いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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二話目


第四十五話「追跡」

 

 

 逃がすかくそボケがぁー!

 先輩たちを追うためすぐに行動を開始。

 とはいってもこんな格好で外に出てば人目を集めるのは必須。しかも近所の人たちとは顔馴染みだし、学校の生徒も多く住んでいる。俺がこんなコスプレをしてるなんて知られたら、一瞬にして灰色の学校生活を送る破目になるだろう。それはアカン!

 ――顔を隠すなら何か被るか? ピカ○ュウ?

 頭の中でピカ○ュウのお面を被った魔法少女の姿が脳裏を過った。なぜかステッキを天に掲げていて、背景に集中線がある姿だけど。

 いや、なんか知らんけど、それは駄目な気がする。うん、なんか「それはいけない!」って空耳が聞こえてきたくらいだし。

 と、なると純粋に人の目につかないように行動しないといけないということか。スニーキングミッションみたいだな!

 

「追う。ようこ、猫連れてくる」

 

「はいは~い」

 

窓枠に足をかけて跳躍。電柱を足場に三角跳びの要領で蹴り、アパートの屋根に飛び乗った。

さて、先輩とニワトリは、と。……いた。

ニワトリを小脇に抱えながら往来の中を猛ダッシュしていた。なまじ運動神経がいいだけに陸上選手もビックリな速度で走っている。本当に立ちが悪い。

 

「どうするのケイタ?」

 

「無論。追いかける」

 

 ふわふわ浮かびながら隣にやってきたようこに返事を返す。

 強く屋根を蹴って宙に身を躍らせた俺は空気を切り裂きながら建物の側壁、電柱、信号機などを足場に跳躍を繰り返す。

 いくら運動神経抜群の先輩であろうと、こっちは霊力の高速循環で身体能力を底上げしているのだ。

 彼我の距離はどんどん縮まっていくのは当然のこと。

「……ん?」

 

 視線の先で爆走していた先輩だが、角を曲がったところで通行人とぶつかってしまったようだ。

 さほど体重のない先輩のほうが跳ね飛ばされ相手は二、三歩よろけた。

 相手は強面の顔に筋肉質で大柄な男だ。パンチパーマを掛けたチンピラ風な男はぶつかった相手である先輩に対し凄味ながらいちゃもんをつけている。周りに人はいない。

 耳に霊力を集中させて聴力を強化。これにより、俺の耳は先輩たちのやり取りを鮮明に聞き取った。

 

「おうおう姉ちゃん、痛いじゃねぇの。俺だからよかったものの普通なら怪我しちまうところだぜ。まあ、詫びにちょとっと付き合ってもらうがな」

 

「あー、すまない。付き合ってやりたいのも山々なんだが、今は取り込み中でな。連絡先を教えてくれれば後日、喜んで付き合おう」

 

「あー? ……て、てめっ! 男なのか!?」

 

「うん? ああ、この格好か。これは『猫娘変化』に登場するみおちゃんの姿だ。中々のものだと自負しているのだが、どうかね?」

 

「ふざけんなばっきゃろー!」

 

 チンピラが先輩の胸倉を掴み上げる。足が地面から離れるほどの力で持ち上げられるが、先輩は慌てることなく相手をなだめた。

 

「落ち着きたまえ。短気は損気という言葉を知らないのかね?」

 

「知るかっ! いいか。俺はな……俺はなぁ……!」

 

 ふるふると拳を震わせるチンピラ。そして、ダバーッと堰を切ったかのように涙を流し始めた。

 

「女装した男が大っ嫌いなんだよぉぉぉ!」

 

「そうなのか。他人の過去を詮索する気はないが、過去に何かあったのかね?」

 

「てめぇに俺の初恋が無残に散った痛みが分かるものかぁ――――!!」

 

 血涙を出す勢いで悲痛な叫び声を上げたチンピラは握りしめた拳を振り上げた。

 先輩はやれやれと首を振るとスッと目を細めた。

 

「短気は損気と言ったばかりなのだがな……。こけ子や、やっておしまいなさい」

 

「コケー!」

 

「うわっ、なんだ!?」

 

 どろん、とお馴染みの白い煙。

 白い煙が晴れ、チンピラは己の姿を見下ろすと、力の限り叫んだ。

 

「なんじゃこりゃぁぁぁああぁぁぁぁあああああああ!!」

 

 なんということでしょう。匠な仕事人によりパンチパーマを掛けたチンピラはブルマと猫耳というマニアックなんて言葉では済まされない姿になってしまった!

 余程ショックだったのか、へなへなとその場に崩れ落ちる。服装が影響しているのか、女の子座りというキモイ姿だ。

 これ以上犠牲者を出すわけにはいかない!

 丁度先輩に追いついた俺は頭上から魔法少女的なステッキを振り上げながら落下した。

 

「……魔法少女、あたぁーっく」

 

 ステッキの錫杖頭部分でぶっ叩くという物理攻撃。体重と落下速度も加味されているためクリティカルヒット間違いなし。

 先輩は背を向けているから不意打ちでの形になるが、このくらいは許されるだろう。何気にハイスペックの持ち主だから大事には至らない。はず!

 

「むっ、川平か! なんのこれしき……っ!」

 

 気配で察知したのか、それとも自身を覆う影で分かったのか。なんにせよ振り下ろしたステッキが当たることはなかった。直撃する寸前で俺に気が付いた先輩は驚異的な反射速度で避けてみせたのだ。

 地面を転がって回避する先輩。振り下ろしたステッキはチンピラの目の前を通り抜けた。

 豪っと唸る風。ひぃっ、と悲鳴を上げて尻もちをつくチンピラ。

 躱されてしまい、つい舌打ちをしてしまう。

 

「ちっ、外した……」

 

 スカートの汚れを掃い立ち上がった先輩はムカつくほど涼しげな顔で手を上げた。

 

「やあ川平。もう追いつくとは流石鍛えているだけあるな。だが、この河原崎直己、そう易々と捕まるわけにはいかない!」

 

 そう言うとポケットから球体を取り出す。スーパーボールほどの大きさのそれを地面に叩きつけた。

 

「ふははははははっ! さらだばー!」

 

 叩きつけられたボールからもくもくと煙が立ち上り、瞬く間に辺り一帯を覆っていく。

 なんでそんな物を持ってるんだよあの人は!

 煙が晴れた頃には先輩の姿はなく、真っ白な顔で燃え尽きている猫耳ブルマのチンピラだけが残されていた。

 

「あらら、逃げられちゃったね」

 

 猫を抱えたようこが空からふよふよと降りてきた。あまり乗り気ではないようなので今回は猫のお守りをさせている。

 くすくすと笑いながらからかってくるようこ。ぴきっとこめかみに一筋、血管が浮かんだ気がした。

 

 ――あんのファッキン女装野郎ォォォォォォ!!

 

 

 

 1

 

 

 

 もう容赦しない。もともと容赦するつもりはなかったけど、ちょっとは手心を加えようかなと思ってたのに。しかし、奴は自分からそのチャンスをふいにしたのだ。

 サーチアンドデストロイ、サーチアンドデストロイだ! ニワトリは絶対に燃やすっ!

 明日のジョーのように燃え尽きたチンピラをその場に残し、先輩の後を追った。跳躍を繰り返し、すぐに人の目につかないようにアパートほどの高さまで跳び上がる。チラッと後方を見ると騒ぎを聞きつけた人たちがチンピラの元に集まってきていた。なんか見世物みたいになっちゃってゴメンね!

 ふと隣に視線を向けるとぴゅーっと空を滑るようにようこがついてきていた。結構な速度でビルや建物の間を飛び回っているが、ちゃんと遅れずについてこれている。腕に抱かれている猫は目を白黒させていた。

 

「……あっちか」

 

 先輩の後を追うのは比較的簡単だった。なにせ見た目女子高生が木彫りの鶏を小脇に抱えてもうダッシュしているのだから。

 すれ違う人たちが必ず後ろを振り返って先輩を見ているため、行き交う人たちの反応を注意して見れば、おのずと向かった先が分かるということだ。

 その反応を追っていると、どうやら一軒の建物の中に入ったようだ。

 正方形の建物でパッと見、五階建てのビルに相当する高さだ。

 オフィスビルの屋上に着地した俺は遠目に見える建物の表札を見た。距離にして約三百メートルほどあるが、強化した目はしっかり表札に刻まれた文字を読むことができた。

 表札には【吉日市文化市民会館】と書かれており、建物の入り口では多くの人が出入りしていた。目を凝らすと、多くの人が二十代の若者に見えた。

 何かのイベントか? ちょっと入ってみるか。

 

「んー、ほっ……よっ、と」

 

 ビルのビルから飛び移り、歩道機を足場にまた跳躍。まさに忍者になったつもりで人目を忍び目的地へ移動する。

 とりあえず屋上から内部に侵入した俺たちは三階の関係者区域と書かれているテープを潜り、なにやら作業場のようなスペースを抜けて、人の気配がしたら物陰に隠れ、非常扉のところまでやってきた。

 中央が吹き抜けになっているため三階の非常扉の前からでも一階の様子が見てとれる。

 

「うわー、すごい人の数だねケイタ」

 

「なにをしてる人たちなのでしょうか?」

 

 やはり何かのイベントを行っているようで、一階には多くの人で賑わっていた。行き交う人たちの様子を見ていると、この会場で何が行われているのかが分かってきた。

 どうやら同人誌の即売会らしい。あちらこちらに長テーブルが設置されていて、その上には商品と思わしき本が陳列している。売り子と思われる女の子が客を呼び止めたり、せわしなく動き回っているスタッフなどが見て取れた。

 長テーブルの前に長蛇の列が出来上がっているのもちらほら。中央に設置された巨大スクリーンには宣伝用PVと思われる動画がループ再生されている。

 初めて見る同人誌即売会の様子に驚いているようこと猫。俺も初めて見た。噂には聞いていたが、すごい人の数だ。熱気がここまで伝わってきそうだもの。

 見ればコスプレをしてる人も少なからずいるようだ。

 なるほど、木を隠すなら森の中か。だが、それはこっちも同じなんだぜ?

 ここなら堂々と人前に出れるからな!

 

「ようこ、降りる」

 

 それだけ言って非常階段を降り始める。降りる際にカンカンカン、と金属製の階段を踏む音が鳴るが一階からの騒音で掻き消されるため、気に留める人はいないだろう。

 

「ねーケイタケイタ、この人たち何を売ってるの?」

 

 一階に降りるとようこが近くのサークルで展示されている同人誌をしげしげと眺め首を傾げた。最近はドラマや映画、漫画などを嗜むようになったようこだが、流石に同人誌は知らないらしい。

 簡単に同人誌の説明をすると「ほへぇ~」と感心したような顔をした。

 

「人間ってすごいねー。好きって気持ちだけでこんなものまで作っちゃうなんて」

 

 展示品であるガン○ムに登場するような機体をポンポンと叩く。人とほぼ同じ高さのそれはかなりのクオリティを誇っており、とても手作りとは思えない出来栄えだ。スタッフに聞くと彼らは理工学部に所属する大学生で、趣味が高じてロボットのモビ○スーツを作ってしまったらしい。まじパネェ。

 チカチカ光るビームサーベルを感心しながら見ていると、背後から声を掛けられた。

 振り返ると、何かのキャラクターと思わしきコスプレをした二人組の女の子が目を輝かせてこっちを見ていた。

 

「あのあの! それってプリ○ムイ○ヤのコスプレですよね!」

 

「その猫耳と尻尾もアレンジも違和感がなくて可愛いし、すごいクオリティ! あの、これって手作りですか!?」

 

 並みならぬ熱意を向けてくるコスプレっ娘たち。勢いに押されて一歩後ずさると、ようこの方でも人に囲まれているのが目に入った。

 

「これって【猫娘変化】のリリカちゃんのコスチュームでしょ?」

 

「すごい肌触り。まるで本物の猫耳みたい!」

 

「キャーこの猫可愛いー! 仏像のコスプレしてる!」

 

 ちょっとした人垣が出来上がると、中にはこんな要望をしてくる男が出てくるわけで――。

 

「ちょっと写真いいですか?」

 

 とか。

 

「あ、こっちもお願いしまーす!」

 

 とかとか。

 

「目線お願いします。あとこういうポーズを――」

 

 とかとかとか。

 カメラ小僧のようにマイカメラを構える男たちに最初は戸惑っていたようこだが、ちやほやされるうちに段々と調子に乗っていき、はしゃぎ始めた。撮影者の注文に応じてポーズを取ったり、満面の笑顔でピースサインを浮かべたりしている。

 女の子のカメラマンやコスプレイヤーも加わり場は一層盛り上がりをみせた。

 俺? 応じるわけないだろ。写真という物的証拠が流出したら色々と終わるわ!

 

「……ようこ、任せた」

 

 この場は任せた!

 まるで敵に追われる空軍パイロットのように、ようこというデコイを放ち、人垣という名のミサイル軍から逃れる。

 ようこ(デコイ)は立派に任務を全うした……。

 もうデコイは使えないからカメラマンには捕まらないように気をつけないと。

 

「啓太さーん!」

 

 よろよろと人垣から猫が出てきた。もみくちゃにされて少し参っているようだ。

 猫はようこに預けていた携帯を差し出してきた。

 

「仮名さんから電話ですよ!」

 

「待ってた……!」

 

 待ちわびていた仮名さんからの着信! と同時に先輩の後ろ姿を捉えた!

 猫を抱き上げた俺は耳元に携帯を当ててもらい、電話に出た。

 

「仮名さん……っ」

 

『川平だな?』

 

 電話の向こうは何やらざわついているようで声が少し遠い。

 

『留守電を聞かせてもらったが、まだ状況を理解しきれていない。三体の骸骨に月の絵、間違いないんだな?』

 

「間違いない、ちゃんとあった。木彫りのニワトリでコケコケ鳴く。服装を変える能力があるみたい」

 

『木彫りのニワトリか、了解した。いいかよく聞くんだ。それが確かに彼の魔道書なら前と同じように人の強力な念に反応するはずだ。とにかくそいつを念が強そうな人に近づけるな。私も急いでそちらに向かっている』

 

 無茶な注文をオーダーしてくる仮名さん。超危険人物に渡っちゃっているよ!

 

「……すでに手遅れかも。超強力な念の持ち主に確保されてる」

 

「くっ、そうか……! なるたけ急いで着くようにする。できる限り被害を抑えるんだ!」

 

 はい、頑張ってみまーす。

 さて、いい加減先輩を捕まえないとな!

 霊気の高速循環による身体強化を施した俺は大きく屈みこんだ。バネを限界まで圧縮するように、ぐっと大腿四頭筋に力を込める。

 ミチッと膨れ上がった筋肉でストッキングが悲鳴を上げた。

 そして、限界まで抑え込んだ力を解放し、床を踏み抜く勢いで駆け出した。

 

 

 

 2

 

 

 

 啓太たち一行が市民会館にやってくるちょっと前。河原崎は持ち前の健脚を活かし、人ごみの中を縫うように走っていた。

 今日、同人誌即売会が市民い会館で行われることはもちろん知っていた。出店側としてこの日のために【猫娘変化】の新刊も仕上げてある。サークルメンバーの同志たちが今頃販売しているだろう。

 啓太から逃れるために人ごみに紛れながら、オタクとして買うものは買う河原崎であった。

 不意に入り口付近の売り場で歓声が上がった。振り返ってみると啓太たちが売り子やコスプレイヤー、男性客たちに囲まれている。どうやら写真の許可を頼んでいるようだった。

 さもありなん。彼らの容姿は並以上であり、着ているキャラクターのコスチュームも面妖なニワトリの力によるもの。商業品として売り出せるほどのクオリティだ。

 啓太が着ているプリ○マイ○ヤは本来女性が着る服なのだが、元々中性的な顔だちをしているため、然程違和感なく着込めている。

 三階にやってきた河原崎はチェックしていたサークルの最新刊を購入すると、何かに気がついたように苦笑した。

 

「もう追いついたのか。まったく、川平の身体能力は出鱈目だな。霊能力者というのは皆ああなのか?」

 

「コケー!」

 

「さっきからどうしたのだ。具合でも悪いのか?」

 

 河原崎の肩の上ではニワトリが興奮したようにコッコッコッ、と鳴いている。

 先ほどからどうも様子がおかしい。不自然に目がキョロキョロ動いてはバサバサと羽を動かしたりとせわしない。

 思えばこの建物に入ってから様子がおかしくなり始めたようだった。不思議に思うが、オカルトには疎い河原崎では見当もつかない。

 

「か、河原崎さん? どうしたんですかその恰好!?」

 

 不意に聞こえてきた声に顔を上げる。そこには彼を師匠と崇めるサークル仲間の少年が呆気にとられた顔で眺めていた。

 どうやらいつの間にか河原崎が所属するサークルのエリアに来ていたらしい。他のメンバーはまだ河原崎の姿に気が付いておらず、忙しそうに動き回っている。

 

「まあ色々あってな。それよりどうだ? 新刊の売れ行きは」

 

「それはもう好調ですよ。すでに部数は完売しました」

 

「それは重畳。ようこさんにも是非、この場所を見てもらいたいものだ」

 

 なにやら遠い目でそう呟く河原崎。

 そして、その言葉に応えるようにどこからともなく啓太が降ってきた。

 ダンッと着地した際の音が鳴り響く。周囲の人は空から魔法少女のコスプレをした男が降ってきて軽くざわついていた。

 

「ようこじゃなくて俺が来た。追いついた……ニワトリ渡す」

 

 ピッと犯人を指さす名探偵のように手にしたステッキを突きつける。

 河原崎は涼やかな表情のまま髪をかき上げた。

 

「さすがだな川平。だが、この河原崎直己。河原崎流柔術を嗜む身の上。そうそう貴様に後れは取らないつもりだ」

 

「やる気? 先輩に勝ち目はない」

 

「勝負は時の運。やってみないとわからんさ。男らしく腕っ節で勝負しようじゃないか」

 

 河原崎の言葉に啓太の表情が動く。ピクリと眉が小さく上がると、口元が少しだけ緩んだ。

 

「面白い。その話、乗った」

 

「では決まりだな。お前が勝ったら大人しくこけ子は返そう。ただし約束しろ。決してこけ子に危害を加えるな! この子は俺の理想を読んで体現してくれただけだ。この子自身に罪はない。すべてはこの俺、河原崎直己に罪がある!」

 

「……お前が勝てば俺を煮るなり焼くなり好きにすればいい。だが、こけ子は壊さないでやってくれ!」

 

 河原崎の真摯な嘆願にしばらく黙考していた啓太だったが、やがて小さく頷いた。

 

「……封印はするかもしれないが、破壊はしないと約束する」

 

「それしか方法がないというなら仕方ない」

 

 河原崎は肩に乗っかっていたこけ子をそばにいたサークルメンバーの少年に渡した。受け取った少年は「えっ? えっ?」と困惑した様子で佇んでいる。

 互いに距離をとる。

 

「だが川平よ、これだけは言っておく。こういうイキモノを滅することだけがオカルトじゃないはずだ。お前も霊能者ならば最善を尽くせ! 異形であるものたちを生かし、より良い未来へと繋いでみせろ!」

 

 その魂の雄叫びのような言葉に啓太は目をぱちくりさせると、ふっと微笑んだ。

 

「……その考え、嫌いじゃない」

 

「それはなによりだ」

 

 啓太は手にしていたステッキを手の内でクルクルっと回し、順手で持つと半身になって構えた。ステッキが体に隠れて見えず、まるで刀を扱っているかのような構えだ。

 対して河原崎は背筋をスッと伸ばすと手を垂直に開いた。見た目は合気道の開手の構えに似ている。

 沈黙が流れる。二人の緊張感に呑まれ、周りにいる人も固唾を呑んで見守っていた。

 そしてーー。

 

 




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