「...本当にあの塔に入れたのか?未だに信じられないな」
「ぬ?あれは建物か?...塔の内部というよりどこか普通の街の様に見えるのだが」
岩に囲まれた入り口へと足を踏み入れた後、再度扉を開くとそこにはあまりに想像とは違う光景が広がっていた。
いくつもの建物が立ち並び、辺りには囲いに囲まれた木や花壇の様なものまで設置されている。
まるで別の野外へと出て来たと言われた方が納得出来る光景に、青年と少女は揃って口を開き唖然としていた。
「あはは、まあ最初はそうだよね。事前に説明されててもみんな驚くもん」
「普通では考えられないかも知れませんが、確かにここは星ノ塔の中です。ひとまずこの階のどこかにある昇降機を見つけて上に向かいましょう」
「だね、いつ星骸が襲ってくるかわからないし。ほら、行こ行こ!」
固まっていた青年と少女はセイナに背中を押されながら、2人以外は手慣れた様子で先を急ぎ進んでいく。
それから歩く事数分、特に問題なく1階層を探索し終えた5人の前に次の階への昇降機が姿を現した。
「あった、昇降機」
「良かった、星骸達もいないみたいだし早く抜けちゃいましょ」
「うーんでも何も無いのもつまらないな〜、折角だから2人に良いところ見せたいのに〜」
「何もいないのに越した事は無いでしょ?それに今後の層でどれだけ敵が出てくるかわからないんだから...今は少しでも体力の温存を....あれ、どうかしましたか?」
武器をプラプラとさせながら残念がるセイナにアヤメは溜息を溢しながら答える。
だがそんな中不意に無言となった2人に気がついた彼女が問いかけると、青年と少女はアヤメ達に背を向けながら尋ねた。
「...少しいいだろうか、星骸とは何か教えて欲しいのだが」
「?いいですけど...まあ簡単に言ってしまえば星ノ塔内部にいる敵の様なものですね。階層や地形によってその数は変わるのですが...」
「そうか、なら....」
アヤメの返答に頷いた2人は徐に手を上げると、奥の方へ指を向けポツリと呟いた。
「...あれは、その星骸とやらなのか?」
「え?」
2人の言葉につられたアヤメ達が、その方向へ視線を向けるとそこには...
″──ッ!″
奥の方から獣の唸り声が響き渡り、何体もの星骸がこちらにむけて突進してくる姿があった。
それらが現れた途端、彼女達の目の前の昇降機の扉にロックがかかる。
「ちょ!なんでさっきまでいなかったのに現れるのよ!?」
「あははっ!まあやっぱりそう簡単に通してはくれないよね」
「援護する」
いきなりの出来事に困惑するアヤメに、剣を構え楽しそうに笑うセイナと同じく銃を構えたコハク、そんな彼女達を見て星骸はその突進の速度を上げた。
「っ、2人は下がっていてください!」
「あ、ああ」
「すまない!」
星骸に突っ込んでいくセイナとコハクを援護しようとアヤメも手を前方に翳し攻撃を行っていく。
隅に避難した2人はそんな彼女達の戦いぶりをしっかりと観察していた。
「はぁぁぁぁ!」
「ふっ...!」
セイナが突進してきた星骸に対し横薙ぎに剣を振るい動きを止め、その隙を狙いコハクが銃で応戦する。
また彼女達の狙おうとする他の星骸に対し、水を操るアヤメが足止めを行う。
3人の連携はかなりのものだが、対する相手は数が多い。
彼女達もそれを理解しているのか、僅かに苦悶の表情を浮かべているのがわかる。
(何か、何か手伝えないものか)
現状この星ノ塔において、正直に言って自分達2人は彼女達の足手纏いになっている。
記憶もなければ彼女達の様に戦う力も無い...まだ1階層の時点でここまでの規模の戦闘が起こるとなると、この先塔の攻略を続けていけばより険しくなるのは必然....
青年と少女は言葉は交わさずとも、共に同じ気持ちを抱えていた。
そんな時、
「「っ!」」
唐突に押し寄せた頭の痛みに2人は手のひらを当て歯を食いしばる。
「な、なんだ....?」
「これは...」
その瞬間、彼らの頭の中に一気に情報の波が流れ出した。
バラバラだったそれらがやがて1つのパズルの様に組み合わさる感覚を覚えると同時に、2人の目に映る星骸の情報が浮かんできた。
「クリスピー...ミート?」
どちらの声であったか、それは定かでは無いがその情報を整理した2人は戦闘している彼女達に向けて声を張り上げた。
「突進だ!突進後の隙を狙え!」
「クリスピーミートは突進後すぐには振り向けない!壁に誘い込んで引っ掛けるんだ!」
「え?わ、わかった!さあおいで〜!」
突然の背後からの声に驚くセイナだったが、言われた通り壁に背を向けると剣の構えを解きながら星骸を呼び寄せる。
当然それを隙と見たクリスピーミートは、唸り声を上げると彼女目掛けて勢いよく駆け出していく。
「....っ!今!」
直撃、その寸前でセイナは素早くその場から退避すると、制御の効かなかったクリスピーミートは先程までセイナがいた場所へ思い切りぶつかった。
″──ッ″
すぐさま方向転換しようと足を動かすが、壁に突き刺さった牙が中々抜けず困惑しているようだった。
「隙やり!」
それを見逃すはずもなく、セイナは無防備になった胴体を剣で切りつけた。
途端に動かなくなったクリスピーミートは、その身体がまるで煙の様に消え去り空中へと消えていく。
「ほんとだ!これなら楽に倒せそう!」
「わかったわ!なら残りも同じ様に倒しましょう、余計なのは足止めはするから、セイナとコハクは引きつける訳をお願い!」
「はーい!」
「了解」
――――――――――――――――――――
「コハク!背後からもう一匹来てるわよ!」
「任せて」
「アヤメ!その場から動いてくれ!」
「え、きゃあ!」
「っと、危ない危ない」
最初のセイナ同様壁に引きつけ次々と倒していく3人。
途中足止めを抜け突進してきたクリスピーミートをコハクが対処し、狙われたアヤメを2人の声に気づいたセイナがすぐさま脇に抱え助け、その状態のままアヤメの魔法によりカウンターをくらわせる.... こうして彼女達の戦闘は有利な形で進められていく事数分
「これで、終わり!」
ザシュッという音と共に、最後の1体が地に伏せ消えていく。
「ふぅ〜中々の数だったね〜」
「はい...でもこれでようやく次の階に進めますね。2人ともありがとうございました」
「そういえば、どうしてあんなに星骸詳しかったの?」
額の汗を拭うセイナに、本を閉じながらお礼を告げるアヤメ。
そんな中でコハクは先程の星骸についての情報を持っていた理由を2人に尋ねた。
「うーむ...正直なんと説明したら良いか....」
青年と少女は互いに顔を見合わせ、先程自身の身に起こった出来事を素直に話し始める。
「コハクたちの戦闘を見ていたら、突然頭の中に情報が溢れてきたんだ。その後あの星骸を見たらそれについての情報が浮かんできて....」
「僕も彼女と同じだ、そうなった理由はよくわからないが...」
「ふーん、ならやっぱり君たちって記憶を失う前は凄い巡遊者だったのかもね!」
「確かに一理あるわね、忘れているだけで過去にそうあった星骸の情報をいくつも集めていた可能性だってあるだろうし...」
「そう、なのだろうか」
自分達が元々彼女達の様な巡遊者だった、そうであると断定するにはまだまだ情報が足りないが、現時点ではそれが一番可能性としては高いのだろう。
「それに戦闘中の指示も含めて凄く戦闘の効率が上がっていた様な気がします、元々そういった役を担っていたのかもしれませんね」
「いや、それに関しては君たちのチームワークのおかげだろう。私はあくまで星骸の情報を教えたに過ぎないからな」
「実際にあれらを倒したのは君たちだ、きっと僕たちの指揮が無くとも上手く切り抜けられていたと思う」
「チームワーク...ですか」
「うん」
「あはは!2人とも同じ事考えてるね!」
「ぬ?な、何か変な事を言ってしまったか?」
青年と少女の発言に何とも言えない表情を浮かべるアヤメ。
何か失言をしてしまったかと慌てる彼らだったが、そんな2人にセイナは笑って答える。
「ああ違う違う!最初の頃は連携なんて全然出来なかったから、その時のことを思い出しちゃったの。初めて塔に登った時なんか私が大技を出そうとしてアヤメの氷魔法で凍らされちゃったりしてさ」
「あ、あの時はまだお互いの距離感とかわかってなかったし、それにあれはセイナから突っ込んで来てなかった!?」
「そうだっけ?まあその後コハクの弾が偶然当たって動けるようになったけどね」
「....今はもう狙って当てられるから」
「あはは!....うん、でも...」
「そんな過去があったからこそ、今ではこうして一緒に楽しく巡遊者生活を満喫できてるんだ!」
セイナは懐かしむように目を閉じると、徐にアヤメとコハクの方をギュッと寄せ笑顔で続けた。
「....そうか、良い仲間たちなのだな」
「えへへ、でしょ?」
「.....」
「ほ、ほら!星骸は倒したんだから、早く次の階に行くわよ!」
「あ、待ってよ〜」
何処か恥ずかし気に早足で昇降機へと向かうアヤメとコハクを追いかけるセイナ。
「....僕たちも行こうか」
「ああ、そうだな」
そんな彼女達を微笑ましそうに見ていた2人も続き、5人は次の階層へと移動していった。