赤い鋏は夜を断ち切る   作:牧野新

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本当に間が空いてしまったけど見てくれてる人ありがとうございます…!!
ゆっくりですが下書きは最後までいってるので!多分!


道中

 

「キャン!キャンキャンッ!!」

 

まるでハルの決意が伝わっているかのように、チャコも勇み足でハルを先導した。

さっきは無我夢中で駆けた道をどんどん遡っていく。

 

「…キャンッ!」

 

そうして、ある場所で足を止めた。

道中に何度も見てきたもの…しかしそれは、一際大きかった。

苔と蜘蛛の巣で飾られた、丸い頭に石の手足。

お地蔵様だ。

 

「ユイ…」

 

確かに感じる。その石の体の向こうから…さっきも感じた重々しい空気が。

 

「…おわかれなんて、もういやだ!!」

 

「!!」

 

ハルの言葉に応えて、鋭い斬撃が飛ぶ。

それはいとも容易くお地蔵様を破壊した。もうもうと立ち込める土煙の奥には、人が一人入れそうな暗い道が続いている。

ハルがさっき見た景色と同じだ。

 

「まってて、ユイ。いまたすけにいくから」

 

一歩足を踏み出そうとしたハルを、見慣れた白い腕が静止する。

 

「…どうしたの?」

 

呆気に取られるハルの前で、そのままもう片方の自分の腕を掴み…

 

…思い切りよく捩じ切った。

 

「えっ!?」

 

これにはハルもびっくりした。先程まで覚悟を決めた…いつものハルらしくない表情をしていたのが、一瞬で鳩が豆鉄砲喰らったような顔に戻されたくらいびっくりした。

びっくりしている間に、いつの間にかその手に握られているのはいつもの赤いハサミに変わっていた。もう片方の手も、何事も無かったかのように元に戻っている。

…さっき腕を捩じ切ったように見えたのは、気のせいだろうか?いや、確かに関節が無いはずのところで腕が回るところも、ゴキャッ!という嫌な音も聞いたはずだ。

ポカーンとしているハルの目の前で、コトワリさまはそれを差し出したまま固まっている。

 

「…もっていけ、ってこと?」

 

こく、とハルでも分かるように頷いた。

ハルがそれを受け取ると、一歩下がって距離をとる。

 

「…ついてきてくれないの?」

 

コトワリさまは下を向く。

どんな事情があるのかは分からないが…ここから先は、ハル一人で行くしか無いらしい。

 

「わかった。わたし、ひとりでだいじょうぶだよ」

 

「ぜったいに、ユイをとりもどしてくる。だから…」

 

「…いままでたくさんたすけてくれて、ありがとう」

 

足元で、キャンッ!という元気な鳴き声が聞こえてくる。

自分も戦える!と言いたげだ。

 

「わんちゃんもおるすばん。」

 

「キャンッ!?」

 

「わんちゃんには、わたしとユイがもどってきたら、まっさきにおかえりっていうやくめをまかせたいの。…できる?」

 

「キャン、キャンッ!」

 

納得してくれたようだ。

ハルはそれに、穏やかな笑みで返す。

 

「…じゃあ、いってきます。」

 

強く、強くハサミを握りしめて、ハルは暗闇へ一歩足を踏み出した。

 

 

 

 

…ザク、ザク、ザクと、ハルの足音だけが暗い道に響いている。べたべたと靴の裏に張り付いてくる糸が鬱陶しい。

辺りにはむっとした嫌な空気が漂い、こちらの全身を包んでくる。街灯も月の光もここには届かない。懐中電灯が照らしている範囲以外は、全くの暗闇だった。

ふと、その光がたくさんの顔を照らし出す。…お地蔵様だ。たくさんたくさん、何かを見張るように積んで置いてある。

 

(…ここも、ここも、みおぼえがある)

 

(どんどんおもいだしてく。わたし、ユイにおぶられてここをかえったんだ)

 

(ユイ、ユイ、わたしのユイ。まきこんじゃって、ごめんね。わたしだけ、なにもできなくてごめん。)

 

(ぜったいに、たすけるから。)

 

一歩、また一歩踏み出すごとに、ハルの決意は高まっていく。

進んでいくと、真っ赤で不吉な、不気味なほど大きい蜘蛛の巣がハルの行く手を阻んでいた。触れてみても糸が綻ぶ気配はない。

それなら、とハルはコトワリさまから託された赤い裁ち鋏を出す。それを赤い糸にあてがうと、さっきの手触りが嘘のようにはらりと形が崩れた。

さらに進むと、目の前に折り重なった手でできたオバケ蜘蛛が降りてきた。それでもハルは取り乱さない。冷静に、ハサミを構えて対処する。

 

(だいじょうぶ。いつも、コトワリさまがやってたみたいにやればいい。わたしならできる、ユイをたすけにいくんだから。)

 

今までのハルなら、悲鳴を上げて逃げ惑っていたことだろう。

しかし、今は違う。オバケから逃げ続けてきた経験がある。武器だってある。

何より、ユイを助けるには、あのオバケの親玉と戦わなければならない。

そのためには、こんなところで弱音を吐いては居られないのだ。

 

「…やあっ!」

 

グチャッ!!

 

嫌な音を立てて、ハサミが柔らかい肉に突き刺さる。

突きより挟みの方がいいかもな…と、ハサミを握りながらハルは考えた。

まだピクピクと痙攣しているそれからハサミを引き抜く。かなり重たい…血のように真っ赤な金属なんてハルは聞いたことも無いが、お裁縫の裁ちバサミですら重いのに、これの刃渡りはそれより一回りも二回りもあるので仕方がない。

細いハルの腕くらいなら簡単に切れていまいそうだ。うっかり手を挟まないようにしないと…と、ハルはハサミをしっかりと握り直した。

 

───────────────

 

奥に進むにつれて、どんどん蜘蛛の数は増えていく。赤い蜘蛛の巣も、何重にもなってハルの行く手を阻んでいる。

 

「っ…!」

 

ハルは、足元の石につまづいてよろめいた。洞窟内は当然整備なんてされていないので、随分と道が悪い。

もう足だって限界だ。ハルの体はあちこち汚れと擦り傷だらけで、普通ならもう一歩も動けなくなっていてもおかしく無い。

それでも、ハルは立ち止まらない。

真っ直ぐ前だけを見据える瞳には、揺らがない意志が灯っている。

 

決めたから。

 

絶対にユイを取り戻すと決めたから。

 

だからハルは立ち止まらない。さっきからうるさく響いている、『カワイソウ、カワイソウ、カワイソウ』という声にも耳を貸さない。

 

『オイデ、オイデオイデオイデタスケニオイデ…』

 

「…いわれなくても!」

 

耳障りな声と共に、あいつは“ハルが一番見たくないもの”をハルの目の前にちらつかせる。だが、それは今のハルには逆効果だ。幻覚だと分かっている以上、ハルの憎悪を補強する結果にしかならなかった。

ツリーのオーナメントのように大量にぶら下げられたユイの首吊り死体の間を、ハルは足早に抜けていった。

 

 




コトワリさまがついて来れなかったのはなんででしょう…
恐らくあそこが大蜘蛛のテリトリーだったからとかじゃないでしょうか?
「ユイの山の神討伐に同行」「ハルを助ける」の願いはまだ有効だけど、ユイは山の神に囚われているしハルは助けを求めていないから…
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