天使なデンジ   作:一般冒険者

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チェンソーマン……ドラゴン……うっ!頭がっ!
助けてデンジーマン!


九話 ベスト・キッズ

「デンジ君はえらいね、あんな事があった後なのにもう勉強してて」

 

「マキマさんが教えてくれてるからっすよ~!」

 

そう言ってデンジは、持っていたシャーペンを顔の高さまで掲げた。

手元にはマキマが買ってきた漢字ドリルがある。

今、デンジはマキマの自宅で彼女の手ほどきを受けていた。

ホテル事件の後デンジは倒れたものの、原因は過労によるものだったため、十分な休養を取った彼はすぐにいつもの元気を取り戻していた。

昔は病気や怪我をしていようがお構いなしに働かなければならなかったし、時にはそんな状態で悪魔と戦わせられた事もあったのだ。

それと比べて清潔な病院で適切な処置を受けられ、栄養のある食事ができる今の環境であれば、すぐに元気を取り戻すのも当然だった。

 

「そう、ここの止めハネを意識すると綺麗な字になるよ」

 

彼女はそう言うと、ペンを持つデンジの手にそっと自身の手を添え、導くように動かす。

デンジは真剣に取り組んではいるものの、自身の手に重なるように添えられたマキマの手に意識を持っていかれてしまう。

彼女との勉強会は、デンジにとって通常の数倍の集中力を要するものだった。

 

「何で漢字ってこんなに読み方があるんすか……」

 

「そうだね……同じ概念やモノに対していろんな呼び方があるからとか、元々は中国のもので輸入した結果、日本独自の進化をした……とかかな?詳しいことを知りたかったらいろんな本を読んでみないとだね。難しい本には難しい漢字も載っているからもっと読めるようにならないとね」

 

「え~!漢字調べるために漢字勉強しないといけないのかよ~?」

 

そう言いながら、うげーっと舌を出して嫌な顔をしたデンジは、ふと気付いたことをマキマに尋ねた。

 

「あの、マキマさん、さっき同じモノに色んな呼び方があるって言ってましたよね?それって悪魔の場合どうなるんすか?増えるんです?」

 

「うーん、悪魔は言葉ではなく概念に対して名前を持つから、いくつ呼び名があっても悪魔の数は一つの概念につき一体だけだよ。例えばリュウの悪魔がいたとしようか。西洋の竜と東洋の龍は全くの別物だけれど、英語ではどちらも同じドラゴンって呼ぶんだ。もしこれが巨大な爬虫類のような怪物、という共通のイメージを持つ概念なら呼び名が違っても一体のドラゴンの悪魔になるだろうね」

 

そう言ったマキマの視線は、どこか遠くを見ているようだった。

何かを思い出すかのように彼女は、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「だけど実際は違う……西洋で竜は悪を象徴し、聖者の敵である怪物という立ち位置だけれど、反対に龍は権威や神性を象徴する縁起の良いモノなんだ。もっとも、その本質は人間にはどうにもできない天災や神への畏れに近いけれどね。どちらも日本語ならリュウ、英語ならドラゴンと同じ呼び方をするけれど、西洋のリュウは邪悪な悪として、東洋のリュウは鎮めるべき神として、それぞれ別の恐怖の性質をもつ概念なんだ。だから彼らは別々の悪魔として存在しているんだよ」

 

そう言うとマキマは、遠くを見つめていた視線をデンジに合わせた。

 

「まぁ、人間に害をなすならどちらも脅威であることに変わりはないんだけれどね」

 

「へ~……なんかよく分かんないとこもありましたけど、大体分かりました!とりあえず悪い奴ならブッ殺せばいいんすね!」

 

「うん、そうだね」

 

「任せてくださいよマキマさん!俺が悪い悪魔どんどんブッ殺してどんどん肉片集めて、銃の悪魔もサクッと殺しますよ!」

 

明るくそう言うデンジにマキマは微笑んだ。

 

「デンジ君と約束してるもんね、なんでも一つお願いを聞いてあげるって」

 

マキマはデンジの頬へゆっくりと手を伸ばすと、そこに右手を当てた。

デンジは当然、マキマの手を受け入れる。

 

「デンジ君は私にどんなお願いをしたいのかな」

 

突然そう聞かれたデンジは戸惑うも、答えようと口を開きかけた。

しかし、マキマは顎まで手を滑らせるとそのまま、彼の唇を親指で塞いだ。

デンジの脳裏にあの日の事が鮮やかに蘇る。

 

「ごめんね、やっぱりその時になったら教えて」

 

微笑みを浮かべた彼女の瞳に、デンジは吸い込まれるような錯覚を覚えた。

きっと、慣れることは無いのだろうと彼はぼんやりと考える。

 

「ふぁい」

 

それでいいのかもしれないと考えながら、唇を塞がれたままのデンジは答えた。

だって慣れてしまえばもう、今みたいな気持ちになれないかもしれないのだから。

 

「今日も映画見る?」

 

手を離したマキマは、デンジにそう尋ねる。

頬から離れる熱を、デンジは少しだけ名残惜しんだ。

 

「もちろん見ますよ!」

 

「それじゃあ今夜はこれを見よっか」

 

それはあの日、彼女に勧められた三つのうちの最後の一つ。

顔の前にビデオを掲げたマキマの姿は、どことなく楽しみを前にした少女のような雰囲気をまとっていた。

 

映画が始まるまでの予告映像が流れるのを背景に、ソファに隣り合って座る二人は話をしていた。

 

「それにしても大変だったみたいだね、デンジ君」

 

「そうなんですよマキマさん!みんなして俺ん事殺そうとしてきて!」

 

「あらら、みんなが?」

 

そうマキマが尋ねると、デンジは少し口を尖らせた。

 

「……いや、まぁアキとチビ女は違いましたけど……」

 

そっか、とマキマは言い、デンジの頭へ手を乗せた。

 

「よく頑張ったね、よしよし」

 

「へへ……」

 

指先を頭頂部から首筋まで、緩やかな曲線を描くように頭を撫でる。

デンジは心地よいその感触に、無抵抗に身を任せた。

 

「デンジ君、力を抜いて」

 

マキマに言われたとおりに、デンジは体の力を抜いた。

すると彼女はデンジの体をゆっくりと自身へと倒し、彼の頭を太ももの上に置いた。

 

「あのっマキマさん!これってひ、膝枕ってやつじゃ……!?」

 

「うん、膝枕ってやつだよ。デンジ君は頑張ったからね、ご褒美だよ。嫌だった?」

 

「嫌じゃないです……」

 

デンジは思ってもみなかったご褒美にご満悦だ。

僅かな重みを乗せた手のひらが、デンジの頭に置かれる。

その重みが、デンジに安心感を与えた。

そのまま、マキマの指先がデンジの髪に深く潜り込む。

髪の毛を梳くのではなく、柔らかい感触を確かめるように指をわずかに髪へ絡ませる。

彼女はその感触を味わい、楽しむような優しい手つきで撫でていた。

映画を見ながら二人は、互いの体温が混ざり合うような感覚に静かに身を任せていた。

 

画面の中では見上げるほどの建造物がネオンに輝き、地上を彩る。

しかしそこで生きる人たちはどこか鬱屈としていて、雨に濡れながらネズミが通うような細い道を行き来していた。

限られた命の時間を足搔く人造人間たち、それを追う者。

物語は人と人でないもの、両者の心の境界線を曖昧にしていく。

デンジは画面の中の物語をぼうっと眺めていた。

今の彼はマキマの太ももの感触と、頭を撫でるその手の感触を味わう贅沢に集中していた。

映画は佳境へと突き進む。

主人公は、人造人間に屋上へと追い詰められ絶体絶命へと陥っていた。

屋上から滑り落ちそうになるその瞬間、主人公は自身をいたぶっていた人造人間に救われる。

最後に人間性を獲得したその人造人間は、降りしきる雨の中で自身の命を終えた。

その姿を見ていたデンジは、なぜだか自身と重なるものがあるように感じられた。

 

「なんか……昔を思い出しました。昔、死にたくないって泣いてた悪魔がいたんです。俺は別に絶対殺したいとも思わなかったんで、人間に手を出さない代わりに殺さないって約束したことがあったんです。まあ、その後ヤクザにボコボコにされましたけど」

 

遠い昔の記憶、まだまだデビルハンターとしての経験が浅かった頃の記憶が蘇る。

獲物を逃したことをヤクザは怒り、動けなくなるまで暴行を加えられていたが、ポチタだけはその胸に抱えて守り切った記憶。

その後ポチタは、デンジを心配してずっとそばに居続けた。

 

「アイツ……人として生きたかったんだ」

 

自然と口をついて出たその言葉に、デンジは納得した。

あの人造人間は昔の自分だったのだと、だから重なるように感じられたのだと。

 

「そう……なのかも、しれないね」

 

膝枕をされているデンジからはマキマの表情は見えない。

だが彼女の声音には、何かに気づいたような、あるいは驚きを覚えたような、そんな微かな震えが混じっていた。

 

「私はね、あの人造人間が好きなんだ。なんでだろうって思ってたんだけど、デンジ君のおかげで少し分かったかもしれない」

 

穏やかな口調でマキマはそう言った。

デンジにはよく分からなかったが、とりあえず彼女の役に立てたようだと嬉しそうに笑った。

 

 

「マキマさん、今日はあの日のリベンジ……マッサージをさせてください!」

 

映画を見終わったデンジは、マキマにそう言ってリベンジを望んだ。

デンジは来たるこの日のために、アキを犠牲に今まで努力をしてきたのだ。

今日こそ練習の成果を見せる番だとデンジはやる気に満ちていた。

 

「あん時は痛い思いさせちゃいましたからね~……あの後早パイ使って練習したんで、今日はマキマさんを天国に連れていきますよ!」

 

「じゃあお願いしようかな」

 

キラキラと目を輝かせているデンジを見てマキマはそう言った。

それから二人は寝室へと移り、ベッドの中央に寝転がったマキマにデンジはマッサージを開始した。

アキを実験台にして人が痛みと気持ちよさを感じる丁度いい塩梅を覚えたデンジは、マキマの様子を探りながら体をもみほぐしていく。

毎度嫌がりながらも結局アキはデンジの練習に付き合っていたが、パワーは一度受けてからは逃げ回るようになっていた。

そのため、デンジの力加減は女性に対してするには少し強かったが、自身の加減が下手だと自覚しているため以前よりはマシになっている。

 

「マキマさん体柔らかいっすねー、早パイん時は結構硬いコリとかあったんすけど」

 

「昔からあまりコリがたまらない体質みたいなんだ」

 

マキマの体はどこも柔らかかった。

初めてマッサージした時にはデンジも緊張でいっぱいいっぱいだったが、今回は前回気付けなかったことにも気付けた。

肩、自分よりも小さい。

腰、自分よりも細い。

足、自分よりも柔らかい。

デンジは、彼女が思っていたよりも小さかったことに改めて気付いた。

 

(マキマさん、こんな小せえ背中に色んなモン背負ってんだな……)

 

デンジに詳しいことは分からないが、それでもマキマは責任のある重い立場にいることだけは分かる。

一体いつから、どれだけの重さを受け止めてきたのだろう。

デンジは想像する。

だが彼にとって最も大切なのは、彼女が自分を救い上げてくれたこと。

大切なのはたったそれだけだ。

デンジは彼女のその小さな背中に背負うものを、代わりに背負えたのならと思っていた。

 

「どうでした!?」

 

一通りマッサージを終えたデンジは、マキマにそう尋ねた。

あれだけ揉みたくもない男の体を揉んだのだからと、高い評価が貰えると彼は期待していた。

 

「うーん……天国にはまだまだ遠かったかな?」

 

期待に目を輝かせていたデンジだったが、マキマからの評価は期待通りとはいかなかった。

ガックリと落ち込む彼に、マキマは言葉を重ねる。

 

「でも前よりはすごく上手になってたよ」

 

そう言って彼女は、俯くデンジの顔を覗き込むように首を傾けた。

 

「だからデンジ君が私を天国に連れていけるまで、期待して待ってるね」

 

「ハイ!」

 

デンジはその言葉だけで、落ち込んだ気分からすぐに元気を取り戻した。

気分の切り替えが早いのはデンジの長所だった。

 

「それじゃあもう寝ようか」

 

そう言ってマキマはころりと転がり、デンジが寝る分のスペースを空けた。

そこにデンジは寝転がる。

 

「デンジ君、お手」

 

「ワン」

 

マキマにお手を要求されたデンジは、犬の鳴き真似をしながら手を差し出した。

彼女はその手をそっと握る。

視線は、その手に注がれていた。

 

「こうやって手ぇ繋いで眠るのはなんか、ちょっと恥ずかしいっすね」

 

「そうかな?私は恥ずかしくないよ」

 

少し頬を赤く染めてそう言うデンジに、マキマは視線を向けてそう言った。

 

「えぇ〜?マジですか?」

 

「マジだよ、私はこうするの……結構好きかな」

 

彼女はそう言いながら、まるでデンジの手の感触を楽しむかのように、手を軽く握ったり開いたりしている。

デンジはされるがままにその感触を甘受していた。

 

「好き……そっか、へへ……」

 

マキマのその言葉に、温かくなる心臓を握りこむように、デンジはシャツの胸元をくしゃりと握り込んだ。

やがてどちらからともなく、言葉数が少なくなっていく。

誰かと繋がる温かさに、二人はゆっくりと沈んでいった。

秒針の音さえ届かない静かな場所へと。

 

 

 

 

 

一面に広がる十字の丘。

十字架の下には悪魔による犠牲者たちが眠っている。

マキマ、デンジ、パワーの三人は、人気のない墓地に来ていた。

 

「今日はデンジ君とパワーちゃんに会わせたい人がいるんだ」

 

「会わせたい人?」

 

「この前のホテルの一件でデンジ君を狙う相手がいることが分かったからね、いろいろと考えたんだけれどこれが一番いいと思ったんだ」

 

そうマキマとデンジが話す後ろをついて歩くパワーは、デンジを盾にするかのように隠れようとしている。

朝にマキマと会った時からずっとこの調子だ。

普段からマキマを避けてはいるが、今日は一段とその傾向が顕著だった。

 

「パワーちゃんはどうかしたの?」

 

「さあ……いつもこんな感じじゃないすか?」

 

「いっ、いつもこんな感じじゃあ……」

 

脂汗をにじませたパワーが、デンジの後ろからそう言うのをマキマは不思議そうに見ていたが、やがて視線を前に戻した。

 

「そうかな?うーん……まぁパワーちゃんがそう言うならいいんだけどね」

 

それから三人はしばらく歩いていると、前方に一人の男性がデンジたちの目に入った。

墓の前に立っているその男を指し示しながら、マキマは口を開いた。

 

「この人が二人に会わせたい人だよ。この人は」

 

「シー……黙れ」

 

割り込む男の言葉に、マキマは黙した。

 

「俺の質問に答えろ」

 

そう言うと男は、スキットルを持った手で人差し指を立てた。

 

「悪魔と仲良くなれると思うか?」

 

「仲良くなるどころか家族になったぜ」

 

「下僕にしてやるわ!」

 

男は二本指を立てる。

 

「仲良くなった悪魔が仲間を殺したらどうする?」

 

「俺ぁ死体を隠すかなあ」

 

「ワシは褒めてやるかのお~」

 

男は三本目の指を立てた。

 

「お前たちは人と悪魔、どっちの味方だ?」

 

「俺を面倒みてくれるほう」

 

「勝ってるほう」

 

男はマキマに視線を向けず、デンジたちに向き直った。

 

「お前達、100点だ。素晴らしい。気に入った。大好きだ」

 

その男は全く感情の乗っていない言葉で、死んだ目をしたまま立て板に水を流すようにデンジ達を褒めた。

あまりにちぐはぐなその男に、パワーですら恐いという感情を抱く。

男の言葉は続いた。

 

「俺は岸辺だ。先生と呼ばれると気分が良くなるからそう呼んでくれ。マキマ、お前はもう帰れ。こいつらは今すぐ指導だ」

 

「私は少し様子を見ていきますよ」

 

マキマからのその言葉は、岸辺には予想外だったようで少し会話に間が空いた。

そんな彼の様子を見て、マキマの微笑みは少しだけ深まる。

 

「仕事があるだろう」

 

「安心してください、時間はこの時のために空けておきましたから。これも視察という立派な仕事です」

 

マキマの言葉に岸辺は諦めたように溜息を吐くと、酒を一口あおった。

 

「好きにしろ」

 

岸辺の言葉を受けたマキマはデンジに向き直る。

 

「デンジ君のカッコいいところ、見せてくれるかな」

 

「見ててくださいよマキマさん!ソッコーでぶっ倒してきますから!」

 

「やる気が出んのお~」

 

当然マキマからそんな言葉を受けたデンジは奮起するが、反対にパワーのテンションは低い。

そんなパワーを見て、マキマは一つ提案をした。

 

「パワーちゃん、頑張ったら好きなだけ血を飲ませてあげる」

 

「何をしておるデンジィ!さっさとあのジジイを殺すぞ!」

 

マキマの言葉を聞いたパワーはそう叫び、デンジに血で作ったハンマーを投げ渡して自身は血で作った剣で切りかかる。

しかし岸辺は、剣の軌道を完全に読み切ったかのような動きで体を回転させて避けてしまう。

パワーとすれ違った岸辺の右手には、いつの間にか血に濡れたナイフが握られている。

ふらふらとよろけたパワーは首元を抑えながら倒れた。

岸辺はすれ違いざま、回転の勢いそのままに切りつけたのだ。

一瞬の攻防を見たデンジだったが、彼は怯まない。

パワーが切りかかった時、既に彼はハンマーを振りかぶっていた。

 

「らあァッ!」

 

彼女が攻撃に失敗した時のために、後詰めとして背後にぴったりとついていたデンジはそのまま振り下ろそうとする。

しかし岸辺にこの二段構えの攻撃は通用せず、喉仏、心臓、肝臓、腎臓の四カ所を一瞬で刺される。

臓器を刺されたことによる大量出血と激痛により、デンジは動けなくなってしまう。

そうして喉も攻撃されたデンジは、ゴポゴポと自身の血によって地上で溺れることになった。

 

「男の方は不死身、魔人は半分不死身。体の構造は人間と同じだが、人間様と違うのは血を飲めば……復活するトコだな」

 

そう言いながら岸辺は、懐から取り出した輸血パックの血を二人に飲ませた。

 

「立て、第二ラウンドだ」

 

「野郎~……人ん事好き放題ぶっ刺しやがって……ぜってー許さねえ」

 

「じゃが強いぞ……どうする、デンジ」

 

「挟み撃ちだ。一度に仕掛けりゃ対応できねえだろ」

 

その言葉と共に二人は駆け出す。

パワーは低い体勢から胴体へ向かって剣を突き上げ、デンジは頭に向かって掲げたハンマーを思い切り振り下ろした。

左右に分かれた二人は、さらに上下からの挟撃を行う。

事前の打ち合わせもなく、流れるような動きで仕掛ける二人の息はピッタリと合っていた。

それに対し、岸辺は前へ一歩大きく踏み込む。

同時にいつの間にか左手に構えていたナイフをデンジの膀胱辺りへ突き刺し、右手のナイフはパワーの頭部、耳の裏にある乳様突起へ突き刺された。

 

「ぎぃッ!」

 

デンジの悲鳴を聞いた瞬間パワーは背筋を這い回るゾッとするような悪寒に従い、頭を捻ることでなんとか脳を損傷することだけは免れるも、内耳をかき回されたために平衡感覚に障害を負い、まともに立つことができなくなる。

副神経も傷つけられたのか、腕も上がらなくなってしまった。

一方デンジは下腹部を抱えて蹲り、ガクガクと体を震わせている。

激痛による屈筋反射とショックにより体は痙攣を引き起こし、デンジの意識は朦朧として立ち上がることもできない。

 

「言っただろ、お前たちの体は人間の構造そのままだと。今お前が刺された場所には神経の束があってな、そこを刃物でちょっと刺せば動けなくなるほどの激痛に苦しむ」

 

そう言うと岸辺は、ため息を吐きながらデンジに止めを刺した。

 

「第三ラウンドを始めるぞ」

 

岸辺の特別授業はまだまだ始まったばかりだ。

 

あれから二人は何度も岸辺に果敢に挑むも、手も足も出ずに殺され続けた。

二人も少しずつ強くはなっていたが、岸辺があまりにも強かった。

パワーがうつ伏せになって倒れているその隣には、既に十回以上殺され続けたデンジが生気を失ったような顔で大の字になって転がっている。

そんな彼にマキマは近づき、顔の近くにしゃがみ込んだ。

 

「デンジ君大丈夫?ボロボロだね」

 

「ぅう、うえええぇぇ……マキマさん見ないでぇ……カッコわりいぃ俺を見ないでえぇ……」

 

マキマにカッコいいところを見せると奮起したは良いものの、何度も一方的に殺され続けたデンジは、精神的に幼児退行してしまった様子でマキマを視界に入れると泣き出してしまった。

岸辺はそんな二人のやりとりを興味深げに眺めながら、スキットルを口に運ぶ。

 

「大丈夫だよ、誰だって最初から上手くいかないもん。デンジ君なりに頑張ってみな」

 

その言葉を聞いたデンジは、少し考え込むような仕草を見せると勢いよく立ち上がる。

そして胸元のスターターを勢い良く引いた。

ヴヴン

 

「うっかり殺しちまったら逮捕だから嫌だったんだけどよお~……こっからは俺もマジでいくからさあ!死ぬなよな!俺逮捕されちゃうから!」

 

その言葉と共に、チェンソーが体の内側から皮膚を突き破り飛び出す。

回転する刃が空気をかき乱す唸り声が響く。

まるで獣が自身を脅かす敵に飛び掛かる前、喉から出す唸り声のような音だ。

 

「ほお、それが例のチェンソーか……来い、遠慮するな」

 

岸辺はスキットルを懐へしまうと右手のナイフを順手に、左手のナイフは逆手に構える。

待ち構える岸辺に正面からデンジは飛び掛かり、甲高い地獄の鐘の音が無数の十字架を揺らす。

獣と狩人の殺し合いは始まったばかりだった。




人気投票は予想通りレゼちゃん1位でしたね!
2位がマキマさんだったのはマキマさん推してる身としては当然嬉しいですが、正直もっと順位下がると思ってましたね〜
でも本当に嬉しい!アサちゃんやシーちゃんたちも順位入ったの嬉し〜!
デンマキと同じくらいデンアサも好きなもんでね、へへ
第6弾も嬉しい〜!どうせならキリ良く第10弾までやってくれませんかね(強欲)

もし決戦編が劇場で公開されて、特典ついたらレゼ篇みたいな幸せIFとか描かれるんですかね?
そうなると次に脳破壊されるのは我々……
今のうちに覚悟をしなければ……
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