「はい確かに、またのお越しを」
店主の言葉を背に、店を出て再び歩き出す5人。
「ふぅ...ひとまずこれで安心ね、と言っても暫くはってだけだからまた塔に登って神器を集めてこないとだけど」
アヤメは先程受け取ったドーラの袋を手にしながら小さく溜息をつき呟く。
予定していた通り塔で手に入れた神器を売却した彼女達は、次なる目的地を目指していた。
「すまない、今から向かう所はどんな場所なんだ?」
「確か"心相石"を作るとか何とか言っていたが...」
「はい、その通り心相石を.....まあ実際に見た方が早いですね。ほら、着きましたよ」
アヤメの言葉に顔を上げる青年と少女、そんな2人の目の前に現れたのは周りと比べて一際目につく大きな建物だった。
「いらっしゃいませ!心相ショップへようこそ!」
「心相ショップ?」
「『恩恵意志』というカンパニーが運営している場所です、ここで私達も含めて心相石を作ったり魔力の保存をしたりするんですよ」
「お客様、今日はどのようなご用件で?」
「えっと、私達は魔力を入れに....それで、今日はこの2人の心相石を作って欲しいんです」
アヤメの説明にニコニコと笑顔を浮かべた店員は青年と少女を呼び寄せると近くの椅子に座らせる。
「かしこまりました、ではお2人ともこの箱に手を乗せたまま少々お待ちください」
「ぬ?それだけでいいのか?」
「はい、その間は楽しかったことや印象深い出来事を思い浮かべるといいそうです」
「楽しかったことか....」
青年と少女は互いに顔を見合わせ溜息をつく。
生憎記憶がないのでそう言われても何を考えればいいのか...
((だが....))
それでも、2人はある事を同時に思い浮かべていた。
彼女達と出会った時のこと、一緒に塔を登ったこと、塔から出た後夜遅くまで枕投げをし合ったこと。
それらが唯一はっきりと覚えている、それと同時にとても充実した記憶だった。
「しかし、こうしているだけでその心相石とやらが出来上がるのは何とも不思議なものだな」
「仕組み自体はそこまで複雑ではありませんよ、その箱の中には『恩恵の神』から祝福を受けた『恩恵の水』が入っていて、その水と利用者の心が呼応することで様々な色や形の心相石に変化するんです」
背後から近づいて来たアヤメは不思議そうな顔をする2人へ丁寧に説明をしていく。
どうやら彼女達はもう魔力を込め終わったようだった、セイナはどこから手に入れたのか飲み物を飲んでおり、コハクはそんなセイナの隣でケータイを操作している。
そんなどこか落ち着いた時間が流れること5分後。
「はい、もう手を離していただいて大丈夫ですよ。それでは箱から取り出したこちらの石がお2人の....」
作業が終わったのか、店員がにこやかに箱から心相石を取り出そうとして....
「って、ええええええ!?み、水が...水が固まってない!?」
「ぬ?そ、それは良くない事なのか?」
「しょ、少々お待ちを....」
何故か慌て始めた店員は箱を手に何処かへ行ってしまった。
それからまた暫くした頃驚いた様子の店員が2人に向けて口を開く。
「その、詳しくお調べしました所、どうやらお客様方は非常に珍しい...一切魔力を受け付けない特殊な体質の様で」
「魔力を...」
「受け付けない...」
「そ、そんな事本当にあるんですか?」
「はい、魔力を完全に扱えない...恩恵の水と呼応する事もない、つまり心相石を作れないという事になります。一応ごく稀にそう言ったケースは報告されているのであり得ない話ではないかと」
「過去に心相石を作られた記録も残ってありませんでしたので、生まれつきその様な体質だった可能性が....」
(ふむ、生まれつきか)
(だとすると、記憶を失う前の僕たちは何を...)
「わかった、色々とありがとう」
「みんなも、せっかく力になってくれたのにすまない」
「ううん、キミたちが謝ることじゃないよ。それにほら、もしかしたら恩恵の水の使用期限が切れてたって可能性もあるし」
「使用期限があるなんて聞いたことないけど...ひとまず2人の記憶を戻す手がかりを探すのはまたいちからになりそうね」
「こちらもお力になれず誠に申し訳ありませんでした...さあベスティナ、お客様を出口まで案内して」
「かしこまりましたぁ♪」
店員が呼んだベスティナという少女に着いていきながら、5人は青年と少女の体質についての会話を繰り広げていた。
「それにしても変だよね、魔法が使えないのにあの塔の中にいたなんて。あそこの塔にはあんなに強い星骸がいたんだよ?普通なら入った瞬間倒されちゃうと思うし、一番上までなんて辿り着けない気がするんだけど」
「確かにそうですね...私達も逃げるのに精一杯でしたから」
「2人だけで勝つのは難しい」
「ふむ...だが私達だけじゃなかった可能性もあるんじゃないか?」
「他にも人がいた?」
「眠っている間に何人もの巡遊者達によってあそこへ運ばれた....それなら僕達が魔力を扱えなくとも不思議じゃない」
「まあ肝心なその"誰か"はわからないんだが...」
そんな考察を話していた時
「あのー、差し出がましい様ですが皆様の問題はわりとすぐ解決するかもしれませんよ♪」
「え?」
突然前を歩いていた少女が振り返り、ニマニマとしながら声をかけてきた。
「えっと、確か君はさっき....ベスティナと呼ばれていた子だったか?」
「はい!わたくしはプリチーな研修生、ベスティナと申します♪」
改めてベスティナと名乗った少女はペコりと頭を下げると再び話を続ける。
「それで、お客様方はただ今重度の記憶喪失、ということでお間違いないですね?」
「あ、ああ」
「自分が誰かもわからないんだ」
「なるほどなるほど....では、そちらの"鍵"についてもお忘れですか?」
「「鍵?」」
ベスティナに指摘され青年と少女はそれぞれの首元に視線を向ける。
「これは....確かに鍵ですね」
「丁度半分に割れちゃってるけど、合わせたら使えるのかな?」
アヤメ達の声に2人は互いの首にぶら下がっていたものを手に取り重ね合わせると、確かに一つの鍵が出来上がった。
「綺麗に割れている様ですし、それくらいであれば我々の方で直せますのでご安心を。そして....お客様方は大変運がよろしいようですね」
「?それはどういう....」
「わたくし本来は金庫管理部の所属なのですが、今日はたまたまここの心相ショップの手伝いに来ておりまして....僭越ながら、そんなプリチーなわたくしの見立てが確かであれば...」
勿体ぶる様に言葉を発するベスティナに5人の視線が集まる。
そしてそんな彼女達を前に目をキラキラさせた少女はわずかに悪戯っぽく笑うとそれを告げた。
「その鍵は、ここに存在する"VIP用金庫"のものではないかと♪」