ゾロ達は、神の島の森の中を川沿いに探索していた。木々は空を覆い隠すほどに高く、枝葉が絡み合って昼でも薄暗い。風が通るたび、葉のざわめきが囁きのように耳元で響く。土から顔を出すほど大きな根っこをよじ登る必要がある悪路を進んでいく。
「ったく、神ってのはどこに居やがるんだ」
「アンタまだそんなこと言ってんの!?神なんて出会わなくて結構よ!」
「触らぬ神に祟りなし、ですからね。わたくしも神に用はありません」
「とにかく、川沿いばっかり歩いていてもしょうがねェ。向こう岸に渡ろうぜ」
「それもそうね」
「でも、どうやって渡る?さっきみたいに、蔓を使って向こう岸に?それとも木を橋にして―――」
渡ろうか、と発しかけた喉が恐怖で引き攣る。川沿いで脆くなっていたのか、ナミの足元の地面が崩れ落ちた。そこへ、餌がやってきたと川にも生息していた空サメが口を開けて待ち構える。咄嗟に動いたゾロがナミを庇い、現れた空サメに蹴りを入れて弾き飛ばす。後ろに投げ出されたナミをロビンが能力で受け止めた。
「ここにもいるのかよ、うざってェ!」
「絶対にダメ!こんな川渡りたくない!」
空サメの恐怖に晒されたナミが、川を渡ることに対して拒絶する。ゾロは、このままでは進展しないと文句を垂れるが、ナミは断固反対の構えだ。
その争いを眺めていたロビンは、ふと疑問を抱いた。
「ねぇ、この地面……土よ」
「?? そりゃそうでしょ、地面なんだから」
「!! いえ、ここは空島ですので、地面は島雲のはずです」
「あっ、確かに!なんでこの島だけ違うの?」
「さぁ…とにかく、空島の中でも不思議な島であることは確かなようね」
調べる価値がありそう、と楽しげに笑うロビン。
「クロユリさん、あなたのテレパシーで、この森を調べられないかしら?」
「可能ですが、何について調べますか?」
「そうね…この川を渡れる場所があるかどうか調べられる?」
「分かりました。少々お待ちください…『
そういって、マリーは近くの木に額を当てて静かに黙禱のような姿勢を取る。
言葉を発した瞬間、一陣の風が吹き抜ける。
木々の葉が風に擦れる音、葉脈の鼓動、植物の呼吸。それらすべてが言葉となり、マリーという女王に語り掛ける。
『この川の終わりはどこにある』
『しまのはしっこ』『うみとのさかい』『おわりはない』『かわではない』『しまのかわはもうない』『ここはわれたとこ』
「…?」
木々からの回答に首を傾げる。『島の川はもう無い』とは、一体どういうことなのか?目の前にはまごうことなき雲の川が流れており、空サメも生息している。
『ここは割れたとこ』という言葉から、一つ推察する。
ここは地中の水源から流れた川ではなく、白々海が流れ込んだものなのでは?『島の端っこ』にあるという川の終わりは、まさしく『海との境』なのではないかと。
『川に跨る者はいるか』
『ひとりぶんさき』『このまえおられちゃった』『じょおうさまものれるよ』『ぼくたちとおなじくらい』『おられたかいがあったってもの』
どうやらこのまま川沿いを巨木一本分進むと、倒木が川に跨っているところがあるらしい。その木は他の巨木と同じくらいの大きさがあるようなので、ナミも楽に渡れるだろう。
「どうやらこの川、川ではなく沁みだした海のようですね。川の終わりを探すのは諦めたほうが良いかと」
「じゃあ、何とかして渡るしかねぇな」
「ええ~!?また蔦で渡るの!?絶対イヤよ!」
「ご安心を。ここから少し進んだ先に、川に跨る巨大な倒木があるようです。そこを渡っていきましょう」
「これだけの大木なら、きっと安定して渡れるわね。お手柄だわ、クロユリさん」
「ならこんなとこでちんたらしてないで、さっさといこうぜ」
「ちょっと、待ちなさいよゾロ!あんた1人で行ったら迷子になるんだから!」
「うっせぇ!」
・
・
・
・
・
・
「よし!こっちの手すりはもう大丈夫だな!」
メリー号に一人取り残されたチョッパーは、船の修繕を続けていた。船の上には碌に物資もなかったが、幸いにも大木が木の枝を分けてくれたため、木材に困ることなかった。
「マリーはすごいなー…植物と会話できるってこういうときに役立つんだな」
最初、船の修繕のためとはいえ、自分を守ってくれている木から枝をもらうのはどうかと思っていた。しかし、チョッパーが試しに「枝をちょっと分けてくれないか?」と尋ねたところ、一本の枝が急速に伸びてきたことで解決した。しかも「こういう形の枝が欲しい」という要望にも応えてくれるため、チョッパーは着々と修理を進めることが出来ていた。
「ホイッスルもあるし、コイツもいるし、もしもの時も大丈夫だな!」
そんなふうに安心していた、そのときだった。視界に動くものが目に入る。空の彼方から、黒い影がゆっくりと、しかし確実にこちらへ向かってくる。
それは鳥だった。だが、普通の鳥ではない。赤い頭に紫の体を持つ、人が乗れるほどの大きな鳥。鳥に乗った人物は槍を携え、チョッパーを見るなり問いかけた。
「何だ、殺していい生贄はお前ひとりか?」
瞬間、チョッパーは即座に、空の騎士から貰ったホイッスルを吹き鳴らし、自身の形を戦闘に適した形へと変えた。
次いで、巨木も臨戦態勢に移る。太さが人体ほどもある枝をブォン!と音が鳴るほどに振り回した。
「何…?この植物はここいらに生えている木だな。なぜ動いている?」
「う、うおお…!お前すごいな!がんばれ!」
鳥に乗って枝を躱す襲撃者。スカイピア神官のシュラは、その大木が自立して動いているという奇妙な光景に首を傾げる。
しかしどうせ殺すのみと、今度は枝に向かって攻撃を始めた。
薙ぎ払われる枝の先端は音速に近い。しかし懐に入ってしまえば、そこまでのスピードはない。枝が鞭のように唸り、空を裂く。その合間をかいくぐり、船を覆う枝の一つに槍を突き立てる。
それに対して、巨木は男を押し潰さんと幹ごと男に迫る。
当たれば一撃で挽肉になりそうな一撃を紙一重でかわすと、槍によって傷つけられた樹皮から炎が噴き出した。
「槍から…火ィ!?」
「うっとおしいな…フザ!」
ク~カカ!と独特の鳴き声を上げ、フザと呼ばれた怪鳥の口から火が噴き出した。赤々と照らすそれは次々に船を覆う枝葉を燃やしていき、ついにはメリー号の帆柱に引火してしまった。
「ウワァアアア~!!やめてくれ!」
これ以上船に燃え広がってはたまらないと、チョッパーは咄嗟に帆柱を締め上げて根元から圧し折る。圧し折った燃える帆柱を周囲の湖に投げ込み、何とか火を沈下した。
その様子に激昂しているのか、大木はさらに激しさを持って襲撃者を襲い始めた。枝葉は細く長く、そして鋭く形を変えて神官を打ち据えようと暴威を持って暴れまわる。
その枝は質量ではなく、もはや鋭さを武器にした蛇腹剣と大差なかった。
「くっ…!」
シュラは槍で刃を弾きながら後退する。だが、大木は止まらない。枝を巻き取り、再び振るう。その合間に別の枝が振るわれ、神官と鳥の体を剣の如き茨で抉り取らんと襲ってくる。
シュラの持っている武器は槍。それも側面に刃の無いタイプである。穂先から炎の出る機構を持っているとはいえ、無数の枝相手には相性が悪い。
なにせ枝を切り落とすということが出来ないのだ。槍を突き出しても、枝はしなるだけで貫けない。躱されるだけならばまだいい。槍を引くのが遅れれば、枝たちは槍を絡め捕ろうと蠢くため迂闊に攻撃することもできない。
ならばと、なるべく幹に近いところに槍を突き立て燃やそうと試みるが、一瞬炎が噴き出るだけですぐにかき消えてしまう。生木は案外燃えにくい。そのうえシュラはあずかり知らぬことだが、この大木はメリアの蜜により、植物が持つ機能を自由自在に動かせるようになっている。それにより、本来は穏やかに行われる蒸散――植物の体から水蒸気が出る現象――を、消火に役立てる働きをしていた。
穂先から小火を起こすだけのそれでは、この大木の圧倒的な質量と数に抗うには足りなかった。
「ああ…あまりにも鬱陶しい!」
実際、シュラはこの大木に対して手詰まりとなっていた。
刃の無い槍では枝に対して有効打が無く、得意の炎もすぐにかき消されてしまう。まだ“紐の試練“の担当としての力は使っていないが、無数の枝を自在に出し入れする能力とはこれまた相性が悪い。本来の標的であるトナカイを狙おうにも、籠のように張り巡らされた茨の奥だ。
「お…お前、なんでおれを狙うんだ!」
「ふむ…いいだろう説明してやる」
チョッパーに話しかけられ、シュラは一旦攻撃をやめる。槍の構えを解くとその様子が大木にも伝わったのか、大木も枝を振り回すのをやめた。
この隙にチョッパーに近づいて攻撃のチャンスにできないかと思ったが、大木はまだ警戒を続けチョッパーをその籠から出そうとしない。
「ここが“生贄の祭壇”だと知っていたか……?」
「あ…ああ!そんなこと言ってた」
「お前たちの仲間の残りは、ただ今神官により試練を受けている。この島には4人の神官がつかさどるエリアがあり、誰かがそこで試練を受けている間は他の神官は手出し無用。だがこの“生贄の祭壇”はフリーエリア。誰が手を出そうが構わない。
…まァそれは、試練を受けている人間が死んだ後の話。生きてたどり着けたなら逃げて構わん」
「え…じゃあ、ルフィ達がここへ助けに来てくれたら…俺たちも逃げていいのか!?」
「逃げられるものならな…
――しかし、それは本来の裁きのルールであって、
「例外…!?」
「――そう例えば…生贄が4人向こうの森へ蔓を使って、勝手に脱走してしまった場合…」
「へー…そんな場合が」
そこまで聞いたところで、チョッパーは自分たちの状況と、それを引き起こした剣士を思い出す。「神がいるんだろ、ちょっと会ってくる」なんて言って、いの一番に脱走を試みたヤツ。
(犯人はあいつだ!!!)
「…誰かが逃げた罪は誰かが死んで詫びろ。犠牲という名の…なァ!!」
チョッパーが表情を変え、何かに気を取られるように見えたシュラは、会話の途中で不意を打とうと一気に距離を詰める。
大木は咄嗟に反応しきれず接近を許してしまったが、チョッパーを守る枝の籠は健在。
シュラはチョッパーの心臓に狙いをつけ、全力で突貫する。チョッパーの心臓に燃えるやりが突き刺さる、その寸前で、槍に枝が絡みついた。
籠のようにチョッパーを守っていた枝は槍の軌道を変え、心臓から肩に穿つ場所を変えられた。
「ア˝ア˝アアア~ッ!!」
肩を貫かれ、傷口が燃やされる激痛に叫ぶチョッパー。シュラが追撃しようとする様子を見ながら、焦点はそのさらに後ろに合っていた。
シュラの後ろから飛んできた影。それは乗ってきたペガサスから飛びあがり、シュラに襲い掛かる。
笛の音に呼ばれた、空の騎士だった。
「少々待たせた」
「……!!空の騎士~~~!!」
「フン…!こりゃ珍しい客が来た。ガン・フォール!!」
「なかなかの相手だ、不足ない。少し手荒に行こうぞ、ピエール」
空の騎士と神官が上空で打ち合う。真正面から打ち合ったシュラは苦い顔を浮かべ、体勢を立て直した。そのまま空中でにらみ合い、お互いの動きを観察する。
先に動いたのはシュラだった。槍で薙ぎ払ったシュラの一撃を飛ぶことで軽く躱し、そのままガン・フォールはシュラの後ろへと着地する。それに気づいたシュラが咄嗟に後ろへ一閃するが、それすらも躱したガン・フォールは、どうやってか籠手から衝撃波を繰り出しシュラを鳥から撃ち落とした。
「空の騎士~~~!」
だがそこで戦いは終わらなかった。シュラの乗っていた鳥が素早くシュラを回収し、体勢を立て直す。
「ああ腹立たしき愚か者への怒りの求道、思い知れ!
紐の試練!!」
そこからの戦いは圧巻だった。空中で撃ち合う二人の動きはチョッパーには何が何だか分からず、ただ呆然とするほかない。
しかし、空の騎士優位に進んでいた戦況は一気に逆転する。
ガン・フォールは突如として動かなくなった己が体に戸惑う。そこを見逃さなかったシュラがその体を貫いた。
「ウワァアア!!」
「“
「空の騎士~~~っ!」
ガン・フォールの体はそのまま湖に突き落とされる。チョッパーは空の騎士を助けようと、咄嗟に川に飛び込んだ。
悪魔の実の能力者が海雲に飛び込むという愚行を呆れながらシュラは眺めていたが、その様子を見てふと疑問が浮かんだ。
「……?なんでこの木は動かねぇ。能力者がカナヅチなことを知らねぇのか?」
さっきまでチョッパーと船を守るように動いていた大木が、うんともすんとも言わなかった。依然としてシュラから船を守るように枝で囲っているが、溺れたチョッパーを救いに向かおうとする様子が見られない。
「まあいい。ガン・フォールの鳥を落として終いにするか」
主人を必死に呼ぶピエールを槍で突き刺し、湖へと落とす。ブクブクと吐かれる息を眺めながら、シュラはひとりごちた。
「……あァくだらん…。実に腹立たしき人の弱さよ……!強いのはこの大木のみ…!
底なしの川ならばまだ希望もあっただろうが…残念。この川には底がある」
・
・
・
・
・
・
「おいナミ!ちゃんと話せ!いったい何を見たんだ!」
「いいから黙ってついてきて!なんとか海岸へ出るのよ!」
ゾロたちはナミの指示で何とか海岸へと向かおうとしていた。ここまで来るのに、木の下敷きになった井戸など様々なものを目にしたが、その道中にナミは気になるものを見つけたらしい。
木の上から双眼鏡で見ている事の多かったナミだが、そこでしか見られない何かがあったのだろうか。
「…ていうか手貸して!さっきも落ちかけたんだし!」
「ついて来いってやつが先行くだろ、普通」
「…また背負います?」
「ううぅ…マリー、頼んでいいかしら…」
「まさに、おんぶにだっこだな」
「うっさいわね!私だって悪いとは思ってるのよ!」
「――だけど、海岸に行けば分かるのね?」
「……ええ……とにかくちゃんと近くで確かめなきゃ…!私だってまだ自分の目を疑ってるのよ!」
空中の枝を上っていく中でナミは何度か地面に落下しかけ、ロビンに助けられるということを繰り返していた。マリーはそんなナミを見かねて、ナミを背負って進むことになった。マリーの背に乗り込んだナミとゾロたちは、再び道なき道を進む。地面ではなく空中の枝を伝い歩きながら、4人は海岸を目指した。
「にしても…マリー、
「故郷では普段からサンダルかハイヒールを履くことが多いので、慣れているだけです。森の中というのも、故郷で慣れてますし」
「ああ。マリーの故郷って、ノーランドの日誌にあったアレ?」
「はい。居住区の地面は砂浜ですし、革製品というものがないのでちゃんとした靴を履く文化自体があまり無いのです。私みたいな王族なら、国外との交流のために正装をするのでヒールにも慣れていますが」
「砂浜…?海沿いの町なの?」
「いいえ。超巨大な樹木の中で上層と下層に分かれていて、上層側にある島なんです。上層は中が空洞になっていて、樹皮に近い側から毒の森、熱波の草原、水源地という三層構造になっています。中央の水源地では、安定した気候と水とキレイな砂が溜まる構造になっていて、わたくし達はそこで生活しているんです。」
「巨大な木の中に、森と草原が入ってる!?空島もだけど、あんたたちの島もすごいところね…」
「ノーランドの日誌では、海に浮かぶ巨大な森という話だったけれど?」
「その巨大な森は、遠くから見た樹皮なんですよ。近くに行ってみれば巨大な木だってわかります。
分厚い樹皮を壊して入ることは難しいので、海面付近にある空洞から街に行くんですよ。船もそこから入れます」
「海面近くにある、船も通れる空洞…まるで港ね」
「実際そのように使ってますよ。主にわたくしたちが住んでいるのは海面より上の層ですけど、海中の木にも空洞があって、国宝はその最下層にあります。行くのは大変ですが、ぜひご案内できればと思います!」
マリーの故郷の環境に目を見開くナミ。木の構造に興味があるのか、穏やかにほほ笑むロビン。島一つが丸ごと入る木というものがどんなものかと想像したのか、周りにある巨木をちらりと見る。
自分たちが歩けるほどの巨木でこの雄大さ。島一つを包み込む巨木は、見るものすべてを圧倒するだろう。
「オイ、海岸が見えてきたぞ!」
「!! 急いで、マリー!」
雑談をしながら森を進むと開けた場所が見えた。
一歩、また一歩。枝をかき分け、最後の茂みを抜けた瞬間、目の前に広がったのは果てしない白銀と、緑に覆われた廃墟。
どこか見覚えのあるそれを、4人はそれぞれの表情で眺めていた。
「ここだ……見て、これ……!見覚えがあるでしょ……!?」
「…どういうことだ?なんで地上にあったもんがここに…同じものだろ?」
「…いいえ違うわ!これは地上で見たものの“片割れ”よ」
「ああ…だから植物たちは「川はもうない」「ここは割れたとこ」と言っていたのですね…。水が流れる本来の川は無くなって、島がここに来た時に割れた隙間に、海雲が滲入しただけの川になったと」
「……おかしな家だとは思った…。
ゾロは困惑の表情で、ロビンは得心がいったと頷き、マリーは驚きで目を瞬かせ、ナミは確信に満ちた表情でにやりと笑った。
その廃墟は、今日の朝まで見ていたクリケットの家とそっくりだった。いや、そっくりなんてものではない。まったく同じ大きさに材質。絶壁に建っているという共通点。違うのは、2階への階段があるかどうか。
「あんな絶壁に家を建てる理由もない……
クリケットのベニヤで覆った半分の家と、目の前の家を見る。その二つが合わさった円形の家が、瞼に浮かんでくるようだった。
「ここは引き裂かれた島の片割れ。この島は……!“ジャヤ”なのよ!!」
「じゃあ昔、何らかの理由で…あの島は真っ二つに割れて……その
「―――かつて地上に在って…ノーランドが確認した“黄金郷”は海に沈んだわけじゃない……‼
400年間…ジャヤはずっと…‼空を飛んでたんだ………‼‼」
・
・
・
・
・
・
その後、船に戻った4人は試練を突破してきた3人と合流し、キャンプをすることと相成った。ウソップの司会進行により終始にぎやかに進む会議。チョッパーとガン・フォールは空島のサウスバードに川底から助けられたらしく無事だった。ガン・フォールはかなり重体であり、会議中は布団で横になっていたが、チョッパーの指示で飲める程度のご飯を馳走になっていた。
それぞれの探索結果を報告しあう。動きを読むというマントラという能力を扱う神官や、その神官たちと争っていたというゲリラという存在。
中でも目玉情報だったのが、この島が黄金郷であったということ。そのことを聞いたルフィが目を輝かせる。
黄金をめぐる冒険に胸を躍らせるルフィの音頭で、今夜は黄金郷冒険の旅の前夜祭をすることとなった。
サンジ特製の空島シチューに舌鼓を打ちながら、明日の行動方針について決めていった。“髑髏の右目”というノーランドの遺言の正体が、かつてのジャヤの全景が髑髏に見えることに由来すると気づいたナミが、この遺言が示す場所に向かおうと指示を出す。
しかし船を放ってはおけないので、神の島から抜け出す脱出組と、黄金卿へ行く探索組の2チームに分かれる流れとなった。
探索を楽しみたいルフィに歴史探索を楽しみたいロビン、船を守れなかったことを悔やみ、再戦を誓うチョッパーは探索組。ここに戦闘要員であるゾロも入る。
船を神の島から脱出させるのは船を動かすのに必須な航海士のナミ、船の修繕のためのウソップ、護衛役にサンジとマリーである。
作戦会議も食事も終え、夜も更け始めた。
「夜も更けたわ。用のない火は消さなくちゃ。敵に位置を知らせてしまうだけよ」
「バカなことを……聞いたかウソップ、あんなこと言ってらァ……火を消すってよ」
「仕方ねェさ、そう言ってやるな。ロビンは今まで闇に生きてきた女……知らねェだけだ」
ロビンの言葉に、ルフィとウソップが呆れた表情で首を振る。二人の深刻な物言いに、「? どういうこと……?」とロビンは冷や汗を浮かべた。
「キャンプファイアーするだろうがよォ普通!!」
「キャンプの夜はたとえこの命尽き果てようともキャンプファイアーだけはしたいのが人道!!」
「バカはあんたらだ! いい加減にしなさいよ! この森がどれほど危険な場所かってことくらい分かってるでしょ!? 神官もいる! ゲリラもいる!」
「知らん」
「それ以前に夜の森はただそれだけで危ないところなのよ!! 猛獣だって化け物だっているかもしれない!!」
「化け物も~~~~!!?」
「オイ! ルフィ!」
ゾロの大声が飛ぶ。ナミはルフィの暴走を止めてくれると持ったが…
「組み木はこんなもんか?」
「あんたらもやる気満々か!!」
あっという間に組み木がゾロとサンジによって準備されたことにナミが叫ぶ。
「大丈夫さナミさん。むしろ猛獣は火が恐ェんだから」
「後ろ後ろ!! もうなんかいるわよ!!」
松明をかざすサンジの背後には、暗闇に浮かぶ無数の目と獣の唸り声が響いていた。
そんな会話をした数分後には、キャンプファイヤーを楽しむ人と獣で犇めいていた。
ルフィ達を狙っていた雲ウルフはすっかり意気投合し、ともにキャンプファイヤーを囲み酒と踊りを楽しむ。
そこまでなるには、チョッパーがオオカミの言葉を翻訳したりナミの黄金の右がうなりをあげたりといろいろあった。今では共に楽しみ、雲ウルフたちが作ったジュースを分けてもらったりしてナミも楽しんでいる。恐らくジュースではなく酒だと思うのだが。
雲ウルフたちの真似をして咆哮を上げるルフィ。
樽に布を張った太鼓を鳴らすウソップ。
お玉とボウルでメロディを奏でるサンジ。
彼らの音楽に合わせてサンジ、ルフィ、ウソップ、ナミ、チョッパーが雲ウルフたちと楽しげに踊るのを、ロビンは微笑ましく見守っていた。
ゾロとマリーは雲ウルフと飲み比べ対決中のようである。
「オメェ結構いける口だな!」
「ふふ。わたくし、お酒は強いですよ」
マリーとゾロは互いの酒瓶を打ち鳴らす。
木の上に並んだ酒瓶は、まるで色とりどりの花が咲いたようだった。緑、茶、琥珀色の瓶が無造作に転がり、空気には米の甘い香りと、少し焦げたような熟成の匂いが漂っている。それに混じる森と獣の匂いに、酔いが回る心地だった。
「おや、こちらは
「うえ…」
マリーが新たな一本を手に取りゾロに勧めるが、ゾロは眉をひそめて瓶を押し返す。
「甘ぇのは苦手なんだ、口に残る感じがどうも好きになれねぇ」
「あら。では、これは私の〆にします」
「お前はこういうのが好みか?」
「好み…というより、国の特産品だったからよく飲みましたね」
二人は笑い合いながら、次の瓶を手に取る。地面には数本の瓶が散乱し、キャンプファイヤーの強い光が、二人の影をゆらゆらと揺らしている。
盃を重ねる音が、夜の深みに溶けていく。瓶の間に転がる言葉と笑顔が、静かに宵を染めていた。
「フフ……エネルの住む地でこんなにバカ騒ぎをするものは他におらぬぞ…」
「あら、お目覚めね。動いてもいいの?」
横になっていた空の騎士が起きだし、ロビンとゾロの間に座り込む。まだ重症らしく、ルフィとチョッパーが雲ウルフとの踊りに誘うがゾロが断っていた。
サンジ達を案内した際に犯罪者として狙われるようになってしまったらしいコニスとパガヤも、今は空の騎士の拠点にいるらしく、無事だとわかってサンジが安心していた。
「……さっきのおぬしらの話を聞いておった…。この島の元の名をジャヤというそうだが?」
「ええ、そうね」
「何故今…ここが今“聖域”と呼ばれるか……分かるか?」
「「?」」
空の騎士の言葉に、ロビンとゾロは首を傾げる。
マリーは少し考えこみ、確信をもって答えを返した。
「…空島には、地上からごく稀に齎される動植物と、それらが長い時間をかけて進化した独自の生態系を持つ生物しか存在しない。つまり、鉱物資源や動植物の多様性が薄い。だから、それらを生み出す大地を崇めている……といったところでしょうか」
「……驚いた。ここまで言い当てられるとはな」
空の騎士は驚嘆し、目を丸くする。
そのときメリーの体から生えたクロユリに気が付き、合点がいったように頷いた。
「同胞かと思ったが…お主はメリアだな?」
「ええ。空島にわたくしたちの種族を知っている方がいらしたんですね」
「うむ、20年以上前にやってきた青海人たちの仲間にいてな…。聞けば、お主たちも地面とは無縁に暮らしているのだとか」
「……そうですね。わたくしたちは、海底に根差した樹木の中で生活する種族。砂はあれど、土は無いので。大地に対する憧れはある程度なら共感できます」
「そうか…我々はこれを“
土を手に取り、ぱさぱさと地面に落とす空の騎士。その様子を眺めるまなざしには、隠すことのない喜びが滲んでいた。