連れ戻さねぇと!あいつは今何やってんだ!」

「ルフィなら、鐘を鳴らしに行ったんだろ」

 

 あっけらかんとゾロが答える。その脳裏には、探索に出発してすぐの情景が思い浮かんでいた。

 大きな鐘を鳴らせば、下にいるクリケットたちにクリケットたちにも聞こえるだろうと、無邪気な笑顔で信じた船長の顔が。

 

「…確かに言ってた…でもこの状況で…」

「ひょっとして、わたくしがエネルに絶対負けるなといったのって、あまり意味なかったです?」

 

 信じられない、といった表情で困惑するロビンとマリー。

 

「鐘を鳴らす…だと!?」

「やると言ったらやる奴だ。もしナミが怖気づいて連れ戻そうとしても、あいつはもどりゃしねぇ…あいつの狙うものは、エネルと同じだからだ」

 

 ゾロの宣言に言葉を失う一行。

 その頭上が、不自然に暗くなる。また蔦か何かが落ちてきたのかと身構えたウソップだったが、降ってきたのは大きな葉っぱだった。しかもただの葉っぱではなく、「蔓を西へ切り倒せ」というルフィとナミからのメッセージ付き。

 西はどっちだと戸惑うゾロに、ガン・フォールが「エネルのいる方角だ」と答える。その視線の先には、先ほどエンジェル島を消し飛ばしたものより数倍大きな雷雲の塊が出来上がりつつあった。

 

 逃げられない、と覚悟を決める。おそらく倒れかけた蔓を使って船まで飛ぼうとしているのだとメッセージを受け取るゾロ。

 蔓を切り倒してルフィ達を送り届ける、無茶でもやってもらうしかないとゾロたちが覚悟を決めた瞬間、ゾロたちのもとにも雷鳴が轟き始めた。エネルが自分たちの動きに感づいたらしい。

 止められる前にと雲の上を疾走するゾロ。何とかして蔦を切り裂いたはいいものの、その瞬間ゾロは雷に打たれ遺跡へと落下し、蔦もその頑丈さゆえに倒れることは無かった。

 その一瞬後に、ルフィ達を飲み込んでいた大蛇が蔦に激突したが、その衝撃でも蔦は倒れない。

 

「無理だよワイパーやめて!!」

「黙ってろあの鐘は…カルガラの遺志を継ぐおれ達が鳴らしてこそ意味がある……!! あの麦わらになんの関係があるんだ!!」

 

 ワイパーが重傷の身体で再び立ち上がる。ウソップはそれを無視し、蔦を倒すために向かっていった。ロビンはワイパーの言葉に何かを察したように語り掛ける。

 

「400年前…青海である探検家が「黄金郷を見た」とウソをついた」

「!?」

「世間は笑ったけれど、彼の子孫たちは彼の言葉を信じ今でもずっと青海で“黄金郷”を探し続けてる。黄金の鐘を鳴らせば“黄金郷”が空にあったと彼らに伝えられる。 “麦わら”のあのコはそう考えている。素敵な理由じゃない? ――ロマンがあって……こんな状況なのにね、脱出のチャンスを棒に振ってまで……どうかしてるわ」

 

 どうかしている、そういいながらもロビンの表情は笑みを浮かべていた。

 背後で巨大な雷が炸裂するのも気にせず、ワイパーは問いかける。

 

「……そいつの、その…子孫の名は……?」

「モンブラン・クリケット」

「ならば400年前の……‼先祖の名は、ノーランドか」

 

 その時、マリーが男から感じ取ったのは「奇跡」と「歓喜」。感動による涙を流した男は、意を決したようにウソップを押しのけて蔦へと向かった。

 

「” 排撃(リジェクト)”!!」

 

 ゾロが切った蔦と絡み合っていた部分が、尋常ではない衝撃で粉々に砕かれた。ワイパーはその反動で体から力を失い遺跡へと落下していく。

 蔦は少しづつボキボキ、メキメキという音を立てながら、傍目にはゆっくりと、実際には凄まじいスピードで傾き始めた。「倒れるぞォ~~~~~!!」とウソップが叫ぶ。

 

 ルフィ達が来られない様に、蔦を根元から沈める気なのだろう。エネルが“万雷(ママラガン)”と叫ぶと、神の島(アッパーヤード)に雷の集中砲火が迫る。ウソップ達のいる雲の大地は徐々にその面積を減らしていき、遺跡がむき出しになる。雷が遺跡をも砕く様子を見て、ロビンが思わず「遺跡が……!」と呟いた。

 いよいよルフィがエネルへと届くその瞬間、“雷迎(らいごう)”がズズズ…‼と音をたてて落下し始める。

 その時マリーは、“雷迎(らいごう)”へと飛び込むルフィの姿を見た。その瞬間から、“雷迎(らいごう)”は激しく放電し始め、その形を維持できなくなっていく。

 

 そして、ドッパァンッ‼と雲が弾けて、島を覆いつくさんばかりの曇天は晴天へと変わった。

 

「――ッ、やりました!!」

 

「うおおおおーーっ!! ルフィうおおーーー!!」

「鳴らせェ麦わらァ!! “シャンドラの灯”を!!!」

「聞かせてくれ小僧……‼“島の歌声”を!!!」

 

 数回の攻防の後、ルフィはついにエネルを打ち破り黄金の鐘を鳴らすことに成功する。400年前から鳴らなくなった、切望の鐘。その響きは―――――

 

 カラァー…ン、カラァー…ン

 

 天から降り注ぐ祝福のように、空島に、地上の大地に降り注ぐ。

 低く澄んだ鐘の音は、さきほどまで国の滅びに恐怖していた人々の心に沁みわたった。

 

「やりやがった!あんにゃろう~~~~~~~!」

「何て美しい……」

「キレーな音だなー、何だコレ?何だ!?」

「マリーちゃん!?その腕どうしたんだ!?」

「あら、いつの間にか起きたんですね、チョッパー、サンジ」

「オウ‼…って、マリーその腕!医者~~~‼」

「医者はおめェだチョッパー!くっそうエネルの野郎め!マリーちゃんの白魚のような手をこんなにしやがって…!」

 

 さっきまで気絶していたサンジとチョッパーが起き上がり、鐘の音に聞きほれていた状態から一気に賑やかになる。

 

「3日ほどで自然治癒しますから、気にしなくて結構ですよ。ご心配おかけしてすいません」

「いや、マリーちゃんが謝ることじゃねぇだろ!おれはテメェが情けねぇ…!」

「マリー、ほんとに大丈夫なのか?痛くないか?」

「まあ痛いですけど。人間とは神経数が違うので、大騒ぎするほどではないですよ。麻酔はもともと効きづらいですし、必要ありません」

「せめて!その腕が治るまでおれになんでも手伝わせてくれ!」

「わたくしの仕事はサンジさんの補佐では?」

「とにかく!マリーは治るまで絶対安静だ!」

「………ふ、ふふふ…!」

 

 マリーの黒焦げに裂けた腕と、それを防げなかった事に絶望するサンジ。チョッパーはマリーにとにかく絶対安静だと告げて手持ちの治療道具を漁りだす。

 その様子を、マリーは意外そうに、楽しそうに眺めていた。

 

 怪我を心配されるなんて、故郷でも滅多に無かったのに。貴族に攫われてからは、一度だって。

 つい彼らの右往左往ぶりが面白くて、マリーは笑みをこぼす。その様子にチョッパーたちも冷静さを取り戻したのか、恥ずかしそうに頬を掻く。

 

 マリー達は暫しその場に佇み、空を見上げて黄金の音色に耳を傾けた。

 遺跡では、かつての戦士の子孫が、冒険家の子孫に鐘の音が届くよう祈り。

 青い海では、その祈りの通りに、同じ鐘の音を聴くかつての冒険家の子孫とその仲間たちがいる。

 白々海では、“雷迎(らいごう)”から逃げ出そうとしていた空の民たちが、海雲へと沈んでゆく舟と神、そして黄金の鐘を見送った。

 

 

 鐘の音は

 去る都市の栄華を誇る”シャンドラの灯”

 戦いの終焉を告ぐ”島の歌声”

 400年の時を経て鳴る”約束の鐘”

 浮寝の島も旅路は長くも、遠い記憶は忘れがたし

 ―――かつて人はその鐘の音に言葉を託した

 遠い海まで届ける歌に誇り高い言葉を託した

 

『おれ達は ここにいる』

 

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