魔王様、2倍です   作:Mrふんどし

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アモールへ

夢を見ていた。

 

空は赤く、辺りからは焼け焦げた様な匂いが立ち込めている。

 

周囲の建物は大半が崩れており、いつも変わらず風邪で揺れていた旗はもうその姿を失っていた。

 

そこはどこだったか、あまりに面影が残っていないのもありよくわからない。

 

自分はどこにいるのか、何をしているのか....意識がぼんやりとしていてはっきりしない。

何やら椅子の様なものに座っているのは辛うじてわかった。

 

『ごめんなさい、マオウ様....』

 

目の前から1人の少女が近づいてくる。

彼女は何かつぶやいているが、よく聞き取れない。

 

『私が...あなたを裏切ったから....』

 

顔は見えない、だがどこか悲しそうな雰囲気を纏っている。

 

──君は?

 

掠れる声を何とか振り絞り、目の前の少女に声をかけた。

正直聞こえていふかわからなかったが、少女は僅かに顔を上げると再び口を開く。

 

『あ...そっか、うまく...いったんだ、よかった』

 

──うまく...?何を...

 

『記憶が失くなったなら、もう大丈夫....きっとこれからは、幸せな毎日があなたを待ってるから』

 

少女は口元を緩めながら、こちらに背を向けると何かを見上げながら言った。

 

『それと、最期にもう一つ...あそこに、一際輝いてる星が見える?』

 

少女の見つめる先に視線を向けると、雲が煙か...何かに遮られておりはっきりとは見えないが、空高くに明るい光が見えた。

 

『人はね、自分の弱い心を守ろうとして...みんなあの星に願いを託すの』

 

『だってそうすればもし願いが叶わなくても、"自分はものすごく頑張った、ただあの星が願いを叶えてくれなかっただけ"....そう言い訳出来るから』

 

少女はどんな顔をしているのか、ただ空に浮かぶ星を見つめ言葉を続ける。

 

『でも...ただ願うだけで望みが叶うなんて、そんな都合な話は無い....』

 

『それなのに...愚かで、哀れな私たちはそうやって自分を誤魔化さないと、生きられないのも事実』

 

『だから....そう、だからこそ...あなたが願い星になる必要なんて無い。これまでと同じことを繰り返してるだけじゃ、新しい答えには辿り着けない』

 

──答え.....

 

少女はそこまで言って、こちらに軽く振り返る。

 

『....さようなら、マオウ様。最期に話せてよかった』

 

『ただ...もし、もしも運命が私たちを再び導いてくれるのなら....』

 

 

 

 

 

『その時は....星の無い空の下で、また会いましょう』

 

 

 

 

 

 

「「っ!」」

 

意識が突然覚醒する。

無意識だったのか、何かを掴もうと手を前に伸ばしているのに気づいた。

 

「わっ!...び、びっくりしました。大丈夫ですか?随分とうなされていたみたいでしたけど」

 

「悪い夢でも見た?」

 

青年と少女は互いに顔を見合わせていると、2人の前に座っていたアヤメが心配そうにこちらを覗き込んでいるのが目に入る。

車の上からはコハクも顔だけ覗かせていた。

 

「あ、ああ、少し変な夢を...」

 

「僕もだ、誰かと話していたような...」

 

「とりあえずこれをどうぞ」

 

そう言ってアヤメは2人にお茶の入ったカップを手渡した。

青年た少女はそれぞれカップを受け取ると、ゆっくりその中身を口に含んでいく。

 

「ふぅ...ありがとう、少し落ち着いたよ」

 

「とても美味しいお茶だ」

 

そのお茶の味に満足そうにしていた2人だったが、やがて青年が口を開いた。

 

「みんな、"マオウ"という言葉を聞いたことは?」

 

「マオウ、ですか...?」

 

「マオウ....」

 

「マオウってあれでしょー?昔話に出てくるやつ」

 

運転席の方から話を聞いていたらしいセイナの声が聞こえてくる。

 

「君もあの夢を見たのか?」

 

青年の隣に座る少女もその言葉に反応する、直接言葉を交わさずともそれだけで同じ夢を見ていた事実を互いに理解していた。

 

「それで、その昔話とは?」

 

「昔から有名な話です、えっと.....」

 

アヤメはパラパラと持っていた手帳をめくってある単語を見せてくれた。

 

"魔王"

 

「これが...」

 

「マオウ...」

 

「はい、ただ厳密にはNOです。"まおう"という読み方は旧いもので、今では"ボス"といいます」

 

「「ボス?」」

 

「つまり、星ノ塔の中で一番強い星骸を指す言葉の事です。そもそも"魔王"というのは、かつて勇者に敗れ世界を滅ぼそうとした....」

 

「悪者」

 

「...そう、だからその名前そのものが闇に葬られたんです」

 

「世界を滅ぼそうと、か...」

 

「かなり壮大だな」

 

2人はアヤメの説明を聞き少し考える素振りを見せる。

 

「あれ、世界を滅ぼす?そんな話だっけ?ノヴァ大陸中の星ノ塔を手に入れようとした、とかじゃなかった?」

 

「ちょっと違うわね、そもそも魔王の目的は星ノ塔の破壊だから。塔を壊せば神器は手に入らなくなる....そんなの世界の終わりと同じでしょ」

 

「そうかなー?神器が無くなったくらいじゃ世界は終わらないと思うけど。ほら、実際これまで手に入れてきた神器だって殆ど売っちゃったし」

 

「そ、そうだけど...でもこのオアシス号の整備だって、その神器を売ったお金で出来てるんだから」

 

「ぬ?オアシス号とは何だ?」

 

セイナとアヤメの会話の最中、ふと途中で出てきた単語に疑問を覚えた少女は尋ねた。

 

「この車、あたしたちの家」

 

「家?」

 

「はい、私たちは3人全員孤児院出身なんです。元々そこにあった部品だったり、セイナが拾ってきた部品を何とか組み合わせてやっとの思いで完成させたのが、この車....オアシス号、私たちの家なんです」

 

「あ、ちなみに名前は"ミドリちゃん"ね!」

 

「ミドリちゃんか...ぬ?だが車ならそれこそ祈願箱に願えば手に入るのではないか?」

 

「確かにそうだな」

 

「チッチッチ....2人ともわかってないなー。こういうのはロマンなんだよ?巡遊者なら、冒険の足は自分達で用意しないと♪」

 

「な、成る程」

 

彼女の発言に妙に納得した2人、そんな中でセイナは何かを思い出した様に後部座席のアヤメに声をかけた。

 

「そういえばアヤメ?整備と言えば神器を売ったお金でグリス買っていい?ミドリちゃんこの前から変な音しるんだよね」

 

「なら銃の魔力もしていい?」

 

「そうね....でもちょっと待ってもらえる?お金があまりないからしっかり順番を考える必要があるの。当然最優先は食料ね、もうあまり残ってないし...で、その後残ったお金で心相石を作ろうと思うの」

 

「あー成る程ね!確かにいいかも!」

 

「それなら仕方ない」

 

アヤメが告げた提案にセイナとコハクは納得した様に頷いている。

当然青年と少女はわからず同じ様に首を傾げていた。

 

「すまない、心相石とは何だ?」

 

「ああ、それは...私たちが持ってるこの宝石のことです」

 

そう言ってアヤメは自身が身につけていた宝石を見せてくれた、確かに塔にいた頃も3人がつけていた宝石が気になっていたと思っていると、彼女は話し始めた。

 

「私達が普段使う魔法や神器は多くの魔力を使います、だから予めこの宝石に蓄えておくんです」

 

「そういうものだったのか」

 

「ですが、これから向かう理由はもう一つあります。この心相石を製造管理しているのは"恩恵意志"なんですが、そこには全ての心相石の製造記録が残ってるんです」

 

「記録?」

 

「はい、誰がいつ作ったのか....つまり過去の製造記録と照合する事で、あなた方の身元が明らかになる、という訳です!」

 

「「おお...!」」

 

「さすがアヤメだよね〜、よっ!空白旅団の頭脳〜!」

 

「天才、アヤメ最高、神」

 

「ふふん♪どうもありがとう....って、そんなおだてても2人の買い物は終わってからだからね?」

 

「「......」」

 

((図星だったのか))

 

露骨に静かになった2人の姿に青年と少女は苦笑してしまう。

 

「だが...すまない、ここまで世話になっているのにこれ以上君たちに迷惑をかけるなんて...」

 

「迷惑なんて、そんな事気にしないでください。記憶喪失の人に手を貸すのは巡遊者として当然のことですので」

 

「記憶喪失になるのは巡遊者な以上、誰でもあり得るからねー。何なら明日にも全部忘れちゃう!なんて可能性もあり得ない話じゃないし」

 

「助け合いは大事」

 

「それにさ、こんなに気前のいいアヤメなんて珍しいんだよ?キミたちが良ければ受け取って上げて?」

 

「ちょっ!セイナ!それどういう...!」

 

「あっ!ほらほら、もうすぐだよ!ようこそアモールへ〜!」

 

セイナの声に2人はそれぞれ窓の外を覗き込む。

すると目の前に巨大な門が見えてきた。

そして、オアシス号が門を潜った先には....様々な建物が立ち並ぶ街並みが広がっていた。

 

「この街も出てからもう2年か〜、でも景色はあんまり変わってなくてなんか安心したかも」

 

「あっ」

 

「ん?コハクどうかした?」

 

「ネコがいた」

 

外にはケータイを見せ合っている者、椅子に座りお茶を楽しんでいる者など、多くの人が集まっているのがわかる。

 

「とりあえず、『ヒナギクの家』に戻ってエリーさんに挨拶しておきたいけど...まずは神器の換金を終わらせちゃいましょう」

 

華麗に2人の会話をスルーするアヤメ、だが青年と少女は窓から見る景色にある考えが浮かんでいた。

 

((ここは、あの夢で見た場所だ))

 

崩れ落ちた建物、焼け焦げた地面や旗...明らかに滅んだと思われる街がそこには広がっていたのだ。

 

「やはり夢だったのか...?」

 

「夢?」

 

「....いや、何でもないさ」

 

「それよりも、早く向かおう」

 

青年と少女はそうはぐらかしながら、再度窓の外の景色を目に焼き付けていった。

 

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