次話までの繋ぎとして書いたら六千文字いっていた。
知ってた? まだ啓太って原作時の年齢に達していないんだ……。
きりがいいので章別に区分けします。
第三十七話「武藤田高校」
「おはようございますっ!」
「おはようございます兄貴!」
「兄貴、はざーっす!」
「おう、おはよう」
同級生の男子たちが俺を見ると頭を下げる。
強面の奴らがどこぞの舎弟のように一斉に低頭するその光景を見て、他の学生たちが恐々と離れていった。
まるで番長のような扱いにため息が出そうになったが、慌てて口元に力を入れる。
(なんでこうなっちまったんだ……)
日々、頭を抱えたくなる思いが強まる。悩ましいとはこのことだ。
俺の名は三島剛三郎、十六歳独身。
高校一年にして一八〇センチを超える身長に趣味の筋トレで鍛えたがたいの良い体。自身のコンプレックスでもある厳つい顔。
わかる。客観的に見て近寄りがたいのはわかる。番長のように威圧感があるのもわかる。
だが――、俺は生まれてこの方一度も喧嘩をしたこともなければ問題を起こしたこともない!
勤勉を自負しているから成績はいつも上位だったし、こう見えて英検二級だ! 両親が共働きのため妹にいつも料理を作っているから家事も得意だ!
そんな俺がなぜ、なぜこうも生徒たちに怖がられなければいけないんだ……。俺が何をしたというんだ……!
というか、なぜこいつらは俺の舎弟のような立場にいるんだ! 名前すら知らんのに!
どこぞのアイドルが綺麗だの、どこぞの中学の女の子が可愛いだの、頼んでもいない情報を寄越して来る男子たちを引き連れて自分のクラスへ向かった。
教室の前まで来ると自称舎弟どもが頭を下げてそれぞれの教室へ戻る。もう来るな。といっても、また来るんだろうけどな……。
「おはよう」
ガラッと扉を開けて挨拶を口にする。挨拶はコミュニケーションにおいて基本中の基本だ。日々これを欠かしたことはない。
「お、おはようございます、三島さん……」
入り口から一番近い場所にいた女子が引きつった笑顔を浮かべていた。まるでゴリラに挨拶されたような反応。
そんなリアクションをもらう度に人知れず落ち込んでしまうが――。
「ひっ! ご、ごめんなさい……!」
俺の顔を見て顔面を蒼白にした女子が早足にその場を離れた。
(俺ってそんなに怖い顔してるか……?)
心の中で滂沱の涙を流しながら重い足取りで自分の席に着く。俺の席は真ん中の列の最後尾だ。
教科書が詰まった鞄を机に置くだけで、前席の男子がビクッと肩を跳ね上げた。
痛む心に気がつかない振りをしながら椅子に深く腰掛ける。
はぁ、今日も憂鬱な一日が始まりそうだ……。
「あ、川平くん! おはよう!」
「川平くーん! 今日もカワイイねっ」
扉を開けて一人の男子がやって来た。その男子を見た途端、女子たちが黄色い声を上げて愛想を振りまく。
男子の名前は川平啓太。華奢な矮躯。女のようにも見える中性的な顔立ち。俺とは真逆な容姿をしているクラスメイトだ。
川平は女子たちを一瞥するといつもの硬い声で短く挨拶をした。
「……おはよう」
ただ返事をしただけなのにキャイキャイ歓声を上げる女子たち。
川平はそんな彼女たちの反応など気にした風もなく素通りした。
「よう川平」
「おっす」
「啓太ー、今日の宿題やった?」
周りにいた男子たちも次々と川平に声を掛ける。話しかけられた川平も邪険に扱うでなく抑揚のない声で返事をした。
川平はその容姿も特徴的だが、なによりもその雰囲気だろう。いつも無表情で口数も少なく、ぶっちゃけ何を考えてるのか分からない。
だけど話しかければ返事をする。あんな見た目で冗談も言うし、意外とノリも良い。
入学した当初はその雰囲気から皆とっつき難そうだったが、一月経った今では不思議ちゃんならぬ『不思議くん』としてクラスのマスコットと化してしまったのだ。
しかも、ここ二組だけでなく他のクラスでも人気があるらしく、特に女子にはその女のような顔たちと『不思議くん』というキャラから非常に受けが良い。
男子も嫉妬するどころか川平を不思議キャラとして受け入れている。あの無表情で普通に冗談や馬鹿騒ぎに乗ってくれるから重宝しているそうだ。まあ一部男子からは異様に熱い目で見られているようだが。
俺は――俺は、あの川平が憎い。
なぜあいつばかりが女子たちにチヤホヤされているんだ。俺なんて……俺なんて女っ気の欠片もないどころか、むさ苦しい自称舎弟どもばかりが寄ってくるのにっ!
「お、おい見ろよ……。三島のやつすごい顔してるぞ」
「あぁ、まるで親の敵を目の当たりにしてるかのようだ。近づいただけで殺されそうだ……」
血の涙を出さんばかりにギリギリと歯軋りをしていた。
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「おはよー川平くん」
「……おはよ」
すれ違う生徒たちと挨拶を交わしながら自分のクラスへ向かう。
今日も学業に励むため学生鞄を片手に学校へやってきました。人生二度目の学校です。子供っていいよねっ、お勉強超楽しいです!
先月、中学を卒業し地元の高校へ進学しました。卒業式にはようこになでしこ、婆ちゃんの代わりにはけが参列してくれた。はけがカシャカシャと最新式のデジカメでシャッターを押しまくっていたのが地味にウザかったけど。
俺が入学した学校は県立武藤田高校。生徒の自主性を重んじている校風で結構過ごしやすいと聞いている。学校も自宅から徒歩三十分と結構近い。
中学の頃は学ランだったが、ここではブレザーだ。灰色の学生服で左胸には校章が自己主張している。ネクタイは赤と青のストライプで、ズボンは灰色の生地にチェックが入ったものだ。ちなみにこの学生服、派手でなければ改造オッケーである。
俺も改造制服に袖を通したかったけどなでしこが許してくれませんでした。ネクタイを外してループタイにしたかっただけなのに。ループタイ、格好いいのに……。
ちなみに一番派手な改造制服ではブレザーの背中に好きなキャラクターの絵を張った猛者がいたりする。
俺が所属するクラスは一年二組。地元のためかクラスメイトも中学時代の顔見知りが多く、打ち解け合うのに差して時間は掛からなかった。
この学校は――というよりこの地域に住む人たちは聖人と呼べるような善人が多い。学校に着くと男女問わず色んな生徒が話しかけてくれるし、遊びにも誘ってくれる。非常にありがたく人間の温かみを感じます。
そういえば小、中学と最初の頃は結構距離置かれてたんだけど、いつの間にか親しくしてくれていた。なんでだろうな? 俺の人間性が知れ渡ったのか、こんな無口無表情キャラでも心温かく接してくれます。武藤田の生徒マジ天使。生徒会選挙では投票に悩む。
「あ、川平くん! おはよう!」
「川平くーん! 今日もカワイイねっ」
ドアを開けるとすぐ傍の席で雑談していた女子たちが挨拶をしてくれた。
女子に挨拶をされる。ただそれだけのことなのに顔が綻びそうになる。どの世界もどの時代も、男は単純な生き物なのだなと実感させられた。
浮かれる心とは正反対で一ミリたりとも動かない表情筋に感謝しつつ軽く挨拶を交わし、自分の席へ向かう。
「よう川平」
「おっす」
「啓太ー、今日の宿題やった?」
男子たちの声にも適当に返事を返しながら俺の席である窓際の真ん中の席に座った。
今日の授業は現国、化学、英語、体育、音楽、社会の六教科。宿題は全部済ませてあるし、今日は四日だから授業で俺が当てられることもない。平和な一日が送れそうだ。
使用する教科書を机の中に仕舞い、男子たちの会話に混ざり時間を潰していると、背後から強烈な視線を向けられたのを感じた。
この焼き焦がすような熱烈な視線。強い殺気にも似た負の感情が背中に伸し掛かっているように感じられた。
強い敵意のような何か。思わず反射的に振り返りそうになるのを堪え、慎重に背後へ視線を向けた。
(……うわぁ、番長がこっち睨んでるよ)
振り返らなければよかったとちょっとだけ後悔した。
あまり不良がいないクリーンな高校なのに番長の異名で知られる生徒、三島剛三郎。とても同い年とは思えないほど強面で老けた顔、新品の制服が今にもはち切れんばかりの筋肉質な体格、いつまで経っても一六〇センチに届かない俺からすれば非常に羨ましい見上げんばかりの高身長な体躯。
総じていえば、お前本当に高校生? と言いたくなるようなクラスメイトだ。
そんな番長に睨まれる俺。今のところ三島くんと接点らしきものは持っていないはずなのに、なぜ睨まれているのでしょうか。とんと見当がつかぬ。
特に武道を齧っているような形跡は見られないから戦えば恐らく俺が勝つとは思うけど、何故か三島くんからは言い知れぬ気迫を感じられる。もちろんこちらから手を出すつもりはないし、大事を起こす気も更々ないが、彼と事を構えれば只ではすまないとよく分からない勘が囁いていた。
これが番長というものなのか……。前世の謎知識には番長に関する情報はないため、初めてそういう人種に出会った俺であった。
「な、なあ川平。三島くんがなんかこっちを睨んでるような気がするんだけど……」
「お前なにかやったか?」
「……心当たりはない」
川島くんの敵意に気が付いた男子たちが小声で囁いてくるが、本当に知らないんだ。いや、ホントホント。
気になるところではあるけど、とりあえず無視しておこう。いつまで気にしていたって仕方のないことだし。
「うーい、お前らチャイム鳴ったぞー。席につけーい」
無精髭を生やした三十代の担任が出席簿を片手にやってきた。
スーツを着くずれしたいつもの姿。だらしない格好のはずなのにこの人がするとなぜか違和感がないように見える。
眠そうに半開きにした目でグルッと教室を見回し、大きく欠伸をしてから出席を取る。
「小川ー」
「はい」
「小野-」
「はい」
「川平ー」
「……はい」
今日も平和な一日が始まった。
一度は習ったであろう分野。現国や数学、化学などは俺が知るそれと変わりないが、歴史にはちょいちょい差異がある。歴代総理大臣や戦争が終結した日付など本当に細かいところだが。
そのため、大半の授業は楽に過ごせる。俺が持ち合わせている知識と齟齬がないのは助かる。授業を受ける上では大きなアドバンテージだ。活かせてるとは思えないけどな!
苦手な英語の授業が終わり、今度は体育。教室は女子が着替えに使うため、男子たちは更衣室に移動する必要がある。
ロッカーが並ぶ教室の半分ほどの空間で体操服に着替えていると、隣の山田くんが驚きの声を上げた。
「川平くんすごいね! 腹筋超割れてるじゃん!」
山田くんの声になんだなんだと周りの男子どもが近寄ってきた。
「うぉっ、すげぇ! シックスパックだ!」
「腹筋すごい硬いね。いいなぁ」
「結構引き締まった体してるんだなぁ。見た目からじゃ全然わからんわ」
皆が寄って集ってマイボディーを触ってくる。気持ちは分からんでもないが止めぃ! 啓太くんは擽りに弱いんだから!
身をよじりたくなるのを鉄の意志で我慢しつつ、ささっと体操服に着替える。後ろの残念そうな声なんか無視だ無視! ていうか男が男を触ってなにが楽しいんだよ。ア゛ー!な空間なぞごめんだね。
馬鹿な男子どもを置き去りにして早足で体育館へ向かった。
体育館では男女たちが別れてわいわいと会話に興じていた。まだ始業時間前だからね。俺も混ぜてー。
適当に馬鹿騒ぎをしていると体育教師の新田先生がやってきた。筋骨隆々のいかにも体育教師って風貌の先生だ。だけどそれでいて暑苦しさはあまり感じられない。いや、暑苦しいには暑苦しいのだが、悪い意味ではなく良い意味での暑苦しさというべきか。なんというか、青春に涙を流す教師と生徒の教師の方かな?
デフォルトである首に下げたホイッスルを吹いて授業の始まりを知らせる。
「よぅし、全員いるな。今日は男子がバスケ、女子がバトミントンだ。基本的な練習をしたあと軽く試合もする予定だぞー」
体育館の真ん中をネットで遮り男女に分かれた。
ふむふむ、バスケかー。バスケなー。俺身長低いからバスケはあまり好きじゃないんだけどなー。
バスケってほら、競技柄背が高い人が多いでしょ。あの知らず知らずして相手を見下した視線が気になるんだよね。いや、相手にその意識がないのは分かってるんだけどさ。まあ中には本当に見下してるやつもいるけど。うわ、こいつ小っちぇ!って感じの目で見てくるし。
まあいい。バスケはあまり好かないが得意じゃないかといえばそうでもない。こう見えても中学では『ディフェンスのケイちゃん』の愛称で親しまれていたからな。オフェンスじゃなければ真価を発揮してあげようではないか。
ドリブルやシュート、レイアップなどを軽く練習して体を温める。ドリブルはともかくシュート関係は無理だ俺。まず身長が足りないからレイアップというよりジャンプシュートになるし、シュートもボールが狙った方向から思いっきり逸れる。
「川平、お前シュートは相変わらずなのな」
「……うっさい」
中学時代からの級友である山田くんが苦笑いを浮かべていた。
言い訳させてもらえばバスケットボールが大きいのがいけないんだ。思いっきり手からはみ出してんじゃん!
ちなみに投擲は得意である。戦闘では投擲専用の刀による物量攻撃が戦闘スタイルだし、野球など手のひらサイズで収まるものならある程度コントロールを利かせることが出来る。そのためまったくボールの扱いに慣れていないわけではないのだ。だからバスケットボールが悪い!
あ、ちなみにパスは得意である。え? シュートが苦手なのになんでパスはできるんだって? パスとシュートは別物だからさ。
そんなくだらない上に大人気ないことを胸中でぶつぶつ呟いていると、一通り練習が終わり簡単な試合をすることになった。
赤と白のチームに分かれての試合。白のゼッケンを着た俺は早くも試合に出る羽目になった。あ? 俺がジャンプボール? 冗談にもほどがあるぞ山田くん。
試合は順調に進み接戦が続く。今のところ赤チームが一点、白チームがゼロ点とリードされていた。
ボールをパスされた赤チームの根岸くんがドリブルをしながらこっちにやってきた。バスケット部に入っているだけあって様になっている。
このままだとこちらの奥まで侵入を許すな。
ゴール付近に陣取っていた俺は前に出ることにした。迫り来る我がチームメイトを華麗に抜いていく根岸くん。そんな彼の障害として立ち塞がる。
「いけっ、川平ー!」
「ディフェンスのケイちゃんの力、見せてやれ!」
味方からの熱い声援。腰を落として立ち塞がった俺に厳しい目が向けられる。
「いくら川平といえど、俺を止めることは出来ない!」
「……抜けてみる」
出来ればの話だけどな!
熱い燃えるような目をしてどうにか突破しようとこちらを窺う根岸くんの前である技を披露する。
「なっ、ぶ、分身しただと!?」
「出たー! 啓太の十八番、分身の術だー!」
その場で超反復横とびをして残像を生み出す。さらには残像に気と霊力を込めて、残像から分身へと昇華する。
これぞ、我が十三の宴会芸が一つ、分身の術!
「な、なんてスピードだ……! 本当に分身しているように見えるっ」
キュキュキュキュキュキュッ、とワックスが掛かった床をシューズが擦る。
俺の芸術的な技を前に呆然と佇む根岸くん。その隙を狙い、あっさりとボールを奪還した。
あっと声を漏らす間も無く近くにいた近藤くんにパスをする。
受け取った近藤くんはそのままドリブルをして敵陣を目指すが、結局これまたあっさりボールを奪われてしまった。
そして、時間は過ぎ去り、二対一で赤チームの勝ちとなる。
……赤チームにバスケ部員が三人いる時点で終わってると思うんだよね。
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