「やぁ!」
大きな掛け声と共に目の前の星骸に深々と剣が突き立てられていく。
「ふぅ...アヤメ、次はどっち?」
身体が崩れ去るのを確認したセイナは振り返りながら背後に立つアヤメへ尋ねた。
「....まだ距離はあるけど...少しずつ近づいているわ、多分移動してない」
「どこかに上手く隠れられたのかな?それなら早く見つけてあげないと!」
「だんだん星骸の数も増えてる、急ごう」
少女と別れてどれほど経ったのか、塔の中ではそれを把握することが出来ないが、4人は順調に彼女との距離を詰めていた。
「そうね、このまま早く移動して....大丈夫ですか?やっぱりどこか具合が悪いんじゃ...」
「ぬぅ、すまない...なんだが頭がぼーっとして....」
だが彼女達3人と比べて状況が悪くなっている者もいた、それはアヤメに謝りながら頭を押さえ歩く青年。
先程からどうにも頭が上手く回らず、しかも時間が経つにつれ酷くなってきているのを青年は感じていた。
「すまない、君達の迷惑になってしまって」
「大丈夫大丈夫!困った時はお互い様でしょ?もしかしたら塔の影響かもしれないし、早くあの子を見つけて帰らないとね」
「戦闘に関しては私達に任せてください、幸いなことにあの星骸の出現から強い敵は現れてませんから」
アヤメはそう言いながら安心させる様に笑いかける。
青年は礼を告げ、重くなる頭で彼女達の後をついていくのだった。
一方。
「キュ〜、キュキュ〜イ♪」
(今日はお客さんが少ないな...もっとアピールしてお客さんを集めないと)
「キュ〜キュ〜♪」
件の少女は謎の着ぐるみと化し、コンビニ前で客引きを行っていた。
(もっと集めて今日も売り上げを出さなければ...売り上げが増えれば店長がボーナスをくれるかもしれないし....しうなればもっとあのとんかつ弁当を...おっ?)
「え、何この着ぐるみ?」
「キュ〜♪」
「可愛い〜、手に持ってるのってお弁当?」
「キュイキュイ♪」
そんな事を考えながら少女はやってきた客に近づき精一杯アピールを行う。
全ては売り上げの為、とんかつ弁当の為...彼女は次々と足を運ぶお客に声をかけていた。
(ふぅ、良い感じに売れてるぞ。....そういえば何で私はここでこんな仕事を...)
(そうだ!私はこの塔に皆で神器を回収しに...確か途中で逸れて、それで....)
(っ!駄目だ、また意識が...)
必死に本来の目的を思い出そうとする少女、だが既に時間が経ち正常な思考が出来なくなっているからかすぐに意識が落ちていく。
「おっ、頑張ってんじゃん。もうすぐ休憩時間だから、とんかつ弁当用意しとくね〜」
「っ!キュ〜イ♪」
数秒前まで考えていたことも、ポーシアの一言で忘れてしまった少女は再び見本の弁当片手に店の外へと走って行った。
「食ベロ!食ベロ!」
「ちょ!何この星骸!?」
「わー、なんか凄い料理持ってるね。あんまり食欲はそそられないけど」
「いらない」
少女捜索からまた暫く、4人は興奮状態の星骸に追われていた。
「このままじゃ...ここで止めるわよ!」
「了解」
アヤメの指示で迫り来る星骸を迎え撃つこととなった4人、セイナとコハクはそれぞれ武器を構え始める。
「ねえねえ!何かあの星骸の特徴とかってわかる?」
「そうね、貴方の知識ならもしかすると...」
相手との距離は残り数十メートル、少しでも戦いやすい様にと青年に声をかけたセイナだったが
「.....とう」
「え?」
「...とんかつ、弁当」
「「「え?」」」
思いもよらぬ言葉に思わず全員が固まってしまう。
「とんかつ弁当を早く食べたい....客引きを頑張らないと...」
「ちょ、ちょっとどうしちゃったんですか!?」
必死に肩を揺らすアヤメだったが、青年は虚な目で"とんかつ弁当"というワードを呟いている。
「トンカツ、弁当?ワカラナイ、ナンノ食ベモノダ?」
「え?」
だが青年の言葉を聞いた星骸は何故か彼女達の目の前で止まると、考え込む様な素振りを見せ始める。
「トンカツ、トンカツ、食ベモノ作ルノ、オレノ仕事、待ッテロ」
そしてそう告げた星骸はそのまま武器を手に来た道を引き返していったのだった、そんな敵の姿に3人はポカンとしてしまう。
「よくわからないけど助かった...のかしら?」
「多分?」
「まあ戦わなくていいならラッキーじゃん、今のうちに移動しよう」
「そ、そうね」
「とんかつ弁当」
(こっちは期限切れだから回収して、新しいこれを棚に....よし!セールのラベルもちゃんと貼れたぞ!)
「キュイキュイ♪」
「ん〜?あぁ準備出来た?」
「キュ〜イ♪」
「そっかそっか、じゃあそのままお客さんの呼び込みもお願いね。頑張ったらまたサービスしてあげるから」
(っ!よし、やるぞ!)
すっかり従業員としての仕事に慣れた少女は、セール中の看板を手に上機嫌で外へと飛び出していく。
そんな少女の後ろ姿を目にしながら、ポーシアは溜息をついた。
「うんうん、良い感じで働いてくれるじゃんあの子。はぁ〜このままずっとウチのヘルプに入ってくれると助かるんだけどなぁ....まぁ、まだとんかつ弁当食べさせてからそんなに経ってないし戻るのも時間の問題かな〜」
「それに...."あの子達"もそろそろ来ちゃいそうだしね〜」
ポーシアがそんな独り言を呟いているとは露知らず、少女は熱心に看板を振りながら仕事に専念していた。
(そろそろとんかつ弁当以外の新しいものも食べてみたいな....確かポーシアが前にやきそばというのも美味しいと言ってたな。なら美味しくご飯を食べるためにももっと仕事を頑張らなくては!)
(ぬ?早速お客か?)
少女の視界の先にはこちらに近づいてくる数名の人影がいた。
「キュ〜♪キュ〜♪」
距離が少しあるため顔はわからないがきっとお客さんだろう、そう思った少女は愛くるしい外見を利用し向かってくる集団にアピールを開始したのだった。
「キュ〜キュ〜」
「うわっ!とうとう変な鳴き声になっちゃったよ!?」
「これは重症だね...」
「し、しっかりしてください!私達がわかりますか!?」
無事星骸の元から逃げ出した4人だったが、アヤメ達は明らかにおかしくなってしまった青年の姿に慌てていた。
かろうじて口から漏れていた言葉も今やすっかり謎の鳴き声になり、会話がまるで通じない。
「アヤメ、どうしよう」
「絶対に急いで戻った方がいいわね...でもあの子は何とか見つけないと....あ、待って2人とも。反応が近いわ!」
心配そうに青年を見つめる3人だったが、アヤメによる捜索魔法により探していた少女が近くにいる事を察した彼女は辺りを見渡していく。
「でも隠れられそうな場所なんて....って、あれはコンビニ?」
そんな彼女の目の前に現れたのは一軒のコンビニ。
普段であればダルそうな店員が1人いるだけの場所なのだが、今目の前には謎の着ぐるみが看板を持ってこちらに手を振っている姿が見えた。
「何あれ?可愛い〜!」
「ふかふかで、あったかい」
「ふ、2人ともいきなり離れたら危ないでしょ...!」
アヤメと同様に着ぐるみを見つけたセイナとコハクも一目散に着ぐるみ目掛けて走って行った。
(何故この子達は買い物をしないんだ?どうして私をそんなにつついて...なるほど、私と写真が撮りたいんだな?お客さんにサービスするのも大事な仕事だ!)
「ポーズしてる、可愛い」
何の警戒も無しに着ぐるみ(少女)と写真を撮るコハクに、青年を連れて慌てて走ってきたアヤメだったが、着ぐるみの前に来た瞬間驚いた表情を浮かべ声を上げた。
「っ!この子よ!私の捜索魔法が反応してる場所...着ぐるみの中!」
「え?そうなの?おーい!祈願箱から出てきた巡遊者さーん!入ってますかー!」
「キュイ?」
(祈願箱から出てきた?誰のことを話してるんだ?)
「おーい、しっかりしてー!まだ私、キミに助けられた恩を返せてないんだけどー!それに私達まだキミの名前も知らないんだよ?だからこれからももっともっと貴方のこと教えて?」
(助けた...?名前...?私は....)
セイナの言葉によって、少女の頭に忘れかけていた記憶が流れ始める。
目を覚ました時、こちらを見ていた3人の姿。
車の中で色々な事を教えてくれた時間。
塔へと望む前に行ったあのストレッチの痛み。
塔の中で力を合わせて戦ったあの戦闘。
(そうだ、私は....)
「セイナ、アヤメ、コハク──それに、私も共に眠っていたキミも」
「「「!喋った!」」」
「キュ?」
「良かった!じゃあ早くその着ぐるみ脱いで塔を出ないとね!...あれ、でもこれどうやって脱がすんだろ?」
「体と同化してる、簡単には脱がせなさそう」
「2人も手を貸してー!」
「わかったわ、同時にいくわよ」
「キュー」
4人全員が着ぐるみを掴み一斉に脱がそうとした所で
「ちょっとちょっと〜、お客様〜?ウチの従業員を勝手に連れてかれると困るんですけど〜?」
コンビニの中からポーシアが姿を現した。
「この子はウチて働いてる店員ですよ?」
「いいえ、この人は私達の仲間です!この着ぐるみの腕についてる水のブレスレットは私が塔に入る前にかけた捜索魔法、それが何よりの証拠です!」
「ふーん、仮にそうだとしても今は間違いなくウチのコンビニ店員なの。だからはいどうぞって返すわけにもいかないんだよね〜」
「むぅ...じゃあどうすれば満足してくれるんですか?」
「そりゃあ決まってるっしょ?ここは星ノ塔のコンビニなんだから....ここにある商品全部買ってくれたら、そのおまけにつけちゃおうかな〜」
「ぜ、全部!?そ、そんなの...!」
ポーシアの提案にたじろぐアヤメ、見るだけでかなりの数の商品が並んでいるのがわかる。
これを全部買うとなるとどれほどのステラコインが必要になるのか見当もつかない。
「ん〜、はい、これで足りるかな?」
が、2人のやり取りを聞いていたセイナは、ポーシアの目の前の机にドサっと重い袋を下ろした。
「え、これって...」
「お〜、マジ?」
その袋の中身はパンパンに詰められたステラコインだった。
「セイナ、こんなに沢山のコインいつの間に...」
「ほら、ここまで来るのにいっぱい星骸倒したでしょ?落としたコイン集めてたらこんなになってたんだよね...それでどう?これで足りる?足りなかったら集めてくるけど」
セイナは袋を差し出しながらポーシアを見つめる。
袋の中身をじっと眺めていたポーシアはそんな彼女からの視線に溜息をつき、両手を上げながら呟いた。
「ん〜わかった、じゃあそこの頼れる店員さん?こちらのお客さんが沢山買い物してくれたから、外に運ぶの手伝ってあげて〜」
「キュイ♪」
「ほら、行くわよ皆」
「それじゃ、またのお越しをお待ちしてま〜す♪」
言われた通り商品を運ぶ着ぐるみの少女を連れてコンビニを出ていく4人。
「.....さ〜て、店員1人いなくなっちゃったし、お仕事しよっかな〜」
彼女達が去っていく姿を見ながら、ポーシアはだるそうに声を漏らしてカウンターから腰を浮かせ棚の商品を手にとったのだった。