めんどくさいけど入れるとやっぱり華やかになるな、特殊タグ。
「いやあぁーーーーーーーーっっ!!!」
「こらこら〜、逃げちゃダメだぞ〜」
「ギャンギャンッ!!」
ユイが廃れた神社で決意を述べる頃、ハルは廃工場で鬼ごっこをしていた。
チャコはハルを先導し、時々鳴き声を張り上げて後ろを牽制する。ハルは必死で足を動かし、最後の脅威から逃れようとする。
「はあっ、ひいっ、はぁ…!!」
また、背中に気配。
勘で横に避ける。瞬間、さっきまでハルの体があった所に灰色のムチのような腕がしなる。
「あー、また。とろいくせにカンが鋭いなぁ」
背中からそんな声が聞こえてくる。
ハルはもう堪らなくなって、ついいつもの弱音が喉の奥から漏れ出てしまった。
「─────もう、いやだ!!」
その瞬間、遠く遠く離れた山内、寂れた神社の境内で振り返る一つの影があった。
「………」
「どうしたの?」
「…」
ユイとコトワリさまである。
「山の神討伐に同行」「ハルを守ってあげて」二つの願いを託されていたコトワリさまは、逡巡したのち一番新しく緊急性の高そうな願いを優先させることにした。状況判断力の高い神様である。
「…!」
「あ、ちょっ!?」
いきなり動き出したコトワリさまを制止するユイ。
しかし一陣の風が吹いたかと思えば、そこにはもう彼の姿はなく。
(…はじめてあったときみたいだなぁ…)
ユイは一人、ポツンと神社に取り残されてしまったのだった。
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「ほーら、つ、か、ま、え…」
伸びる腕、ほつれた足。
…もうすぐ、この廃工場から出られるところだったのに。
もう、駄目だ。ハルはそう思って目を閉じた。
…ガキィンッ!!
しかしいつまで待っても体を絡めとる腕は来ず、代わりに聞こえてくるのは鉄の地面に固いものが当たる音。
「…!!」
ばっと後ろを振り返ればそこには、この夜に何度も助けて貰った頼りがいのある背中。月の光に照らされて、赤い切先が光って見えた。
「…」
ハルはすっかり安心してしまい、その場にへたり込んで、声のひとつもあげられなくなってしまった。
「…んん?」
白いお面の男は、自分に向けられたそれを見つめて固まっている。
「……は?」
「…」
「えっ?お前、まさか…」
「…理?」
次の瞬間、廃工場には大爆笑が響き渡った。
「だははははははははははは!!!!!」
白いお面の男は上半身を後ろに折り曲げて大爆笑していた。その角度がやばいのはもう突っ込まないでおく。キンキンと、笑い声はそこかしこで反射してかなりうるさい。近所迷惑にならないかなぁ…とハルは顔を顰めた。コトワリさまは、背中だけでも分かるほどにぶすくれている。
「何、おま、縮み過ぎだろ!!しかもそんな可愛い子侍らせて、人のことどうこう言えなあ痛"ァ"ッ!!やめろ!!執拗に脛をローキックしてくんのはやめろォッ!!!」
…かなりキレている。ローキックの鋭さからそれが伺える。
その後もコトワリさまは数分間無表情でげしげしと脛を蹴り続けた。
「はぁ…ぜえ…はぁ…」
…とりあえず、食うか食われるかみたいな雰囲気は無くなったから、いいか。目の前のカオスにハルはそう結論づけた。
「クゥーン…」
足元のチャコの声でハルは我に帰る。そうだ、ユイのところに戻らなくちゃ。
「いこう、コトワリさま、わんちゃん」
「ちょちょちょっと待て!!無視!?この流れで無視!?」
後ろで何か喚いている。さっきまでは怖かったが、もう先ほどのやりとりでだいぶ恐怖が薄れてしまった。なので無視してトコトコ歩いて、ハル一行は無事廃工場からの脱出に成功したのだった。
「キャンキャンッ!」
見たことのない家、知らない曲がり角。
どうやらかなり遠くまで連れて来られてしまったようだが、チャコの先導があるから、道に迷うことは無さそうだ。良かったとハルはほっと胸を撫で下ろす。イヌには家の場所を覚えておく力…帰巣本能、っていうんだっけ?心の中でハルは首を傾げた。ともかく、チャコのそれを信じるしかない。
…ただ、ひとつだけ懸念を挙げるとするならば。
「ねぇ、もっと先に行くの?危なくない?やめた方がいいよ?」
「…」
「…言うこと聞かないなら攫」
「…!」
「だあっもう!!わかった!わかったからジャキジャキやめて!」
何故かさっきのこわい人がついてきているということだ。
一応、コトワリさまが目を光らせておいて(眼帯なのは置いといて)くれるため、手出しは出来ないようだが…
「…どうしたの?」
ふと、チャコが立ち止まった。見ると目の前を一匹のムカデがカサカサと道を横切っている。
「おぉ…これは」
「…」
「え?え?どうしたの?」
しかし、それに反応したのはチャコだけではなかった。よまわりさんとコトワリさまも、その虫を見つめて、何かすごいものを見つけたような反応をしていた。
…もしかしたら、何かすごいものがあるのかも?
そう思って、ムカデが走って行った方に歩みを進めてみると…
「ムカデさま?どうし… ぃやぁああああっ!?」
その先にいた赤いリボンの少女に、並々ならぬ悲鳴を上げられたのだった。
「下がって!!」
そこは小さな神社のようだった。
その少女は悲鳴を上げたと思えば、次の瞬間には冷静さを取り戻し、素早くこちらとの距離を詰めハルの腕を引き寄せて庇うような姿勢を取った。その一連の行動は、伝説の傭兵(幼兵?)とでも言われそうな洗練された動きだった。
「わー、久しぶりこともちゃん」
「うわぁあああああしゃべったぁああああ!?」
変わらず警戒体制を取りながら再び少女は叫んだ。ハルは訳もわからず目を白黒とさせている。
「よっ、よ…よまわりさん!?そんな口調だったの!?」
「驚くところそこ?」
よまわりさん、ハルには聞き覚えのないその名前を、まるで昔馴染みかのように少女は呼んだ。「…ああ。それのおかげで見えてないのか。」と言って、よまわりさんはこともと呼ばれた少女の左目…眼帯がされたそれをちょいちょいと指差した。
「それと、こいつのことは気にしないで」
「これを気にせずにいられるもんですか!!」
まるで毛を逆立たせた猫のように、こともは警戒を解くことをしない。それでも、ゆっくりと後退しながら、見えているほうの目を細めて二人のことを注視した。
「……あ…あれ…?」
「改めて久しぶり、こともちゃん。」
ようやくハルと同じものが見えたらしいその少女は、気の抜けたようにかくん、と膝を折った。
「…怖いことに、意味があるんじゃ、なかったの…?」
「アレは君のお姉さんの憶測でしょ?」
「それで隣の…その禍々しいやつは何?」
「縁切りの神。善神」
こともは今度こそ、ふーっと長く息を吐いて警戒を解いた。
「…きみ、なんてものを連れているの?」
多分この回で夜廻・深夜廻主要メンバーが全員登場した。
いつか相関図みたいなのも作ってみたい…