「く、車を持ち去るって、どういうことですか!?」
「いえ、それが....よくわからないのですが、何人もの大柄な方たちが車の周りに集まっていて、早く運べたとか声がまで響いてまして...」
「な、何でですか!?」
「よくわからないけど、とにかく急ごうよ!」
職員の話を聞き慌てて貸金庫の部屋から出ていく。
そうして恩恵意思のショップの外へと出た彼女達だったが、そこで職員の話の通り何人もの男達が車を持ち上げようとしている場面を見つけた。
「これで固定は完了だ。フィキンさーん、準備出来ましたがー」
「ふんっ、くれぐれも車体を傷つけないようにしなさい。万が一傷でもつけたら貴方たちのバイト代が減っていくわよ?」
「わ、わかりましたよ...おーい、じゃあせーので運ぶぞー、せーのっ....」
「ま、待ってください!」
「あ?」
とうとう車が持ち上がろうとした瞬間、アヤメ達が声を上げ車の前まで駆け寄った。
「ヘイヘイヘイ!うちのミドリちゃんに何してくれちゃってんのー?」
「見逃せない」
「貴方達!私達のオアシス号をどうするつもりですか!」
「え、いや、どうするって言われても...俺達はただ言われた通り運ぼうとしただけで....」
「ああ、運んで欲しいものがあるって依頼に従ってるだけだ」
「依頼って、そんなふざけた事でオアシス号を勝手に持っていくつもりですか!」
「あら、ふざけた事だなんて聞き捨てならないわね?」
アヤメが男達に詰め寄る中、彼らの背後からどこか高圧的な声が聞こえてきた。
「何を手間取っているかと思えば、こんな何処の馬の骨ともわからない子達の話に耳を傾けていたの?指示に従わない役立たずはいらないわよ」
「い、いやそれが、なんかこの車の持ち主っぽい人達みたいで」
「そんなのどうだっていいわ、さっさと運びなさい」
「駄目です!さっきから何なんですか貴方は!」
「そうだよ!ただのドロボウのくせに偉そうにしちゃってさー」
アヤメやセイナの言葉にピクリとこめかみを震わした女性は、2人を睨みつけながら口を開いた。
「ドロボウ?失礼な口ね。私は白亜商会の代表執行官、フィキン...こう言えばわかるかしら?」
「だ、代表執行官?」
「そうよ?わかったのならさっさとどきなさい、仕事の邪魔よ!」
「だから何?そんなの関係....」
「せ、セイナ駄目よ!相手が代表執行官じゃ勝ち目が無いわ...!」
「なんで?この人達はミドリちゃんを盗もうとしてるんだよ?コハク、手伝って!」
「動いたら撃つ」
まさに一触即発の空気が辺りに広がる。
セイナは剣に手をかけ、コハクは銃口を男達やフィキンと名乗った女性に向ける。
「....はあ、全く面倒なことになったわね」
フィキンは溜息をつくとほとほと面倒くさそうに首を振る。
「あのー、詳しい事情はわかりませんがこちらのお客様方がお怒りになるのは当然かと」
「は?今度は誰よ?」
「わたくしは現在こちらのお客様の担当をさせていただいている恩恵意思のベスティナと申します♪」
先程までアヤメ達の後ろに立っていたベスティナはニコニコとしながら頭を下げると、そのままフィキンに話を続ける。
「先程フィキン様は白亜商会の代表執行官だと仰っていましたが...たとえカンパニーのトップと言っても他人の車を持ち去るのは犯罪です。再度申し上げますがこちらの方々は恩恵意思のお客様、彼女達の利益が損なわれた以上わたくしどもも見過ごすわけにはいきません」
「もしこれ以上そちらの行為を続ける場合、黎明団の方に話を持っていくことになりますが.....」
「...ふんっ、本当に面倒臭いわね貴方達」
フィキンはそう言うと懐から何かが書かれた用紙を取り出し見せつけた。
「これは?」
「しゃ、借用書!?しかも担保が私達の車って...ど、どうして!?」
「どうして?そんなこと聞いても意味ないわよ、ここに書いてあることが全て...この車が借金の担保である以上、今は白亜商会のものってことよ?」
「それはおかしいよ!だってそもそも私達は借金なんて....」
「.....」
「アヤメ?」
「......ヒナギクの家」
「え?」
アヤメはどこか顔を俯かせて、小さくそう呟いた。
「そのお金を借りたのは...ヒナギクの家よ」
「ひ、ヒナギクの家って」
「...私達がいた孤児院」
「そう、詳細だってちゃんとここに書いてあるんだから。2年前、あの孤児院はうちから100億ドーラを借り入れた...それも年利20%でね?毎月の返済額で考えると、2083万3333ドーラって所ね」
「そ、そんなの横暴すぎます!」
「そうだよ!エリーさんがそんなこと...」
「でも実際にこの内容で承諾した、それは事実でしょう?どうせ子供達のためにっ借金を重ねたんでしょうね?」
「それは...」
フィキンの言葉に何も言えなくなってしまう彼女達。
「ちなみにその様子だと何も知らないみたいだから一応聞くけれど、貴方達があの孤児院を出たのはいつ?」
「えっと、2年前だけど...」
「2年前、ね。その孤児院が潰れたのは1年10ヶ月前よ?しかもエリーも、そこにいた子供達も全員跡形もなく消えちゃったの」
「え、消えた!?」
「エリーさん達が?」
「どうして...」
「本当に何も知らないのね?まあそういうわけだから、うちとしても100億の借金を踏み倒されて困ってるの。だから孤児院に関する資産は全て差し押さえしてるってこと」
「み、ミドリちゃんは自分達で1から...」
「孤児院にあった部品を使って、でしょう?だったら差し押さえの対象ってことよね?さあ、これ以上何か文句でもあるかしら。うちもゆっくりしていられないの、早くどきなさい」
「「「.....」」」
「まあ?孤児院のその土地、そしてこの車を合わせれば大体2000万ドーラくらいにはなるわよ?そうなれば今月の返済額は83万3333ドーラになるじゃない!良かったわね!」
フィキンは勝ち誇った様に笑うと、男達に改めて指示を飛ばそうとする。
「ほら、これで話も終わったわ!さっさと運びなさ...」
「いや、待ってくれ」
「その話には矛盾がある」
その時、先程まで静かに様子を見守っていた青年と少女がフィキンの前に姿を現した。
「...今度は何?もう話は終わったの、そもそも貴方達はどこの誰よ?もしかして孤児院の関係者かしら?」
「いや、僕達は違うが...今は彼女達と同じギルドの者だ」
「ああ....ところで、お前は嘘をついているな?」
2人はフィキンを前に目を細めながら指摘する。
「嘘?その言葉にどんな証拠があるっていうのかしら、もし言いがかりなら名誉毀損で訴えるわよ」
「まず彼女達を孤児院の関係者だと言っていたことについてだが...ベスティナ、僕たちがさっきまで心相ショップに滞在していた時間は?」
「えっと、だいたい30分くらいですかね?」
「そう、つまり私達がここに車を停めてからたった30分の間にお前はこの車が孤児院の所有物であると調べ上げ、場所まで特定し彼ら運び屋をここへ呼んだ....あまりにも都合が良すぎるんじゃないか?」
「そんなこと?それなら何日も前からマークしていたから...って説明出来るけれど?むしろここまで莫大な借金なんだからそれくらいの準備はして当然でしょう?」
「そうか、だが彼女達がここに帰ってきたのは2年ぶりだ。そんな簡単にマークなんて出来る筈がない」
「それに...お前は最初に言っていたな、どこの馬の骨ともわからない子達と。つまりお前は最初この3人が車の持ち主だと気づいていなかったということだ」
「ぐっ...」
2人にそう指摘され、明らかに眉を顰めるフィキン。
「あのー、もう運ばないなら俺ら帰りますけど」
「はあ?何勝手に帰ろうとしてるのよ!いいから運びなさい!バイト代なら倍でも払うわ!」
「そうはさせないよ!」
「行かせない」
いつのまにか彼女を囲う様にアヤメ達3人も立ち塞がっていた。
「私達も車を持っていかれると困る、だがここアモールでは契約の拘束力が強い様だし無理はしない」
「その借用書が本物だとわかれば大人しくお前の指示に従おう」
「...ちっ!さっきから言わせておけば、生意気な奴らね!そんな勝手を許すわけないでしょう!?貴方達、出番よ!」
明らかに不快感を露わにしながらフィキンが叫ぶ、すると今度は逆にアヤメ達を囲う様に鎧を身に纏った衛兵達が集まってきた。
「な、なんで帝国護衛隊が!?」
「フフっ、高いお金を払った甲斐があったわ。さあ、これでも手を出すっていうの?」
「脅してるつもり?そんなのその人達ごと....」
「ま、待ってセイナ!手を出しちゃ駄目!」
「どうして!み、ミドリちゃんが...」
アヤメは慌てて飛びかかろうとするセイナの手を引っ張り押し留める。
「全く、貴方達のせいで予定が狂いまくりよ!ほら早く運びなさい!グズグスしないで手を動かして!」
「へいへい....」
そうしている間にも車は男達の手によって担ぎ込まれ、だんだんと距離が離れていく。
私達はそれをただ黙って見ることしか出来ないのだった。