ラーメンしか出せない能力でどうしろと!?   作:圧倒的雑魚臭

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情けは他人のためならず

 

「あんた!どうしてくれんのよ!この服びちゃびちゃじゃない!」

 

 その影は俺の目の前に出てくるなり、黒いワンピースの裾をたくし上げながらそう怒鳴りつけた。

 

「は?お前……ちょっ……」

 

 こいつは状況が分かってないのか……?

 

 兵隊たちがこちらに弓矢を構えるその前に少女はわざわざ躍り出て俺に対して説教を垂れてきた。

 

「あのね!もうちょっと周りに気は使えないわけ!?か弱い少女が座ってる傍であんな大量のラーメンひっくり返すなんて考えられないわよ!この服弁償してくれるの?!」

 

「いやそれどこじゃないだろ!死ぬか生きるかの場面だぞ!」

 

 俺が諭すのも構わず、少女は俺の盾になるような位置でまだ喚き散らしていた。

 

「気にするな!構え!」

 

 ギリリと弓を引くその手に力がこもるのが分かった。

 俺は喚く少女の前に躍り出てようとした。

 

「うっさいわね。あんたらも」

 

 突如、少女は弓を構えた兵隊たちの方に向き直ると、その方向に右手をかざして絞るような動作をしだした。すると弓兵たちの呼吸が荒くなっていく。何名かは弓矢を離して首回りに手を回して苦しみだした。

 何が起きたのかと少女の方を見ると、その青かった瞳が紫に怪しく光り、肌で感じる程の謎のオーラがその少女から湧きだしているのが分かった。

 

「止めなさい!」「止めろ!」

 

 同時に二人の声が響く。一方は弓兵たちの後ろ、王妃と呼ばれたその女性が発したもの。そしてもう一方は俺の背後から聞こえた男の声だった。

 

「今すぐ弓を収めなさい。ソフィアに当たったらどうするの!」

 

 悲痛な声色でそう告げる彼女の顔は正に我が子を心配する母親のそれだった。

 

「ですが……」

 

「下がれお前たち」

 

 俺の背後からゆっくりと俺たちの前に出てきたのはつい先ほど戦った大男だった。

 

「私は負けた。それだけでなく情けすらかけた相手を弓矢で射殺せと言うのか?私にこれ以上恥をかかせるな」

 

 その言葉を合図に、兵たちは構えていた弓を下していく。

 それを見た大男はこちらに向き直ると口を開いた。

 

「すまない。部下の非礼を詫びよう」

 

「いいのかよオッサン。俺を捕まえなくて」

 

「それは我が王次第だな」

 

「ソフィア……!」

 

 兵たちの間から王と王妃と思しき人が少女に駆け寄るとその肩を抱いて無事を確かめていた。

 

 奴隷、だよなあ……?

 

 手厚く少女を迎え入れるその二人の姿はとても奴隷を扱うそれではなかった。

 

「陛下」

 

 鎧を着た大男が陛下と呼ばれた男の前で恭しくかしずくと厳然とした口調で切り出した。

 

「まず賊を取り逃したこと、ここに謝罪致します。そして不躾であることは重々承知の上で嘆願致します。この男を見逃していただけはしないでしょうか」

 

 思わぬ申し出に俺も含めて周りの人たちが皆驚いた顔を見せた。

 

「何故だ?奴が敵側の刺客ではないと断言できるのか?」

 

「断言、とまでは参りませんが、解せぬ点がいくつもございます。まずわざわざ兵糧攻めを行っている敵側が陛下を狙う暗殺者を送るメリットがあまり無いこと。また奇妙な能力がありますがいずれも人を殺傷するような物は出していない点。まだ我々に見せていない可能性は否定できませんが、私との決闘で使わなかった点でそれは低いと思われます。なにより真っ先に陛下を狙わなかった時点で暗殺者としては失格です」

 

「内情を偵察するスパイかもしれん。……がその可能性も低いな。もうこの戦も二年になる」

 

「ええ。もし内情を知りたいなら初動ですべきです。仮に現状を知るべく送り込んだとして、こんな目立つことはしないはず」

 

「ではこやつの目的は……?」

 

「分かりません。分からない以上敵ではないとは断言出来ませんが、一つ、確かな事実があります」

 

「それは何だ?」

 

 かしずいた大男はチラッとこちらに視線を寄越すとまたすぐに陛下と呼ばれた男の方に顔を向けた。

 

「私はこの者から水を与えられました。命を取ろうとした私に対してです。一騎士としてその恩に報いたいと私は願います」

 

 さっきの倒れた時に恵んだ水のことだろうか。ただの気まぐれではあったが、ここの人たちはあまりに痩せていたからこの男もそうなのかもしれないと思ってあげたのだ。

 

「私も言ったでしょ。悪い人じゃないって。服びしゃびしゃにしたけど」

 

 そばにいた少女がそうフォローする。

 すると陛下と呼ばれた男は目をつぶって少し考えた後、おもむろに口を開いた。

 

「分かった。ただし身柄は預からせてもらうぞ」

 

 その言葉と同時に俺は大勢の兵たちに囲まれる。歩くように促され、俺はその歩を進めようとした。

 

「ん……」

 

 ソフィアと呼ばれた金髪の少女が俺の前に立ちふさがったかと思うと右手を差し出してきた。

 

「ソフィア止めなさい!」

 

 王妃と呼ばれた女性が肩を掴んで離れさせようとしたが、少女は微動だにせず、そのなんとも言えない無表情で俺に何かを要求してきた。

 

「な、なんだよ」

 

 まさかと思うがこんな状況でこいつはまた水だの要求しているのだろうか……。

 

「ラーメン」

 

 は……?

 

「ラーメン頂戴」

 

 

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