花人間が麦わらの一味に加入したようです   作:絹毛鼠

6 / 16
リリィ・スカイ(空島編1)

現在午前10時。船を進めていると、予定より一時間近く早く、南西より夜──積帝雲──が現れた。

 急ぎ“突きあがる海流(ノックアップストリーム)”を探し始める猿山連合軍たち。ショウジョウとウータンダイバーズにより、10時の方向に爆発の兆候を見つけると、すぐさまナミがそちらへ舵を取る。すると突然の高波がメリー号を襲った。

 

「航海士さん! 記録指針はどう?」

「……! ずっとあの雲を指してる!」

 

 赤い橋のさす方向に視線を向ける麦わらの一味。ルフィはこの先に見たこともない冒険が待っているのだとわくわくしながら、雲の向こうを眺めていた。

 

「流れに乗れ!!逆らわずに中心まで行きゃなる様になる!!」

「あわ、あわわわわわ……!!」

「呑み込まれるなんて聞いてないわよォ!!」

「大丈夫だ!レディ達はおれが守る!!」

「こんな大渦初めて見たわ」

「やめだァ!!やめやめ!!引き返そう帰らせてくれ!!」

「観念しろウソップ、手遅れだ。一人すでに……ノッちまってる」

「行くぞ~~~空島~~~~!!」

 

 渦に乗って進んでいけば、海王類が渦潮に引きずり込まれていく様子を目の当たりにする。その光景に、ナミやウソップ、チョッパーにマリーは言葉を失った。

 恐怖のままに4人が大騒ぎして悲鳴を上げるも、あっというまに夜が来てメリー号はどんどん渦に吸い寄せられていった。

 

「引き返そうルフィ!!今ならまだ間に合う!見りゃ分かるだろ!?この渦だけで十分死んじまうんだよ!空島なんて夢のまた夢だ!」

「夢のまた夢……‼そうだよな」

「そうよルフィ! やっぱり私もムリだと思うわ!!」

「さ、流石にこれは無謀というやつでは…!?深海に沈んでは生きてられません…!」

「夢のまた夢の島!! こんな大冒険、逃したら一生後悔するぞ!!」

 

 4人が悲鳴を上げて、空島行きを断念しようとルフィを説得しようとするも、“夢のまた夢”という言葉にロマンを感じたルフィがさらにやる気を出してしまった様子を見て、(((た……楽しそ~~~~………‼)))と悲しむ心がチョッパーを除いて重なった。なおチョッパーはそんなルフィの言葉に惹かれてしまったらしい。

 大渦に飲まれようとした瞬間、突如として大渦が消滅し、唖然とする一味。ナミがその様子を分析していると、「待ァてェ~~~!!」という男の大声が響いた。

 

「ゼハハハハ! 追いついたぞ麦わらのルフィ!!」

「あれはモックタウンにいた……!!」

「誰だ?」

 

 丸太船のような見た目の船に、一味は首を傾げる。ナミがモックタウンにいたと言うので、おそらく探索中に会ったのだろう。

 

「てめェの一億の首を貰いにきた!!観念しろやァ!!」

「おれの首!?“一億”ってなんだ」

「やはり知らねェのか……!おめェの首にゃ一億ベリーの賞金が懸かってんだよ!! そして”海賊狩りのゾロ”‼テメェにゃ六千万ベリー!!おまけにメリアまで乗ってるたぁ、幸先いいじゃねぇか!」

「本当だ……!新しい手配書だ!!ゾロ‼賞金首になってるぞ!!」

 

 双眼鏡を覗き、ウソップが叫ぶ。

 そしてサンジは自分の名前が無いと知ると、引き攣った顔でウソップに尋ねる。

 

「何ィ!?おい待て!おれは!?おれのもあるだろ!?」

「ねえ」

「よく見ろよ!!」

「ねえ」

「そうか、アラバスタの件で額が跳ね上がったんだわ……!」

 

 ルフィは「聞いたかおれ一億だ!」と喜び、ゾロは「6千万か不満だぜ」とヘラヘラ笑った。そんな様子に、マリーは口に手を当てて驚いていた。

 

「ゾロさんも船長もびっくりするくらい悪い人だったのですね!驚きです!」

「ちょっとマリー!実力者って言い換えて!アラバスタでは悪いことしてないんだから!」

 

 謎の人物たちの乗った船がいよいよ近づいた瞬間、ゴゴゴ……と音を立てて海が丘のように盛り上がった。とうとう“突きあがる海流(ノックアップストリーム)”によって海が吹き飛ぶと察知した一味は各々で船体にしがみつき、悲鳴とともにメリー号は空へと放り出された。

 

「水柱の上を船が垂直に走ってるぞ‼」

「うほ~~~‼面白ェ~~~‼どういう原理だァ!?よーし!これで空まで行けるぞ~~~っ!」

「行けェ!メリ~~~~!!」

「ちょっと待った……!そうウマイ話でもなさそうだぞ。」

「どうした!?」

「船体が浮き始めてる!」

「え!?」

「このままじゃハジキ飛ばされるのがオチだぞ!!」

「……そそ!そんなこと言ったってお前、どうしろってんだよ!おれ達ァしがみつくことで精いっぱいだ!」

「ああっ‼何だ…あれ‼」

 

 混乱の中、チョッパーが指さしたのは、先ほど渦に飲み込まれた海王類だった。その他にも海底にあった船の残骸なども落ちてきた。

 爆発の勢いに乗って上った以上、自力ではどうにもならないと。これは災害であり、このまま海にたたきつけられるのがオチだと悲観した。

 もはやこれまでとウソップが悲鳴を上げた瞬間、ナミが「帆をはって!!今すぐ!!」と指示した。

 

「これは海よ!ただの水柱なんかじゃない!立ち上る“海流”なの!そして下から吹く風は地熱と蒸気の爆発によって生まれた上昇気流!」

「……?」

「? ??」

「相手が風と海なら航海してみせる!この船の航海士は誰!?」

「「「「………!!」」」」

「んナミさんですっっ!!オオォ野郎共!すぐにナミさんの言うとおりに!」

「オォ!!」

 

 ナミの問いを受け、勢いよくサンジが答える。それを皮切りに、男たちはナミの指示通りにドタバタと船を動かす。あわや船が水から離れた瞬間、メリー号は下からの上昇気流を受けて、ニワトリの翼を羽ばたかせた。

 

「すげェ!!船が空を飛んだ!!」

「まじか!!」

「ウオオオオ」

「やった」

「ナミ、ありがとうございます!」

「へェ」

「ナミさん素敵だー♡ そして好きだー♡」

 

 ナミのほっとした様子に、マリーが肩を貸す。この90度傾いた船ではバランスがとりづらいだろうと、そのまま座るように促した。

 

「ありがとうマリー、安定したから大丈夫よ」

「いえ、安定している今、呼吸を整えるべきです。皆さんも!積帝雲に突っ込む前に息を吸い込んでください!」

「どういうことだ、マリー!?」

 

 睨みつけるように帝積雲を見ているマリーに、ウソップが問いかける。船の柵に捕まっているルフィやゾロを安定している甲板と船室の境目に呼び戻しながら、マリーは自分の想像した積帝雲について語った。

 

「積帝雲が空に浮かんでいる海であるとするならば、その密度も海に近しいと考えるべきです。端的に言って、おそらく積帝雲の中は呼吸ができないかと」

「「「ええ~~~~‼」」」

「おい、もうすぐ雲に突っ込むぞ!」

「ええ、ですから今すぐ、なるべく多く息を吸って!」

「もっと早くに言ってくれ~~~!」

「すみません、今気付きました」

「積帝雲に突っ込むぞォ~~~~!!うおおおおォ~~~~!!」

 

 ルフィの期待に満ちた大声の中、メリー号は雲の中へと消えていった。

マリーが想像した通り、雲の中では水中のように呼吸ができなかった。

海の中から浮き上がろうとする船と逆に流れる雲の流れと、刻一刻と失われていく空気に苦しみながら、必死に船にしがみついた。

 マリーも雲の流れに抗いながら、体重の軽いチョッパーとナミが流されないように必死に手をつないでいた。

 無限にも一瞬にも思える時間が過ぎたのち、船は翼を壊しながら浮上した。

マリーは咳き込む者たちの背をさすりながら、周りの風景に目を奪われた。そして、真っ先に目を覚ましたルフィも同じように目を輝かせた。

 

「なんと…これほどまでに美しいとは…」

「おいみんな見てみろよ! 船の外!!」

 

 そこに広がっていたのは、雪山の頂上とも違う真っ白な世界だった。

 雲の海に雲の滝。方向感覚が狂いそうなほどに真っ白く広大な雲海に、メリー号はプカプカと浮いていた。

 

「雲の上……!?なんで乗ってんの……!?」

「そりゃ乗るだろ雲だもんよ」

「「「イヤ乗れねェよっ!!」」」

「空に浮かんでいる以上、単体だけで見るなら質量が空気以下のはず…雲は水滴と氷で出来てるはずだけど、氷に含まれる気体がよほど軽いのかしら…?それとも、どこかで上向きの揚力が働いている…?」

 

 “雲に上に船が乗る”というあり得ない光景に絶句するナミ。それに当然のように雲に乗れるというルフィにゾロたちがツッコミを入れる。そこから少し離れて、マリーは雲に乗れるということについて考察していた。ある意味、これはこれで現実逃避かもしれない。

 積帝雲に乗ることは出来たものの、ナミ曰く、記録指針(ログポース)はまだこの上を指しているらしい。どうやって上にのぼるか分からない中、海ならばとりあえず泳いでみようと息巻いたウソップが「海は海さ、はっはっはっはっはっ!!」と飛び込んでしまった。

 はしゃぐウソップ達をやれやれと思いながら傍観していたゾロやナミたちであったが、なかなか浮き上がってこないウソップにほかのメンバーにも不安が募っていった。

 

「思うんだけど…………、ここには海底なんてあるのかしら」

「「「まさか…!」」」

 

 ロビンの言う通り、考えてみればここはあくまで雲の上。底など無い雲海の世界。それを忘れて底へ底へと進んでしまったのであれば…

 

「まずいですね。そのまま海面に激突すれば、表面張力によって固くなった水によってバラバラになってしまいます」

「ウソップ~~~~~~‼」

 

 大慌てでルフィが雲海に手を伸ばす。出来るだけ腕を遠くに延ばすようロビンが言い、下は見えないから勘になると答えたルフィにロビンが大丈夫だと告げる。

伸びたルフィの腕にロビンが能力で目を咲かせ、落ちていくウソップを見つけると、ルフィの腕からさらに腕を咲かせてウソップを確保した。

 そのままウソップをルフィが全力で引き揚げると、巨大な魚やタコらしき生物までもが付いてきた。ナミとチョッパーが悲鳴を上げる中、冷静にタコと戦闘を始めるゾロ。しかし腕の一本を切り落とそうとしたところ、風船のようにパァン!と弾けてしまった。そのままメイン戦闘組の三人が2匹とも討伐したが、あまりにも奇妙な生物との遭遇に、依然として緊張は解けなかった。

 

「さて、妙な生物だぜ?こりゃ…魚類かどうかも疑わしい…」

「風船みてェだなあのタコは……」

「一応生物だろ、動いてた……」

「雲の中に生物がいるなんて…」

「海藻やプランクトンがいるようにはとても思えませんが…。生き物がいる以上、何かしらの食物連鎖はあるのでしょうね」

「やはりここは…雲というより海と考えたほうがよさそうね」

 

 撃退した魚たちについて談義している横で、ウソップが「ギャアアアアア」と叫び声をあげた。どうやらウソップのズボンの中に、小さな魚が入り込んでいたらしい。

 床でぴちぴちと跳ねている魚を、ロビンが拾い上げて観察する。ノーランドの日誌にあった奇妙な魚、海底のない空の海で生き残るために進化した空魚ではないかと。

 

「うおー!ロビン、見せてくれ!」

「ええどうぞ」

「すっげー!」

「うろこが羽毛みたいだし…肉食っぽい口も変…!」

 

 ロビンはそのまま空魚をルフィに渡し、ルフィはサンジに見せびらかしに行く。ナミはその魚の見た目と異様さを気味悪がった。

 気付けば、捕まっていた空魚はサンジによって料理されていた。

 

「ソテーにしてみた」

「こりゃうめェ!!」

「まだ検証中でしょ!!!」

 

 いつのまにかソテーになって帰ってきた空魚とともにルフィが戻ってきた。その様子にナミが怒声を上げるが、サンジとルフィに勧められいつのまにかナミも空魚に舌鼓をうっていた。

 

「マリーちゅわ~ん♡そちら、空魚の粗で取った澄まし汁だよ~♡」

「あら、ありがとうございます。わたくしは水だけで結構ですのに」

「いえいえ、女神たちに日々の食事でご奉仕するのはボクの役目ですので♡」

「ふふ、では遠慮なく。…うん、おいしいです」

「ありがたき幸せッ!!」

 

 サンジがマリー専用にと作った澄まし汁をくぴくぴと飲む。淡白な味わいだが、しっかりとしたうまみと風味がある一品に、マリーはほぅ、とため息を漏らす。食事に興味はないが、王族としてか舌は肥えているマリーでも、ここ数日でサンジの料理は気に入っていた。

 

 そうやって少しなごんでいた雰囲気の中で、周囲を偵察していたチョッパーがガタガタと震えながら、構えていた双眼鏡と取り落とした。

 船を見つけたようだが、その船はもういないらしい。「牛が四角く雲を走ってこっちに来るから、大変だ~~~!」と要領を得ないことを言い出すチョッパーにゾロが落ち着けと声を荒げる。

 何かと思いチョッパーと同じ方角を確認したサンジが、雲の上を走る人影を見つけた。船に乗りこんできた謎の男にサンジが誰何をするが、男は答えずに「排除する…」と敵意をむき出しにしてきた。

 

「やる気らしいな……」

「上等だ」

「なんだなんだ?」

 

 メイン戦闘組に男の対処を任せ、ナミとチョッパーは後ろに下がる。しかし3人は謎の男に迎撃を食らって地に伏せてしまった。

 3人が一気に倒されるという非常事態にナミやウソップが怯えだす。敵がバズーカを構えたその瞬間、空から大きな鳥のような生き物に乗った者が現れ「そこまでだァ!!」と襲撃者を追い払ってしまった。

 

「何!今度は誰!?」

「ウ~~~ム、吾輩空の騎士」

 

 甲冑を着た人物は自らを空の騎士と名乗り、襲撃者の過ぎ去った方角を見つめていた。チョッパーは空の騎士に素直にありがとうと礼を言い、ナミはメイン戦闘組の3人に声を荒げた。

 

「助けてくれてありがとう」

「ウム良い。やむを得ん。これはサービスだ」

「何なのよ一体、あいつは何者だったの!? それに何よあんた達だらしない! 三人がかりでやられちゃうなんて!」

「いやまったく……不甲斐ねェ」

「なんか身体が……うまく動かねェ」

「……きっと、空気が薄いせいですね」

 

 空の騎士曰く、ここは地上よりも7000メートルも上空の“白海”。さらにこの上層には地上から1万メートルも離れた“白々海”があるという。通常の青海人―地上の海に住むもの―では体がもたないらしいが…

 

「おっし! だんだん慣れてきた」

「そうだなさっきより大分楽になった」

「イヤイヤイヤイヤありえん」

 

 麦わらの一味は特に問題なさそうだった。

 

「それよりさっきの奴、海の上を走っていたのは何でなんだ?」

「まァまァ待て待て……質問は山ほどあるだろうが、まずビジネスの話をしようじゃないか。吾輩、フリーの傭兵である。ここは危険の多い海だ。空の戦いを知らぬ者ならさっきのようなゲリラに狙われ、空魚のエサになるのがオチだ。

1ホイッスル500万エクストルで助けてやろう」

 

……………?

 

「何言ってんだおっさん」

「ぬ!? バカな……格安であろうが! これ以上は1エクストルもまからんぞ! 吾輩とて生活がある!」

「エクストルというのはこちらでの通貨ですか?こちらのホイッスルを吹けば、空の騎士様を傭兵として雇えると?」

「……!! おぬしら……ハイウエストの頂きからここへ来たんじゃないのか? ならば島を一つ二つ通ったろう」

「だから何言ってんだおっさん」

「ちょっと待って!! 他にもこの空の海に来る方法があったの!? それに島が一つ二つって、空島はいくつもあるもんなの?」

 

 ナミの言葉に事情を察したらしい空の騎士は、驚いて身を乗り出しながら答えた。

 

「なんと!あのバケモノ海流に乗ってここへ!?まだそんな度胸の持ち主がおったか……」

「普通のルートじゃないんだ…やっぱり…」

「着いたからいいじゃねぇか」

「じっくり情報をかき集めてればもっと安全に……!!」

「ナミ、落ち着いてください。こうやってちゃんと着きましたし、おそらくジャヤではハイウエストとやらの情報は得られなかったでしょう」

 

 空の騎士によれば、他のルートでは必ず道中に犠牲者が出るらしい。100人で空を目指し、何人かが到達するかという賭け。ルフィたちの選んだ“突きあがる海流(ノックアップストリーム)”を選べば、全員死ぬか全員到達するかのどちらかになる。

 0か100かの賭けに勝ったルフィ達を空の騎士は眺め、その度胸と実力にプレゼントを投げてよこした。

 

「1ホイッスルとは一度この笛を鳴らすこと。さすれば吾輩天よりおぬしらを助けに参上する! 本来はそれで空の通貨500万エクストル頂戴するが、1ホイッスルおぬしらのプレゼントしよう! その笛でいつでも吾輩を呼ぶがよい!」

「待って!名前もまだ…」

「我が名は空の騎士ガン・フォール!!そして相棒のピエール!!言い忘れていたが我が相棒ピエールは鳥にしてウマウマの実の能力者!つまり翼を持った馬になる!! 即ち──」

 

大きな鳥の姿がゴゴゴ…と姿を変えていく。鳥の(あしゆび)は馬の蹄に、嘴のある顔から面長で毛の生えた顔に変わっていく。そして────!

 

「うそ……! 素敵……! ペガサス!?」

「そう!! ペガサス!!」

 

 ────その姿は、おとぎ話に出てくるような夢のような生物ではなく、水玉模様な変な生き物だった。がっかりにもほどがある。

 

(((いやァ微妙……)))

 

 そうして、一行はそのまま空の騎士を見送った。

 

「……結局何も教えてくれなかったわ」

「……そうだ……ホント……何も」

「これでフリ出しに戻ったぞ。どうやって上へ行くんだ?」

「よし、じゃあおっさん呼んで聞いてみよう」

 

 ホイッスルを吹こうとしたルフィを、慌ててナミとウソップが押さえつける。見れば、ナミのほうはルフィの首を絞めあげていた。

 

「ちょちょちょ!ちょっと待ってルフィ!これは緊急事態に助けてくれるやつでしょ!」

「またあの仮面つけた妙なやつが現れた時どうすんだよ!!」

「船長さん、事実上一度しか使えませんので、よく考えてから使ってください」

「コ……コ……コ……!」

 

3人でルフィの考えなしを止めていると、チョッパーが変な形の雲を見つけた。

まるで滝のように見えるその雲を目指して、一行は船を進める。

すると、その前には大きな雲が立ちはだかっていた。ルフィが試しに雲に向かってパンチを繰り出してみると、まるでクッションのようにパフン…とこぶしを弾いた。

 

「うおお!」

「見ろ!乗れた!沈まねェぞ!!ふかふかする、綿みてェだ!なんだコリャ、なんだコリャ!?楽しすぎだ~!」

 

 雲はまるで、お祭りのふわふわドームのように、ふかふかとルフィを受け止めた。その様子を見たチョッパーとウソップが後に続く。乗ってみた雲は、干したての布団より気持ちいいらしくルフィは眠気を誘われているようだった。

 そんな3人の様子を、キラキラした目でマリーが見ていることに気づいたロビンが声をかける。

 

「植物さんも行ってみたら?」

「わたくしですか?今はそんなことをする時間は……いえ、上から見れば通れるルートが分かるかも……気持ちよさそ、ではなく、ルートの確保のために行ってまいります」

「うふふ、楽しそうね」

 

 マリーは雲に突き刺さりそうなヒールを脱ぎ、手すりから飛んで雲の上に飛びのった。シルクともまた違う、肌触りのいい布のような感触にマリーは夢中になって飛び跳ねた。途中でハッと目的を思い出し、何事もなかったかのようにモフモフと揺れる足場に翻弄されつつも、少しづつ3人のところに向かった

 

「おっ、マリーも来たのか!すんげぇぞ!」

「見てみろよ、あっちに何かあるぜ!」

「ありがとうございます。あれは…」

 

 ルフィとウソップに歓迎され、そのまま周りを見渡す。先に見つけていたらしいウソップに促され、滝のある方角を眺めてみる。そこにみえたのは。

 

「門?」

「はい!滝のような雲の下に、トゲトゲした大きな門がありました」

「この先も全部歩ける雲ってわけじゃなかったからよ。マリーに道順覚えてもらったから、まずそこまで行ってみないか?」

「でかしたわ、マリー、ウソップ!」

 

 マリーの指示のもと、歩ける雲の合間を縫うようにメリー号を進める。雲の迷路のような場所を抜けると、“天国の門”と書かれた建物が現れた。縁起でもないとウソップが怯えるが、戦闘3人組は飄々としたものだった。

 メリー号が門を通ろうとしたとき、建物からカメラを構えた老婆が出てきた。

 

「観光かい?それとも戦争かい?どっちでも構わない。上層に行くんなら入国料に一人十億エクストルおいていきなさい。それが法律」

 

 そう言ってパシャパシャと写真を撮ってくるのも気にならないほどに、ルフィは老婆の背に生えた翼に、ナミとウソップは提示された金額に気を取られていた。

 

「天使だ!天使ってあんななのか……梅干しみてェだ」

「十億エクストルってベリーだといくらなんだ?」

「エクストルは持ってないですよね…。ベリーで両替、あるいはわたくしの蜜で現物と交換できればいいんですが」

「ベリーとの両替は出来るよ。現物は受け付けてないがね…」

「あの~……お金……もしなかったら?」

「通っていいよ」

「いいのかよっ!!」

 

 老婆の予想外の言葉に、思わずウソップがビシッ!とツッコミをいれた。

 

「──それに、通らなくても(・・・・・・)……いいよ」

「?」

「あたしは門番でもなければ衛兵でもない。お前たちの意志を聞くだけ」

「じゃあおれ達は空島に行くぞ!!金はねェけど通るぞ婆さん!」

「そうかい、8人でいいんだね」

「……?うん。でもよ、どうやって登ったら──―」

 

 あの滝を登れるんだ、と続こうとした言葉が途切れる。

 突然船の下から現れた巨大なエビが、メリー号の折れた翼をガシィ!とはさみで鷲掴んだ。

 白海名物『特急エビ』というらしいこの生き物は、渦を巻くように上へと続く雲の滝を駆け上がっていく。

 船室の扉に背中を預け、迫る風を受け止めながら滝の先に目を向ける。

 

「うおおおおお!」

「やっほ────ー!!」

 

“天国の門”をくぐり、猛スピードで滝を上ることに歓声を上げる一味。

 その裏で、静かに策謀のクモの巣は張られてしまっていた…。

 

 

 天国の門監視官アマゾンより

 全能なる”神”及び神官各位

 神の国スカイピアへの不法入国者八名

 天の裁きにかけられたし

 

 

 

自然にできたものとはとても思えない帯状の雲を駆け抜ける一行は、出口………いや、入口付近で“神の国 スカイピア”の文字を目にした。

 地上よりもはるかに近い日光のまぶしさに一瞬目が眩んだのち、特急エビは白々海へとメリー号をうちあげた。

「島だ!空島だァ~~~~!!」

 

──白々海──

神の国“スカイピア”

 

 モコモコと立ち上がる雲の合間に、明らかに人工物と思われる建物や人の手が入ったビーチが並ぶ光景に、一味は息をのむ。

 雲の海を通った際に濡れた服から着替え、ここに適した格好──どうみてもビーチ仕様──に一同で着替えたころ、船は砂浜近くまで到着した。

 マリーもナミやロビンと着替えを楽しみ、白のワンピースとサンダルに着替えていた。…なお、その服装を見たウソップが「…未亡人?」と声に出した瞬間、サンジに絞められていた。ワンピースの襟から見えるたわわと穏やかに下がる眦に、サンジも同じことを思っていたが口には出さなかった。

 砂浜まで飛んでいけそうな距離になった瞬間、興奮のままにルフィを先頭にウソップとチョッパーが駆け出して行った。

 

「うほ──!この島、地面がフカフカ雲だ!」

「ぎゃ~~!空島~~!」

「おい錨はどうすんだ!?海底がねェんだろここは!?」

「んなもんいいだろどうでも!早く来てみろ、フカフカだぞこの海辺(ビーチ)は!」

「どうでもってお前…」

「浜辺なら下ろせるかもしれません。試してきますよ」

「おう、頼んだ……って、錨は結構重いぞ、大丈夫か」

「これくらいなら問題ありませんよ?」

 

 ガコ…と錨を持ち上げて甲板から砂浜に近い雲海へ降りるマリー。それを見たゾロは問題ないと判断して手すりに腰かけた。少ししてマリーが水面から顔を出し、「刺せましたー」と陽気に声を上げた。

 その声に続いて、ナミがビーチに降り立ち、空の世界という体験に胸を躍らせる。空島に対して今まで懐疑的であったナミも、この光景には勝てなかったらしい。

 

「う~…ん。ここなら海軍も追ってこないし羽を伸ばせる!ビーチなんて久しぶりっ!」

「これがビーチか…」

「雲のビーチ、いいですね。わたくしは少々昼寝します」

海辺(ここ)に来て真っ先にやることがそれかい!」

「いやだってこの燦燦とした日光…冷たすぎない水温…フカフカの雲…眠くなる要素しかないじゃないですか…」

「雲はともかく、日光と水は眠気を誘うのかしら」

 

 ナミが海風と日光の気持ちよさに、大きく背伸びする。その横で、ビーチというものを初めて体験するチョッパーはゴロゴロと転がりながら、全身で堪能していた。

 マリーはこの環境だととても眠気を誘われるらしく、足先だけ雲海につけてそのまま眠ろうとし、ナミにツッコまれロビンには疑問のこもった視線を向けられていた。

 

「ここにいると、人間としてよりも植物として生長できそうな感覚…少々寝るので、移動するときには起こしてください…」

「起きろマリー!せっかくの冒険だぞ!」

「わっ!?え、コナッシュ?」

「くぉらくそゴム!マリーちゃんに何投げてんだ!」

「危ないですし、収穫したならちゃんと食べましょう!」

「んん?マリーこれ知ってんのか?硬くて食べられなかったぞ」

 

 

 そのまま砂浜で寝ようとしたマリーを、冒険を楽しみたいルフィが起こそうとする。食べようとして失敗したらしいカボチャほどの大きさの木の実をマリーの近くにドスンと置く、というか投げた。

 さすがに驚きで眠気が吹き飛んだらしいマリーと、その様子を見ていたサンジが抗議の声を上げる。

 その声を聞いているのかいないのか、ルフィのほうは果実のほうに興味が行ったらしい。サンジも見たことないらしく食べ方がわからない木の実の食べ方を、マリーは知っているらしい。

 

「皮の柔らかい裏側から穴をあけて、中の果汁を飲むらしいですよ。果肉も食べられるようですが、まだ若いので実が少ないようですね」

「流石だマリーちゅわん!待っててね、今船からナイフを取ってくるから!」

「ああ、大丈夫ですよ。これくらいなら…セイッ」

 

 そういいながら、マリーは木の実を裏返して砂浜に置く。そして皮の厚さを確かめるように実を触った後、掛け声とともに手を打ち下ろし────

 

「ほら、開きました!」

「おおっ!マリーやるなぁ!」

 

 ゴリッ!という鈍い音ともに、身に穴が開いた。マリーが繰り出した掌底は見事に木の実の皮を貫通して、穴をあけることに成功したようだ。

 サンジは一瞬ポカンとした後マリーの手のひらの心配をしたが、特に問題はないと手をひらひらと振っていた。

 

「すげーなマリー!お前も飲むか?」

「いえ、遠慮しておきます。その果物を取ったのは船長さんですので、あなたが飲んでください」

「そっか、ありがとな!」

「マリーちゃんは、どこでこの木の実の事知ってたんだい?おれも空島以外で見たことねェしよ」

「知ってたわけではないですよ?ただこの植物に、名前と食べ方を尋ねただけですので」

「ああなるほど、植物に……食べ方を、本人に?」

「ええ。大抵の方は快く教えてくれますよ!毒草とかは、「たぶんムリ」としか返ってこないことが多いですが」

「そ、そうなんだ…」

 

 食べ方を当の本人に聞いて、快く回答が返ってくるという植物たちのネットワークに、思わず理解不能となってしまったサンジであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。