ヒュン!
ギラリと光る切っ先が頬を掠める。
思わずラーメンがどんぶりごと手からこぼれる。それが地面に落ちる前にそいつは一歩踏み込むと剣の軌道を逆にして振り下ろしたその切っ先を今度は振り上げた。
瞬時に上体を反らして避けようとしたが、ゴウ!というさっきとは違う、確かな質量が顔のすぐそこを通り過ぎる音が耳をつんざく。ハラリと切れた前髪が舞うのを視界に入れながら俺は両手を振り上げる。体が反るまま地面に両手を着くと、足を思い空に向かって蹴り上げた。
いわゆるバク転をして攻撃を回避した形だが、運動神経に自信のある俺でもこいつの攻撃を避けるだけでも精一杯だった。
ガシャン!とラーメンのどんぶりが地面に落ちて割れる音を響かせる頃にはある程度の距離を開ける形で対峙することが出来た。
「ハア……ハア……。……なかなかいい動きだ。殺すには惜しい」
あ?なんだこいつ。動き自体はすごいのにあんだけで肩で息してるぞ。スタミナないんか?
「あーあ。勿体ない。ってすぐ作り出せるのか」
「うを!お前どっか行けよ!」
気づくと俺のすぐ真後ろにソフィアと呼ばれた少女が腰を下ろしている。どうやら奴と距離を開けたせいで背中にこの女を背負う形になってしまっていた。
「去れ。女。お前だけ避けて攻撃できるほど器用ではないぞ」
そう言いながら大男はゆっくり俺たちに詰め寄り、得物を再び大きく振りかぶった。
だったら攻撃すんじゃねえ!!
相手が剣を振り下ろすタイミングで俺は右手を上に両手をその切っ先に突き出した。
ガシャシャシャシャシャン!!
突き出した手の先。そこには何枚もの割られたどんぶりとすんでのところで止まった鈍く光る刃。
俺はとっさに何杯ものラーメンを右手から出して盾がわりにした。
「な……!?」
まさか止められるとは思わなかったのか、相手は明らかに動揺の色を見せる。
俺はその隙を見逃さず、一歩踏み込むと左手を兜と胸当てのわずかな隙間めがけて伸ばした。
『箸』!
左手に現れるスティック状の木の棒。わずかに見せる喉元めがけてそれを突き出した。
「くっ……!」
しかし、突き出した左手には感触が伝わらず空を切るのみであった。
当の大男はすんでのところで避けた。が、体勢を大きく崩す。辺りに散らばったラーメンの具に足元を取られたのだ。
男はそのまま腰から崩れ落ち、大の字で地に伏した。
「形勢逆転だな」
倒れた拍子に男が右手に持っていた剣を離してしまった。俺はそれを素早く誰もいない方に蹴り、脅威を取り除く。
「くそ……!」
さてどうするか……。
地面に仰向けに倒れる甲冑男を前に俺は一つ思案して、男の顔に左手を伸ばした。
「そこまでだ!」
野太い男の声が響く。声の方に顔を向けると、そこには大勢の兵隊。その手には弓矢があり、俺めがけてそれが引かれていた。
……やべ……。
「絶体絶命では……?」
「隊長から離れろ!」
俺は素直に倒れた男から離れて兵隊たちの方に一歩踏み出した。
生き還ったと思ったらまた死ぬのか?俺……。
「……狙うなら俺だけにしろよ。そっちの女の子は関係ない」
そう言いながら先ほどまでいた少女の方に視線を向けるが、どういう訳かそこには姿が無かった。
流石に逃げたか。ま、それが正解だな。
そんなことを思いながら二度目の死を覚悟した時、俺の前に人の影が突如現れた。