花人間が麦わらの一味に加入したようです   作:絹毛鼠

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マッド・リリィ~狂乱のデス・マッチ~(DB編2)

 先手を取ったのはルフィだった。“ゴムゴムの(ピストル)”を打ち出すものの、軽快な身のこなしでフォクシーは軽々と躱す。カウンターで“ノロノロビーム“をルフィの腕の先に当てた。

 ルフィのこぶしは急激にスピードを落とし、手の先だけノロくなる。急いで腕を戻そうとすると、逆に体のほうが引っ張られてしまい、フォクシーの前に倒れこんでしまった。

 フォクシーにフェイントをかけられ、全身に“ノロノロビーム”が当たってしまい、そのまま成す術無く連撃を食らってしまう。ゴム人間ゆえにパンチそのもののダメージは無いが、その衝撃で船から弾き飛ばされてしまう。

 しかしなんとか体勢を持ち直し、腕を伸ばして船に掴みかかり場外に出ることは無かった。

 

「くそーーっ、思った以上に厄介だなノロノロビーム! ビームっていいな。やたらとのびねェ方がよさそうだぞ。畜生ォ!! もうくらわねェからな!!出て来い割れ頭ァ!!」

『まずはオヤビン怒涛の攻撃! 手も足もでない麦わら~~!! 八つ当たりで耳を壊さないで下さい』

 

 キツネの形をした船首に怒りをぶつけながら、フォクシーを探し始めるルフィ。その八つ当たりに、司会が冷静にツッコんだ。

 甲板に出ると、ゆっくりと飛ぶ弓矢がルフィの周りに浮かんでいた。それらは急に勢いを増してルフィに襲い掛かる。背を反らし紙一重で避けて尻もちをついたルフィをフォクシーは笑いながら出迎えた。

 

「フェッフェッフェッ。ようこそ、おれの船へ……‼」

「あっ、あんなとこに! 待てーっ!!」

 

 フォクシーを見つけ、真っ先に駆け出すルフィ。しかし、フォクシーの周りに浮かぶ時間制限付きの砲弾の足場に翻弄されて吹き飛ばされてしまう。

 

「……くそ~! しかしあいつ、自分の船でめちゃくちゃするなァ…!」

「”ノロノロフォクシー顔爆弾(フェイスボム)”!!」

 

 フォクシーが自分の顔の形をした爆弾を何発も撃ち込む。

 フォクシーと同じ顔がゆっくりとフェーフェーと笑いながら近づいてくる様は、ルフィをして「恐ェな‼」と怒り交じりに叫ぶほどに気味が悪かった。

 

 爆弾に紛れて近づいていたフォクシーが、ルフィに強烈なパンチを食らわせる。どうやら、ゴム人間にも通じるように棘付きのグローブに付け替えていたようだ。

 不意に襲い掛かった痛みに、「あぐ……」とルフィが呻いた。そこにノロノロと先ほどの顔爆弾が近づいてくる。

 

「――そして直に顔爆弾(フェイスボム)も……三十秒!!」

「!!」

 

 その瞬間、ドゴゴゴゴォォォン!!!と、すさまじい爆音が響いた。

 

『決まった~~~~!!全弾命中!!オヤビンの圧勝か~~~~!?』

 

 観客席からでは角度が悪く、戦いの様子を見ることが出来ず司会頼りでしか様子がわかない。司会の声と爆発音に、麦わらの一味は顔色を青くしながら「……ルフィ!?」「おいルフィどうしたんだよー!!」「「あいつらの船が戦場なんて卑怯三昧じゃない!!」と身を乗り出した。それでも、ゾロは仕方がないというように息を吐きながらもその顔に不安はなく、サンジは「落ち着け」とウソップを窘めるほど余裕があった。

 

『“麦わらのルフィ”を襲って大爆発!!なお、選手が吹き飛んで死んだ場合、身体の一部でもフィールドの外へ出せば試合終了だよ!!』

「怖いこと言わないでください!?」

「いやー、危なかった。……ケホ」

『ホントに危ない攻撃……!!? えェ~~~!!』

「何だうるせェな…‼」

『何と麦わらのルフィ、生きてるよ~~~!!』

 

 マストの上まで飛び上がり退避していたらしいルフィが悪態をつく。

 

「フェ~~ッ、フェッフェッフェ…」

『いや…だがしかし…すでにオヤビンの次なる攻撃は始まっている模様~~‼ 煙幕と化した爆煙の中から不気味にあざ笑うオヤビンの声が…! 敵に息つくヒマを与えない!! 一体どこから……! 何を仕掛けてくる気なのか、“銀ギツネのフォクシー”!!』

「あ」

「さーてカクゴはいいか?」

「お前が吹き飛んでたのかよ!!!」

 

 がビーンと、黒焦げになって現れたフォクシーにルフィが突っ込んだ。

 憎々しげに目をギロリと歪ませ、ルフィを睨むフォクシー。

 

「吹き飛んでねェ~~!!」

「いやウソつけーーーっ!!」

「てめェ、生きてこのフィールドを出られると思うなよ…」

 

 フォクシーはまたもルフィの全身を“ノロノロビーム“で捕らえようとしてくるが、それを読んでいたルフィは素早くフォクシーの後ろに回り込み一撃を食らわせる。「もうビーム出せねェ様にその腕、折ってやる‼」と意気込むルフィを恐れたフォクシーは、煙の中へと逃れた。特徴的なフェッフェッフェッ…という笑い声が響く場所にルフィがパンチを繰り出すが、バキッ!という音をたててフォクシーに似せた板切れが圧し折れただけだった。

 煙の中の板切れと見分けがつかずルフィは混乱していたが、思わず出た「分かるか!どいつもこいつもバカみてェな頭してのに!」という言葉に、精神的ダメージを食らって崩れ落ちたことで本体が見抜かれてまたパンチをお見舞いしたのだった。

 

 怒りが頂点に達したフォクシーはルフィを騙し、落とし穴に落下させる。そのまま海に落下させようとするが、ルフィは辛くも腕を伸ばして手すりにつかまり船に戻れた。そのままフォクシーの挑発に乗せられ、トラップだらけの船内に飛び込んで行ってしまった。

 実況者も船内までは入れないようで、観客席からは試合の戦況までは分からなくなってしまった。

 

 時折響く爆発音に、ハラハラと落ち着かない様子で船を見つめるナミとチョッパーとウソップ。泰然自若に構えるゾロとサンジ。テレパシーでルフィとフォクシーの様子を捉えようとしているマリー。若干楽しそうに眺めているロビン。

響き渡るオヤビンコールのなか、麦わらの一味もルフィが出てくるのを待ち続けた。

 

「敗けやしねェよ……!」

「そうさルフィだもんな」

「ルフィで……! アフロだからだ!!」

「ルフィだからで十分だろ……あんなクソギツネ」

「なんでアフロをパワーアップだと解釈してるの?」

「だけど強そうに見えたわ」

「……消耗は激しそうですが、船長なら大丈夫でしょう」

 

 ドカァ……ン!!とひときわ大きな爆発音が鳴り響き、甲板から煙が舞い上がる。

司会が実況する中、ボロボロのフォクシーとルフィが現れた。

 立っているのはフォクシー。ルフィはなぜか黒焦げとなっている体を甲板に横たえていた。

 

「うわー‼」

「ルフィ~~‼」

「バカな…」

「どうしてただのパンチでコゲるのよ! 何したの!?」

 

 ナミたちが不安に包まれた瞬間、ふらふらとよろめきながら、ルフィが立ち上がる。

 

『立った~~~‼ 麦わらのルフィ!! もうK・D(ノックダウン)かと思いきや立ち上がったよ~~~!!』

「………!」

 

 マリーはルフィの雄姿を目に焼き付ける。

ルフィの状態を正確にマリーは読み取っていた。トゲ付きのグローブで何度も殴られたことによる出血により、意識は朦朧としている。全身に刻まれた火傷が、ルフィの意識を断線させる。そんな有様を、強靭な意思のみでつなぎ留めていた。

 

 すでに最初のパフォーマンスは維持できていない。ボロボロの状態ではノロノロビームを避けられず、続くトゲ付きグローブによるラッシュでさらに血を流す。傷ついた体では反撃に移ることもできない。

 

「汚ねェぞチクショー! そのビームは反則だァア!」

「ウソップ!」

「ウソップ、待ってください!」

「なんだよ二人とも、おれ、あんなの見てられねぇよ! こんなの…ただのリンチじゃねェかよォ!!」

 

 ルフィの有様に、ウソップが目から涙を滲ませて叫んだ。会場にタオルを投げ込もうとするのを、ゾロとサンジが抑える。

 チョッパーも涙目になり、ナミは目を見開いて口元を抑えた。先ほどまで余裕さえあったロビンも、焦燥感から額に汗を流す。

 マリーも、正直に言えばルフィを止めたかった。しかし、テレパシーに寄らずとも伝わるルフィの意思が堰き止めた。

 

 殴る側であるフォクシーが息を切らしても、ルフィは諦めず立ち上がった。

 驚愕に目を見開くフォクシーに、ルフィは力強く咆哮する。

 

「おれの仲間は…誰一人……! 死んでも、やらん!!!」

『恐るべき気力でまた、立ち上がった麦わらのルフィ~~!』

 

 

 会場全体に響いたルフィの宣言に、ウソップとチョッパーが感極まって先ほどとは違う涙を流す。フォクシー海賊団の人間も心を打たれ、司会の声は涙声になっていた。

 フォクシーは息を切らしながら悪態をつく。湧き上がったルフィコールに文句を言いながら、再度攻撃を仕掛けに行った。

 ノロノロビームでルフィの体を捕らえ、砲弾を利用したパンチと爆発の2段攻撃で襲い掛かる。ギリギリのタイミングでノロノロが解けるが、疲労が蓄積したルフィでは攻撃を避けることが出来ず、両方とも諸に食らってしまう。

 

『決まった~~~~っ!! 全ての攻撃が!! 麦わらを仕留めたァ!!』

 

「ルフィ~~~!! うわあああ~~!!」

「なによ……! そこまでしなくても……!」

「負けてもらっては困りますよ、船長……!」

 

 爆発による煙が立ち上る中、ふらりと体をぐらつかせながらもルフィが立ち上がる。その姿はファイティングポーズを取り続けており、戦意が微塵も揺らいでいないことが伺えた。

 

『た‼ た‼ た‼ ………!!! また立ったァ~~~~~~!!』 

 

 そのルフィの姿に、フォクシー海賊団の面々は恐れ戦くばかりだった。

 

「……あ。……おれの、勝ちだ」

 

 唐突に、ルフィがそうぽつりと零した。なぜ勝利を確信したのかはルフィのみが知っていた。

 ルフィの宣言にフォクシーが怒り狂い、最後の攻勢に出る。それをルフィは真っ向から迎え撃った。

 

「メガトン九尾ラァ~~~ッシュ!!!」

「ゴムゴムの銃乱射(ガトリング)!!!」

 

 激しいパンチの嵐が炸裂する。

 ドガガガガ!!!と、強烈な打撃音が会場に響き渡った。

 

『凄まじい~~~~~!! ここへきてなお!! 両選手の物凄いパンチの応酬~~!! 止まらないっ! 止まらない! ラッシュ!!』

 

「ルフィ…! ルフィ~! やっちまえ~~~!!」

「倒せーー!!」

 

ウソップとチョッパーが声援を上げる。

その瞬間、ルフィのいいパンチがフォクシーの顔に突き刺さった。フォクシーはそれに反撃しようと、「“ノロノロビ~……”!」と叫び、ビームを当てようとした。しかし…

 

「え?」

「何だ?」

「……動かない!」

 

 二人の拳の応酬が止まる。煙が晴れると、ルフィはガクン…!と膝をつき、荒い息を零す。敗北したかのように見えるその状況は、しかしこの場面では真逆の意味を持っていた。

 

『た、倒れたのは麦わら……いや!! 違う!! 動いたのが(・・・・・)……麦わら!! これは一体どういうことだァ!!?』

 

 ノロノロビームの餌食となっていたのはフォクシーのほうだった。

 ルフィの手からカラァン!とキラキラしている何かが船の床に落ちる。それは船内での戦いで痛い目をみた、鏡の部屋から持ってきた鏡の破片だった。

 

「くう~~~~そお~~~~~~……」

『鏡!!! 麦わらの手から鏡の破片が……!』

「……アフロにひっかかってたんだ…。ハァ…お前の部屋の鏡だ……‼」

「おぉ~~~の~~~れえ~~~…」

「ゴムゴムのおおォ~~~~……!! 連接鎚矛(フレイル)!!!」

 

 最後の一撃が、フォクシーの顔面に叩きこまれる。

 ルフィは息を切らしながら、フォクシーから背を向けて船首へと向かっていく。

 ノロノロビームの効果によってすぐに吹き飛ぶことは無い。

 フォクシーの顔はゆっくりと形を歪めていき、徐々に足が床から離れていく。

 

「……あと8秒」

「え? ………え!?」

『まさかこれは……!?』

「7……」

「なに?」

「……6」

 

 ゾロから始まり、続いてサンジ、ロビンがカウントダウンを始める。

 最初は困惑していたウソップとナミだが、すぐにその意味を理解してカウントに参加する。

 

その様子に戸惑っていたウソップやナミもすぐに状況を理解し、笑顔でカウントに参加した。

 それのみならず、ウソップは何もわかっていないフォクシー海賊団の面々も巻き込んでカウントダウンを始める。フォクシー海賊団の面々は、それが己の船長の敗北を告げるカウントだと気づかないまま声を上げる。

 

「「「「3!!」」」」

「「「「2!!!」」」」

「「「「1!!!!」」」」

 

 カウントダウンの終わりとともに、フォクシーの体に衝撃が襲い掛かった。

 

「ゼロォ~~~~~~!!!!」

「うおおおおおお~~~~~っ!!」

 

 ルフィが勝利の咆哮を上げる。ナミやウソップ達も大喜びで立ち上がり、サンジとゾロも安心したように息を吐いた。

 何も分からずカウントしていたフォクシー海賊団の面々は「「「うわーっ‼ オヤビ~ン‼‼」」」と叫び目を剥いた。

 フォクシーはそのまま場外へと飛ばされ、海へと沈んでいった。

 

『落下地点は…………戦場(フィールド)の外ォ! デービーバックファイト三回戦! チームの運命を背負った船長同士の熱く壮絶なコンバット! オヤビン920戦無敗の伝説はここに敗れ、ゲームを制したのはなんと…! 麦わらのルフィ~~~~!!』

「やったァ~! ルフィ~!!」

「ルフィ~~~~!!」

 

 決着を知らせるゴングがカァンカァン‼ と鳴り響く。麦わらの一味はルフィの勝利に歓声を上げる。その反面、フォクシー海賊団の観客はオヤビンの負けに気を取られ呆然としたが、すぐにフォクシーを助けようと駆け出した。

 

「あ、まずいですね。チョッパー、ロビン、ちょっとこちらに」

「ん?おおおお!?」

「あら、危ない」

 

 観客が一気に梯子に駆け出したことで、即席で作られた観客席が耐え切れなくなり、バキバキバキィ!! と席を支えていた柱が折れ始める。このままだと海に落下して危険だと判断したマリーは、能力者であるチョッパーとロビンを抱えて宙に飛び上がり、一足先に草原に退避した。

 

『フォクシー海賊団VS麦わらの一味! オーソドックスルール”スリーコイン”ゲーム、デービーバックファイト!! ここで全試合終~~了~っ!!』

 

「航海士さんたち、落ちてしまったわ」

「わーーっ!?ウソップ~~!ナミ~~!」

「……まあ、ゾロとウソップは自分で何とかなるでしょうし、ナミはサンジが助けるでしょうから、大丈夫では…?」

 

 デービーバックファイト最終戦は、締まりきらない終わり方となってしまった。

 

 

 トンテンカン、トンテンカンと船を修理する音が響く中、ガヤガヤと屋台を撤収させる声が響く。

 試合の後は船員の交換タイムとなっているが、いまだに両船長とも目を覚まさないため、つかの間の休憩タイムとなっていた。

 

「大量出血で危険かと思われましたが、輸血までは要らなかったみたいで良かったです」

「……まったく無茶しやがって。こいつぅ!! こいつぅ!!」

「つっつきすぎだ!! 重症なんだぞ!コンニャローーーッ!!」

「心配ばっかりかけて…‼ 何がアフロパワーよ」

「ナミさん、アフロはスゴイんだって」

 

 眠っているルフィの顔を、頭の側からのぞき込むマリー。

 気絶しているルフィの顔を人差し指でドス!ドス!と突っつくウソップと、それにキレ散らかすチョッパー。

ナミはルフィの寝顔を眺めながら呆れており、サンジはそんなナミに根拠のないフォローをしていた。

 

「あ、気がついた!」

「ん……」

「あ、あれ!? ゲーム!!!」

「あおうぅ!?」

 

 がばっ!と起き上がるルフィの頭が、マリーの額を掠める。危うく激突しかけたことに、マリーは思わず尻もちをついた。

 

「ゲームは!? ……おれ勝ったと思ったのに、夢か!?」

「大丈夫だ、勝ったよ…」

 

 ゾロの安心させるような言葉に、ルフィは脱力して背を地面に預ける。

 

「…………良かった」

 

 心から安心した、と言わんばかりの声色でルフィは呟いた。その様子に、一味の皆も気が抜けたように空気が緩む。

 

「安心して観てたぞおれは」

「ウソつけ」

「考えたらこの船出て海賊やる理由はねェんだおれは」

「フフ」

 

 ザッと、草原を踏みしめる靴の音が近づく。気が付けばフォクシーも目を覚ましており、「てめェよくもおれの無敗伝説にドロをぬってくれやがったな」と言いながら歩いてきた。

 

「天晴だ。ブラザー」

 

 フォクシーは握手を求める形の手を差し出す。ルフィはそれにこくんと頷いて、手を握り返そうとする。

 オヤビンコールが響く中、激闘を繰り広げた二人を称えるかと思われたが――――

 

「でりゃーーーっ!! くやしまぎれ一本背負い!!」

 

 どうやら負け惜しみの一撃をいれようとしただけだったようで、握手に応えようとしたルフィを投げ飛ばそうとした。しかしそのままルフィの腕だけ(・・)が伸び、勢い余ったフォクシーの頭がガンッ!! と地面に激突してしまった。

 

「「「オヤビーン!!」」」

「バカかお前は」

 

 小賢しい仕返しは成功することなく、ただフォクシーの頭にダメージを与えただけで終わった。

 

「ルールだ、さァ早ェトコ選べ!! 誰が欲しいんだ!!」

『そうだ! 最後の取引が待ってるよ! 指名権は勝利チーム、船長”麦わら”!  “船大工”をご所望の様子だよ! そうなると本命は五十人の船大工のボス、ソニエか!? はたまた戦う大工ドノバンか!? 本能の赴くままお色気船大工ジーナさんか! しかし! 誰を選ぶも自由!! さァ決めてくれ~!!』

 

 頭にたんこぶを乗せながらフォクシーが叫ぶ。そして最後の船員(クルー)選びに向けて、司会が声を上げる。

 船大工が欲しいという話をどこで聞いたのか、フォクシー海賊団内の船大工の紹介を始めているが、ルフィの答えは決まっていた。

 

「海賊旗をくれ!!!」

「「「何ィ~~~~ッ!!」」」

「お、おいルフィ! いいのか!? お色気船大工のジーナ姉さんはいいのか!? 後悔しねェか!?」

「欲しいもの貰ったら、何のために決闘受けたんだか分かんなくなるもんな」

「……そんなバカな! 迷わずおれ達の誇りを奪おうというのか!!」

「いいよ帆は。それがねェとお前ら航海できねェだろ」

 

 ルフィの言葉に、フォクシー海賊団のクルーたちは「なんて慈悲深い!」「だが帆にも印が入ってるんだ!」「情けは無用だ。奪うもんは奪って貰うぞ!」と困惑しつつも、勝負に負けた者としてのケジメをつけようとした。

 

「分かった。じゃあマークだけ貰えばいいんだから、おれが上から新しいマークに描きかえてやるよ。そしたら帆まで取らなくてもいいだろ」

 

 フォクシーはその言葉に感動し「いいやつだなぁ……!」と咽び泣いていたが、ルフィの絵心を知っている面々は哀れなものを見るような目で眺めていた。

 

 ある意味画伯と呼べる海賊旗の完成によって、デービーバックファイトは終了となった。

 彼らの船によって航行を妨害されていた船も解放され、フォクシー海賊団の船は外海へと漕ぎ出していく。

 最後、フォクシーが「おい! 麦わらァ!」と声を上げた。

 

「ん?」

「「「おーぼーえーてーろ~~~っ!!!」」」

「どこまで面白いんだアイツら」

 

 負け犬そのものな捨て台詞を残して、フォクシー海賊団は去っていった。

 ルフィは彼らを見送った後、奪った海賊旗を抱えてどこかへと歩き出す。

 

「船長、どこに行かれるのですか?」

「これを届けたい奴がいてよ」

「?? 誰によ?」

 

 ナミと二人で疑問に思いながらルフィが向かう先に皆でついて行くと、家のようなテントの前に座り込む老人と馬がいた。二人のもとにルフィは海賊旗を差し出し、「ブッ飛ばしてきた!」と告げた。

 どうやらフォクシーが彼らを傷つけたことに対して、ルフィが怒りを覚え決闘を受けた、というのが事のあらましだったらしい。それに気付いたナミはルフィらしいと顔に笑みを浮かべた。

 

 トンジットと名乗った老人によると、長い間竹馬から降りられなかったため、仲間たちは他の島へと移動してしまい、今ではトンジットと馬だけがこの島に取り残されてしまった。

 この島は一つの島に円状に山が生えているような形をしており、山以外の場所は普段は沈んでいる。そのため引き潮になって陸地が見えるようになると、隣の山、もとい島に移動しているのだという。

 トンジットが移動できなくなってから引き潮は三度起こっており、仲間たちは三つ先の島にいるという。

 それらの島は本来ひとつの島であるためログが取れず、船で移動することは難しい。そのため、ルフィ達が送ってあげることは難しいとのことだった。

 

「いいんだ。そこまでやってもらうことはねェ…。おれ達は気が長ェから大丈夫だ。それより、せっかく来たんだ。ウチへ入れ。もてなそう」

「もてなすもんねェだろ、もうチーズはいいぞ!」

 

あはは、と笑って家の入口に歩いていくトンジット。その笑い声は扉の前にいつの間にかいた巨大な何かにぶつかったことで止まった。

 

「うお! 何だこれは……」

「人!? ここにずっといたの!?」

 

ルフィ達の倍はあろうかという身長の男が、アイマスクをして「ぐごー…」といびきをたてながら突っ立っていた。

トンジットがぶつかった衝撃で目が覚めたのか、それとも前から半分起きていたのか、男は「んん!?」と声を上げて欠伸をしながらアイマスクを外してルフィ達と目を合わせた。

 

 

「何だお前ら」

「おめェが何だ!!!」

「木かと思った」

 

 おかしな男の出現に驚くルフィたち。しかしそれ以上に更に驚愕、それを超えて震駭している者が二人(・・)いた。

 ロビンは腰を抜かして、地面に崩れ落ちる。ハァ、ハァと息を荒げて目を見開き、口をハクハクと動かしながらも声を出せずにいた。普段は何があっても穏やかな態度を崩さないロビンが、この時ばかりは驚きで頭が回っていないようだった。

 マリーは不倶戴天の敵にでも出会ったかのように憎らしげに唇をかみしめていた。その周囲ではパチパチ、チカチカと何かが煌めいている。それは彼女が全力を出して展開する生体波動によるバリアであり、ほとんどプラズマと化した、触れるものすべてを拒絶する光の壁だった。

 

その尋常ではない様子に、ルフィとゾロ、サンジは直ちに警戒態勢を取り各々の武器を構えた。

 

「……あららら。コリャいい女になったな…ニコ・ロビン。………マリーちゃんもだ。こんなところで出会うとは予想外だったよ、王女様」

 

 男はにやり、と笑ってロビンとマリーに目線を向けた。

 

「ロビン、マリー!! どうしたんだ! 知ってんのか、こいつのこと!!」

「……!!」

「……ま、昔ちょっとなァ」

「ちょっと、どころではないが?同じ目に合わせて、まだそう言えるか試してみるか、駄犬?」

 

 憎悪を滲ませるマリーの物言いに、一同は瞠目する。腕を組んでいつになく高圧的な態度をとるマリーは、隠す気の無い嫌悪を男に向ける。

 

「マリーとロビンがこんなに取り乱すなんて……誰!!?」

「あららら。まーまー、そう殺気立つなよ兄ちゃんたち……。別に指令を受けてきたんじゃねェんだ。天気がいいんで、ちょっと散歩がてら……」

「指令だと!? 何の組織だ!!」

「海兵よ。海軍本部大将”青キジ”」

「「「大将!!??」」」

 

 男の正体は、“海軍大将クザン”通称、青雉。

海兵の中でも3人しかいない“大将”の肩書を持つ男の登場に、ウソップがビビッてゾロの後ろに隠れる。「もっと何億とかいう大海賊を相手にすりゃいいだろ!! ど、どっか行けーーー!!!」と猫に威嚇する鼠のように叫んだ。

 

「あららこっちにも悩殺ねーちゃんスーパーボイン!! 今夜ヒマ?」

「何やってんだノッポコラァ!!!」

「話を聞けオラァ!!!」

 

 あまりにも空気を読まないクザンの言葉に、恐怖を忘れてサンジとウソップが怒声を上げる。

 一味の様子にクザンは呆れたようにため息をついた。

 

「ちょっと待ちなさい、お前らまったく……そっちこそ話を聞いてたのか? おれァ散歩に来ただけだっつってんじゃないの、カッカするな。だいたいお前ら、アレだよホラ……!! ――忘れたもういいや」

「「話の内容グダグダかお前っ!!」」

「何なんだコイツ……! おいロビン! 人違いじゃねェのか! こんな奴が海軍の“大将“のわけがねェ!」

「オイオイそうやって人を見かけで判断するな。おれの海兵としてのモットーは『ダラけきった正義』」

「「見かけどおりだよ!!!」」

「……そのモットーとやらのせいで、わたくしたちは売られたわけか、クザン」

 

 クザンののんびりとした様子を、マリーは憎らしげに眺めていた。

 マリーの言葉に、クザンはぼんやりとした態度を消し、正面からマリーと向き合った。

 

「いや、そういうつもりは無ェ。俺の立場も考えてくれよ。王女様なら政治的判断ってやつに理解があってほしいんだが?」

「護衛の任務を投げ出す理由にはならん。出来ない契約を交わしたそちらの責任だ」

「マリー、この男と知り合いなの?」

 

 見たことのないマリーの様子に、尋常ではないものを感じたナミがマリーに問いかける。それに対して、マリーは苦虫を噛み潰したように答えた。

 

「……昔、この男に警護してもらっていたのですよ。その時に同じ船に乗り合わせた貴族が、わたくしを無理矢理妻にしようとしまして。逃げようとしたところを、護衛だったこの男に裏切られて捕まったんです」

「な!?」

「何だって!?マリーちゃんになんてことしてんだテメェ!」

「わたくしを連れ戻しにでも来たか、駄犬。いや、約束したこともできないなら犬すら惜しい。豚でいいな?」

 

嫌悪を通り越して憎悪すら滲ませてマリーはクザンを睨みつける。そんなマリーを見て、一瞬悲しそうに目を伏せると、クザンはひらひらと手を振った。

 

「いや、お前らをとっ捕まえる気はねェから、安心しろ。王女様が麦わらの一味と一緒にいたのは完全に予想外だったし、アラバスタ事後消えたニコ・ロビンの消息を確認しに来ただけだ。こっちは予想通りお前たちと一緒にいた」

「ほんっとやる気ねェんだなコイツ」

「ふてぶてしさはある意味”大将”だ」

 

 やれやれと言わんばかりのクザンの態度に、サンジとウソップは呆れすらある。マリーはようやく少しは警戒が解けたのかため息を零したが、その眉間にはいまだに深い皺が刻まれていた。

 

「ま、お前らのことは本部に報告くらいはしようと思う。賞金首が一人加わったら総合賞金額が変わってくるもんな。1億と6000万と7900万をたして……分からねえが、ま、ボチボチだ」

「しろよ計算」

「まぁ、メリアの王族が新たに加入したんだ。手配書が発行されれば7000万、いや1億は堅いか?」

「1億!?メリアの賞金は5000万じゃなかったか?」

 

 ルフィに匹敵する金額に驚いたウソップが声を上げた。

 

「普通のメリアならな。だが王女様はちょっとばかし特別だ。何せメリアの王族は古代の「黙れっ!!!」……」

 

 ウソップの言葉に答えようとするクザンの言葉をマリーが遮る。

 怒り、よりも怯えに近い感情を言葉に乗せたマリーに、思わずクザンは言葉を失った。

 その瞬間、「ゴムゴムの~~!!」とルフィの声があがる。クザンに手を出そうとするルフィの暴挙を、サンジとウソップが羽交い絞めにして止めようとした。

 

「ちょっと待て待てルフィ、ストップ! スト~~~~~ップ!!!」

「離せお前ら! 何だよ!」

「こっちからフッかけてどうすんだ!!」

「相手は最強の海兵だぞ!!」

「それが何だ!! だったらロビンとマリーを黙って渡すのか!!」

「いやだから。何もしねェって言ってるじゃねェか……」

 

 「ブッ飛ばしてやる!!」と意気込むルフィを見て落ち着きを取り戻したのか、それとも「何もしない」というクザンの言葉を信じられたのか、ロビンはようやっと目に冷静さが戻ってきた。

 

「なんだ散歩か!! じゃこんなとこ通るなお前!! 出ていけ!!」

「めちゃくちゃじゃないっすか」

「なんとなくルフィが押してる…」

「―――じゃあ分かった……帰るがその前に……さっき寝ながら聞いてたんだ。あんた、おれは睡眠が浅くてね……話は大方頭に入ってる。すぐに移住の準備をしなさい」

 

 

 クザンの言葉に、全員が目を瞬いた。

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