廃墟編。作者は小説は持っているものの、ゲーム知識はそんなになので悪しからず。そして次回、多分これの倍くらいある。
追記 ハルちゃんゲーム本編で普通に置き手紙してました…後で修正します…
結論から言うと、ユイは見つからなかった。
あのあと地下の展示室まで行ってみたが、どれだけ探しても、名前を呼んでも、ユイは出てこなかった。
そもそも最初の大騒動の時点で出てこないのがおかしいので、ハル達はこの建物に見切りをつけた。
「よい、しょ…」
最初来た時と同じ窓から図書館を抜ける。
…改めて考えると、えらいことしちゃったなぁとハルは少しだけ頭を抱えた。後で怒られないといいけど。
元通りに窓を閉め、脚立も戻して証拠隠滅。来る時に開けた穴は後で木箱かなんかで適当に塞いでおこう。
「はあぁあ〜ぁ…」
でもこれで、振り出しに戻ってしまった。
ユイはどこに消えてしまったのだろう。せっかくまた会えたと思ったのに、あれは幻覚だったのだろうか。
ハルは意気消沈し、がっくりと膝をつく。
「……、……」
「…うん、そうだよね。こんなところでうじうじしてらんないよね」
そのまましばらく明るい夜空を見上げてぼーっとしてしまっていたが、くいくいと肩のところを引っ張られる感触でハルは意識を取り戻す。
ユイを、探しに行く。今こうしている間にも、ユイはどこかで怖い思いをしているかもしれないのだ。
とりあえず、お化けには捕まっていないようだったから。とりあえず、今は。
…もし。
…もし既に、別のお化けに捕まって、“あちら側”に連れて行かれてしまったとしたら…?
最悪の妄想がハルの頭を掠める。
突如、ばしいん!と大きく太腿を打ってハルは勢いよく立ち上がった。
「いよぉし!」
悪い想像を振り払うように雄叫びひとつ。
突然のハルの奇行に、背後でコトワリさまがびくっとしている。ついでにカラスが数羽飛び立ち、図書館からも雄叫びが上がる。「うわわわわっ!」と、先程のトラウマを刺激され、せっかく仕切り直したのも台無しにハルは大慌て。
「いこう!」
手遅れになる前に。
ユイと一緒にうちへ帰るんだ!
…ばっと振り返って手を差し伸べるが、お化けに手を繋ぐ文化はないらしい。
宙ぶらりんのまま固まる右手に、締まらないなぁとハルは心の中で頭を抱えた。
…ハルへ。
たぶん、「あいつ」がかんけいしてる。
やまみちから、きがついたらとしょかんにいた。それからまたいっしゅんで、べつのところにつれてこられてる。
ハルがここにきたら、どんなほうほうでもいい。あいずをして。へんじがかえってこなかったら、わたしはべつのところにいる。
わたしのことをさがしてくれてたんだね。ありがとう。こわかったら、ひとりでかえってもいいんだよ。わたしは、だいじょうぶだから。
ハルはまた頭を抱えた。それを見つけたのは、地図を見ながらとにかく行ってないところを探してみようと、図書館から反対方向へきて少しした頃だった。
やっぱりユイはすごい。置き手紙だなんて、私は考え付きもしなかった。これならすれ違いにならないで済む。
でも、まず先に自分が思いつけなかったことがくやしい。
…ハルの目の前には、有刺鉄線。
侵入者を拒むそれの奥には、いかにもホラー映画に出てきそうな風体のおどろおどろしい木造建築。人が住まなくなって久しいと思しきそれは、ツタがからみ、ビビ割れ、建物自体が意思を持っているようで不気味だ。まあ、ホラー映画のような体験ならもうとっくのとうにしているのだが。
紙飛行機の形に折られたこれは、よく見ると日記帳の1ページだった。多分、屋根裏とおぼしき位置についた小さな窓から飛ばされたものだ。
「…おーい!ユイ!ここだよー!わたしだよ!ハルだよぉーっ!!」
出来る限りの大声で呼びかけてみても、返事はない。
「…とどかなかったのかなぁ。」
いや、今はお化けに襲われてどこかに隠れている最中なのかもしれない。それか、中で眠らされていたり、なんらかの事情で声を出せなかったりするのかも。この不気味な屋敷の中で一人蹲っているユイを思うと胸が痛む。
合図という画期的な方法を提示してくれたユイには悪いが、やっぱり中に入ってくまなく探さないとハルの気はおさまらない。
(ここにユイがいるなら、行くしかない、よね)
ちなみに、ハルが決意を固める前にコトワリさまは鋭いハサミで有刺鉄線をぱちん。不法侵入、ダメ、ゼッタイ。
この夜は悪いことしてばっかりだ…ハルは少しうなだれた。
「…いこう」
とはいえ、ここでユイを見捨てる訳にもいかず。
国語の授業で習ったことわざが頭をよぎる。虎の穴に入っていく瞬間なぞ何度目だって慣れやしない。すくむ足を必死の思いで動かして、ハルは一歩を踏み出した。
バキッ。
「ひっ!」
意気揚々と不法侵入を決め込んでからわずか一歩目。
ひび割れ、脆くなった床板を踏み抜き、ハルは小さく悲鳴をあげた。幸い、前のめりになった体は左腕を掴む腕によって支えられている。
…懐中電灯の光に照らされ、露わになった内観は予想通りというか酷いものだった。
一応、こうなる前は立派なお屋敷だったようだ。広いホールに吊り下げられているシャンデリア、細やかな装飾が施された手すり、外国の絵本のようなランプなどからそれが伺えた。
だが、床には黒い蛇が何本も這っているような大きなひび割れができ、あちらこちらに蜘蛛の巣がはり、豊かな生活の跡は今や見る影もない。
もう何年も人が触れなかった部屋には、絨毯のように厚いホコリが積もっていた。
「…あ、ありがとう」
ズボッ、と元からボロボロだったところへ新たに誕生させてしまった穴から片足を抜いて、ハルは支えてくれたコトワリさまにお礼を言う。
相変わらず「どういたしまして」の一言もないけれど、少しだけこくりと首が動いて、会釈のようなものをしてくれた気がする。
共にユイを探すうち、だんだん態度が軟化してきたのか。それとも、ハルの方が表情を読み取るのが上手くなったのか。どちらにせよ嬉しいなとハルは思う。
もう何年も人が歩かなくなっていたであろう床は、ぎし、ぎしとハル達が歩くたびに悲鳴を上げる。特に脆そうなところはなるべく避けていたが、ハルは次いつこのボロ家に限界が来るかと冷や冷やしながら歩いていた。
ここにもあの赤い蜘蛛の巣はあった。むしろこんな場所にはお似合いだが、似合いすぎていてちょっと怖い。
ユイ探しは、難航した。
中は広く、迷路のように入り組んでおり、扉もお化けも多かった。お化けから逃げて、うっかりひび割れの袋小路に追い詰められた時は危なかった。
「もういやだ!」とハルが叫ぶと、裁ち鋏の音と共に目の前の黒い影はバラバラになってしまったが。
分厚く積もった埃に、二人分の足跡をつけながら進む。部屋に入る前には必ず、2回ノックをしてから「ユイ、いる?」と声をかけていた。
ユイがここにいる可能性は著しく低いことは分かっていたが、それでも声かけはやめられなかった。
薄暗い室内で、穴がないか気をつけながら注意深く床を照らす。その途中で、ハルは見たくないものを見つけた。
「…これ…」
赤黒い、シミ。
ぼうっと、ススキ野原に瞬く間に火が広がるように、ハルの頭の中を凄惨な情景が巡る。
血、だ。どう考えても、雨水で出来たシミではない。
…この時ばかりは、ハルの決意も鈍った。これ以上、この家に介入しない方がいいのでは…と。
「…、…」
しかしそんなハルの心を見抜くように、コトワリさまはハルの先を行く。
「あ、まって、まってよぉ…!」
ハルはそれを涙目で追いかけて、屋敷のドアを開けるのだった。
ちなみにコトワリさま、描写してないだけで縁切りの力を使うたびに画面外でクッキーサクサクしてます。転けそうなところを助けたりするぐらいの軽い手助けはノーカン。