「うおおぉ!?」
扉を開けた瞬間、俺は急ブレーキをかけてすぐに立ち止まった。目の前には岩肌を露わにした断崖がそびえていたからだ。勢い余って後ろの少女が俺の背中にぶつかったが、骨と皮しかないせいか、その感触は軽いものだった。
「ソフィ?ソフィア!?」
すると突然、小屋の後ろから誰かを探すように声が上がった。その声が俺たちの方に近づいてくる。俺は小屋の影から迫っているであろうその存在に身構える。
しかし俺の背中に隠れていたはずの少女が進み出て小屋の影から声のする方を覗き見た。
「なにやってんだ!」
彼女の枝のような腕を掴んで物陰に引っ張ろうとしたが、
「ソフィア!」
その前に彼女は小屋の影から出てきたその人に抱き止められていた。
抱き止めた人は中年の女性のようで、ピンクの服に高価そうな装飾品を身に付けていたが、その抱き止めた腕は細々としていて栄養が足りないのはすぐに分かった。
「良かった見つかって。貴女いつの間に動けるようになったの?」
「私はもう平気です。私なんかのために王妃様に気を煩わせてしまい申し訳ありません」
王妃……?
「おおソフィア!無事で良かった……」
俺が状況に追い付けていない中でもう一人、男の声が聞こえたかと思うと小屋影からその男が出てきた。
元々恰幅は良かったのであろうが、もはやその服は彼の体格には合っていなかった。枯れ枝とまではいかないまでも肉付きの悪いその腕で少女を労るようにその肩に手を置いた。
「い、一体どういう……」
俺が思わず声を上げると二人はこちらの方にやっと顔を向けた。すると二人とも驚いた顔を見せたと思ったら急に険しい表情になった。
「あ、あなた一体誰?!どこから来たの!?」
王妃と呼ばれた女が声を荒げる。相当に警戒されているらしい。そりゃあそうか。
「あの人はいい人よ。私助けてもらったの。手からお水を出せるんだから」
警戒した表情から怪訝な顔になってそれをこちらに向ける。そらそうよ。
俺はとりあえず敵意がないことを表すために両手を上げて降参のポーズをとった。
「な、なあ、どういう状況なのかいまいち理解出来てないけどさ、とにかくこっちには危害を加えるつもりは無いんだ。信用してくれよ」
「お、お前とにかくそこから動くな!近衛兵!近衛兵!こいつを縛れ!」
「おい!話聞いてくれよ!ちょっと、そこの……!」
ソフィアと呼ばれたさっきまで喋っていた少女に助けを求めるように目を向けるが、そいつの青い目はゴミ虫をみるような冷たいそれであり、絶対に助ける気がないのは丸わかりだった。
お、俺が何したってんだ……。
中世の金属製の鎧をガチャガチャいわせながら駆け寄る兵隊。それでも俺は掴まりたくない一心で頭の中を思考で巡らした。
どうする?逃げるか?ダメだ。土地勘の無い俺はすぐに捕まる。抵抗?でも丸腰。……そういや、能力?あった……ってラーメン出せる能力じゃねえか!そんなもんなんの役に……。てかこいつらラーメン知ってんのか?なんか別の世界がどうとか言ってた気がする。じゃあ知らない可能性も……。
俺は一縷の望みをかけて両の手のひらを上に掲げた。
お冷!
左手に唐突に重みを感じる。目の前の駆け寄る兵隊が足を止めて逡巡するのが分かった。
ゆっくり左手を見てみると、予想どおりガラスのコップに入った水があった。
「な、なんだ!?急に左手から何か出てきたぞ?」
そりゃ驚くよなあ。じゃあこれは?
いいか?出ろよ?『ラーメン』!!
次の瞬間、右手にずしりと確かな質量の物体が乗っかるのが分かった。同時にとんこつと醤油のいい匂いが鼻を突く。
「なんだそれは?!おい動くな!」
「さあ?なんだろな……」
これでハッタリをかましながらなんとか突破口を……。
そんなことを考えていたが、この混沌の状況の中で一人、目の色を変えた人物がいたのを俺は気付けなかった……。