今回のイベントのカリンちゃん可愛い。
目覚め
ガタガタガタッ....
周りに点々と生えている木々を避けながら、広大な林の中を走る一台の車。
「ちょ、ちょっとセイナ!?もう少し揺れないように運転して欲しいんだけど...!」
「うーん、これでも気をつけてるんだよー?最近ミドリちゃんの調子が良くないみたいなんだよね」
「街についたら整備する?」
「そうね...でもまだ街には向かえないわ、まだ神器を手に入れられていないんだから、せめてそれなりの資金を確保しないと...」
凹凸のある地面を跳ねながら進む車内では、そんな三人の少女達の会話が繰り広げられていた。
「それよりさ、箱から出てきた2人の様子はどう?」
「目覚ました?」
「ううん、まだね。脈拍も体温も正常だし、呼吸も落ち着いているから多分寝てるって感じだと思うんだけど」
運転中のセイナ、車の上に寝転がっていたコハクに尋ねられたアヤメは首を横に振りながら答える。
彼女の視線の先にいるのは、車の座席に並んで目を閉じ寝転がっている男女の姿。
先程星ノ塔で見つけた祈願箱の中から出てきた謎の2人、その肝心の彼らは今現在もすぅすぅと寝息をたてるのみで何の反応も示さない。
「そっか〜、でも何で箱の中にいたんだろうね?」
「祈願箱から人が出てきたなんて話は聞いた事ない」
「そうよね....そもそもいつからあの塔の中にいたのかしら、あの様子だとかなり前からあそこにいた感じはするけど」
そう彼女達が話し合う中、ズズッと布が擦れる音が車内に響き渡った。
「あ、ね、ねぇ2人とも!目を覚ましたわ!」
「え、本当!」
アヤメの慌てた声に車を停めたセイナは、外に出ると窓に身体を預け後ろの席を覗き込む。
そして、どこか緊張した様子で見つめる3人を前についに彼らが目を開いた。
「「.........」」
一方の青年は黒く短い髪を、もう一方の少女は長い銀髪を肩に流し、どちらも透き通る様な青い目を動かしながら車内と彼女達を交互に見渡していく。
「.....君たちは?」
それから少し寝ぼけた様子の青年が最初に口を開いた。
その目には明らかに困惑が浮かんでいるようだが、いきなり見知らぬ場所で目覚め、これまた見知らぬ少女達に囲まれているのだから無理もない。
「安心してください、怪しいものではありませんので。私たちは巡遊者ですから」
「巡遊者...?」
「やっほー!私はセイナ、車の上にいるのがコハクで、その子がアヤメね!よろしく!」
「よろしく」
「つい先程私たちは星ノ塔を登っていたんですが、そこで見つけた祈願箱を開けたら貴方たちがいたんです」
「すまない、状況がよくわからないんだが....巡遊者?星ノ塔?祈願箱?いったい...って、”貴方たち”?」
「うん、君と一緒に入ってた隣の子の事だけど」
青年はセイナの言葉に隣を向くと、そこには自身と同じようにぼんやりとしている様子の見知らぬ少女が座っていた。
「ぬっ、すまないこの状況は?」
少女も先程の青年同様アヤメ達に疑問を問いかけている。
そんな彼女の姿を見つめていた青年は声を発した。
「....いや、記憶にないな」
「何だ?君は彼女たちの仲間なのか?」
「あれー?てっきり知り合いかと思ったのに違うの?」
「セイナ、目を覚ましたばかりなのに質問ばかりじゃ...」
「あーごめんごめん!でも本当不思議だよね、箱の中に君たちを見つけた時びっくりしたもん。アヤメなんか諦めきれずに『人型の神器かも!』って言って身体の隅から隅まで調べてたし」
「ちょ、ちょっと!それは言わなくても...!あ、わ、私は別に人なのか神器なのか確かめたかっただけで....へ、変な事はしてませんからね!」
セイナの暴露に慌てて2人に訂正するアヤメ、そんな彼女達の会話を静かに聞いていた青年と少女は顔を見合わせると一つ頷きアヤメ達に向き直る。
「まだ詳しい事は何もわからないが、世話になった事はわかる。ありがとう」
「いーのいーの!こう言う時こそ助け合いでしょ?」
「そういえば貴方たちの名前は何?」
セイナは2人からのお礼に元気に返事をする中、コハクが上から見下ろしながら彼らの名を尋ねる。
「確かに伝えていなかったな、僕は....」
彼女の問いかけに口を開こうとした青年と少女。
だが
「....あれ?」
「んん...?」
「どうかしたんですか?」
突然黙り込んでしまった2人を不思議そうに見つめるアヤメ達。
そんな彼女達の視線の中、腕組みをして唸る様に何か考える素振りをしていた2人はやがて困った様な表情を浮かべながらポツリと呟いた。
「.....僕は」
「....私は」
「「誰だ?」」
それから更に車を走らせる事30分、5人を乗せた車は見渡しの良い場所まで移動していた。
「これが、僕か」
青年は停められた車のサイドミラーの前に立ち、そこに映る自身を見てそう小さく言葉をこぼした。
反対のミラーでは少女が同じように自身の姿を確認している。
「どうです?何か思い出しましたか?」
「いや、何もわからない...」
「そっかー。ねぇねぇ、私の顔に見覚えあったりしない?何か君とは前に会ったような気がするんだよね」
「前か、セイナみたいな可愛い子と会っていたのなら忘れない筈だが....すまない、やはり記憶にないな」
「か、可愛い!?えへへぇ、やだなぁ急に揶揄わないでよぉ!」
青年の口からサラッと漏れた発言にセイナは顔を緩ませ、どこか嬉しそうに頭を掻いている。
「そっちはどうだ?何か思い出したか」
「いや、私も同じだった。自分の顔も、名前も、何もかも思い出せない」
青年は反対側に立つ少女に声をかけると、彼女は首を横に振りながら溜息を吐いて答えた。
「これは....完全にアレよね」
「うん、記憶喪失」
「ちょっとセイナ、嬉しいのはわかるけど良い加減現実に戻ってきなさい」
「はっ!ご、ごめんごめん...まあでも私たちにとって避けて通れない事だし、あの塔の中にいたならあり得そうじゃない?」
「待ってくれ、君たちの口ぶりだと記憶喪失?はそこまで珍しいものではない様に聞こえるんだが」
「うん、そりゃあ『巡遊者』と『記憶喪失』は切っても切れない関係だからね」
「「?」」
まるで当然だと言わんばかりに平然と答えるセイナに2人は揃って首を傾げる。
「星ノ塔に登ってそこから祈願箱を持ち帰り、箱にお願いして神器を手に入れる...それが巡遊者の仕事です、ただし願いの代償として、記憶の一部が塔に奪われてしまうんです」
「記憶を....つまり僕たちはそれで何も思い出せないということか」
「現状一番それが可能性が高いと思います、とはいえ正直これまで経験してきた状況とは大きく違うので詳しいことまでは断言出来ませんが」
「もしかしたら私たちと同じ巡遊者だったのかもね!ほら、2人ってどこか雰囲気似てるし、家族で塔に登ってたとか?」
「成る程、君が僕の妹である可能性があるのか」
「成る程、君が私の弟の可能性があるという事か」
「...いや、そこは僕の方が兄だろう」
「...いいや、私が姉だと思うぞ、そう思うと何だかそういう気がしてきた」
「「.......」」
「ちょ、ちょっと!こんな時に変な争いしないでください!」
いきなり火花を散らす2人にアヤメが慌てて間に入り静止すると、溜息をついてこれからの事を話し始める。
「とりあえず貴方たちが記憶喪失である以上、すぐにでも都市に送ってあげたいのは山々なんですが....実を言うと今私たちはかなり資金面で厳しい状況でして」
「だからこれから塔に向かう」
「はい、先程2人がいたのとは別の塔に向かい神器を回収しておきたいんです。ですので申し訳ないんですが、暫くは私たちと一緒に行動して貰えると助かります」
「いや、元々記憶が無い以上私たちもこれからどうすれば良いかわからないからな。むしろこちらからお願いしたい」
「それにさっきの話を聞く限り、その塔に登れば何か僕たちに関する記憶を思い出すかもしれないしな、よろしく頼む」
「やった!じゃあ早速行こっか!」
「今度こそお金を稼がないと....も、もう後がないわ」
2人が同意したのを見て、セイナとコハクは早速車に乗り込んだ。
アヤメはぶつぶつと何とも悲しい事を呟きながら彼女達の背についていく。
「なあ、1つ聞いてもいいか?」
「「「?」」」
そんな彼女達を見ていた青年と少女は、不意に声をかけた。
「今の話からすると、神器を手に入れる為に願い事をすれば君たちも私たちの様に記憶喪失になるかもしれないのだろう?」
「それは....怖くないのか」
記憶を失う、それは本来あり得ない様な事象だ。
もし大切にしている記憶が何の兆候もなく消え去るとしたら...本人ですらその事を認識できないそれは、これ程恐ろしいものはないだろう。
それこそ、仲間や家族の事を忘れてしまう可能性だってゼロではない筈だ。
「うーん....」
2人の指摘にアヤメ達は少し考えるように唸ると、それからすぐに口を開いた。
「まあ、確かにちっとも怖くないと言えば嘘になりますけど...正直記憶喪失よりも、明日を生きる為のお金が無いことの方がよっぽど怖いですからね!」
「あはは!確かにそうかもねー」
「このままだと何も食べられない」
何とも力強い宣言に2人はパチクリと目を瞬かせる。
「....なんだか、凄く苦労しているんだな」
「記憶が戻ったら美味しいものをお腹いっぱい食べさせてあげたいくらいだ」
「コホンッ...とにかく!明日の私たちの為に今は可能な限り神器を早く回収して、それから都市へ向かいましょう」
「はーい!」
「星骸の殲滅は任せて」
「力になれるかはわからないが、よろしく頼む」
「僕もだ、荷物にはならないよう可能な限りサポートする」
こうして、巡遊者3人と記憶喪失2人の奇妙な旅が幕を開けた。
....最初の目標は、明日を生きる金を作るという何とも言えないものであったが。