さよならビリーバー   作:ふるびた本

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ブレイブ・ニート

 元いじめっ子兼現異世界帰還者たる鏑木コヨミと、衝撃的すぎて記憶が半分無くなるような再会を果たしてから、二週間が経った。

 

 東京にはとっくに戻って来ている。

 飛行機一つ、三、四時間で行き来出来るってのもありがたい話だ。格安航空を使えば、取る時期次第では五千円程度で済むのも大きい。

 それでも、頻繁に帰ろうとは思わない。帰りたいとも。

 

 個人的に良い思い出がないこともそうだが、地元の友人にさほど思い入れがないことや、俺は妹と違って母に対してそこまで良い印象を抱いていないため、実家の居心地も良くないのも理由だった。

 

 まあそんなわけで、二度と帰らないだろうと思いながら、東京へと舞い戻ったわけなのだが……

 

 諸々あり、厄介な案件を引き連れる形になってしまったわけである。

 

「くぬぎ~、ご飯~」

 

 仕事から帰宅した俺がリビングに入ると、ごろごろと転がりながらゲームをするだらしない女の姿があった。

 

 誰あろう異世界勇者こと鏑木コヨミその人である。

 

 そこはかとなく犯罪臭がするのは、実年齢の割に不老と超再生だかなんだかで高校時代とそっくり変わらないせいだろう。

 

 そこはまあ、いい。

 実年齢は俺と同じ、二十四歳。今の高校生からしたら十分、おじさんおばさんの年齢である。

 

 そして、死亡届等々出されているので、戸籍にはとっくに記載がないだろうし、働けないのも仕方がない。

 

 あの時は嫌だと思ったが、行く当てのないこいつを見捨てるという選択肢も、思えば俺の中には存在しなかったし、それにこれも誰かを助けて死ぬ、という人生の目標の一貫と思えば、それほど苦悩もない。

 

 では何が問題かと言えば、俺がいないたかだか9時間ちょっとの間に散らばったペットボトルと、起き抜けに着替えた時にその辺に脱ぎ散らかしたのであろう寝間着と下着である。

 

「家事ぐらいやってくんねーかな」

 

「え~。異世界で十年も勇者やったんだから、ちょっとぐらいはいーじゃん」

 

 二週間をちょっと、などと宣うが、仮にこいつが働ける状態にあったとして、日給一万として考えた時の儲けは十万になる。

 

 別に家賃を払えなどと言うつもりはないが、それだけあれば自分の食費と雑費、娯楽費ぐらいはどうにかなるだろう。

 

 お洒落をするには心もとないかもしれないが、それでも居候の稼ぎとしては十分と言えた。

 

 事情が事情なので働かせることは出来ないし、大変だったろうから一週間ぐらいは見逃した。が、それでもそろそろ家事という部分で一定の協力を見せてくれても良いのではなかろうか。

 

「お前は何か勘違いしているが、学生時代を終えたらその後の人生は基本、数十年の労働が続くんだよ。命がけかそうでないかの違いはあるだろうが、お前はそれがちょっと早かっただけだ」

 

「……つまり?」

 

 つまり、

 

「いいからやれ」

 

「い~や~っ! 少なくともあたしがいなかった間の娯楽を摂取するまではまってよ~」

 

「甘えるな。働かざる者食うべからず、だ」

 

「あたしは、命の恩人なんだぞ~っ!」

 

「それは感謝してる。が、家計を圧迫してるのもお前だ」

 

 正直、俺の収入では誰かを養うのは結構ギリギリであった。

 奨学金の支払いとかもあるし。

 

 今は貯金もあるから何とかなっているが、これからもこいつを家に置くとなると家系の問題に加えて、ワンルームでは手狭だし、引っ越しを考えなくてはならなくなる。

 

 多少無理してでも稼ぎを増やすなら、残業を増やすために多くの仕事を引き受ける必要も出て来るだろう。

 

 そういった諸々を考えると、やはり一人で仕事も家事もというわけにはいかなくなる。

 だから、多少なりとも協力してもらわなければ、この協力関係は早々に破綻するだろう。

 

「……何もフルタイムで働けって言ってるわけじゃないんだぞ? 一日、一から三時間程度、家事に時間を割いてくれればいいんだ」

 

「……で、でもあたし、椚と違って料理下手だし……洗濯ぐらいは、まあ、出来ると思うけど、掃除とかは宿だったり王宮だったりで、人にずっとしてもらってたから下手になっちゃってると思う」

 

「そこは上達してくれればいい……というか、料理下手でどうやって旅してたんだよ」

 

「仲間もみんな下手だったから、野宿の間はだいたい魔獣の丸焼き」

 

「……」

 

 想像した数倍は粗野であった。調味料ぐらい使ってるよな?

 いや、この様子だとそんなことも無さそうだ。思い出して顔、青くしてるし。

 

 少なくともこの世界出身の彼女が旅に出ていた時間を、どのような気持ちで過ごしていたかは想像することも難しいが、さぞ辛かったことだろう。

 

 とはいえ、それはそれ、これはこれである。

 

「料理は教えるし、別に最初は下手でも構わん。掃除と洗濯も同じだ。あとで、洗濯機の使い方も教えるから、とりあえずこの世界での生活に慣れるところから始めよう」

 

「……わかった」

 

 小さく頷いた彼女の姿に、安堵して息を零す。

 それから、後回しにしていた部屋の惨状を思い出して、もう一度息を吐いた。

 

 一先ず、部屋の現状維持ぐらいはすぐに出来るようになってもらおう。

 

 何よりもそれが先決だ。

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