初めて感想もらいました!!嬉しい!!!
小説書く時いつも一番迷うのはサブタイトルです。
…それは薄らぼんやりと、ハルの脳裏に浮かび上がってきた。
どこか知らない場所を彷徨い歩く、自分。
(行かなきゃ…行かなきゃ…)
何故かそれだけ、強く思っていたのを覚えている。
(行かなきゃ…)
辺りは真っ暗で、岩肌のようなものが両脇に見えた。恐らく洞窟のような場所だろう。
それから?
『オイデ』
『ハル!!』
『ギャンッ!!』
ガツン!と、頭を殴られたような衝撃が、記憶の糸を辿っていたハルの思考を遮った。
…見えたものは、今まで見てきたどんなものより恐ろしいもの。
それから、だれかの悲痛な声。
『クロ…クロ…!』
少し開けた空間に、青白い手が重なり合ってできた巨大な蜘蛛のようなものがこちらを見下ろしている。にやにやと笑っているように見える顔が不気味だ。垂れ下がった赤い糸の束が、まるで滴る血のようだった。
『そんな…いやだよ…こんなのいや…』
自分の近くから聞こえる声。顔は見えない。でも誰だか分かる。聞き慣れた声だった。
聞いたこともないような声だった。
信じられなかった。信じたくなかった。
(……ユ、イ…?)
嗚咽混じりのユイの声。
傷つけてしまったのが、巻き込んでしまったのがハルだったなんて、信じたくなかった。
「…いか、なきゃ」
ハルはゆらりと立ち上がった。
「さがさ、なきゃ。ユイを、わたしは…」
そのままよろめくように、一歩、二歩と走り出した。
ユイが泣いていた。
ハルは、ユイが泣いていたのを見た覚えがない。きっと、自分が頼りなかったせいで泣けなかったのだ、とハルは思う。
あの時ユイは、泣いていた。
(…わたしのせいだ。)
(ひっこすなんていったから。やまになんてはいっちゃったから)
(クロ、クロもわたしのせいでしんじゃった。このままじゃユイもころされちゃう)
足の痛みなんか忘れて、ハルは走った。
走って、走って、走って、山道を駆け上がり、ユイと花火を見たあたりまできた。
助けを求めるユイの声が、頭の中でこだましていた。
「ユイ!!!!」
『ハル、ハル、こっちだよ』
「ユイ…!?」
『わたしはここだよ』
ばっと振り向けば、茶色の髪にお揃いのリボンをつけたユイの姿がそこにあった。
「ユイ…!」
『たすけて、さみしいよ、ハル…』
「ユイっ!!!!!」
そう言いながら、ユイの影は遠ざかる。ハルはそれを無我夢中で追いかけた。
力のかぎり両腕を伸ばし、足を曲げ、全速力で駆けた。
助けなきゃ。
ユイを助けなきゃ。
『早くこっちにオイデ、ハル』
やっと指先が触れる、そう思った時。
「…キャンッ!!キャンキャンッッ!!」
耳をつんざく、けたたましい鳴き声。ふわりと体が宙に浮き、内臓が浮かび上がる感覚でハルは現実に戻った。
頬を切る風。ごうっと周りの景色が高速で動くのを見て、ハルはようやく自分が崖から飛び出したのだということを理解した。
あ、落ちる…と思ったのも束の間、がくん!とハルの体は空中で止まった。細いナップサックの紐が、ぎゅうっとハルの体を締め付ける。
ハルは空中にぶら下げられたまま、はるか遠くの地面と睨み合って固まっていた。ドクドクドクドクと、心臓が聞いたこともないような速さで鳴っている。
コトワリさまの助けが無ければ、間違いなく死んでいた。ハルは指先までカチコチに凍りついてしまって、頭の中はもう真っ白になっていた。自分が今、何をしたのか、何が起こったのか、わからなかった。ただハルの体だけが、けたたましく警鐘を鳴らし続けていた。
「…………は……」
「ッ…!」
ハルは小さく息を吐く。呼吸すら忘れていたことに、ハルは今気がついた。
背中から小さく、ヒュー、ヒューという音が聞こえる。ハルは、神様も息切れってするんだ…とちょっとズレたことを思った。
そのまま、顔を上げ、前を見る。
『カワイソウ』
ユイに見えたものは、空中でその動きを止めていた。
やがてそれは変貌し、ただの黒い塊となった。
そのまま霧散して消える。
蔑むような笑い声を響かせて。
「…」
ハルは開いた口が塞がらないまま、コトワリさまに引っ張り上げられた。
そのまますとんと地面に下ろされる。
ハルは足の力が抜けて座り込んだまま、今なにが起こったのかをなんとか飲み込もうとしていた。まだ体は自分が危機的状況にあると思い込み、全身に緊張を走らせていた。
ハルはなんとか荒ぶる心臓を抑えようと試みる。呼吸すらままならず、意識して大きく息を二回つく。
そして、やっと体が緊張から解放されたとき、
ハルはすべてを理解した。
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「…あいつが、ユイを」
ぼうっとユイが消えていった方向を眺めていたハルが、絞り出すように声を出した。
その時ハルが味わっていたのは、とてつもない怒り。
今まで生きてきて感じたことのなかったそれは、もはや「怒り」と表現するにも足りない。
腹の底から沸き立つような憎悪。
際限なく膨れ上がっていく、この夜のどんな闇よりも深い闇。お化けだって、神様だって、今のハルには怖くない。
よくも、よくもわたしのユイを。
「…」
そうして、しばらく黙っていたハルが腰を上げた。
夜風に晒され、体は冷え切っているはずなのに、心臓が燃えるように熱い。
また頭の中にさっきの光景がフラッシュバックする。にやにやと白い手が折り重なってできた化け物が、沢山の赤い目玉をこちらに向けて笑っている。
それはハルの心の弱さが創り出した恐怖の象徴か。それともわざわざあちらが嘲りに来たのか。
どうでもいい。
ハルは手にぎゅっと力を込め、宙に浮かぶ虚像を睨みつける。
「あなたなんて、こわくない…」
夜空に向かって、吠えた。
「わたしは、ユイをたすけにいくんだ!」
おめでとう。
ハルちゃんは覚悟ガンギマリ激おこバーサーカーに進化しました。