いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 お待たせしました。



第七十九話「一時の母(下)」

 

 

 時間にして一分でしょうか、それとも十分でしょうか。

 私の胸の中で声を上げて泣いていた啓太様はやがて落ち着きを取り戻すと、腕の中で小さく身じろぎをしました。男の子ですからね、泣き顔を見られて恥ずかしいのかもしれません。

 ですが啓太様は、抱き締める力を緩めても変わらず私の腕の中にいました。むしろベッドから下り、啓太様の方から背中に手を回してきて、きゅっと抱き着いてきます。

 そのお顔は、うっすらと赤くなっていますが、どこか嬉しそう。

 

「えへへ……おかーさん♪」

 

 すごい笑顔。少々顔は赤いですが、甘えた声音で満面の笑みを見せてくれる啓太様に思わず絶句してしまいました。

 一目で甘えてくれていると分かる、無垢なその笑顔。そして、全幅の信頼を寄せた母へ向ける甘えた声。

 それらすべてが私の精神に途方もない衝撃を与え、心が弾む。

 

「~~っ!」

 

「け、ケイタ、すごくかわいい!」

 

「わっ……よーこ、おかあさん? あはは、くすぐったい~」

 

 啓太様の愛らしさに悶える私の隣でようこさんが啓太様に抱き着きました。顔をすりすりさせるようこさんに擽ったそうにしながらも嬉しそうな笑みを零す啓太様。

 ようやく復活した私も啓太様を抱く腕に力を込め、ぎゅぅぅ~っと強く抱きしめました。

 

 さて、少々暴走した感は否めないところですが、いつまでもこのままというわけにはいきません。

 右手を私、左手をようこさんで、それぞれ啓太様の手を繋ぎ仲良く一階のリビングに向かいました。椅子に腰掛けた啓太様にオレンジジュースが入ったコップを渡し、私たちも席に着きます。

 霊薬丸の副作用で精神退行したとはいえ、どこまで退行したのか分かりません。なので今の啓太様の状態を把握するために色々と質問する必要があるのです。

 ちびちびとオレンジジュースを飲む啓太様の姿に思わず笑みが浮かぶ中、まず最初の質問を投げ掛けました。

 

「啓太様は今、おいくつですか?」

 

「んっと、三さい!」

 

「三歳! それじゃあわたしたちのこと覚えてなくても仕方ないね」

 

 ようこさんの言葉に頷きます。ようこさんも私も、啓太様と出会ったのはもっと後ですからね……。

 それにしても、三歳ですか。その頃の啓太様はこんな感じだったんですね~。

 

「啓太様は昨日、何をしていたか覚えていますか?」

 

「きのう~? わかんない!」

 

「そうですか」

 

 精神的に退行しただけでなく、それに合わせて記憶も一時的に封じているといったところでしょう。今のところ混乱などはないようですし問題は無さそうですね。

 不意にクゥ~、と可愛らしい音が聞こえてきました。お腹に手を当てた啓太様が物欲しそうな顔を向けてきます。

 どうやらお腹が空いたみたいです。丁度いい時間ですし、そろそろご飯にしましょう。

 

「ではご飯にしましょうか。今日はハンバーグですよ」

 

「はんばーぐ!」

 

 顔を輝かせる啓太様。よかった、喜んでもらえて。さすが子供に人気の料理ですね。

 

「すぐに出せますから、いい子にして待っていてくださいね」

 

「うんっ」

 

 すでにハンバーグは焼きあがっているので後は盛り付けだけ。席を立った私がそう言うと啓太様は満面の笑顔で頷きました。

 私が初めて啓太様と出会った頃はすでに今の性格で、表情の変化が乏しい姿でした。しかし、霊薬丸の副作用で幼い姿になった啓太様からそんな様子は微塵も感じられません。天真爛漫で無垢なその姿は今とは真逆の性格と言ってもよいほどで、その落差に、過去啓太様の身に"性格が変わるほどの何かがあったのではないか"という考えがよぎってしまいます……。

 ハンバーグを乗せたお皿に付け合わせの野菜を盛りつけながら、そんな考えを心の奥に押し込みました。子供は純粋であるがゆえに勘が鋭いですから。要らぬ心配や不安を掛けたくないですもの。

 今の啓太様の精神年齢は三歳ですが、体は十六歳。なのでハンバーグの大きさは普段通り、拳大ほどの大きさです。ようこさんはよく食べますから啓太様のより心持ち大きめのサイズ。私は一回り小さい拳の大きさ、といったところでしょうか。

 ソースは自家製のデミグラスソース。付け合わせはニンジンとコーン、飾りつけとしてパセリを乗せてみました。それとコーンポタージュのスープ、ツナサラダ、ご飯、そしてデザートのプリンが今日のメニューです。

 

「ん~♪ 子供ケイタ可愛いすぎ~♪」

 

「あははっ、おかあさんくすぐったいよぉ」

 

「こら、暴れないの。大人しくようこお母さんに抱っこされなさいっ」

 

 リビングからようこさんと啓太様の楽しそうな声が聞こえてきます。見れば、ようこさんが膝の上に乗せた啓太様をギュッと抱き締めていました。ご満悦な様子でお腹に手を回し、啓太様の首筋に顔を擦り付けるようにしています。

 それがくすぐったいのでしょう。声を上げて身をよじる啓太様ですが、その笑顔に曇りはなく嬉しそうです。

 

「はい、ご飯ですよ~。啓太様、ちゃんと良い子にしてましたか?」

 

「うん! あのね、よーこおかあさんといっしょにいい子してたよ」

 

「そうですか。啓太様は良い子ですね♪ そんな良い子の啓太様にはご褒美にデザートのプリンもつけちゃいます♪」

 

「プリン!」

 

 小皿に乗ったプリンを見た啓太様が歓声を上げました。みんな大好きぷっ○んプリン。丁度、先日買ったものがあったので出してみましたが、喜んでくれてよかったです。

 ちなみ啓太様は通常のカスタード味、ようこさんはチョコレート味です。

 食事ということで啓太様を膝から下し、自分の隣に座らせるようこさん。料理を並べた私は少々思うところがあり、ようこさんにこんな話を持ちかけました。

 

「ようこさん? 私も啓太様の隣がいいんですけど」

 

「えー。私だってケイタの隣がいいもん。こういうのは早い者勝ちじゃない?」

 

「それだと食事の支度がある私が不利じゃないですか」

 

 テーブルは四人掛けなので必然的に啓太様の隣はどちらかしか座れません。普段の席順ですと啓太様の隣はようこさんで、私もそんなに気になりませんでした。

 しかし、今の啓太様は三歳という幼子。あーんなど食事のお手伝いをしたいです。なので、今回ばかりは啓太様の隣は譲れません!

 お互い主張を曲げないのは明確。なのでここは公正を期してジャンケンで決めましょう。

 全力のジャンケン勝負。動体視力を最大限活かし、互いの動きを読みあいながら手を出す。

 あいこになること三十五回、ようやく勝敗が決しました。

 犬神としての自力は私の方が少々上回っていたようですね。大人げないかもしれませんが、これも勝負。啓太様のお世話は私がさせて頂きますっ。

 ぶぅ~、と唇を突き出して不満を露にしていたようこさんですが、仕方ないかと気分を切り替えて席につきました。ようこさんも大分精神的に成長しましたね。昔ですとそのままダダっ子ようこさんになっていつまでも不満をまき散らしていましたし。

 

「それでは、いただきますしましょうか。さあ、いっしょに手を合わせて、せーの」

 

『いただきます!』

 

 可愛らしい子供特有の掛け声。その愛らしさにホンワカしながら、フォークに手を伸ばしました。

 あっと、自分の食事の前に啓太様の様子を見てみましょう。三歳ですから、上手くフォークとナイフを使い分けるのが難しいかもしれませんし――。

 

「ハンバーグ!」

 

「って、啓太様!?」

 

 見ればフォークをぶすっと突き刺し、丸々ハンバーグに齧りつこうとしている啓太様のお姿が。

 

「だめですよ啓太様、そんな食べ方。メッですよ」

 

 慌てて止めに入り、私のナイフで切り分けて差し上げる。

 お肉を一口サイズに切り分けると、手を添えて啓太様のお口に運びました。

 

「あーん」

 

「あー」

 

 雛鳥のように可愛らしく口を開けた啓太様がお肉を頬張る。もぐもぐと口を動かすその様子を見守りながら、若干の緊張を感じつつ料理の出来栄えを聞いてみました。お口に合うといいんですけど……。

 そして啓太様は私の不安を消し飛ばすように愛らしい笑顔を浮かべてくれました。

 

「おいしい!」

 

「よかった。たくさん食べてくださいね♪ はい、あーん♪」

 

「あーん」

 

 こうして私の手で食べさせていると、なんだか優しい気持ちになります。まるで本当の自分の子の世話を焼いているような、そんな錯覚さえ覚えてしまいそう。

 私たちの間にもこんな可愛い子供ができるといいなぁ……。

 

「むぅ、いいなぁ。わたしもケイタにあーんさせたいよぉ……! 悔しいっ、でも美味しいっ!」

 

 ようこさんは未練がましそうな目を向けながらパクパクとハンバーグを食べています。そんなようこさんの様子に気が付いた啓太様は、なんと自分からあーんを催促したのです!

 

「よーこおかあさん、あーん」

 

 身を乗り出すようにして口を開く啓太様。パァッと顔を輝かせたようこさんは早速お箸で自分のハンバーグを切り分けて、啓太様のお口へ運びました。

 そして私は、美味しそうにモグモグと咀嚼する啓太様の頭を撫でます。良いことをしたら褒めるのは教育の基本ですから。我が家の教育方針は"褒めて伸ばす"です!

 

「ようこお母さんにもあ~んしてあげられる啓太様は偉いですね~。お母さんは啓太様が良い子でとても嬉しいです♪」

 

「ボク、いい子?」

 

「はい♪ 啓太様はすっごくいい子です♪ なでしこお母さんもようこお母さんも、良い子な啓太様が大好きですよ~♪」

 

「ボクも! おかあさんだいすき!」

 

 ニパッ☆、と大輪の花が咲いたような愛らしくも可愛らしい笑顔を浮かべる啓太様に私もようこさんもノックアウト。思わずギュッと抱き締めて頬をスリスリさせちゃいます。

 見ればようこさんも顔を背けてプルプルと肩を震わせていました。顔から愛が溢れてしまいそうなんですね。その気持ち、わかります。

 

「~~っ! ああんもうっ、ケイタ可愛すぎ!」

 

「ふぇぇ、おかあさんたちくるしいよぉ」

 

 席を立ったようこさんは反対側に抱き着き、私と同じように啓太様のサラサラな髪に顔を押し付けると、ぐりぐり~っとします。私とようこさんでサンドイッチされた啓太様は両側から頬を擦り付けるられて苦しそうな声を上げました。しかしそんな言葉とは裏腹に、啓太様のお顔は笑顔でとても嬉しそうです。なので、私たちももっと顔を摺り寄せました。

 このように明るく楽しい食事を続ける私たち。食事を終えるのに普段の倍の一時間も掛けてしまいました。

 

 

 

 1

 

 

 

 食事を終えた後は啓太様をお風呂に入れました。地下一階にある大浴場は銭湯並みの広さを誇り、浴槽は檜木で出来ています。啓太様お一人をお風呂に入れるわけにはいかないので、当然私たちもご一緒することになりました。

 しわが付かないように畳んだ服を籠の中に入れて、タオルを体に巻いて、と。うん、ちゃんとようこさんも丁寧に服を畳んでいますね。無頓着に服を脱ぎ捨てていた頃に比べると、ようこさんは本当に成長しました。人間社会の常識や礼節、女の子としての在り方などを教えていた身としては感慨深いものです――。

 

「んしょ、んしょ……」

 

 見れば啓太様が服を脱ぐのに苦戦していますね。一人で服を着替えるのが啓太様にはちょっと難しいようです。なのでお手伝いしましょう。はい、啓太様バンザーイしましょうね~。

 

「ばんざーい!」

 

「はーい、そのままですよ~」

 

 たくしあげて服を脱がせて、と。次はズボンですね。……恋仲になったとはいえ、殿方のズボンを脱がすのはやっぱり恥ずかしいですね……。

 顔が赤くなるのを自覚しながらも、なるべく見ないようにしてズボンと下着を脱がし、啓太様の腰にタオルを巻いて差し上げた。

 すると、すでに入浴準備が出来ていたようこさんが啓太様の手を取って駆け出しました。

 

「わわっ」

 

「ほら、ケイタ行こ!」

 

「走ったら危ないですよ!」

 

 スッポンポンの啓太様の手を引き「一番風呂ー!」と浴室へ駆け込むようこさんに注意するも、平気平気と受け流してしまっている。これは後でお説教ですね! 啓太様から目を離すわけにはいきませんので、私も慌てて後に続きました。

 

「おふろおっきー!」

 

 銭湯並みに広い浴室に目をキラキラと輝かせた啓太様は、そのまま駆け出し――って!

 

「ダメですよ啓太様! まずは体をゴシゴシしないと!」

 

 お湯が張った浴槽に飛び込もうとした啓太様を慌てて抱き留める。そのまま飛び込んだら熱いですよ!

 

「それと怪我したら危ないですから、走ってはいけません。メッですよ」

 

「あぅ、ごめんなさい……」

 

 腕の中でしょんぼりする啓太様ですが、私が「ちゃんと"ごめんなさい"出来ましたね」と頭を撫でるとすぐに可愛らしい笑顔を向けてくれました。やっぱり啓太様には笑顔が一番似合いますね。

 さて――。

 

「あー、その……ゴメンなでしこ」

 

 バツが悪そうな顔をしたようこさんが小さく頭を下げました。

 どうやら私が何に怒っているのかわかっているようですね。

 

「転んで怪我をしてからでは遅いんです。しっかりしてください」

 

 反省しているようなのでこれ以上は言いませんが、今度からは気を付けてくださいよ?

 ということで、まずは体を洗いましょう。檜木のお風呂に似合う木製の椅子に啓太様を座らせてと。

 

「はい、まずは体を洗いましょうね。お湯かけますよ~」

 

 啓太様の後ろに回った私はシャワーを取るとお湯を出して温度を調整。丁度良い温かさになったら啓太様の背中を流していきます。

 

「熱くないですか?」

 

「うん!」

 

 気持ちよさそうに目を細める啓太様を見ていると心が和みます。ボディソープをタオルに馴染ませたら啓太様の体を洗っていきます。

 強すぎると肌を傷つけ、弱すぎると垢を落とせない。ほどよい力加減で啓太様のお背中をタオルでゴシゴシしていきます。

 

「わたしも洗おっと」

 

 体を覆っていたバスタオルを外したようこさんが隣の席に座りました。

 普段の啓太様ですと、裸のようこさんを前にしたら分かり難いですが僅かなりとも動揺を見せるでしょう。ですが、精神年齢が退行した今の啓太様は三歳の幼子。安心しきった笑顔を浮かべています。それだけようこさんに心を砕いてくれているのでしょう。

 さて、背中を洗い終わったら今度は前の方なのですが、流石にソコを洗うのは恥ずかしいですね……。

 

「啓太様、前の方は自分で洗えますか?」

 

 念のためそう尋ねると、啓太様は恐る恐るこのように聞いてきた。

 

「……おかーさんあらってー?」

 

 甘えようとしてくれているのだと、心が理解しました。そのような姿を見せられてしまっては否と言えないではありませんか! もちろん嫌だなんて言うつもりは微塵もありませんがっ!

 

「わかりました。それでは私が洗わせてもらいますね」

 

 ようこさんは……どうやら気が付いていないようですね、よかった。こんなところを見られたらまた駄々をこねるに違いありませんから。

 何度も体を重ねた関係とはいえ、やはり殿方のそこを触るのは恥ずかしいです……。

 

 ――平常心、平常心で挑むのよなでしこ! 極力気にしないですぐに洗っちゃえばいいの!

 

 自分に言い聞かすように何度も心の内で呟きながらボディソープを手に馴染ませる。殿方のソコはデリケートなので、タオルではなく手で洗った方が良いですから。他意はないですから!

 なるべく無心で洗ったつもりの私でしたが、鏡に映った自分の顔は赤らんでいたと記憶しています……。

 

 その日の夜は三人で川の字になって床に就きました。もちろん啓太様が真ん中です。お疲れなのか、床に就いてすぐに寝入ってしまいました。

 普段の啓太様はそこまで酷い寝相ではないのですが、子供に戻った今は少々様相が違うようでして。ゴロンと寝返りを打っては胸元へ顔を埋めて「おかーしゃん、しゅきぃ……」と甘い寝言を呟き、コアラのように全身で抱き着いてはスリスリと顔を摺り寄せてくる。もしかしたら夢の中でも甘えているのかもしれません。

 そんな可愛いらしい主人の寝相にキュンキュンしてしまって眠れるわけがなく、ようこさんと一緒に愛らしい寝顔を見せる啓太様をずっと眺めていました。

 

 そして翌日。すっかり気を許してくれた啓太様は嘗てないほどの甘えっぷりを見せてくれました。

 どこへ行くにも私たちの後をついて回って、決して離れようとしないのです。お掃除で家中を歩き回っても後ろにピッタリ付いてきて、困ったことにトイレにも付いてこようとするほどです。さすがにそれは恥ずかしいので扉の前で待っていてもらいましたが。

 しかし、そんな啓太様の様子がまるでカルガモの子供のようで、もう私もようこさんもすっかりメロメロです。家事の最中でも我慢できずについ啓太様をギュってしちゃいますもの。

 啓太様の甘えはこれだけではありません。特に一番顕著なのが抱っこです。

 

「おかーさんだっこー!」

 

「だっこしてー」

 

「ぎゅぅーってやって~!」

 

 と、啓太様の方から声に出して要求してくるのです。手を伸ばして甘えてくるその姿、その破壊力たるや凄まじいの一言に尽きます……!

"あの"啓太様が抱っこしてほしいと言ってくるのです。表情らしい表情がなく喜怒哀楽をなかなか表に出そうとしない"あの"啓太様が! これまで甘える姿勢を見せたことがなく、恐らく甘え方というのを知らない"あの"啓太様が……!

 当然抱っこしないわけがなく、むしろ鬱陶しく思われるほど抱っこをして差し上げました。もう十六なのに全然身長が伸びないと嘆いていらっしゃる啓太様は私たちとほぼ同じ背丈です。普通では女性のみで男性を持ち上げるのは厳しいでしょうが、私たちは犬神。妖力で強化すれば啓太様くらいでしたら楽々と持ち上げることができます。なので、私もようこさんも思う存分抱っこをして差し上げました。

 なんにせよ、啓太様にうんと甘えてもらえて私もようこさんも大変満足しています。今回の私の試みは成功したと言っても過言ではないでしょう。

 ですから――。

 

「あの、どうか落ち込まないでください。啓太様は何も悪くないのですからっ」

 

 すべては私が悪いのでして、啓太様は何一つ悪くありません。ですから、いい加減お布団から出てきてください~!

 

 

 

 2

 

 

 

 お布団ナウ。違った、インザお布団ナウ。

 退行していた精神が元に戻った俺はこれまで自分がしてきた出来事を思い返し、即黒歴史認定。

 あまりの酷さに自室の布団へ逃げ込み現実逃避するも、外部からなでしこたちの声がめっちゃ掛かってくる。あまり追い打ちかけんといて!

 俺が、俺があんなことをするなんて! しかも今になって満更じゃないのがなんだか複雑……ッ!

 布団のを被り絶対防御体勢を取りながら、なでしこから事情を聴いた。俺がオカンを恋しがってるという推察は色々とツッコミたいところではあるが、俺を思っての行為だから不問としよう。

 何よりも問題なのは、当時の俺の行いだ! なんだよ「おかーさん」って……なにが「抱っこー」だよ! 気持ち悪いんじゃボケェェェェェ!

 

 弁明させてもらうと、ぶっちゃけあれは俺であって俺でない。俺は生まれた時から前世の意識があったため、生まれながらにして精神が成熟していた。しかし、霊薬丸の副作用によって俺の精神が退行してしまったため、恐らくは前世での子供のような性格に戻ってしまったのだ。いや、戻ったというのも正確ではないな。なにせ前世の子供の頃の記憶とかないもの。

 前世の子供の頃は本当にあんな性格だったのかもしれないし、もしかしたら辻褄を合わせるために新しく作りだした性格なのかもしれない。確かめる術がないから正確なところは分からないが、あの状態の俺は自分でも予想外だったとだけは言える!

 しかし誤算だったのはああやって甘やかされるのも存外悪くなかったということだ。実母とかどうでもいいが、なでしこやようこに子供として甘えるのは、ぶっちゃけよかった。くそっ、まさか俺にそんな性癖があるなんて……!

 なでしこはもちろんながら、ようこも意外と母性的で新たな一面を知った俺。こうなったら開き直って、いっそのこと幼児プレイでも興じるか? 俺に甘えん坊願望が僅かなりとも存在するのだと知ってしまったし、黒歴史に追加しちゃったのだから毒を食らわば皿までの精神で……!

 よぅし、こうなったらトコトンだ! 存分にバブみを感じてオギャってやるっ!!

 この数日後、ごきょうやとともはねの力を借りて改良を施した霊薬丸を服用するのだった。

 

 





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