魔王様、2倍です   作:Mrふんどし

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準備

「どう?見えた?」

 

「こっちは無さそう」

 

「うーん、私の方も見えないなー。もしかして間違ってたりしない?」

 

「ちょ、ちょっと!運転中に振り向かないでよ!」

 

「危ない」

 

「えー、私も一緒に盛り上がりたいのにー」

 

ガタガタとエンジン音をふかしながら、木と草原以外に何もない場所を走り続ける1台の車。

そんな車に乗っているアヤメ、コハク...更に塔から持ち帰った箱で目を覚ました2人を加えた4人は、セイナの運転でとある場所を目指していた。

 

「それはいいけど、もしここで事故なんて起こしたらそれこそ取り返しのつかない事になっちゃうでしょ?」

 

「お先真っ暗」

 

「はーい...」

 

「話を遮ってすまないが、先程から何を探しているんだ?」

 

いつもの様に会話を繰り広げる3人を見ていた青年は彼女達がしている行動を不思議に思い、素直な疑問をぶつける。

 

「確か星ノ塔...に向かう筈じゃ....」

 

「はい、だからこそ星ノ塔の入り口を探しているんです」

 

「?入り口なら塔の下に行けばいいんじゃないのか?」

 

「これだと明らかに塔から遠ざかっている様に見えるのだが...」

 

そういう2人の視界の先には、まるで目印の様に光り輝き聳え立つ目的の塔が映っている...にも関わらず今自分達はそこからあえて離れる様にして動いているのだ。

アヤメの回答に青年とその隣に座っている少女は揃って首を傾げるが、そんな2人の様子にアヤメは続けて言葉を発した。

 

「塔の入り口は、必ずしもその塔にある訳じゃないんです」

 

「塔に入る為の入り口なのに塔に無い...?」

 

「すまない、よくわからないんだが...」

 

「それは....きゃぁ!」

 

「んっ...」

 

その時突然車の揺れが強くなり、体勢を崩したアヤメが勢い余ってコハクに突進してしまう。

その正面に座っていた青年と少女もバランスを崩し互いに身体を預けてしまうほどだった。

 

「っと、な、何があったんだ?」

 

「おおおおおお!ねえねえ!もしかしてアレじゃない!?」

 

4人が衝撃の痛みに耐える中、運転席からセイナの興奮した声が聞こえてくる。

 

「いたたた...何が...って、嘘!こんなに早く見つかるなんて...」

 

起き上がったアヤメが窓の外を見ると、パッと驚いた表情を浮かべそう呟いた。

 

「えっへへ〜、今日はツイてるね〜」

 

「....私から見るとただの森にしか見えないんだが」

 

「僕もだ、本当にあそこに入り口があるのか?」

 

「まあパッと見ただけじゃそう思うよねー。とりあえず近づいてみるから、そしたらわかると思うよ」

 

そう言ってセイナは車のスピードを落とすと、目の前の森の中に車ごと突っ込んでいく。

やがてある程度広々とした空間を見つけるとそこに車を停車させ、5人は外に降り立った。

 

「これは....うん、間違いなく入り口」

 

「塔からこんなにも離れているのに....すぐには信じられないのだが...」

 

「最初は誰でもそういう反応するよね、まさかこんな岩の塊にドアがついてて、あの塔の中に繋がってるなんてさ」

 

「私達も最初はそうでした、今はもう慣れましたが」

 

「この中に入ってドアを閉めて、もう一度開けたら塔の中」

 

「....とりあえず、普通の常識は通用しないと思っておくよ」

 

青年は頭を押さえながら、彼女達の話聞きなんとか自身を納得させる。

少女も目の前の岩に触れながら、諦めた様に溜息をついていた。

 

「実際塔について謎が多くて、まだわかっていない事が沢山あるんです。おそらくこの入り口の仕組み自体もある種の転移魔法によるものだとは思うんですが...まあそこを考えても塔の中はもっと謎だらけですから」

 

「それに一回使った入り口はもう使えなくなっちゃうしねー、次入ろうと思ったら今度はまた別の入り口を探さなきゃいけないし」

 

「前は何日も見つからない事があったから、今日はラッキー」

 

「その時のアヤメちゃん凄かったもんね、目つきとかも獲物を見つけようとする感じだったし」

 

「そ、それは言わなくて良いから!...コホンッ。と、とにかくこうして入り口は見つかった訳ですから、すぐにでも探索の準備を始めましょう」

 

「結局は慣れるしかないという事だな....ところで準備とは何をするんだ?」

 

「何か予め用意するものでもあるのか?」

 

「んー、そこまで大層なものじゃないよ。まあいつものルーティンって感じかな」

 

そう言うと各々が車から離れ行動し始める。

とりあえず彼女達を参考にしようと2人もその場から動き出した。

 

「いっちにーさんしっ♪、にーにっさんしっ♪」

 

「セイナは準備運動か?」

 

少女は徐に身体を動かし始めたセイナに声をかけると、彼女は笑顔を浮かべながら答えていく。

 

「うん!ストレッチだよ、塔の中は結構動いたりするから、ちゃんと運動しておかないとね」

 

「それもそうだな、私は実際中がどうなっているのかわからないが...セイナがそう言うなら正しいんだろう」

 

「えへへ、あっ、じゃああなたも一緒にやろうよ!手伝ってあげるからさ!」

 

「....そうだな、ならお言葉に甘えて。やり方を教えて貰っても良いか?」

 

「オッケー♪ならまずはこうして背中合わせに立って腕を組んだら....」

 

「お、確かに背中が伸びてこれは...」

 

少女はセイナに軽く引っ張られる様に背中を逸らされ気持ちの良さそうな声を上げる。

そんな少女の反応を受け、少し力を込めたセイナはそのまま彼女を持ち上げる様に身体を前に倒した。

 

「せ〜〜〜〜の!!!!」

 

「うぼぁああああああああっ!?!?!?せ、セイナ!背骨がまずい音を立ててるんだが!?」

 

「大丈夫大丈夫!じゃあ次は....量足を真っ直ぐ伸ばした状態で地面に座って...」

 

「うぅ...こ、こうか?」

 

「うんうん、そのまま爪先を触る様にゆっくり身体を倒してみて」

 

「ん....な、なんとか届きそうだ」

 

「良い感じだね、後は....」

 

頑張って手を伸ばし爪先を掴もうとする少女の背中に、セイナはのしかかると、ゆっくり体重をかけ始めた。

 

「せ、セイナ!もうそれ以上倒れない気がするのだが....い、いだだだだだ!?」

 

「ほら、もう少しだよ!」

 

「む、無理無理無理!ギブっ!ギブアアアアアアアップ!!!」

 

「あははは!そんなこと言って〜、本当はまだイケるくせに♪」

 

「折れる!今度こそ背骨が折れてしまう!?ああああああ!.......」

 

そんな少女の絶叫が辺りに響き渡る中

 

「....あっちは中々大変な事になっているな...」

 

青年の方は遠くから聞こえてくる声に、あの場にいなくて良かったと安堵の溜息を溢していた。

 

「それよりも、何か見えたか?」

 

「見渡す限り怪しい奴も特に見当たらない」

 

青年が木の上を見上げながら声をかけると、頭上からはコハクの声が聞こえてくる。

彼女が塔に入る前に周囲の偵察をするとの事で青年は着いてきたのだが、どうやら問題はなさそうだ。

 

「そうか、なら一度セイナ達の所に戻ろう」

 

「うん、そうだね....あっ」

 

青年の言葉に頷きそのまま木を降りようとしたコハクだったが、不意に足を滑らせ木の上から落ちそうになった。

 

「コハクっ!大丈夫か?」

 

その事に気づいた青年は慌てて彼女に駆け寄ろうとするが、幸いな事に途中で彼女が持っていたストラップが枝と足に絡まり宙に拘束される。

 

「助かった....ん、でもこれ強く絡まってて解けない」

 

コハクは引っかかったストラップを解こうとするが、逆さまに吊り上げられているのとストラップ自体の丈夫さのせいで苦戦している様だった。

 

「コハク、こちらでなんとか受け止めるから、絡まっている枝部分を折れないか?」

 

「そうだね、このままだと受け身が取れないから.....いい?」

 

「ああ、任せてくれ」

 

青年は彼女の真下に立つと、腰を落とし彼女を受け止める準備を整える。

それを見てコハクはなんとか頭を上げると、ストラップが絡まっている枝を掴むみそれを力強く折った。

 

途端に支えていたものを失い重力に従い落下していく身体....だが途中で待ち構えていた青年により彼女は地面にぶつかる事なく着地に成功する。

 

「っ!と、だ、大丈夫か?」

 

「平気...ありがとう」

 

コハクは青年の腕の中から抜け出すと、軽く服についた葉を払いながらお礼を告げた。

 

「もしまた絡まったら、その時もよろしくね」

 

「ああ...いや、そこはコハクの方で気をつけて欲しいんだが....」

 

「あ、ちょっといいですか?」

 

そうしていると、いつの間にかコハク達の元にやって来ていたアヤメが青年の方に声をかけた。

 

「少し手を借りてもいいですか?」

 

「手を?ああ、構わないが...」

 

「ありがとうございます、では失礼して....」

 

彼女が何をしようとしているのかわからない青年は素直に手を差し出すと、アヤメはその手を両手で包み込んだ。

 

少々ヒンヤリとした、どこか心地のいい手のひらを感じていた青年だったがやがて何か水が弾ける様な感覚を覚えたと同時にアヤメはその手を青年から離す。

 

「はい、これで終わりです」

 

「今のは?」

 

「塔に入る前の準備ですね、先程セイナと彼女にも同じ事をしたので....あまり気にしないでください。あ、コハク?あなたも手を出して」

 

「わかった」

 

アヤメは小さく笑うと、そのまま青年のそばにいたコハクを呼び同じ様に手を握り準備を済ませていく。

 

「うぅ.....し、死ぬかと思った....」

 

「大袈裟だなー、これくらいしないと中で動けなくなっちゃうよ?」

 

「い、今の時点でもう動けないのだが...」

 

やがて準備を終えた後、3人は来た道を戻ると、そこにはぐっと身体を伸ばすセイナと地面にうつ伏せで倒れている少女の姿があった。

 

「中々大変だったみたいだな」

 

「はぁ、はぁ....実際やってみたらわかるぞ...」

 

青年は倒れ伏している少女に近づきしゃがむと、労いの言葉をかけながら肩を貸し彼女を立たせていく。

 

「いいですか?これから塔に入りますが....中に入ったら絶対に私たちから離れない様にしてください」

 

全員が揃った事を改めて確認したアヤメは、その場で一呼吸してから2人に向けて口を開いた。

 

「塔の中は入り口同様常識が通用しません、それに上の階層に向かうには昇降機を使うしか方法がありませんから、万が一逸れてしまうとすぐに迷子になってしまいますから」

 

「あと、内部には不思議なものが沢山置いてありますが、それらは全て恩恵の神の創造物です。それを持ち帰ったり、食べたり飲んだりするのも禁止ですから」

 

「...その話だと、神器とやらはどうなるんだ?」

 

「神器は祈願箱から得られるものなので対象外なんです、あくまでその時点で私たちのものという事になるので。それ以外のものはどんなに持ち帰ろうとしても塔を出た時に全て回収されてしまいますから」

 

「どっちかと言えば気をつけるなら食べ物とかの方かもね〜。塔の中のものを取り続けると自分が何者なのかもわからなくなっちゃって、星ノ塔の一部になっちゃうんだって」

 

「それは恐ろしいな...とりあえず中のものは何も手をつけないという事だな」

 

「まあ、基本的に気をつけてさえいれば問題なく祈願箱を回収出来るはずですから。あまり怖がらずに行きましょう」

 

アヤメがそう締めくくると、セイナとコハクに2人は同時に頷く。

 

「よーし、それじゃあ出発しよー!ゴーゴーゴー!」

 

「今度こそ高価な神器を手に入れて生活費を....!」

 

「がんばる」

 

「よし、行くぞ」

 

「ふぅ...」

 

 

先頭に立ち意気揚々と歩くセイナに続き、彼女達は岩に囲まれた入り口へと足を踏み入れる。

こうしてアヤメ達にとっては2度目....5人で登る初めての星ノ塔攻略が始まったのだった。

 

 

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