早く平和ほのぼの話が書きたいぜ…
「ユイ…ユイ…っ」
わたしはしょうがくせい。
なまえはハルといいます。
「…いやだぁ…もう…」
きょうはユイといっしょに、はなびをみにきました。でも、かえりみちで、ユイとはぐれてしまいました。
「もう、いやだぁ…!」
ユイをさがしに、ひとりでやまをおりましたが、よるのまちにはこわいものがいっぱいいて、ユイもみつかりません。
このまま、みつからなかったらどうしよう。ユイもひとりで、こわかったりしたらどうしよう。はやく、はやくみつけなくちゃ…
────ジャキンッ!
「ひゃ…っ!?」
大きなハサミの音とともに降り立ったその子を一目見て、ハルがまず思ったのは「綺麗な髪なのにもったいないな」だった。日本人には珍しく明るい色をしたハルの髪とは違って、その子は夜のような黒い髪をしていた。それをハサミかなにかで適当に切ったようにざんばらにしていたのだ。
ハサミといえば、手には渡りの長いハサミを持っていた。おさいほうの授業で先生が使うものよりもっと大きい。それに、真っ赤な色をしている。まるで血のような赤だった。
その子はアスファルトの地面に膝をつけ、ハサミを振り抜いた姿勢のままから…ゆっくりと、立ち上がってこっちを見た。
「っあ…」
ハルは、初めて会う人と話すのが苦手だ。いつも言葉に詰まってしまう。だけど、今日ばかりはそんなことを言っていられなかった。
「あの…っ!ユイを、みませんでしたかっ!?わたしとおなじくらいで、いろちがいの、あかいリボンをつけたおんなのこ…!」
…今考えれば、どうかしていた。こんな夜中に突然現れて、大きすぎるハサミを抜き身で持ち歩くなんて、見た目が子供でも絶対に“あちら側”の仲間なことは、考えればすぐに分かることだった。
それでも、縋らずにはいられなかった。ハルはたった一人の親友と別れ、とにかく心細かった。お化けでもなんでも、近そうな見た目であれば親近感も湧くというもの。できれば、ユイを探す道筋についてきて欲しかった。一人で歩くには、あまりに暗く辛く、ハルには厳しすぎる道だったから。
そんなハルの気持ちに応えるように…ハサミの子は、ゆっくりと首をもたげた。
「…」
「あっ…」
ハルといえば、やっと目の前の少年がお化け側である可能性に気づいたところだった。
それでも、何かユイの手掛かりが得られる可能性があるなら。ハルは覚悟を決めて、返事を待った。
「…」
しかし、そんなハルの期待に反して、その子は首をもたげた姿勢のまま。一言も発さず、一歩も動かなかった。ハルは気まずくって、さっきから「う…あの…」と声にならない声を発しては口を閉じるのを繰り返していた。
そうこうしているうちに、二人の声に誘われたお化けが近づいてきた。
『オギャアアアアアッ!』
赤ん坊のような声を発するお化けだ。
「ひっ…!」
ハルは思わずあとずさり、両手で耳を塞いだ。ハサミの少年はといえば、そんなハルの姿を見るなり──
───ジャキンッッ!!
ハサミをふり抜き、お化けの方へ向かっていってしまった。
猛スピードで突進し、お化けの後ろの何もない空間をハサミで切りつける。瞬間、お化けの姿は湯気のように消えてしまった。
「えっ!?」
ハルはとても驚いてしまった。お化けといえば、怖いもの。それに立ち向かって、こんなにあっさりと倒してしまうなんて。
ちょっと何考えてるか分からなくて不気味だけど、この子がいればユイを探す旅路もずいぶん楽になるかもしれない。というより…もとから一人では、絶対無理だ。
どうにかしてついてきてもらう方向で、ハルは自分の考えをまとめた。
「………」
気づくと、少年の顔はこちらの方に向いていた。何か伝えたいことがあるのだろうか…じーっとこちらを見つめている。目は包帯に隠されて見えないが、ハルは確かな物欲しそうな視線を感じた。
「えっ…と、どうしたの?」
「…」
その時、ふとハルのナップサックから何かが滑り落ちた。さっき拾った藁人形だ。何かに使えるかもしれないととっておいた。
「あっ!」
ハルは慌ててそれを拾った。すると、ハサミの子がそれに反応した。
「…!」
「えっ、なに、これがほしいの?」
「…!……!」
こくこくこく、と、頷いている。
ハルは、あるウワサを思い出した。
最近学校で流行っている、こわいウワサだ。
『夜に“ある言葉”を言うと、大きな赤いハサミを持ったコトワリさまが現れて、助けてくれる
その代わり、代償として手、足、口のついたものを渡さなければならない』
…ハルは、その話をあまり「こわい」とは思えなかった。でも代償を用意出来なかった時のことを考えるとやっぱりこわいので、その話をよく覚えていた。しかも、肝心の“ある言葉”はぼかされていて分からない。
大きな赤いタチバサミ、手、足、首のついた藁人形を欲しがる…もしかして、と考えながらハルは藁人形を渡した。
「…」
その子はそっと藁人形を受け取ると、それを高く放り上げて空中でめちゃくちゃに切ってしまった。
(…やっぱりだ!)
ハルは、やっと目の前の子の名前を知ることが出来た。
「…コトワリさま、おねがいがあるんです
わたしといっしょに、しんゆうを、ユイをさがしてください!」
あのあと、ハルはなんとかコトワリさまの協力を取り付けた。
元々そういうものだったのか、コトワリさまはひどく無口で表情も動かない為、ハルが何度説明しても分かったかどうか怪しかった。それでも、ハルが歩き出すと後ろをついてきてくれたので、通じているだろう。多分。
「…あ、そうだ」
途中でハルは、家に寄った。
これからまた、『代償』を要求されることがあるかもしれない。だから人型のものを探すために家の中を漁った。
引っ越しの準備のため、大分家は片付いており探すのに難儀したが、ハルは戸棚の奥から箱入りのクッキーを見つけることが出来た。何かのお祝いで貰ったであろう、ジンジャー・ブレッドマンに似た形をしたちょっと良いクッキーである。全部で20枚は入っているだろう。
それをコトワリさまに渡すと、しっかり代償として認識してくれたようだ。
「…」(サク、サク、サク)
ただ、そのせいでクッキーを片手に貪りながらもう片方の手に赤い裁ち鋏を握り、そこら中のお化けをばったばったと薙ぎ倒すコトワリさまという、やや気の抜けるのかそうでないのか分からない光景が出来上がってしまった。
(…こういうの、なんていうんだっけ…あ、そうだ。シュールだ…)
とはいえ、ハルを襲うお化けたちをなんとかしてくれるのはとてもとても頼もしい。
「逃げる・隠れる」以外の選択が出来るようになった。供物のクッキーが早くに無くなってしまうといけないから、なるべく自力でなんとかしないといけないとはいえ、どうしてもの時に守ってくれる存在がいるというのはこれ以上ない安心材料だ。
…それにしても、こんなに小さな見た目をしているとは思わなかったが。
(…ユイ…)
道を歩くと、赤い蜘蛛の巣が目につく。これは最近、街の至る所で目にするようになったものだ。ハルももう慣れ切っていたが、今夜はそれがいやに不吉で嫌なもののように見える。
その赤が目に入るたび、ハルはユイのことを思い出すのだ。
(…まってて…)
かならず、たすけにいくから。
「った…!」
ユイは、紙の匂いがするフローリングの上で目を覚ました。
辺りは暗く、どうしてこんなところに居るのか分からない。硬い床の上で寝転がっていたせいで体が痛い。ユイは、どうしてこんなことになったのかと頭の中で記憶の糸を辿っていった。
(…そうだ。花火大会の帰りに、ハルがまた変な声が聞こえるって言った。私がそれを確かめてくるって言って、ハルをおいて…)
懐中電灯を手に持って、ハルを隠した草むらを背に、一歩、ニ歩、踏み出した。
そのとき。
ぐんっ。
…背中を引っ張られたような感じがして。
気づいたら、ここに…
(…赤い、糸…)
数日前から、ハルが言っていたことを思い出す。街のあちらこちらに見えるのだそうだ。建物の中にも、この図書館にも見えるという。
でもユイがいくら図鑑を調べても、赤い糸を吐くクモなんて見つからなかった。そもそも、掃除される建物の中にそんな目立つものがあるというのが不自然だった。だから怖がりなハルには、「そんなこともあるのかもね」とだけ言って誤魔化しておいた。
…今考えれば、あの山の上の…“あれ”と対峙した時に見た赤い糸もそれだったのかもしれない。
考えていても仕方がない。ハルを一人で夜の山の中に置いてきてしまった。きっと怖がっているだろう。
早く行って、手を握ってあげなくちゃ。そうして、二人で家に帰ろう。ユイと手を繋ぐと安心するといつもハルは言う。ユイもそうだった。心がぽかぽかとして、家にいると湧いてくる憂鬱な気持ちが何処かへ吹き飛んでしまうのだ。
「ハル…」
独り言をつぶやき、ユイは手探りで辺りの状況を探り出した。どうやら懐中電灯は落としてしまったらしい…乱雑に積まれた段ボールらしきものに手が触れる。
とりあえず室内であることは間違い無いので、出入り口のドアか電気のスイッチを探すことにした。たいてい、スイッチはドアのすぐそばにある。この段ボールらしきもので埋まっていたら最悪だが、まあそんなことはないだろうとユイは希望的観測を胸に抱いた。
幸い、壁伝いに部屋を歩いているとそれはすぐに見つかった。手に触れる、ひんやりとした金属の感触。馴染みのあるノブの形。
ユイはそれを押し開け、廊下へ出た。
────ジジッ。
廊下は所々電気がついていて、ある程度自分の位置を把握することが出来た。
それでユイは、ここが図書館だということに気がついた。山道から一気に図書館まで連れてこられるなんて、ますます訳が分からない。
…それとも、自分はもうずいぶん長いこと眠っていて、外ではもう日が昇っているのだろうか?疑問を抱きながら、ユイは早足で廊下を歩く。
『図書館では走っちゃいけません』そんなルールもあったような気がするが、こんな人っ子一人居ない図書館でそのルールは適応されないだろう。
そんなユイの考えは、甘かった。
…まさか、大人達が口酸っぱく言っていた決まりごとに敏感なお化けもいたなんて。
お化けのくせに、ずいぶんルールを気にするんだなあ、と耳をつんざく悲鳴を聞きながらユイは呑気に思ったのだった。
2話目も読んで下さりありがとうございます〜!