ポーシアのいるコンビニから出た5人は、それから安全な場所へと移動し少女の着ぐるみを脱がそうと奮闘していた。
「もうちょっと...!」
「これで....!」
グッと頭を掴んだ手に一気に力を込め動かし続ける事暫く、ポンっ!という音と共に中から少女が姿を現した。
「ぷはぁっ!や、やっと脱げたぞ...!」
「おお!おっかえりー!」
「大丈夫だった?」
「心配しました、無事で良かったです」
苦しそうに久しぶりとなる外の空気を吸い込む少女、そして外へと飛び出したと同時にそばで立っていた青年がまるで意識を取り戻した様に目を見開いた。
「っはぁ...!僕は...」
「ぬ?そっちも大丈夫か、何かあったのか?」
「実は...少し前から様子が変だったんです」
「何回もとんかつ弁当とか言ってた」
「鳴き声みたいなのも言ってたよねー、そういえばまだ着ぐるみに入ってた時のキミみたいだったかも」
「ふむ....なんとも不思議な話だ」
「僕も同じだ、あの時は突然頭が真っ暗になって...」
青年と少女は互いを見ながら考え込むが、いつまでもここにいない方がいいと思い直し服の埃をはらいながら歩き出す。
「とりあえず皆には迷惑をかけたみたいだ、すまない。また助けられてしまったな」
「いいのいいの!空白旅団は絶対に仲間を見捨てたりしないんだから!」
「ひとまず急いで外に出ましょう、大体入ってから2日くらい経ってますから」
「そろそろ出ないと私達も危ない」
「よし、じゃあ早く出ちゃおう」
3人は背を向け早足で歩き始める。
そんな中で、少女と青年は一瞬コンビニへと目を向けた。
「....♪」
中にいたポーシアはその視線に気がついたのか、2人を見ずにフリフリと手を振っている。
「おーい、早く早く!」
「....私達も行こう」
「そうだな」
彼女の姿を一目見た青年と少女は、こちらを呼ぶセイナの声に頷きながら駆け出していった。
「ふぅ〜〜〜、お腹いっぱい♪」
「ありがとうアヤメ」
塔から無事でた彼女達は、車の中で暫くぶりとなる食事をとっていた。
「もうあまり残ってないけどね...あなたも大丈夫ですか?」
「ああ、すっかり満腹だ....それにしても塔から出た途端にとてつもなお空腹に襲われたんだが...」
「だから言ったじゃないですか、結局35時間も塔の中にいたんですよ?どんなにコンビニ弁当を食べても塔から出てしまえば全てなかった事になるんです」
「実際に経験してみると本当に不思議なものだな...つまり万が一にでも塔の中で1ヶ月くらい過ごしてしまえば...」
「食べたものはリセットだから、出た瞬間ガリガリに痩せちゃって餓死しちゃうかもね」
「無駄に生々しい言い方しなくていいから!....流石にそこまで長い事過ごした巡遊者の記録はないですけど、1週間でも見つけた時には錯乱状態だったそうです」
「そうそう、その人確か『伝説の英雄達を見た』って何度も虚な目で呟いてたんだよね?...幽霊でもみたとか〜」
「こ、怖い話はやめて!」
セイナがわざとらしくアヤメににじり寄りながら呟くと、彼女は後部座席に置いていた毛布に隠れ身体を震わせる。
「アヤメは怖いもの苦手だから」
「ごめんごめん、もう怖い話しないから!....あっ、そういえばアレ渡さなくていいの?」
「...それもそうね、ちょっと待ってて」
「ぬ?アレとはなんだ?」
そう3人に尋ねる少女だったが、少ししてアヤメが何かが入った2つの箱を持ってきた。
「これは...」
「ふふふ、じゃじゃーん!こちらは何と、祈願箱から出てきたパジャマでーす!」
「ぱ、パジャマ?」
「はい、そのままの服装だと眠りずらいでしょうから。彼の分もお揃いでちゃんとありますよ」
「セイナのアイデア」
彼女達の話を聞きながら、少女は箱の中から可愛らしいパジャマを手に取り少し困惑した表情で口を開く。
「しかし...わざわざパジャマを出して良かったのか?もっと使える神器を出した方が君たちは...」
「いいのいいの、キミはあの時転移魔法から助けてくれたでしょ?それ以外にも2人には何回も戦闘では助けてくれたし!」
「はい、私達からお礼の気持ちとして受け取ってください」
「そうか....ありがとう」
少女の言葉を受け、3人は嬉しそうに笑みを見せる。
(ぬ?そういえば彼はどこに行ったんだ...?)
だがそこで少女は先程から全く外から戻ってくる気配のない青年がどこにいったのか疑問に思い、車の窓から外を覗き込むと少し離れた場所に置かれた岩の上に座る青年の姿があった。
「すまない、少し出てくる」
少女はアヤメ達に一声かけると、車から出て岩に腰掛ける青年の元へと向かっていく。
青年は少女の存在に気づいていないのか、ぼーっと静かに夜空を見上げているようだった。
「長い事外にいるが、戻らないと風邪をひいてしまうぞ」
「ぬ...ああ、すまない」
背後から声をかけられた青年は一瞬少女の方に振り返り返事をすると、また上を見上げ無言になってしまう。
少女はそんな青年の隣に腰掛けると、同様に星空を見上げ始めた。
「....僕達はいったい何者なんだろうか」
どれくらい経っただろうか...互いの間に静かな時間が暫く流れた後、ふと青年が口を開き呟いた。
「それはどういう...」
「キミが転移してから、僕の身体には不思議な事が何度も起こったんだ。空腹に突然の満腹感、頭に浮かぶ『とんかつ弁当』....おそらくその時の僕にはキミの思考や感覚が共有されていたんだろう」
「な、なんだか改めて思い返すと私は情けない姿を晒してしまっていたんだな...だが何故そんな事が私とキミの間に.....」
「それにキミと僕は彼女達曰く同じ祈願箱の中で眠っていた、おまけに自分が誰かさえもわからない記憶喪失ときた」
「....こんなにも謎が多い僕達はいったい何者なんだ?それがずっと頭の中を回って止まらないんだ」
そう言って軽く頭を押さえながら下を向いてしまう青年。
眉を顰め悩む様子の彼の話を隣で聞いていた少女は少し考える素ぶりを見せポツリと答えた。
「...私達が何者なのか、今の現状に陥っている理由はわからないが....別に今はわからないままでいいんじゃないか?」
「わからないままで?」
「確かに私も気にはなるが、どのみち記憶喪失である以上過去を思い出そうとしても時間の無駄になってしまう可能性が高いだろう」
「それならば焦らずゆっくり探していくのも悪くないんじゃないか?幸いな事に今の所困った事は少ない、それに塔の中で星骸の知識を思い出したりもした事から考えて時間が経てば色々と思い出せるかもしれない」
「....確かにそうかもな、僕は変に考えすぎていたのかもしれない」
少女の言葉に耳を傾けていた青年はそう呟き息を吐くと、腰を上げ立ち上がった。
「さあ、そろそろ戻ろう。アヤメ達が心配してしまう....そういえば先程今日の祈願箱で私達のパジャマを手に入れたと言っていたぞ」
「パジャマ?それはありがたいな、3人にはお礼を言わないと」
どこかスッキリした表情の青年を連れ、岩を降りた2人は彼女達が待つ車へと星空の下を歩いていったのだった。