花人間が麦わらの一味に加入したようです   作:絹毛鼠

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花人間が麦わらの一味に加入したようです(ジャヤ編4)

 海で出会ったマシラとショウジョウとモンブラン・クリケットの家で再会し和解した後、男たちに空島について尋ねた。するとクリケットは大笑いし、その返答に怒りを覚えたナミがこぶしを振り上げるのを、ウソップが必死に宥めていた。

 クリケットは語る。空島があると言っていた奴を知っているが、そいつは世間じゃ伝説的な大噓つきだといわれているモンブラン・ノーランドという男であると。その男は自分の先祖であり、自分はその一族としての因縁に決着をつけるために、偶然たどり着いたこのジャヤで、10年間海に潜り続けているという。

 そうして一人過ごす中、5・6年前に現れた絵本のファンであるマシラとショウジョウが一緒に過ごしていることに救われているのだと、クリケットは教えてくれた。

 そこまで話したところで、ルフィが空島の情報が欲しいとせっついた。

 

 「……フフフ、せっかちな奴だ…。だから話してやったろ。“空島”の証言者はその『うそつきノーランド』。こいつに関わりゃ、おめェらもおれと同じ笑いものだ」

 

 そういって、クリケットは傍にあった古ぼけた本を手に取る。革張りの表紙は時間の重みに耐えかねて、ひび割れが走り、角はすり減りっていた。何度も読み返されたのだろうページは手垢で汚れていた。それでもなお、ただの紙の束ではなく時代を越えて語り続ける何かを秘めているかのようだった。

 ナミが400年前の日誌を前に、期待に胸を躍らせながらページをめくる。そこには確かに“空島”と“空の海”の存在について書かれていた。

 

「ロビンとマリーが言っていた通りだ‼」

「それにこの時代じゃ、“空島”があって当たり前のように書いてあるぞ!」

 

 その記述に、ルフィとウソップは興奮し大笑いし、チョッパーに至っては驚きのあまり声も出せなくなっていた。

 ナミはそのまま読み進めていると、覚えのある言葉を見つけた。

 

『海円歴1120年 6月24日

メリアの少年、シャルルがウェイバーを分解してしまった。1台しかないのになんてことを!と船員たちが叱ったが、彼は次の日には元通りに組み立てなおし、自分たちでも作成可能な文明レベルの設計図まで書き起こした。これには技師たちも驚いた。メリアは総じて知能が高いと聞いていたが、このレベルが平均的な知能水準であるのなら、彼らはだれであれ、王宮の文官になれるのではなかろうか?』

 

「メリアの少年…?」

「なんだねーちゃん、メリアについて知ってんのか?」

「そこにいるマリーがメリアよ。前にノーランドのお話にメリアが出てくるって聞いてから気になってるの」

「おっ!そっちのねーちゃんはメリアか!ならちょうどいい、見てもらいたいもんがあるんだ」

 

 そういって、クリケットは小さな巾着袋の中から、宝石のようなものを取り出した。

 まるで翡翠のようなその結晶は花の蕾が欠けたかのような形をしており、時の流れを閉じ込めたかのように、ひっそりとした深緑の輝きを放っていた。その滑らかな表面は光を柔らかく受け止め、静かな波紋のように淡い輝きを宿している。中央の奥深い部分には、太陽の輝きを切り取って閉じ込めたかのような優しい光の揺らぎが見え、鉱石とは思えぬほどの生命感を湛えていた。

 

「すっごい!何この宝石!」

「ノーランドの航海日誌と一緒に仕舞われてた宝石だ。実際には宝石じゃなくて、植物らしいがな」

「マリー、これ知ってる?」

「故郷ではよく見かけました。国の外で見るのは初めてです」

「やっぱり知ってたか。こいつは灯花(あかりばな)っつってな、メリアが作る植物の一種らしい。ノーランドの日誌によれば、なんでもこいつはメリアにとっては本みたいなものだってよ」

「植物で、本!?この宝石が!?」

 

 思わず前のめりになって灯花(あかりばな)を眺めるナミ。どこからどう見ても美しい宝石でしかない。植物のようにも、何かが書かれているようにも見えず、訝しんで眉を顰める。

 

「これは、メリアが体に生えた花の花粉で植物と交配した際に生まれる特殊な植物です。わたくし達は生体波動…簡単に言えば、電磁波を利用してこれに情報を書き込んで、映像や写真といった記録を残すのです。」

「へぇ~。映像電伝虫みたいなもんか?」

「いいえ、その花はあくまで記録するだけ。メリア本人が見たものを書き込むだけのアルバムと言ったほうが正解でしょう。」

「じゃあクロユリさんなら、この花から当時の事がわかるのかしら」

「その可能性はあるでしょうね。クリケット、その花を貸していただいて構いませんか?」

「おう。そのために出してきたんだ」

 

 マリーはクリケットから灯花(あかりばな)を預かり、目を瞑って数秒触れる。すると、マリーは一言「ふむ」と納得したようにうなずき、ロビンたちのほうへ向き直った。

 

「当時の記録はほぼ残っていませんね。花が欠けたことで、中に書かれていた記録が破損したのでしょう」

「な~んだ、がっかり」

 

 ナミはがっくりと肩を落とす。ロビンも期待していたようで、普段より目線を下げているのが見て取れる。その様子を見たマリーが「ですが」と話を続ける。

 

「一つだけ残っている写真がありますね。どこかの遺跡で撮った写真のようですが…」

「ほんと!どんな場所!?」

「口で説明するには何とも…クリケット、ここに画材はありますか?描いたほうがわかりやすいかと」

「鉛筆や普通のインクでよければ置いてるぜ。絵具とか洒落たもんはねェがよ」

「十分です」

 

 鉛筆とペンとインクを受け取ると、マリーはカリカリと手早くスケッチブックに絵を描いていく。その絵はとても精巧で、鉛筆による下書きの時点で、大体の形が見て取れた。

 清書でペンを入れれば、まるで白黒写真かのように正確なスケッチが出来上がった。黒インクの線だけで描かれた世界は、まるで光と影だけで紡がれた物語のようだった。

 白い紙の上に、黒一色の線が紡ぎ出した風景。その中には柔らかさも、鋭さも、空気の流れさえ感じさせる躍動感がある。指先でなぞるわけでもないのに、そこに描かれた質感が伝わってくる気がした。

 

 この島によく似た森の中。

 見たこともない金属質の遺跡群と巨大な鐘。

 それらを背景に笑いあう、二人の男性。

 

 過ぎし日の情景がそこにあった。

 

「すごいわね…。ペンだけで、ここまで繊細な絵が描けるなんて……」

「絵が上手いなんて、流石だぜ~マリーちゅわ~ん♡」

「長鼻君の絵と同じくらい上手いんじゃない?」

「これは負けられねぇな!」

「マリー!これが記録にあった写真なの?」

「はい。これを記録したメリアが見た、実際の光景です。ほかにも、いくつか名前が残ってまして…」

 

 マリーはペンを置いてみんなに向き直り、スケッチに書かれた男性を指さして「こちらの刺青の入った方がカルガラ。栗のような頭の方がノーランドです」と話した。

 

「そして驚いたのですが、この後ろの遺跡や鐘が黄金に輝いていました」

「ほんと~か!?」

「はい、船長。ここに金色の絵の具があれば、この遺跡全体を金色に塗っていました」

「黄金はほんとにあるのね!!これだけあれば…ウフフフフ…」

「ナミが見たことねぇほど笑顔だ…!」

「ありがとうございました、クリケット。こちらはお返しします」

「いいや、これはねーちゃんが持って行ってくれ。メリアしか読めねぇんなら、おれが持ってても仕方ねぇしな」

 

 黄金郷の存在が実在のものと思えてきたのか、ナミが見たこともないような笑顔で笑い声をあげている。

 ルフィはこの場所に行きたいという思いが強くなったのか、「おっさん!空島の行き方、早く教えてくれよ!」と前のめりになって問い詰めている。

 

「じゃあ説明してやっから、外に出るぞ」

 

 そうしてクリケットはルフィ達に説明した。

 真昼が夜になる現象の原因、気流を生まず雨を降らすこともない、何千何万年も浮遊している雲の化石、“積帝雲”。空島があるとしたそこにしかないという。

 その積帝雲と“突きあがる海流(ノックアップストリーム)”が重なるその時。海流に乗って空にあがれば、積帝雲の上にある空島に辿り着ける。

 死と隣り合わせどころではない無茶苦茶な方法に竦み上がるナミとウソップだが、猿山連合軍が船の強化をしてくれるというので逃げ場がなくなった。

 空島を指す記録指針が別の島を指さないか不安だったが、幸運にも海流と雲が重なる日が明日だという。

 その夜、クリケットの家で、空島への冒険の前夜祭としてサンマのフルコースの宴をしたのだった。

 

「いや今日はなんて酒のうめェ日だ!」

「さァ、食え食え、まだまだ続くぞサンマのフルコースは!」

 

 ショウジョウが大量に捕獲したサンマは、サンジによってさまざまな料理へと早変わりし、みんなが舌鼓を打っていた。

 マリーもサンジ特製のサンマのお出汁スープを楽しんでいた。

 宴の騒がしい様子を眺めながら、ロビンはノーランドの航海日誌に目を通している。

 

「髑髏の右目に黄金を見た」

「黄金!?」

 

 クリケットの言葉に、ナミが目を輝かせた。心なしか、チャリーン!と効果音が鳴った気がする。

 

「涙でにじんだその文が、ノーランドが書いた最後の文章……その日ノーランドは処刑された。そこの嬢ちゃんのおかげで黄金郷の存在は分かったが……」

 

 言葉を区切り、酒をあおるクリケット。そこに皆の目が集まる。酒で赤らんだその顔には、悲しみとも期待ともつかない表情が浮かんでいた。

 

「髑髏の右目だァ!?コイツが示すのはかつてあった都市の名か、それとも己の死の暗示か……後に続く空白のページは何も語らねェ」

「だからおれ達ァ潜るのさァ!!」

「夢を見るのさ海底に!!」

「そうだぜウキキィ!!」

「ウォーホー!!」

「おれ達ァ飛ぶぞー!!」

「空へ飛ぶぞー!!」

「おーーーー‼」

 

その後しばらく、クリケットによるノーランドの航海日誌自慢が始まった。片手で日誌のページを開き、それを掲げて演説のように語る。その中にはジャヤでの出来事の他にも、メリアの少年との交流についても教えてくれた。

 

「『海円歴1120年 1月15日

大海原に萌ゆる巨大な森、ミクトラン島に上陸。聳え立つ木々は天まで届き、幹は海底まで伸びていた。森の住人から道を案内してもらい、なんとか毒の森と熱波の吹き荒れる草原を踏破した我々は、新しい人類を見つけた。植物の特徴を持ち光合成を可能とし、優れた知性も持つメリアという種族だ。彼らの体に咲く花から採れる蜜は、塗れば傷に対して治癒の作用を持ち、服用すれば様々な病気に効くという万能薬のようなものだった。是非にと航海に勧誘したところ、一人の少年が手を上げた。

 私たちはシャルルという少年を新たな仲間に加えた。』

 

 

『海円歴1120年 1月16日

ミクトラン島で過ごして一日、補給が済んだためその日のうちに出港した。その際に、友好の証として、彼らの国に残る国宝を見せてもらった。

 彼らの島で見せてもらった国宝は、まさに歴史の奇跡と言っていいものだった。彼らとの約束によりこの日誌には残さないが、その記憶は色あせることはないだろう』」

「うおースッゲー!いったいどんな宝なんだろーな!!」

「国宝っていうくらいだから、歴史ある王冠とか!?いつかそんなの見つけてみてーなぁ!」

「歴史の奇跡…興味深いわね」

「それについての記録は何も残ってない!なんでも、そこに住むメリアたちに「絶対口外しないこと」を条件に見せてもらったようでな…だが、おそらくは宝石だ。この後に宝石について感想を述べているところがあるんだが、その比較としてこのメリアの宝を上げている。

 

『海円歴1121年 5月23日

 

 海賊を撃退し相手の船を検めたところ、非常に大きなイエローダイヤモンドを持っていた。この深く穏やかな蜂蜜色の輝きを見ると、ミクトラン島の宝を思い出す。あの宝をぜひ国王に見せてみたいが、あの島からは動かせないだろう。いつか、メリアの国との国交が開かれるのを待つしかない』

 

…ってな感じでな。島から動かせねぇことから、おれはデッケェ宝石じゃねえかと思ってる。船に乗せれねぇレベルの、規格外なサイズのな」

「もしそんな宝石があったら一体何億、いえ、何兆ベリーになるのかしら!」

「クロユリさんはその国宝について知ってるのかしら?」

「あはは…知ってますけど、アレについては口外禁止なので…島にたどり着いたときに一緒に見ましょう」

「ねぇマリー?それって島のどこにあるの?ちょっとくらい教えてよ」

「島の神殿に置かれてますけど…盗ったらダメですよ!?盗ったら絶対にお父様が怒髪天を衝いて、メリー号ごとぺったんこにされますからね!?」

「ん?ねーちゃんのオヤジさん、神殿とやらの護衛か何かか?」

 

 メリアの国での出来事が書かれたシーンを自慢するクリケット。その話を聞いたルフィがメリアの国宝に興味を持ちわくわくとした様子でウソップに話しかける。ウソップも興奮冷めやらない様子で、想像したお宝について話す。ロビンは、歴史の奇跡、というワードに惹かれたのか、興味深そうに前のめりになって話に聞き入った。

 ナミはぜひとも欲しいのかマリーに場所を問いかけるが、マリーはナミが国宝を盗む場面でも想像したのか、顔を青ざめながらナミの肩を揺らす。図星だったのか、マリーから目をそらすナミ。

 その話を聞いて、日誌を掲げながら自慢していたクリケットがマリーに声をかけた。

 

「私のお父様は、メリアの国の国王ですよ。国宝のある所に神殿を立てて、祭りを催すよう決めたのもお父様です。なので、もしアレが盗まれることになったら…その怒り様は考えたくないですね」

「「「え?」」」

 

 マリーの返答に、空気が凍る。踊っていたチョッパーやサンジは硬直し、酒を飲んでいたゾロは噎せ返った。ナミとロビンは目を見開き、ウソップは言葉を失う。クリケットたちは素っ頓狂な声を上げた。なお、ルフィだけは「へー」と通常運転であった。

 

「マリー!あんた、メリアの王族だったの!?」

「ええ。教えたほうが良かったですか?」

「あたりまえでしょ!知っていれば、送り返した時に謝礼金貰えるかもとか考えるじゃない!」

「「結局金かよ!?」」

「…まあ、お父様なら謝礼金ぐらいいくらでも出すと思いますよ。宝石とかの現物で」

「ほんと!?嘘じゃないわよね!」

「今はある程度国交があるはずですので、現金での支給も出来るかも…いやあの人の事だし、すぐ使って残っていないかな…?」

「それでいいのか国王…」

「…いっそ国宝と交換っていうのは?」

「そんなこと言ったら、私のほうが切り捨てられますね。姫は生殖活動で増やせますけど、国宝は増やせないので」

「冷徹な国王ね」

「まあわたくしも、国宝と自分の命であれば国宝を選ぶので、文句はありませんが」

「それでいいのかよっ!?」

 

 マリーが王族と知り、ナミが声を上げる。その理由に、クリケットたちがツッコミを入れる。

 ナミはマリーと国宝の交換を考えてみる。しかし、マリーは自分の父親が自分よりも国宝を優先するということを予想し、ナミを止める。その言葉にロビンが反応し、ウソップが驚いた。

 

「あの宝は、わたくしたちメリアが唯一執着するものと言っても過言ではありません。あれを狙う者は、島中のメリアを敵に回すと思ってください」

「ううぅっ……ざんねん…」

「他の鉱石類であればきっといくらでも貰えるので、それで勘弁してください…」

「絶対よ!ダイヤとか黄金とか絶対貰うんだから!」

「ふふ、いつかきっと行きましょ。私もその国宝見てみたいもの」

 

 ナミがメリアの国宝を諦めてしょんぼりとしているのを見て、マリーが慰める。そんな二人の様子を眺めながら、ロビンはクスクス微笑んでいた。

 そんなこんなで、クリケットのノーランド自慢はしばらく続いていたのだが、海底から引き揚げた黄金のお披露目となったところで、クリケットたちは重大な過ちに気が付いた。

 

「しまったァ!!」

「何だ!?どうした!!」

「こりゃまずい。おいお前ら、南の森へ行け!!」

 

 “突きあがる海流(ノックアップストリーム)”は島の南にまっすぐ進む必要があるが、ここは“偉大なる航路(グランドライン)”。一度海に出てしまえば、海上で方角を知る術などない。

 そのために、いつでも必ず南を向く習性をもつ、サウスバードという鳥が必要だと教えられた。

 この鳥を一羽だけでも捕まえるために、麦わらの一味は深夜の森に足を踏み入れることになった。夜の森で鳴き声を頼りに探し回ることとなり、3方向に分かれることとなった。マリーはサンジ、ナミ、ウソップとともに行動することとなった。

 

「大丈夫!何が出ようとナミさんとマリーちゃんは俺が守るぜ!」

「サンジ君、おれは!?」

「てめぇは知るか‼ウジウジすんな!」

「とにかく早く鳥を捕まえて森を出ましょ」

 

 鳴き声を頼りに森を探すサンジたち。途中、鳥をおびき寄せるために鳴き真似をしていたウソップに惑わされるという珍事がありつつも、森の中を進む中、トラブルは起きた。

 

「お!ナミ。お前いいもんつけてんな!どこで捕った?」

「?なに?………………‼」

 

 何かを見つけたウソップが、ナミに声をかける。言われる心当たりがないナミは、ウソップの視線を追った。

 その先のナミの腰には、人の手のひらほどの大きな蜘蛛がわさわさと這っていた。驚きのあまりナミは「いやああああ~~~~~‼」と走り出し、蜘蛛を払い落とす。それを見たウソップが放り出された蜘蛛を「お~よしよし怖かったな~」と拾い上げた。

 

「何だよ、ただのクモだろ」

「大人しい蜘蛛じゃないですか。そんなに怖がらなくても」

「クモだからやなのよバカッ!投げてそれどっかに!」

「離れろウソップ!そいつはきっと毒グモだ!」

 

 サンジがそういった瞬間、また一匹のクモがボト…と木の上から降ってくる。クモを恐れて思わず悲鳴を上げるサンジとナミ。ウソップは蜘蛛が平気らしく、「“クモのケンカ”とか昔やったな~」と手の上でクモを遊ばせている。マリーも虫は特に苦手ではないらしく、ドレスを上ってくるクモをそのままにさせていた。

 

「はい、はい…いえ、わたくしたちはここに住むサウスバードさんにお願いがありまして…」

「おっ、マリーはクモ大丈夫なのか?」

「故郷の森には虫がたくさんいましたし、慣れていますよ。ちょうど今、ここのクモからサウスバードの場所を聞き出せないかと試していたところです」

「あれ?動物とのテレパシーは受信限定なんじゃないのか?」

「虫だけは別なんですよね。簡単な内容であれば会話になります。聞いてもなかなか教えてくれませんが…」

「マリーちゃんすげぇな…おれはそういう気味悪い系(・・・・・)の虫はもうアウトだ!」

「私も‼絶対イヤ‼大嫌い‼」

 

 気味の悪い系の虫はムリ‼とウソップとマリーから距離をとるナミとサンジ。その様子を、二人はきょとんとした顔で眺めていた。

 というのも。

 

「へェ…でもお前らそこにいる蛾とかムカデは平気なのか?」

「「‼?」」

 

 二人のすぐ後ろに、蛾とムカデの大群が(ひし)めき合っていたため、「その他の虫(それ)はいいの?」と思っていたためである。

 

 ひとしきり逃げ回った後、今度は本物の鳴き声が「ジョ~~~~。ジョ~~~~」と聞こえてきた。

 

「いるぞ!どこからだ!?」

「!?…待て、何か別の音も聞こえるぞ」

 

鳴き声が聞こえたのち、ゴロゴロゴロ…と地面の上で硬いものが転がるような音が聞こえてくる。耳を澄ませてみると、その音は上のほうから起こっていた。

 

「……何だ岩か!?転がってくる!」

「フンコロガシの糞か!?」

「いいえ!巨大テントウ虫です!」

「でけぇ!?」

 

 巨大なテントウムシが落石?トラップとなって襲い掛かってきていた。ナミはサンジを盾にして防いでおり、サンジは転がってくるテントウムシを蹴り飛ばすことで難を逃れていた。

 

「マリーちゃん!君も俺の後ろに!」

「ご心配なく!このくらいなら…!」

 

 マリーは転がってきたテントウムシの一匹を受け止め、そのまま盾のように振り回していた。なお、ウソップはそんなマリーの後ろで隠れている。

 

「いやー!マリー、足のほうをこっちに向けないで気持ち悪い!」

「背中側は掴みづらいのでお断りします!というか、羽の部分を持つとテントウムシが痛いでしょう!」

「そんなことどうでもいいわよー!」

「くぉらウソップ!マリーちゃんを盾にしてるんじゃねぇ!」

「ムチャいうな!おまえじゃねェんだから、こんなでかい虫蹴とばせるかァ!」

 

なおその後も巨大ナメクジに襲われたりしつつも、サウスバードは最後に調子乗って姿を現したところをロビンの能力によって捕まったのだった。

 

 

 サウスバードを捕まえてメリー号に戻ってきたルフィたちは、満身創痍の猿山連合軍に瞠目した。

 彼らはズタボロにされており、金塊も奪われ、改造中だったメリー号も破壊されている。

 金塊を奪われたことを歯牙にもかけず、ルフィたちを必ず空に送り届けるというクリケット。

 壊れた板の破片にベラミーのマークを見つけたルフィは、海岸線に沿ってゆけばモックタウンにつくことをロビンに確認を取り、「朝までには戻る」と宣言した。

 

「三時間よ!ルフィ!それ以上出航時間を延ばしたら、空島へのチャンスをあんたが逃すことになるのよ!」

「分かった」

 

 ルフィは全速力で走り出した。

 その様子を呆れながらと同時に泣きそうになりながら眺めていたクリケットは、傷をチョッパーに治療してもらいながら、船の修繕に取り掛かった。

 

 

「何やってんのよ!あいつったらもーーー!!朝よもう朝!!約束の時間から46分オーバー!海流に乗れなくなるわよ!?だいたい帰りは金塊持ってくるんだから重くて遅くなるでしょ!?でもそういう計算できてないのよあいつの頭では!!」

「いや、最初っから時間の計算なんてしてねェと思うぞ」

「ああ100%な」

「町でやられちゃったんじゃないかな……」

「負けたら時間に間に合っても許さないわ」

「どうなんだよお前は…」

 

 出航予定時刻をとうに過ぎ、麦わらの一味と猿山連合軍は今か今かとルフィの帰りを待ち侘びていた。

 ナミがルフィへの怒りを募らせていると、森から「おーーーい」という声が響いた。

 

「あいつだ……!良かった、帰ってきたぞ!!」

「やったぞ~~~~!!」

「ルフィ、急げ! 出航時間過ぎてんぞォ!」

これ(・・)見ろ!!ヘラクレス~~~~!!」

「「「何しとったんじゃーーーーーー!!!」」」

 

ハァハァと息を切らしながら目的と何も関係ないヘラクレスを見せびらかしたルフィに、麦わらの一味は唖然としたのだった。

 

「かえって来て早々だが、見ろ!!"GM号フライングモデル"だ!!」

「飛べそ~~~~~~!!」

「だろう!?」

 

帰ってきたルフィは、フライングモデルとなったメリー号に大はしゃぎした

羊と鶏の相の子のようなデザインだが、3バカのセンス的には大正解らしい。ナミからしてみれば不安でしかないデザインであり、ゾロが「鶏よりハトのほうがまだ飛べそう」というが、ナミは「それ以前の問題でしょ!」と怒鳴った。

 その様子を、マリーとロビンの二人は「あらあら」と、微笑ましそうに眺めていた。

 

出港予定時刻はとうに過ぎているため、急いで船に乗るようにマシラとショウジョウが麦わらの一味に声をかける。一人クリケットと話していたルフィがウソップの声掛けで船に駆け込む。ひとり海岸に残るクリケットが猿山連合軍に「ヘマやらかすんじゃねェぞ!例え何が起きようと!こいつらのために全力を尽くせ!」と呼びかけた。

 全員が船に乗り込むと、クリケットはルフィに声をかけた。

 

「小僧!!おれァここでお別れだ!ひとつだけ、これだけは間違いねェことだ……!」

「!?」

「黄金卿も空島も!過去誰ひとり、無いと証明できた奴はいねェ!!」

「……!うん!!」

「バカげた理屈だと人は笑うだろうが結構じゃねェか!!それでこそ”ロマン”だ!!」

「ロマンか!」

「そうだ!!金を……ありがとうよ……!おめェら空から落ちてくるんじゃねェぞ!!」

「しししし!」

「出航~~~~!!」

 

 メリ―号と猿山連合軍の船が出航し、麦わらの一味はジャヤを後にした。

 

「じゃあなおっさん!!」

「いろいろありがとうクリケットさん!!」

「おやっさん黄金卿はきっとあるぜ!!」

「おっさん無茶すんなよォ!!」

「余計なお世話だァ!!」

 

 

 ジャヤを出航してから、ルフィはサウスバードと遊んでいた。いや、サウスバード()遊んでいたというのが正しい。

 無理やり横に向かせていたサウスバードの顔からパッと手を離した途端、サウスバードは「かくーん」と再び正確に南を示した。

 コンパスのような反応にルフィが可笑しそうに笑うのを見て、マリーが苦言を呈する。

 

「こら、ルフィさん。あんまりサウスバードを揶揄わないでください」

「いやー変わった鳥もいるもんだな」

「ホントに南しか向かねェんだこいつ!コンパスみてェだな、面白ェ~」

「ジョ~~~ジョジョジョジョジョジョ~~~‼」

「何てったんだ?」

「南じゃない方向を向いてお前たちを困らせてやるって」

「うっはっは、やってみろ!!」

 

 サウスバードはくるっと北を向いた。

 しかし、すぐにそわそわイライラしはじめ冷や汗らしきものを流すと、南へとクチバシを向けてしまう。

 

「あっはっはっはっは!!」

「南向かないと落ちつかねェんだ!!」

「ルフィさん、ウソップさん?いい加減にしないと、サウスバードの代わりに怒りますよ?」

「ジョジョジョ~~~~~!!」

「サウスバードがマリーに「やっちまえ~~!花の人~」って言ってるぞ!」

「そうですか…仕方ありません。ルフィさん、そこに正座です」

「やべっ!マリーが怒った!」

「逃がしません!」

 

 マリーからの説教を察知したルフィが、慌ててサウスバードから離れようとするが、時すでに遅し。いつの間にか肩に手を置かれて捕まっており、そのままゴムの体を利用して本人の手で体をグルグル巻きにされていた。

 

「ルフィさん?わたくし、これからお世話になる相手を嘲笑するような男を、船長に選んだ覚えはありませんことよ」

「す、すぴ、すびばせん…」

「ウソップさんも、これからお世話になるんですから、餌の一つも用意しなかったんですか?」

「面目ない…」

「なんじゃこりゃ」

「ルフィさんの体質を生かした、人間知恵の輪です。ゾロさんはほどくのに挑戦しますか?」

「いや、お前が自分でほどけ」

「自分で作ったパズルを解くほど、つまらないこともないのですが…」

 

 そんなこんなで、海流の場所に向かい始めて三時間が過ぎた。

 

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