花人間が麦わらの一味に加入したようです   作:絹毛鼠

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花人間が麦わらの一味に加入したようです(ジャヤ編1)

 マリーとロビンが加入して数日が経ち、一味に慣れ始めた頃、ゾロは変わらず2人に対して警戒を解かずにいた。といっても、マリーに対しては元々敵だったロビン程では無いので、形の上でのみの警戒、と言ったレベルだが。

 マリーは戦闘に関しては素人だ。それはここ数日の彼女の様子を見れば一目瞭然だった。帆を引くときはへっぴり腰、サンジが料理しているところを見れば魚の血を怖がるといった有様。力を入れる体の動作、他者を傷つける事への慣れというものが全く無かった。

 

 ある日の朝、マリーは筋トレをしているゾロの前に現れた。故郷で多少習ったと言うから刀を振らせてみれば、ゾロからしてみれば子供の手習いと言ったレベルだった。手合わせをしてみたが、構えなどの基本はしっかりできているのに、如何せん実践に慣れていないのが丸わかりだ。

 手合わせの相手が出来るかと思ったゾロからしてみれば、とんだ期待はずれである。

 

「貸してくれてありがとうございます、ゾロ。故郷で習っていたので、懐かしくて少し振りたくなりまして」

「これぐらいは別にいいが……ほぼ素人じゃねぇか。戦ったことは?」

「無いですね。故郷では半年に1度、神殿で剣舞を舞う仕事をしてましたから、その一環として習っていただけです」

「剣舞ねぇ……型の基本は出来てんのに、相手の動きにまるで着いていけてねぇのはそのせいか」

 

 納得、と言った表情でゾロは頷く。

 ここ数日のマリーの様子を見る限り、貴族に見初められる前から上流階級の人間だったのだろうとゾロ達は思っている。最近まで王族であるビビを乗せていたこともあって、王侯貴族の気品というものをこの船に乗る者は感じ取っていた。

 普段の歩き方や話し方、食事の作法まで。決してそういう事に詳しくは無いゾロでも、雰囲気である程度は感じ取っていた。

 そのように考えていると、サンジが「マリーちゅわ〜ん♡」とクネクネと踊りながらやって来た。

 

「何しに来た、クソコック」

「うるせぇクソまりも。マリーちゃんにおやつのドリンクをお届けに来たんだ!」

「あら、ありがとうございます!」

「こちら、おやつの『運動後にピッタリ、朝摘みオレンジのソーダ』です♡

マリモの分はキッチンにあるから、自分で取ってこい」

「へいへい」

 

 ゾロがキッチンに向かっている間に、マリーとサンジは談笑を始めていた。というのも、現状のマリーの仕事は、サンジの補佐が主なものとなっていた。

 現在のマリーの仕事は、夜番と冷蔵庫番である。食事と睡眠が必要ない彼女には食料を盗むメリットがないことから、サンジとナミの相談の結果、冷蔵庫番が彼女の仕事となった。

 

「いつもありがとうな、マリーちゃん。おかげで、うちの船長の冷蔵庫漁りがさっぱりねぇ!」

「いえ、メリアにとって睡眠は必要では無いので、夜番はうってつけの仕事です。向いている仕事を回して頂き、ありがとうございます」

 

 炭酸に慣れていないのか、ちびちびとソーダに口をつけながらマリーはサンジに答える。

 メリアという種族は睡眠の必要が無く、必要とあれば不眠不休で動けるという話を聞いた事で、夜に動く仕事は彼女が補佐として働くこととなった。その代わり1度寝ると中々起きないらしく、初対面の時に目覚めなかったのもその影響らしい。

 そして、冷蔵庫番という仕事は彼女にピッタリだったらしく、ここ数日はルフィ達からの襲撃も成功しないのだとか。なんでも、つまみ食いに食料庫に忍び込もうとすると、ドアの前で仁王立ちしているせいで隙がない。しかもウソップが口八丁で何とか分けてもらおうとしても、全く話を聞いてくれないらしい。そのせいか、おやつが足りないとお腹を空かせたルフィが2人の元に飛んできた。

 

「サンジ〜、もっとおやつくれ〜……」

「テメェの分はもうやっただろうが!」

「夜食べれなかったから足りねぇ!」

「堂々と要求すんじゃねぇ!残ってる量と計算してメシ出してんだらか我慢しろ!」

「だって夜食べに行ったら、マリーが邪魔すんだ!」

「当たり前だバカ!」

 

 やいのやいのと言い合いを始めるサンジとルフィ、それをあらあらと眺めるマリー。周りのクルーや戻ってきたゾロは呆れつつも、会話に加わる気は無いらしい。

 

「マリー!夜に飯食わせろ、船長命令だ!」

「船長命令を濫用しやがって、マリーちゃんを困らせるな!」

「わたくしの仕事は、夜間に食料の窃盗を行う方を追い返すことです。ですので、その命令はお断りします」

「ガーン!!」

 

 言い合いの矛先がマリーに向きサンジが庇う。すると、マリーからは取り付く島もない拒否の言葉が飛び出し、ルフィは愕然とした様子で叫んだ。

 

「ううぅ〜……」

「諦めろクソゴム」

「ちょっ、ちょっとだけでも……」

「サンジの食事は栄養バランスがちゃんと考えられており、船長はしっかり必要分の栄養を摂取出来ています。盗人はスプーン1杯見逃しません!」

「ギャー!」

「頼りになりすぎる!さすがだマリーちゅわ〜ん♡」

「もし昨日のように、私の隙を着いて一瞬で中身を盗ろうとしたら、立場を気にせず説教致します!」

 

 フンスッ!と、気合を入れるような素振りで宣言するマリー。絶望の表情で項垂れるルフィ。頼りになる女性相手にメロリンするサンジ。そこに、おやつを食べ終わったナミが現れた。

 

「いい加減にしなさいルフィ!あんたの食費にいっつも苦労させられてんだから、ちょっとは我慢しなさい!」

「でもよぉ〜」

「“でも”?その続きは?んん!?」

「盗み食いした時、すげぇ美味いんだよ!」

「ふざけんじゃないわよー!!」

「ギャー!!!」

 

 ルフィの余計な一言に怒り、ゲンコツを雨のように落とすナミ。

 2人のその様子に少々呆れながらも、気になることがあったためロビンはナミに話しかけた。

 

「航海士さん、ところで……“記録(ログ)”は大丈夫?」

「西北西にまっすぐ♡平気よロビン姉さん!」

 

 自分の分のおやつを食べて鍛錬に戻ってきたゾロが「姉さんって……お前絶対宝石貰っただろ……」とため息をつく。自分が気を張っていなければならないと鍛錬を続けていると、船を“コツコツ”と叩く音に気付く。

 

「ん?雨?」

 

 ゾロの言葉で、仲間たちも異常に気付いた。雨にしては硬いそれ。すわあられかと、全員で上を見上げると────ー

 

「「「「「え?」」」」」

 

「空から」

「ガレオン船……!!?」

「何で」

 

 メリー号の何倍もの大きさを誇っていたであろう、朽ちた帆船が遥か彼方の空から墜落している。パラパラと落ちてきたものは、その欠片である木片だった。

 

「うううわあぁぁぁぁ!!」

「掴まれ!船にしがみつけ!」

「何!?これ何!?」

 

 ガレオン船はメリー号のすぐ横の水面に轟音と共に落下し、大波を引き起こした。

 全員が咄嗟に船を掴み、必死に波と落ちてくる船の破片に耐える。

 

「まだなんか降ってくるぞ!気を付けろ!」

「夢!!そうさこれは夢!!」

「夢!?良かったァ!!」

「ルフィ!!船を守れ、もう持たねぇぞ!!」

「よし!……ん?ウソップ?」

「案ずる事なかれ、こうやって落ち着いて目を閉じて……。そしてゆっくり瞼を開けると、ほ──らそこには静かな朝……って、ギャー!!」

「バカ、投げないでよこっちに!」

 

 各々が身を守る中、驚きのあまりに現実逃避するウソップ。目を開けた瞬間に降ってきた骸骨に悲鳴を上げ、思わずナミに投げ飛ばす。投げられた先のナミも怖がって放り投げてしまう。

 その後1分程に亘って、瓦礫の雨は降り注いだ。

 

 

「何で……空から船が降ってくるんだ!?」

「奇っ怪な……!」

「空にゃ何にもねぇぞ……」

「あ!!どうしよう……」

「どうしました、ナミ」

「“記録指針(ログポース)”が……!壊れちゃった、上を向いたまま動かない!!」

 

 瓦礫が振り終わり、船の片付けをしていたころ、ナミが急に声を上げた。記録指針が壊れたと声を上げるナミだったが、それをロビンが制した。壊れたのではなく、空島を指しているのだと。

 

「浮いてんのか!島が!」

「あの船やガイコツはそこから落ちてきたのか!」

「だが、空に島らしきモンは何も……」

「そうじゃないわ……正確に言うと、浮いているのは“海”」

「海が!?」

「ますます分かんねぇ……」

「「おおおぉぉぉぉ!!」」

 

 空に海が浮いていると聞いて、困惑する他を置いてウソップとルフィは目を輝かせた。

 

「空に海が浮いてて島があんだな!?よしすぐ行こう!」

「いえ、その前に気球などの調達を……」

「野郎ども!上に舵をとれ!」

「ですから、船の構造では上には……」

「上舵いっぱーい!」

「……ぷ……うぷ……!!」

 

 興奮のままに荒唐無稽な命令を出したルフィを、ルフィから生やしたロビンの手が塞いだ。

 

 空島への足掛かりを見つけるべく、落ちてきた瓦礫や遺骨を復元していくロビンとそれを手伝うマリー。考古学者と言うのは伊達では無いらしく、遺骨を復元していく手付きは迷いがない。

 骨に残された風習から“南の海”という地域を、施された治療の後から約200年前という年代を導き出す。そこから当時の記録を洗い出せば、落ちてきた船が“セントブリス号”という名前だと判明した。

 遺体の状態からあっという間に年代や地域を特定したロビンに、ナミとマリーが目を丸くした。

 

「遺体から様々な事が読み解けるのですね。勉強になります」

「力になれたようで良かったわ。クロユリさんも、手伝ってくれてありがとう。おかげで、とても早く終わったわ」

「わたくし、パズルが趣味でして。こういった物を組み合わせたり分解したりする作業は好きなんです。他に直すものはありますか?」

「そうね……探検隊の船なら色々な証拠や記録が残っていたはずだけど……」

「ルフィしっかりしろ──!!」

「ぶわっぶぱっばすべて~~!!」

「あんたたち何やってんのよォ!!」

「あら、いつの間に」

「腕からほどかれた瞬間に走り出してましたよ、彼ら」

 

 好奇心が押えきれずにセントブリス号を探検していたらしいルフィとウソップが、船が沈み溺れかけたせいで大騒ぎしていた。

 ロープを投げ入れて甲板に引っ張り上げられたルフィは、待ちきれないといった様子で船から見つけたそれを掲げた。

 

「おいみんな!やったぞ!!すげぇもん見つけた!」

「!?」

「「「“空島”の……地図!?」」」

 

 

 沈みかけのセントブリス号から空島らしき“スカイピア”という島の地図を手に入れた。そこで空島に行く方法を探るべく、沈没船のサルベージを行うこととなる。しかし、メリー号と比べて遥かに大きな船を引っ張りあげることは不可能だ。その代わりに潜水服での探索を行うこととなったため、一行はウソップによる潜水服の完成を待つこととなった。

 その様子を見たマリーは、一足先に素潜りで探索をしようと、ナミに相談をしていた。

 

「水中呼吸!?そんな魚人じゃあるまいし……素潜りで探索なんて大変よ?」

「いえ、わたくしは水草のように水中の酸素を取り込めるので問題ありません。ただ、体の密度の関係で自力で浮くことが出来ないので……浮上の為のロープを頂ければ十分かと」

「うーん……」

「マリー、先に探索すんのか!?ずりぃぞ!!」

「そもそもお前泳げんのか?カナヅチだから沈むとかじゃねぇよな?」

「泳いで横移動は出来ますけど……。わたくしの体、人体よりも植物に近くて水分量も比重も高いので……めいいっぱい息を吸っても全く浮かないんですよね」

 

 困ったように頬に手を当てるマリー。ルフィとゾロは「不思議人体か〜」と考えることをやめた。実際は普通の植物なのだが。

 乾燥した木材ならともかく、水分たっぷりの生木は水に沈むのである。

 

「なので、ロープを体に巻いて探索すれば、帰りは手で登っていくだけになります。そこまで危険では無いかと」

「それなら、ウソップの潜水服が出来るまでお願いするわ。完成したらロープを引っ張って知らせるから、自力で登ってきてちょうだい!」

「はい!頑張ります!」

「いいなぁ〜」

「気をつけてくれよ、マリーちゃん!」

 

 ナミからの許可を貰い、ロープを腰に巻くマリー。そのまま袋を持って甲板から海に飛び込み、サルベージに向かっていった。ザバンッ、と水しぶきを上げて海中に吸い込まれていく様子を、ルフィは羨ましそうに見送り、サンジは心配し続けていた。

 

「それにしても、水中で呼吸出来るなんて凄いわね」

「前に戦った魚人とも違うみてぇだしな」

「メリアは研究の歴史も浅い神秘の種族。能力も生態も、本人から聞いて知っていく他ないわね」

「ロビンは考古学者なんでしょ、メリアの歴史について調べたことは無いの?」

「……調べている人と話したことはあるけれど、詳しいことは分からなかったわ。彼女たちの居住区は深い森の中。遺跡も見つかったことはないし、人に発見されることも極稀なこと。専門で研究している人はほぼいないわ」

 

 ロビンは眉をひそめながら、苦々しく答える。彼女もメリアの歴史について調べたことはあったらしいが、思うように研究が進まず苦労した記憶があるらしい。

 

「それにメリア自体、ここ400年で発見された種族の上に分類上は植物。植物の歴史は、考古学者と言うより植物学者の領分だから」

「あっ、そっか。あの子を見てると忘れそうになるけど、植物の分類だものね」

「ええ。植物である彼等は、文化や思想よりも、生態の方がよく調べられている。メリアと直接話した人からも、『彼らは秘密主義である』としか聞けなかったもの」

「秘密主義、ねぇ……まあ、本音で話しているって感じはしねぇけどよ、聞いたことにはちゃんと答えるだろ?」

 

 ウソップがこれまでの彼女を思い浮かべながら答える。丁寧な口調や端的な答え方をして会話が早々に終わることが多々あるが、それでも聞かれたことにはちゃんと答えていたし誤魔化している様子もなかった。初めて会った時も、その後数日一緒に居た間も、人間と彼女の差異について問われれば『どう答えれば伝わりやすいか』という悩みこそはあったものの、隠すということはしていなかったように感じられた。

 

「そうね……私も話してみて驚いたわ。彼女が変わり者なのか、それとも……」

 

 ロビンは顎に手を当てて考え込む。思い浮かぶのは、かつて故郷に居た恩師の言葉。歴史に対して決して嘘をつくような人では無いが、それでも人づての言葉。学者である自分が盲信していいものでは無いと思い直して、浮かんだ言葉を飲み込んだ。

 

「(植物は歴史を語らない……クローバー博士はそう言っていた。歴史に対してだけ(・・・・・・・・)、彼らは口を閉ざす。そう考えれば……)」

 

 知っているから口を閉ざすのではないか、なんて考えが浮かんでしまう。

 その真相について、時間がある時に聞いてみようと考えながら、ロビンはマリーの浮上を待っていた。

 

 

 

 

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