花人間が麦わらの一味に加入したようです   作:絹毛鼠

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ボーイ・ミーツ・リリィ(W7編4)

『午後11時発、エニエス・ロビー行き最終便。水位上昇中に着き、ご乗船は2階より―――――』

 

 エニエス・ロビーへと向かう海列車が出発するブルーステーションで、発車間近のアナウンスが流れる。駅の中では、大勢の人間が物々しい雰囲気を漂わせていた。

 その中心となっているのは、フードを被せられた一人の女、ニコ・ロビンである。

 集まった男達――政府の役人と海兵――に罵詈雑言を浴びせられながらも、それに一瞥すら交わさずロビンは海列車へと乗り込もうとする。その様子を、二人の男が眺めていた。

 

「おいウソップ、本当にここにマリーちゃんもいるんだな?」

「間違いねぇ……あいつらは確かにエニエス・ロビーに連れてくって言ってたんだ。確実にこの行列のどこかにいるはず……」

 

 ウソップは目の前で連れ去られたマリーを探すためエニエス・ロビーに向かう方法を探していたところ、ここブルーステーションでロビンを探していたサンジと鉢合わせしたのだ。鉢合わせした直後は互いにギクシャクしていたがお互い仲間を探している状況だったため、偶然ここにいるだけということにしてウソップは不干渉を貫こうとしたが……サンジがそれを許さずウソップを無理矢理同行させていた。ウソップの目の良さを当てにしたともいえる。

 まずロビンの姿を確認したサンジは、状況の整理をしていた。

 

「さてどう出ようか……。どう見ても連行されてるようにしか見えねェが、あれくらいの相手なら、逃げたきゃ一人でも捻っちまえるハズ……! 何か彼女に狙いがあるのか……。それとも逃げ出せねェ理由でも……? おれに助けてほしくてわざと? ぶぅっふっふふ♡ ぶふふでゅふふふ♡ ゲホ、ゲホッ!」

「……うん、いつも通りだなオマエ」

 

 童話の王子とプリンセスになぞらえた妄想をして鼻の下を伸ばしているサンジに、ウソップが呆れかえる。

 

 ロビンが海列車に乗り込んだのち、その後ろを4人の男女が海兵たちのどよどよとした空気の中を歩んできた。

 その中で最も体格のいい男は、頭にたんこぶをのせた巨漢を袋に詰めて肩に担いでいた。それを見てウソップは「フランキー……!」と小声で零し歯を食いしばる。

 フランキーの後ろでは鉄のマスクをつけられたマリーがついて歩いていた。

 

「マリーちゃんも拘束はされてねェみたいだが……。マリーちゃんは何か目的があるって言ってたな?」

「ああ……。あいつらに約束を反故にするって言われても、想定内って言って冷静だった。多分、故郷に帰ること以外の目的があるはずだ」

 

 マリーはそのままCP9と呼ばれている人たちと一緒に列車に乗り込んだ。サンジ達は多勢に無勢だと、今すぐにでも助けに行きたい気持ちをぐっと堪えて物陰から様子を窺い、ルフィ達を待つ。

 しかしとうとう海列車の発車までルフィ達が到着することは無かったため、二人はやむなく列車の最後尾へと潜入するのだった……

 

 

 ガラスの向こうで荒れに荒れている海が波打つ。ルッチの隣で窓を眺めてため息をつく。

飛沫が窓を叩く音が車輪の音に負けず響く中、マリーはCP9の者たちと同じ車両に乗せられ、正直暇を持て余していた。

 

(ロビンの脳波を読み取った限り……感じられるのは恐怖、諦め、罪悪感、そして希死念慮。話しかけることもできないこの状況では出来ることはありませんね。暇です。………カクでもいじりますか)

 

 憂さ晴らしもかねてしまおう。

 そう思い立ったマリーは立ち上がってカクの隣に移動しようとしたが、「座ってろ」とルッチに背を引かれ椅子に逆戻りしてしまった。

拘束は特にされていないが、一般人並みの筋力まで落ちているためとくに抵抗することは無かった。

 

「何してる」

「いえ、暇なのでカクと会話でもしようかと。貴方を挟んでいいのであればこのまま会話しますが」

「やめい、お主から話題を振られるなど、おもちゃにされる気しかせんわ」

「もちろんです。さあカク、わたくしのどこが好きだったのか詳らかにしてくださいませ」

「しないわ!!」

 

 これから実験体として連れていかれるというのに、マリーの緊張感の無さにカクが呆れて頭を抱える。カリファは「ちょっと気になる」と目線を向けており、ブルーノとルッチは「バカらしい……」と我関せず目を閉じていた。

 

「まったく……メリアの王族は特別と聞いておるが、間違いなく頭は特別ではないな」

「残響の獣の血を引いているらしいが……吸血鬼という点しか共通点が見いだせんな」

「……知能が特別ではないというのは正しいですが、馬鹿にされるいわれはありませんよ。無駄な抵抗は、するのもされるのも疲れるでしょう?」

 

 マリーがそう言い返せば、ルッチはふん、と顔を逸らした。口が達者というか、可愛げが無いというか。

潔いというのも考え物だな、とルッチはため息をついた。

 

「そういえば気になっていたのじゃが、王族とそれ以外のメリアは何が違う?」

「?? そんなことも知らないのですか?」

 

 意外、という感想を隠しもせず、マリーは質問で返した。CP9なのにその情報も知らないのだろうか。

 カクは恨めしそうに、「メリアはいまだ謎が多い。お前さんの父親のせいで、解剖などの研究も進んでおらんしの」と皮肉った。

 なるほど、とマリーは納得する。遺体からしか情報を得ようとしなかった結果か。

 

「大抵のことは訊かれれば答えるのに。盗み聞きしか能が無いからそうなるのです」

「やかましいわ。それなら、いまお前さんに聞いたら答えてくれるのか?」

「構いませんよ。王族と通常のメリアの違いはいくつかありますが、代表的なのは空想具現化の強度と範囲の違いでしょう」

「空想具現化の範囲と……強度?」

「より広く、より強く空想を敷くことが出来るのが王族です。優先度の違いと言ったほうが分かりやすいかもしれません。二人のメリアが、同じ空間に対して別の空想を敷こうとした場合、どちらが優先されるか。それが王族と通常のメリアの大きな違いでしょう」

「……なるほど? つまり王族であればメリアの空想具現化を無効化できるんだな?」

 

 ルッチはあくどい顔を見せた。あなんかまずいこと言ったかもしれない。マリーは一瞬冷や汗をかくが、まあ大丈夫だろうとルッチに対して微笑みだけを返した。

 吸血したメリアのほうが王族を上回るから。平気平気。

 

「こちらからも質問したいことがあるのですがいいですか?」

「答える義理は無いぞ」

「お好きにどうぞ。……残響の獣という名前、貴方たちはどこで知ったのです。それを口に出すメリアは少ないはずですよ」

「………わしは上官から、その上官もさらに上から聞いたと言っておったな。出所はしらん」

「答えていただきありがとうございます。その名前を口に出すメリアは少ないので、ちょっと疑問だったのです」

 

 ルッチは不愛想に目を逸らしたが、カクは律儀に返答してくれた。

クザンも言っていたが、残響の獣の名は誰が広めたのだろう?それを名乗るメリアは1人だけ。そしてそれ以外のメリアにとって、その名前は禁忌だ。

 恐れられているのではない。今は語るべき時ではないと、メリア全体で口を噤むことに決めた災厄の名前。

 知られても問題は無いが、話す理由がないそれを、なぜ政府は知っていたのだろうか。

 

「そうじゃな。せっかく暇なのだし、お前さんに聞きたいこともたくさんある。いろいろ聞かせてもらおうか」

「カク」

「いいじゃろ、どうせ列車が着くまで時間があるし、マリーも隠す気はなさそうだしな」

 

 長話をする気になったのか、カクが席を移ってマリーの前の席に座る。背もたれから顔をのぞかせ、軋む木の音も気にせずに問いかけた。

 マリーの緊張感の無さに当てられたのか、カクは警戒を緩めているように感じる。ルッチはそんなカクを咎めるが、カクの言い分に納得したのか会話の邪魔をする気はないようだ。

 話し始めようとした瞬間、後ろの車両からルッチの部下らしき人間がやってきた。

 

「失礼します……! 後部車両で3人の不審者が発見されました! 現在車両内を捜索中でございます!」

「侵入者か」

 

部下からの報告によれば、最後尾から侵入した男2人が捕らえていたフランキーを開放しこの列車内で暴れまわり現在は見失っているらしい。

 

(来ているのはウソップとサンジですね。ここでロビンを救出できれば手っ取り早いですが…)

 

 周囲の生体波動から侵入者がサンジ達であると察知した。しかし楽観できる状況ではない。ロビンの精神状況からして今救出するのは難しいかな、とマリーは予想した。

 

この海列車は途中下車できないため落ち着いて探せと、ルッチは部下に指示を出して改めてマリーと向き合った。

 

「邪魔が入ったが、さっそく残響の獣について詳しいことを聞いてみたい。今後政府が操る力だ、どれほどの力か教えてもらおうか」

「……知らないんですか? 自分たちが欲しがっている存在の事を?」

「記録に残っている情報と突き合わせたい。新たな情報を聞ければ御の字だ」

「戦闘能力をわたくしはよく知りません。それ以外であれば、ある程度お答えできますよ」

「構わん。言ってみろ」

「ん、分かりました。残響の獣というのは最初のメリアの事です。いつ生まれたのかは知りません。800年前に眠りにつき、400年ほど前に目覚めた始祖のメリア。わたくしたちにとっての女王と言っていいでしょう」

「ほう。過去の存在ではなく、すでに実物がいるのか」

 

 ルッチが目を細める。感じ取れるのは<驚愕><高揚><危機感>。実在が確認できたことによる喜びと、それがすでに政府以外の手に渡っている事への警戒、だろうか。

 カクから引き継ぐようにルッチが話を進める。

 

「おれ達は上からはこう聞かされている。空白の百年で天竜人達の祖、すなわち政府の前身と敵対した人を食らう怪物。なぜか急に姿を消したが、どの国も歯が立たなかった、とな」

「空白の百年での出来事は知りません。人を食らう怪物というのは間違っていないでしょう。彼女も通常のメリアと同じく、吸血することでエネルギーを得ることが出来ますので」

「なぜ、どこに姿を消した?」

「理由は知りません。どこにという問いであれば、黄泉の国へと答えましょう。彼女は特定の個人ではありません。その世代で最初に吸血した王族が継承する、人格と能力の事を指します。空白の百年で活動した個体は死亡し、現在活動しているのは次世代です。」

「人格と能力の継承……? 成り代わるということか?」

「多重人格になるというのが正確です。元になった人物が消えるわけではありません」

「ふむ……」

 

 気が付けばルッチだけでなく、カリファやブルーノもこちらに意識を向けている。

 やはり本職が諜報員であるからか、情報を得られる場を逃すことは無いらしい。

 

 というより、残響の獣というものが政府にとってそれだけ重要なのだろう。政府の前身が手も足も出なかった人外の怪物。それを無力化、あるいは支配下に置くことは絶対の目標と言っていい。その手掛かりになる物は何であれ欲しいのだろう。

 

「王族のメリアが変貌したもの……ということは、お主の故郷の女王とは別人か?」

「メストリアパンの事ですか? 彼女とは別人ですよ。彼女はマイヤ種だから、あくまでミクトラン島の女王です。残響の獣はメリアという種族の女王。担当範囲が違います」

「なるほど。せっかくじゃ、マイヤ種についても確認したい。彼らも情報があまり無いからな」

「構いません。前提としてどこまで知ってます?」

「本体である空想樹マイヤから直接生まれたメリアであり、寿命は本体である空想樹と同じく限界は確認されていない。強力な空想具現化、および生体波動を有しており戦闘力は非常に高いと想定されている。しかしこれは数少ないメリアから得た情報であり、実物を確認できたことは無い。ここまでで訂正はあるかのう?」

「そうですね、訂正はありません。通常のメリアとの差異に着目して付け加えるなら、彼らは本体である空想樹の外に出られない事。そして、吸血行為が完全に不可能であることでしょうか」

「ほう、マイヤ種は吸血できないのか」

「ええ。彼らは本体である空想樹の一部、栄養は木しか得られない。同時に木から離れられず、空想樹の傍から離れると枯死してしまう。逆に言えば、彼らは木の中であれば不死と言っていい。どれだけ体を傷つけられても、本体である木が無事であればいくらでも蘇生できるという点も違いますね」

「なるほど……拠点防衛にはうってつけじゃな」

 

 カクが戦略上の観点からメリアの生態について考察する。

 その様子に、マリーは言いようのない悲しみを感じて顔を俯かせた。

 彼らの目的は分かっている。メリアという生き物の軍事利用。その目的に準じてメリアという生き物を見ることは理解している。

 それでも彼女は悲しかった。メリアという生き物を人類と差別して扱われることではない。

 命を差別するという精神の未熟さ(・・・・・・・・・・・・・・・)が哀れであると悲しんだ。そんなだから、残響の獣は人類と相いれないのだと。

 そして同時にマリーは自嘲する。自らの夫を特別なものとして扱うと決めた時点で、同じ穴の狢だなと。

 

 マリーが目を伏せていると、再び後部車両から報告が来た。どうやら後部2車両が切り離され、大幅に戦力を削られたらしい。

 乗ってきた侵入者の見た目はテレパシーで察知した通りサンジ、ウソップ、フランキーの3人で間違いなさそうだ。

 ルッチはそんな状況にも眉一つ動かさず落ち着いている。ニコ・ロビンは絶対に取り返せないと自信があるようで、愉悦に口端を歪ませていた。

 

 部下が去った後、ルッチはマリーに向き直り先ほどの笑みを消して真剣な表情で話しかけた。

 

「一つ、確定させたいことがある。残響の獣は現在活動しているんだな?」

「ええ、それが何か」

「そして残響の獣とは、その世代で初めて血を呑んだ王族のメリアだとも言った。これに間違いはないな?」

「はい」

「であれば……もしお前が血を呑んで、今活動している残響の獣が死んだ場合、お前自身が残響の獣になりえる(・・・・・・・・・・・・・・)、という解釈でいいか?」

「……あらまぁ、そこまで今バレちゃいますか」

 

 ルッチの考察に、パチパチと拍手を送る。

 それに対して悪意に満ちた笑みを浮かべるルッチ。

 

「吉報だな。クローンでの再現を目的としていたが、お前自身がなりえる可能性があるならその研究も打診しよう。人格を消して人間を機械にする研究は完成していると聞いているしな」

「ろくでもない研究してるんですねェ……。でもそれ、今の始祖を殺さないといけませんから、捕らぬ狸の皮算用というやつでは?」

「……そこはおれ達の考える領分ではないな」

 

 ルッチがそう言った瞬間、車両の扉がガシャァァ…ン!という音と共に砕け散る。扉の残骸を纏って、気絶している見知らぬ人物が車両の床を滑ってきた。

 そのすぐ後に後部車両の天井に穴が開き、上から二人の男が落ちる。フランキーとその敵のようだ。フランキーは馬乗りの状態で振り下ろす様に敵の顔面を殴り、その威力によって車両の天井が壊れたらしい。

 

 護送のための兵士だった二人がCP9の前に蹴りだされる。それに一瞥することもなく、ルッチたちは侵入者に顔を向けた。

 サンジたちは多少の怪我がありつつも無事なようだ。

 

「アイツらだろ、直接ロビンちゃんとマリーちゃんを攫ってったのは……あ! マリーちゅわ~ん! 無事だったか~い!?」

「特にけがなどはしておりませんよ。サンジこそ大丈夫ですか?」

 

サンジとマリーの会話の裏で、まだ動く気力があったらしい敵がゆっくりと立ち上がった。カク曰くネロというその男は、己を戦闘の天才だ鼓舞しフランキーに殺意を向ける。それを見たルッチは呆れたように頭を振った後、怒りすら滲ませた呆れかえった言葉を零した。

 

「おい新入り」

「……アア、アンタ…ロブ・ルッチだな。挨拶が遅れたねぇ……! ちょっと待ってくれよ、今あいつを殺して……」

「フランキーは生け捕りだ。感情に任せて任務を見失うとは……イヤ、もういい。3秒やるからっさっさと逃げろ」

「!? は!?」

 

ネロはカウントダウンを始めたルッチを困惑と共に見上げ、ルッチの言葉の意味に気づくと必死に逃げ出そうとする。瞬間移動に等しいスピードにルッチはいとも簡単に追いついた。逃げ出そうとしたその背中に銃弾のような指を打ち込んだルッチは、汚らわしいものを払うように動かなくなったネロを窓から叩き出した。

 

「何もかも半端なお前にCP9は務まらん。六式揃ってこその超人だ坊や……。カリファ」

「はい」

「後で長官に一報を。新入りは弱すぎて使えませんでした、と」

「了解」

「――コイツらが正義の機関か……?」

「どっちが悪だかな……」

 

 ルッチたちの所業を見て、思わずサンジが呟く。

 フランキーも気持ち悪い虫でも見たかのような顔をしている。

 

「お前らの用は……聞くまでもねェか侵入者。ドアの開け方を見る限り、あまり気の長い質じゃなさそうだな……」

「ああ。育ちが悪ィもんで」

「……二人のことなら諦めろ。お前たちが首を突っ込むには、どちらとも問題がデカすぎる。世の中には死んだほうが人の為になるという不幸な星の下に生まれる人間もいるもんだ……。例えば“世界を焼き尽くす悪魔”がいたとして……それを呼び起こす力を持っている者と、それを再現できる体を持つ者がまだ幼い純粋な少女であった場合……誰かの手で殺しておくべきだと思わないか?」

「……何が言いてェ」

「それがニコ・ロビンとメリアの王女の人生だと教えてるんだ。今となっては二人とも本物の犯罪者だが……始まりはたったそれだけのことだった」

 

 ロビンの話に、マリーは考えを巡らせる。世界を焼き尽くす悪魔を呼び起こせる力とは何なのか。ロビンはマリーのように特別な血筋だと聞いていない。何か別の能力が、とまで考えたあたりでマリーは正解に行きついた。

 

歴史の本文(ポーネグリフ)の解読ですか……あんなもの、別にロビンだけの能力ではあるまいに、大袈裟ですね)

 

「物心ついた時から自分の存在そのものが”罪”!! 自分が消えることでしか人を幸せにできない。この二人はそういう不幸を背負っているんだ。いや、王女のほうは少々毛色が変わったな」

 

 ルッチはマリーのほうに視線を向ける。

 

「片や生まれてすぐに洗脳して体を手に入れるべきだった怪物が手に入り、片や二十年前に死んでおかなければならなかった女も手遅れになる前に死ぬことになって、本当に良かった」

「いい加減にしろてめェ!!! それ以上口を開くな!!」

 

 サンジがルッチの言葉を止めようと、ルッチの頭に向けて蹴りを叩き込む。それをルッチは難なく鉄のように固くした蹴りで受け止め、言葉をつづけた。

 

「ただし政府はこの先何年かけても、この怪物を世界政府の兵器に変えるため洗脳し、ニコ・ロビンの知識、経験、頭脳の全てを絞りだすだろう。これからこの女たちがどれほどの苦痛の末、利用され死んでいくのかよく噛み締めて「そんなことはさせねェよ!!!」」

 

 サンジの怒りの声に反応してか、第一車両のドアが開く。その向こうからは「おいおい待てロビン、そっちへ行ったら!」と聞きなれた声が聞こえてきた。扉が開ききると、そこにいたのはロビンとおかしな仮面をつけたウソップだった。

 ロビンはマリーの存在に目を瞬かせたのち、サンジに険しい視線を向けた。

 サンジはロビンを見つけた喜びに興奮して「ケガは!? 何もされてねェか!?」と笑顔を見せながら彼女の身の心配をした。

 

「どういうこと? 何故マリーがいるの」

「この子は別枠よ。貴女とは別に契約したの」

「……破られた気がするんですが」

「殺さないのがニコ・ロビン、お前との契約じゃろう。心配しなくても、王女の命には利用価値がある。殺すような真似はしないわい」

「…………」

 

 ロビンは探るような目でマリーを見つめる。マリーはロビンのその視線に向き合い口を開いた。

 

「わたくしはわたくしの目的で行動しています。ロビン、貴女と政府の契約とやらで行動を縛られるつもりはありません。わたくしがエニエス・ロビーへと向かうのは自分の意思です」

「なっ、どういうことだいマリーちゃん!?」

「……なぜ」

「さあ、どのタイミングで明かしましょうか。わたくしも悩みどころです」

 

 おどけたようにマリーはロビンから視線を切る。ロビンは覚悟を決めたように一瞬目を伏せた後、ウソップを背中に生やした六本の手で投げ飛ばした。

 

「ロビンちゃん…何すんだ!?」

「いてて……!」

「口で言っても、分からないでしょ……?」

 

 突然のロビンの裏切りにサンジ達は動揺し、ルッチは肩の鳩と共に愉快だと顔を歪めた。

 

 思わぬロビンの言動に仲間たちは動揺し、ルッチは愉快そうに顔を歪めて笑っている。そこから突然、ウソップが「フランキー君! 第三車両を切り離したまえ!!」と叫び

 

「”そげキーング煙星(スモークスター)”!!」

 

 車内を煙幕で満たした。

 あまりにも単純、しかし予想外な一手にCP9の動きが止まる。

 目元まで覆った仮面のおかげで視界が良かったのか、そげキングはマリーとロビンをそれぞれ両脇に抱えサンジ達と共に後部車両へと駆け込んだ。

 

「やったァ!! 二人を取り戻したぞ~~~!!」

「おっどろいたぜ、しかし急にこんな逃走作戦に出るとは!!」

「煙幕なんてくだらなすぎて思いつきもしねェよ普通」

 

切り離された第3車両からCP9達を乗せた先頭車両が離れていく。マリーは、このままで済めばいいのだけどと思いながら、ウソップの奇行を問い詰めた。

 

「ウソップ、その仮面はどうしたのです?」

「初めましてお嬢さん。私の名前はそげキング! ウソップ君より頼まれてやってきた助っ人だ!」

「……ウソップ、わたくし(メリア)相手に嘘がつけると思ったら大間違いですが」

「そういうことにしてください」

「わかりました」

「「物分かり早ッ」」

 

 しれっとすっとぼけるウソップがマリーに笑顔で凄まれ、降参というように言外に「聞かないでくれ」と頼む。

 マリーはウソップの事情は何一つ分からなかったが、素直に頼まれたので素直に受け入れた。サンジ達はそんなマリーの話の速さにぽかんと口を開けた。

 その瞬間、ガガガガッ!と車両が大きく揺れる。

 カリファが棘のついた鞭でマリー達の乗った第3車両をがんじがらめにし、カリファから受け取ったブルーノが己の膂力だけで引き戻した。車両の床が荒波のように大きく揺れ全員が座席につかまり、そげキングに至っては空中で一回転してしまった。マリーも非力な今の体では、床に這いつくばりながら椅子にしがみつくしかなかった。

 

「ぎゃーー!引き戻されたァ~!」

「煙幕とはつまらねェ真似を」

「……やっぱ無理あったか。そげキング! 二人を死守しろよ!!」

「お、おう!!」

 

 サンジは一気に距離を詰め、ブルーノの首をへし折ろうと蹴りを入れるがブルーノの“鉄塊”の前にびくともしない。しかしより力を入れた2撃目の蹴りにブルーノの視界が歪む。

その様子に焦ったロビンがそげキングや車両の床に手を生やして「“” 八輪咲き(オーチョ フルール)クラッチ!!」と攻撃を仕掛けた。

予想外なロビンの攻撃にサンジが「ロビンちゃん!?」と声を張り上げるが、ロビンはひたすらに自分の事は放っておけと言う。

 ロビンに気を取られたサンジはカクから手痛い一撃を食らってしまい車両の後ろの方に蹴り飛ばされてしまう。椅子ごと壁に吹き飛んでいったサンジ。それを見たフランキーは第3車両の扉と壁ごとブルーノたちのいる第2車両に突進する。

 再び第3車両が切り離される。フランキーは策があると言いながら第2車両に残ってしまった。

 ロビンは離れていくフランキーたちを見ながら、逃げられることを喜ぶこともなく叫んだ。

 

「何て事を……待って! 私は逃げたりしないわ!」

「待てよロビンちゃん!! この後に及んで何だってんだよ!! おれ達ァ全て事情も知って助けにきたんだぞ!! 政府のバスターコールって攻撃さえ何とかすりゃロビンちゃんがあいつらに従う事はねェハズだろう!?」

「そのバスターコールが問題なんだ」

 

 ガチャ、と扉を開くような音がサンジの背後から響く。それに振り返ったサンジは、何もないところに空いた窓のようなものからこちらを覗くブルーノを見た。

 

「”嵐脚”」

「ぐァ!!!」

「サンジィ!! な、なんだ!? あいつ何もねェ所から現れた!!」

「”指銃”」

 

 瞬く間にブルーノは二人を制圧し、片腕にロビンを捕らえる。マリーは倒れ伏したそげキングを椅子に寝かそうと近づいたが、ブルーノに腕を引かれ断念するしかなかった。

 

「やめて! 私は逃げる気はないわ! それでいいはずよ!!」

「向こうからかかってくるんだ。仕方がない」

「……じゃあ早くここを離れましょう」

「ロビン、本当に行くのですか。ここまで助けられていながら、何故」

 

 マリーはロビンに問いかける。何か理由があるのは分かり切っている。そうでもなければロビンが政府の要求を呑むはずがない。

 それでも、ここまで助けに来られてなお拒絶する理由がわからない。

 

「わたしは、叶えたい夢があるのよ……!」

「そんな恐怖にまみれた夢がある物ですか。貴女のそれは強迫観念です。夢と呼んでいいものではない」

「何を」

「待て! ……大丈夫だ……!」

「長鼻君……」

「ロビンお前……大丈夫だぞ……お前まだなんか隠してんな……!! 別にそれはいい。……ただし海賊は、船長の許可なく一味を抜けることはできない…! だからお前……! ルフィを信じろ!!」

「……!」

(……船長さんが来れば、ロビンは帰ってきてくれるでしょうか)

 

 恐怖に囚われたロビンの心が救われることを願って、ここではしょうがないとマリーはロビンと共にブルーノのドアの中に消えていった。

 

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