魔王様、2倍です   作:Mrふんどし

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分断

「.....ぬ?」

 

薄れかけていた意識が呼び戻され、目を開けた少女。

だが彼女の視界の中には先程まで一緒だったアヤメたちの姿はどこにも無かった。

 

「私はあの時転移魔法で....」

 

どこか重い頭を押さえながらゆっくりと立ち上がり、現状の整理を行っていく。

どうやらあの時最後の力を振り絞った敵によって放たれた魔法により、別の場所へ転移させられてしまったらしい。

 

「ここは...場所は違うがまだ星ノ塔内部なのか?」

 

辺りを見渡してみると、若干構造が変化している建物や通路が広がっているのがわかる。

 

「別の階層に飛ばされたと考える方がいいか...ぬぅ、どうすれば...」

 

だがここで何もしない訳にはいかない、待っていてもアヤメ達が来てくれる保証は無いし、彼女達よりも下の階層だった場合その確率は更に下がる。

 

「とりあえず上を目指すしかないか」

 

上へ行けばおのずとゴールは見えてくる、そうなれば登ってくるであろうアヤメ達とも会えるはずだ。

少女はそう結論付け、服の埃を手ではらいながら昇降機を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、どこにいるのー!」

 

「いたら返事してくださーい!」

 

一方、少女から遠く離れた場所ではアヤメ達が逸れてしまった彼女に声をかけていた。

が、当然返事は聞こえてこない。

 

「駄目ね、この階層がどれくらい広いのかもわからないし、そもそも同じ階層にいるとも限らないからどこか別の場所にいるのかも...」

 

「大丈夫かな?」

 

「アヤメ、どうしよう」

 

自分達を庇って消えた少女の安否が気になりどこか不安そうな表情を浮かべるセイナやコハク。

 

「...大丈夫、こういう時こそ落ち着かなきゃ解決しないわ。それにこういう万が一の時の為にあの魔法をかけておいたんだもの」

 

アヤメはそう言いながら自身の手首を見つめると、そこに水で出来たブレスレットの様な形が浮かび上がってきた。

 

「それはなんだ?」

 

彼女達同様に少女を探していた青年は突然現れたものに驚き声をかける。

 

「これは遠く離れた対象を見つけるための人捜しの魔法です。こういう事態に陥った際の為のものですが....やっぱりかけておいて正解でした」

 

青年は彼女の話を聞き、塔に来る前の出来事を思い返す。

準備の際、彼女が全員の手を握り何か呟いていたがおそらくあれがその魔法だったのだろう。

 

「どう?近くにいそう?」

 

「....気配は微かに感じ取れるけど、反応は弱いわ。おそらくここからかなり遠い上の階層にいるんだと思う」

 

「凄い飛ばされちゃったんだね」

 

「心配」

 

「とにかく、上にいるのなら早く向かいましょう。あの子がいる階層が安全とも限らないし、何かある前に急いで助けないと」

 

そう言ってこの階層の昇降機を見つけるべく動き出したアヤメ達、だがふと彼女が振り返るとその場で固まっている青年の姿を見つけた。

 

「何かありました?」

 

「ほら、急がないとー!」

 

「あ、ああ....」

 

だが何となく先程までとは僅かに様子が違う青年に疑問を覚える。

 

「体調でも悪いんですか?それともさっきの戦闘でどこか怪我を...」

 

「いや、そういう訳じゃないんだがどうも変な感じがするというか....」

 

「変な感じ?」

 

「...無性にお腹が空いたんだ」

 

唐突に告げられた言葉に3人は思わず固まってしまう。

 

「あははっ!びっくりしたー!」

 

「ま、まあ私達が貴方達を見つけるまでずっと眠ってたみたいですし...星ノ塔は時間の流れが異質ですから、気づいた時には何日も経ってたなんて事はあり得ない訳ではありません。私達も急がないと最悪出た頃には空腹でそのまま...なんて事も」

 

アヤメはそう説明するが、青年はそれを聞いてどうにも怪訝そうな顔を変えない。

 

「いや、自分でもおかしな事を言ってると思うんだが...何と話したらいいのか、僕がお腹を空いている訳ではないというか....」

 

「え?」

 

「僕ではない、誰かの感覚が伝わってきている様な気がするんだ」

 

 

 

 

 

 

「駄目だ、まるでわからない...」

 

あれから道中で見つけたナイフを使い何度も目印をつけつつ塔を進んでいた少女だったが、進めど進めど見た事ない場所が現れるばかりで全く進展が無かった。

それどころか少しずつ疲労が蓄積していくのを感じる、おまけに...

 

「ぬぅ....流石にお腹が減ってきたな」

 

少女はお腹を押さえると、微かに腹の虫が聞こえてくるのがわかる。

 

(アヤメは塔の中のものには手をつけちゃいけないと言っていたな、だがこのままではどうにも...やはり早く彼女達と合流しなければ)

 

そんな事を考えながら歩いていた少女だったが、その時背後から謎の声が聞こえてきた。

 

「オ前、ハラ、減ッタ?」

 

「ああ、ここに来るまで何も食べてないから.....ぬ?」

 

いきなり声をかけられた少女が振り返ると、目の前にはいつの間にか巨大な星骸が立っていた。

手には大きな包丁の様な武器を握っており、顔らしき部分には一つ目、頭からは熱そうな湯気が立ち上っている。

 

「オ前、ハラ、減ッテル。オレ、ゴ飯、アル」

 

「そ、そうなのか?」

 

「ソウ、ゴ飯、コレ」

 

目の前の星骸はそう言うとどこからともなく皿に乗った料理を手渡してきた。

 

「こ、これは...」

 

だが料理を見た少女は思わず後ずさってしまう。

ブヨブヨとした紫色の塊に所々緑色の液体がかけられている、何とも言い難い謎の食べ物がそこに鎮座していた。

 

「い、いや遠慮しておく。そもそも塔の中のものは食べない様に言われてるから...」

 

「...?食ベロ」

 

「だから塔の中のものは...」

 

「食ベロ、食ベロ!」

 

「オレ、オ前ノ為ニ作ッタ、ゴ飯」

 

「じ、実はそこまでお腹は減ってないんだ」

 

「.....」

 

少女は詰め寄ってくる星骸に慌ててそう誤魔化す、すると星骸はその場に立ち止まった。

 

「減ッテナイ?....ナラ、オ前ハオレノ客ジャナイ!オ前ハ材料ダ!ザザザザザ!!!」

 

「ちょっ!」

 

(マズいマズいマズい!今すぐ逃げなければ危険だ!)

 

少女は先程までの動きと変わった星骸から急いで離れようと動き出す。

 

「ナゼ!ナゼ食ベナイ!!」

 

「うわっ!?」

 

それを見た星骸は手に持っていた武器を振りかぶると、少女が立っていた地面に勢いよく叩きつける。

その威力は凄まじいもので、叩きつけられた部分の床に大きなヒビが入っていた。

 

「待テ!逃ゲルナ!」

 

「はっ、はっ、はっ!ま、待つわけないだろう!?」

 

逃げる少女と武器を片手に追いかける星骸...星骸の攻撃をギリギリの所で回避する少女だったが、元々の体力の無さや疲労に空腹も合わさり徐々に動きが鈍り始めている。

 

「何故嘘ヲツイタ!!!」

 

「う、嘘じゃない!本当に今はお腹が減ってないんだ!」

 

(とはいえ、実際は今にも空腹で倒れる寸前なんだが....くそ、何だか力が抜けてきた...このままじゃ)

 

走る体力も無くなり、足元がふらついてくるのを感じる...

その時だった。

 

「お〜い、そこの人〜?」

 

「...ぬ?」

 

「こっちこっち〜、そのままだとやられちゃうよ〜」

 

突如ある建物の影から声がかかる。

そこにいたのは緑の髪を持ち、制服らしき服装をしている人物だった。

 

彼女に手を掴まれ、そのまま建物内部へと連れていかれる。

 

「ドコダ!ドコニ行ッタ!」

 

星骸は相変わらず見失った少女を捜し辺りを動き回っている、そのまま徐々に足音が遠ざかっていくのを聞いた少女はようやく訪れた落ち着ける時間に溜息をついた。

 

「はぁぁぁぁ....た、助かった」

 

「お疲れ〜、もう大丈夫だと思うよ?あいつはここに入れないし」

 

「すまない、君のおかげで窮地を脱することが出来た...ところで、君は一体?」

 

「ん〜?あたし?あたしはここのコンビニ店員やってるポーシアだよ、ヨロ〜」

 

ポーシアと名乗った女性は適当そうに手を振り挨拶をする。

 

「それで、そういうあんたは誰?」

 

「私は....すまない、実は記憶喪失で自分自身のことはよくわかってないんだ」

 

「ふ〜ん、まあいいや。それよりさ、お腹減ってたんでしょ?はいこれ」

 

「ぬ?これはなんだ?」

 

ポーシアは特に気にする様子もなく少女に対して商品の棚から適当に弁当を手渡してきた。

それを見た少女は謎の食べ物に首を傾げている。

 

「それはうちの大人気商品、『とんかつ弁当』だよ」

 

「と、とんかつべんとう?」

 

「そうそう、外はサクサクの衣、中は肉汁たっぷり。さっきの料理研究星骸が作るものより断然美味しいよ」

 

「ゴクリッ....」

 

「じゃあ温めるからちょいと待ってね〜」

 

話を聞いているだけで涎が止まらなくなる。

その時の少女は助かった安堵感と限界に近づいてきた空腹により正確な判断が出来ずにいた。

 

そんな少女を前に、ポーシアは弁当を受け取り温め始める。

途端に店内に広がる匂いが少女の鼻を刺激していく。

 

(こ、これは....!なんて良い匂いなんだ!こんなに美味しそうな香りがするなんて...駄目だ、余計にお腹が....)

 

「はい、とんかつ弁当お待ち〜。熱いから気をつけてどうぞ」

 

それから少しもしないうちにポーシアにより温められた弁当が運ばれてきた。

遠くからでもわかる匂いが今度は目の前で漂い始める、もはや少女の中に我慢という選択肢は存在しなかった。

 

「い、いただきます!」

 

渡されたと同時に蓋を取り一気に口へととんかつを運ぶ。

 

「っ!」

 

その瞬間、少女の頭に稲妻の様な衝撃が走った。

 

「こ、これが『とんかつ』!?ウマい....ウマいぞ!なんというウマさだ!!!」

 

「聞いた以上にサクサクとした外側に、中から溢れる肉汁と柔らかい肉の味....いくらでも食べられそうだ!」

 

「おーめっちゃ豪快でうけるんですけど、まあ気に入ったんなら良かった。てかそっちの事情は知らないけどさ、そんなにお気に召したならずっとここにいれば?そうすりゃそのとんかつ弁当もいつでも食べ放題だよ」

 

「ずっと...ここに....?食べ放題....」

 

「そうそう、もち食べた分はちゃんと働いて貰うけど、三食とんかつ弁当昼寝付き、どう?良い条件っしょ?」

 

「それに塔から抜け出すなんて、無駄に希望持つ方が残酷じゃん?あんたもそう思うでしょ?」

 

「それは.....」

 

"塔の中のものを摂取し続けると、自分を忘れてしまうだけでなく、最後には塔の一部になってしまうと言われてるんです"

 

(あれ、私は....アヤメ達が待って...だから食べちゃ...食べちゃ...?なんだっけ)

 

「ね?だからこれから.....」

 

だんだんと頭がぼんやりとしてくるのを感じる、だがそれすらもわからなくなる程少女の意識は沈んでいく。

 

「───、」

 

(私は.....)

 

目の前のポーシアが何かを話すのを聞きながら、ついに少女は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「ぬ?なんだ?急に満腹感が....」

 

「あ、こっちに昇降機あったよー!」

 

「急ごう」

 

「そうね、貴方も大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ...わかった」

 

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