久しぶりに故郷に帰ったけどなんか変 作:ZZZAAAA
「キュキュル」
「はい……」
「キュル」
「マジでもう……はい」
「キュキュ?」
「申し開きのしようもございません、はい」
凄まじく綺麗な土下座であった。もしこの場にドドゲザンが居れば、その素晴らしい土下座を前に自ら負けを認め兜を脱ぎ土下座をしていただろう、あれ脱げるか知らんけど。
「キュキュル?」
「その、そんなんなるとは思わんくて……」
「ちゃうんす、ちゃうんす……ちょっと気が大きくなって世界見たいなぁって思ったから」
「キュルル?」
「それに関してはほら、思い立ったが吉日とか言いますじゃないですか?」
「キュ」
「うす……」
もうただひとすらに平謝りである。これがホテルのオーナーの嫁と宿泊客の姿か? 逆カスハラLV100だろこれもう。
そんな異様な光景を前に、MZ団の面々はドン引きしていた。何がどうしてこんな大人の尊厳が無い姿を見せられて居るんだ。
「あの……えっと、AZさん。今フラエッテに謝ってる人って誰なんですか……?」
MZ団を代表して、セイカがどこか懐かしそうな表情をしているAZに男の正体を聞いた。その勇気、心の中でサムズアップを送るにふさわしい。
「彼は……そうだな、道化――あるいは奇術師と言ったところだろうか」
「奇術師ですか……確か5年前に活躍したトレーナーも同じような呼ばれ方をしていたはずです。まさか……」
「まさにその奇術師だ」
あんなのが……? と言葉を零したのは誰だろうか。誰であろうが関係ない、少なくともMZ団員は全員そう思っている。
奇術師と呼ばれたトレーナーと言えば、冷静沈着かつ奇想天外。一度自由にさせてしまえば右に出るトレーナー無し。この世界で一番信用できない口の持ち主etc……
少なくともこんな醜態を晒している男が、あの5年前の英雄達の一人とは思えない。
「キュキュ」
「うす……いやでも――」
「キュ」
「うす……」
なんならもうさっきから男の顔が見えてない。さっきからずっと土下座している。顔よりも頭頂部と背中を見てる時間の方が長いくらいだ。人生でそんな事は中々無い。
もうなんか、男の事がすっごい哀れである。ちいさくなるでも使ったのかってくらい男の背中が小さく見える。
MZ団員のそんな気持ちを察したのか、それとも男を見てられないと思ったのか。AZがフラエッテに声をかける。
「フラエッテや、聞けば彼と彼のサーナイト達も長旅に疲れているそうだ。ここは一旦、許してやらないか?」
「キュキュ?」
「確かにそれも大いに理解出来るが――」
「キュ」
「……すまない」
3000年生きた男、AZ。愛したポケモンに敗北。
「AZさんが言い負かされた……!?」
「というかフラエッテがあそこまで頑なに怒ってる時点で珍しいと言うか……」
「とりあえず……どうすれば良いんだ?」
収拾不能。これはちょっと、どうすれば良いんだ。そもそもフラエッテがここまでキレ散かしてるのがかなりの異常事態である。3000年前を知るAZですらも内心ちょっと驚いている。
「キューキュ!」
「うす」
こうしてフラエッテの説教はAZやMZ団員達が眠り、翌日の朝日が昇る頃まで続いた。
「嘘だろ美味い……」
「だろ? これがホテルZ名物のクロワッサンカレーだ!」
一晩中説教されたからかこのゲテモノカレーが凄く美味い。マジですっごい美味い。まぁ、ガラルでカレーキチチャンピオンに食わされたあのカレーよりは実際の所かなり食い合わせもマシではあるから美味いのも道理か。あのガキが作ったパルデアの
そんでカレー……のクロワッサンの部分(?)を咀嚼しながら時計を見れば、朝になって久しい時間。解放されて20分くらいだから……なるほど、俺は大体9時間くらい土下座していた訳だ。ポケモン達は途中で開放してたからまだ幸福の合計値で言えば軽傷で済んでいるだけマシか。
正直アイツらが清々しい顔でエレベーターから出て来た時は、ちょっとボールに入れて
ちょっとキレそう(キレてる)。
「いやぁ、にしても良かったよ少なくとも建物で夜を越せて。なんか9時間土下座してた気がするけど野宿よりはマシだった」
「それ、本当にマシなの……?」
「僅差でマシ」
「あ、僅差なんだ」
……昨晩から思ってたけど、この頭頂部で髪をまとめた子なんか既視感あるんだよな。なんだろう、まぁ飯美味いから何でも良いか。今はただ、この美味い飯に感謝を。
なんかボールが揺れてる気がするが気にしない。お前らはぐっすり寝れてるんだから良いだろうが。
「すごい食べっぷりですね……」
「それだけ美味しいって事だろ、ピュールもどうだ?」
「遠慮しておきます」
まぁ、見た目は確かにカスだから編み込みの子の意見も解る。味は結構美味いんだけど、見た目がなぁ。
「あ!」
「ん?」
クロワッサンカレーをほぼ平らげた辺りで、白い帽子が似合うブラウンの髪の子と目が合う。そこで何か「思い出した!」って顔で声を出すものだから、思わず反応してしまった。
残りのカレーを一気にかっこむ。
「ふいーご馳走様……それで、何か聞きたい事があるみたいだな? お嬢さん」
「あれ? もしかして顔に出てました?」
「声にも出てたな」
なんというか、この子に関しては見た事がある感じだ。いや、会ったことがあるとかじゃなくて似たような奴らに会った事があるって話な?
5年前に共闘したアイツらとか、山奥に居たアイツとか――オーラっての? 文字通り格が違う感じ。
その片鱗をなんとなく感じた。この子は間違いなく強くなる。ソースは5年前の馬鹿共。
「お兄さんって、奇術師? って言う強い人なんですよね?」
……マジ? なんで知ってんの?
「は? いや……もしかして、AZの爺さんに聞いちゃった?」
「はい!」
「あーね、ナットク」
一瞬心臓が爆発するかと思ったが……それならまぁ、ヨシ。
それにしたって、こうやって何回聞いてもやっぱり背筋がゾワッとするなその通り名。ガラじゃないんだよな英雄なんて、ましてや奇術師なんて呼ばれ方。そういうのは四天王だったりジムリーダーだったり本当の英雄様が言われるべきだろ。
俺みたいなゴロツキの呼ばれ方なんてナナシノゴンベくらいで良い。
「で、奇術師なんですか?」
「あー……そう呼ぶヤツも居たってだけの話な? ジッサイ、俺はただのトレーナー」
「へー! それじゃあ強いんですね! バトル、お願いします!」
「ははーん! さてはこの子も話を聞かないタイプだな?」
こんな朝っぱらからバトルをご所望なんて……良いじゃん?
「ま、腹ごなしにはちょうど良さそうだ。良いぜ、相手してやる」
「やった!」
セイカには自信があった。ポケモンバトルに手を出して早数日、ZAロワイヤルをここまで負け無しで勝ち進んだ。確かな才能を、彼女は確信していた。
「がんばれよ、セイカ!」
「がんばってー! 審判は任せてね!」
「朝から元気ですねアナタ達……」
MZ団の仲間達の声援に片手を上げてセイカは応じる。その表情は一切自分の負けを考えていない。
「まぁ朝食の腹ごなしってコトで、お互い1匹しか使えないルールで行こう。どうぐも無しだ」
「それで良いですよ」
「2人とも準備良さそう? それじゃあ、バトルスタート!!」
ニヤリと男が笑う。男もまた、セイカの負けを確信している。
「それじゃ、ぶち抜けよスピアー」
「スピ!!」
「ファイアロー、お願いね」
「キュロオオオ!!」
男とセイカがそれぞれボールを手に取り、投げた。
タイプで言えばセイカのファイアローが圧倒的有利。しかし男の余裕の表情は崩れない。
「んじゃまぁ早速――スピアー、いとをはく」
「スピ!!」
開幕一手目、周囲の空間がスピアーによって一瞬で糸まみれになる――不思議なことにファイアローには当てようとすらしていないようだ。
「うわ、糸があちこちに……」
「掃除が大変そうですね」
周囲に張り巡らされたのは、光が当たれば本当に辛うじて視認が出来る程の細い糸。
(移動の制限をかけようとしてる? でもこのくらいだったら――)
「そしてとびかかれッ!!」
「スピピッ!」
「ファイアロー! 糸は無視!! でんこうせっかで迎え撃って!!」
「キュロォッ!」
互いの
「よっしゃァ!!」
「なんでッ!?」
ファイアローの横っ腹を、スピアーが僅かに穿った。
タイプ相性のおかげで大したダメージではないが、一方的にダメージを食らった事実は変わらない。おかしい、技の出だしからして今のはお互いに正面衝突するはずだった。そうなれば相打ちだろうがタイプ相性でファイアローが有利を取れると踏んだ。
だがしかし、実際にはファイアローのでんこうせっかは不発に終わり、スピアーが横からファイアローへととびかかった。
「ッファイアロー! かえん――」
「
「スピピ!!」
セイカの指示の前に再びスピアーの一撃、一瞬の後にスピアーは男の隣へと戻る。
「……ガイ、見えた?」
「いや、見えなかった。ピュールは?」
「2人に見えていないなら当然、僕も見えてないですよ」
第三者から見ていてもこれなのだから、当然セイカとファイアローにも見えてはいない。まさに神速といったところ。
「ファイアロー! 大丈夫!?」
「キュロロ……!」
(大丈夫そうだけど……むしタイプの技を食らった割にはダメージが大きい?)
僅かな疑念。
「よく解らないけど、横を取られるなら――ファイアロー! かえんぐるま!!」
「かわして
一瞬、疑問がセイカの脳裏に浮かぶ。ひこうタイプにじめんタイプの技は例外あれど基本は効かない。だというのに、なぜ男はスピアーにドリルライナーを指示したのかと。
「スピピッ!」
「え」
その疑問は、不可解な機動でファイアローの背後からスピアーが喰らわせた一撃の衝撃で強制的に払拭された。
「キュロ……!?」
「どうやって……というかどうして効いて――ッ!! というか、かえんぐるまの炎を無理矢理突破した!?」
驚愕のあまり、セイカは交差した2匹のポケモンを凝視する。ファイアローがどくを喰らっている。スピアーが振り抜いた両腕の針からは、紫の毒液が滴る。
「まさかッ!! 今のはドリルライナーじゃなくて――ファイアロー! エアスラッシュで牽制!!」
「キュロロォ……ッ!!」
風の刃がスピアーへと向かうが、再び不可解な機動で距離を取ったスピアーには当たらない。
「何かわかったって顔だな、お嬢さん」
かえんぐるまに焼かれつつも、ほぼ無傷なスピアーを満足気に眺めながら、余裕の表情で男は笑う。
「……さっきのアレ、ドリルライナーなんて言っておきながらどくづきでしたよね?」
セイカの答えを効き、男はニッコリと笑って叫ぶ。
「Exactlyッ! その通りでございます……ってな?」
「スピピピ!!」
ポケモンバトルはトレーナーが指示を出し、ポケモンはその指示にキッチリ従う。その先入観を逆手に取ってしまう、このルール違反ギリギリの戦法が男が奇術師と言われる所以の一つ。
だがしかし、それが分かった所であの不可解な機動に説明がつくわけでもない。
「まだ、解けてない問題があるって顔だな?」
「……なんのことやら」
スピアーのあの不可解な機動。アレの秘密を解かなければ万に一つも勝利は得られ無い。そんなことはセイカにも解っている。
「キュ、ロ……」
しかし、ファイアローにかかったどくがセイカに考える暇を与えない。
余裕に笑う男にまだまだ元気に飛び回るスピアー。状況は最悪。
「あと何分お嬢さんは考えていられる? あと何秒ファイアローは耐えられる? こうして互いに何もせず見合う時間が長ければ長いほど、そっちの逆転の目は消える」
「言われなくても……!!」
スピアーは打たれ弱いポケモンだ。弱点を突ければ一撃逆転はあり得る。
「でも、どうやって……?」
とんぼがえりでの一瞬の離脱とあの不可解な機動。そのどちらもが逆転の目を的確に潰している。
「これが、奇術師……!」
「あー、こっ恥ずかしいからそう呼ぶのはやめて貰いたいんだが……ま、それはそうとして――」
男の笑顔の種類が変わる。ここでセイカは気づく。男のそばにスピアーが居ない。そして男の手が下を指し示している。
「――ッ! ファイアローッ!!」
「もう遅い、”脱出不可能”だ。スピアー、どくづき」
上空からの位置エネルギーに、スピアーの誇るその速度。そして磨き上げられた技。衝撃がホテルZを揺らす。
驕りはあった。しかし油断は無かった。確かに、彼女には才能があった。
「キュロ……」
「スピピピピッ!!」
しかし、毒と砂煙が晴れた頃に見えたのは、地面に墜落したファイアローと勝ち誇るスピアー。
「……あっ! ファイアロー戦闘不能!!」
デウロが宣言する。勝者は、当然男とスピアーであった。
男:口も手もそしてそれ以外も指示に使う。ガラルでカレーキチ女にしこたまカレーを食わされたことがある。フェイクの指示は
スピアー:男の手持ちの特攻隊長。好物は結構辛いカレー。
セイカ:この人、強い……!!(ワクワク)
ファイアロー:次は勝つ、無念。