これで特典コンプやったぜ!
円盤まだかな……(尽きぬ欲望)
「ねぇデンジ君、昨夜の事私酔ってて何も覚えてないんだけどさ、私に酷いことされなかった?」
「酷いこと……」
姫野宅、高層マンションの広いベランダ。
朝の爽やかな風と温かな朝日を浴びて、道行く人々を見下ろしながら姫野の用意した朝食を食べていたデンジに、姫野は起きてからずっと気になっていたことを聞いてみた。
自身の酒癖の悪さを自覚している姫野からの質問に、デンジは思い出したくもない昨夜のキスを思い出す。
「された。めっちゃヒデェ事された」
「ぅええ!マジで!?」
「マジだぜ。こっちは初めてだったっつーのによぉ。無理やりしやがって」
「は、初めて……無理やり……」
彼女は何かを勘違いしているようで、デンジの口から出た言葉に姫野は狼狽して呻いている。
ここに昨夜の誰かがいれば二人のすれ違いを修正できただろうが、生憎この場に真相を知る者はいなかったため、彼女の勘違いは深まるばかりだった。
「あんなもん飲まされて、俺ぁこの先、死ぬまでこの思い出と生きてくんだ」
「飲まされた……?あんなもん……!?えっ何を……えっ待って、嘘でしょ〜!?ごめん!ほんっとーにごめんなさい!」
「いーよ、別に」
(マキマさんとのファースト間接キスっつーいい思いもできたしな〜)
ニヤつくデンジ。
はたから見れば悪いお姉さんに開けてはいけない扉を、無理やり開けられてしまった少年に見えないこともない。
少なくとも姫野の目には、そんな風に映った。
飲まされたという言葉もあって、彼女の想像はそっち方面に膨らんでいく。
泥酔した自分が未成年にゲロを飲ませる等、そのような真実を素面である今の彼女が思いつけなかったのも無理はなかった。
公務員、未成年、淫行条例、色んな言葉が姫野の頭の中でぐるぐる回って眩暈がする。
(何よりもアキ君に知られたら死ねる……いや死ぬ……)
常識人なアキに知られたらと考えた姫野は、しかし一周回って落ち着いた。
思考放棄ともいう。
「……デンジ君、よくご飯食べれるね。こんなとんでもない相手とさ」
「あー?別に……姫野先輩も今はあんな事しないんだろ?知ってるぜ、あれだろ、一夜の過ちってやつだろ?」
それにメシも食わせてくれるからな~と言いながら、サンドイッチにぱくついた。
間違ってはいないが、間違いを引き起こすような言葉を使うデンジ。
ドラマで見た言葉をちょっと使ってみたかっただけだったのだが、使う状況が最悪だった。
「ふーん……」
姫野の視線がデンジの唇へと向けられると、次いで襟元から覗く鎖骨をなぞり、その腕へと視線が注がれる。
デンジからは無防備に開いた下着姿の彼女の胸元や、頬杖をついて自分を値踏みするように眺める彼女の湿った瞳が映っていた。
なるほど、エッチなお姉さんだ。
「デンジくんはさ、マキマさんの事好きだよね」
「超好き」
マキマがデンジを気に入ってるのは、姫野から見ても明らかだ。
あの女のお気に入りに唾をつけてやったという、甘美で昏い悦びからほんの少し、姫野の口元が小さく歪む。
ふと、デンジを見ていた姫野は良い事を思いついた。
「そうだ。ねえ、デンジ君とマキマさんをくっつける手伝いしてあげよっか。その代わり私とアキ君がくっつくように手伝ってよ」
姫野なりのデンジへの罪滅ぼしでもあった提案だが、自分の利益も混ぜてくるあたりしたたかな女性である。
「……アイツんどこ好きなの?」
「顔」
被せるようなその言葉に、彼女の本心はどれくらい含まれていたのだろうか。
嘘ではないが全てではないその言葉に、幸いデンジは気付かなかった。
「ふ~ん……いいぜ乗った」
「じゃあこれから私達は、先輩後輩じゃなくて友達でいこう。秘密の恋愛同盟」
そう言って、姫野は皿の上にあるサンドイッチを一口齧る。
「アキ君と一緒に朝ごはん食べに来なよ、魔人ちゃんも連れてさ」
「いいぜ、たまにな」
「え~っ!たまになの?もっと来なよ~」
たまに来るというデンジに、姫野は不満気に膨れた。
「俺ぁマキマさんと朝飯食う方が多いからなぁ」
「わざわざマキマさんと朝ごはん食べに行ってるの?」
デンジの言葉に対して姫野は不思議そうに聞き返すと、デンジは爆弾を投下した。
「食べに行ってるっつーか、マキマさんと一緒に寝るからそんまま朝飯一緒に食うんだよ」
「は?マジで?」
姫野には二人が仲睦まじく一緒に寝る光景が想像できなかった。
(寝る?マキマさんと?デンジ君が?というか良いのそれ?大人と子供でしょ?手を出してないだけまし?それはそう)
姫野は勝手に一人で傷ついた。
「マジ」
「半分同棲してるみたいなもんじゃん!最近の子ってこんなに進んでるの…!?」
そう言って頭を抱える姫野。
自身ですらアキとはそこまで行けてないのに……!と嫉妬さえしている。
それからハッとした彼女はあることが気になって、誰も聞いていないのに声を潜めてデンジに尋ねた。
「ねぇデンジ君、マキマさんとはしてないの……?エッチ……」
朝からする話ではなかったが、この二人がそんなことを気にするような性分ではなかったのは、幸か不幸かどちらだろうか。
だがこれは大事な話だ。
ここでデンジがマキマと関係を持っていたならば、初めてなんて言わないハズなのだから。
もしそうであれば、少なくとも自分にはまだ救いがあると姫野は考えていた。
赤信号は皆で渡れば怖くはないのだ。
「してねえよ。キスすらしてないっつーのによぉ」
そういうデンジの視線は、眼下に見える道行く人々へ向けられている。
ただ景色を眺めているだけのその横顔は、見ようによっては少し物憂げな表情に見えた。
「ぐっ……重ね重ね……すみません……」
その横顔を見た姫野は、机におでこが付くくらい頭を下げて謝り倒した。
もしかしたらデンジの言葉に、自分が何か勘違いしただけかもしれないと希望も抱いていたが、見事轟沈。
彼女の中では、酔って未成年を食い散らかした成人女性が見事誕生した。
結局のところ全て彼女の勘違いで間違いないのだが、こんなことを誰かに相談出来るわけもなく、しばらく彼女の勘違いは続くことになった。
あれからしばらくして朝食を食べ終えた二人は、今玄関口にいた。
デンジは着の身着のまま姫野に攫われていたために、一度アキの家へと向かわなければならない。
本日は合同でのパトロールなのでそちらでの合流となっている。
「デンジ君、忘れ物は無い?」
「無いぜ」
「じゃあ行こっか、皆を待たせちゃ悪いしね~」
そう言うと姫野はドアノブへと手をかけた。
デンジとのやり取りを思い出すと、自然と口角が上がる。
もちろん同盟の話だ。
この破天荒で常識破りで、なのに変に常識的なチンピラみたいな新しい友達は、からかうと良い反応をしてくれて面白い。
そんな友達と組んだ同盟は、何が起こるのか予想が出来なくて期待に胸が膨らむ。
扉を開けると、爽やかな朝の風が玄関に吹いた。
何かが変わった気がした朝だった。
町中に乾いた破裂音が響き渡る。
「なんだ?この音」
中華料理屋で昼食にラーメンを啜っていたデンジが顔を上げる。
聞きなれないその音に反応した彼に、パワーはいつもの知ったかぶりで自身の知識の中にある太鼓の音であると嘯く。
アキの家でパワー達と合流した姫野とデンジは、しばらくパトロールを行った後、切りのいいところでいったん切り上げて今は皆で昼食を食べていた。
「なあ、ホントにウヌら昨日交尾してないのか?」
「してねーよ」
「そうそう!デンジ君は紳士なんだから!」
パワーは納得いっていないようで訝しんでいたが、姫野はハハハと笑って誤魔化す。
「ここのラーメン良く食えるな」
突然見知らぬ男が話しかけてきた。
曰く、舌がバカだと幸福度が下がるだの、じいちゃんはいいもん食わせてくれただのと聞いてもいないことを饒舌に語り始める。
「じいちゃんヤクザだったけど正義のヤクザでさ、必要悪っていうのかな……」
続く言葉は殺人と薬物売買の話。
その金で良い生活が出来たと、みんなに好かれていたと、段々と話の流れが不穏になってくる。
「なぁデンジ、お前もじいちゃん好きだったろ」
その言葉と共に取り出された写真には、この男の幼少期と思われる少年とあの男――デンジを搾取し続けたヤクザの男が映っていた。
この時点で徐々に上がっていたデンジの警戒心が、頂点に達した。
男はあのヤクザの孫――若頭だった。
「銃の悪魔はてめぇの心臓が欲しいんだとよ」
写真を懐にしまうと、そのまま隠していたものを取り出す。
黒い殺意の輝きを放つそれがデンジに向けられる。
デンジは殆ど脊髄反射で前へと飛び出した。
若頭の視界がデンジの体で塞がれる中、デンジの体へ何発もの銃弾が撃ち込まれる。
弾丸は貫通することなくデンジの体で止まった。
デンジの体から力が抜けて倒れていく。
しかしその陰から猫のように低い姿勢のパワーが現れ、若頭の顎に向けてアッパーカットを叩き込んだ。
「チョンマゲ!」
「コン!」
張り詰めた声音で呼びかけるパワーに、アキは咄嗟に契約悪魔を呼び出す。
呼び出した狐の悪魔の巨大な頭部が、若頭を一呑みにした。
狭い店内で巨大な頭部を呼び出したがために、店内の有様は酷いものとなった。
突然の攻撃にアキ達が周囲を警戒してると、狐の悪魔が話しかけてくる。
「早川アキ……とんでもないものを食わせてくれたね……これは人でも悪魔でもない――」
瞬間、鮮血が迸る。
狐の悪魔の言葉が最後まで紡がれる前に、その脳天を巨大な刀が内側から突き破った。
その刀で頭部が切り裂かれると、裂け目からぞぶりと人影が現れる。
這い出てきた血に塗れた男の服装は先程のものと同じだったが、頭部と両腕から巨大な刀が飛び出したその姿は、異形の怪人のようであり、変身したデンジのようでもあった。
狐の悪魔の頭部から降りた若頭は、細く息を吐くとゆっくりと奇妙な構えの姿勢を見せる。
深く沈みこんだその姿勢は、まるで居合のような構えだ。
彼我の距離が離れているのにもかかわらず、そのような構えをした男に、アキは訝しみながらも決して視線は逸らさない。
「グッ!?」
異形へ変身した若頭が突然呻き声をあげたかと思えば、困惑したような様子を見せる。
まるで、何か見えないものに動きを制限されたかのように身を捩らせていた。
「アキ君!」
いくつもの死線を共に潜り抜けたバディの声に、アキはほとんど反射で駆け出した。
「パワー!デンジを生き返らせろ!」
駆ける最中アキは、パワーへそう指示を出しながら鞘から刀を引き抜く。
だが引き抜かれたのは刀ではなく、刀の長さほどもある巨大な釘だった。
アキは狐の悪魔の他に、呪いの悪魔とも契約している。
この釘を合図と共に敵に指定回数刺すことが出来れば、問答無用で命を奪う強力なものだ。
その分代償も重い。
差し出すものは、自身の寿命だ。
(アイツ……!デンジとそっくりだ……!下手したらデンジと同じ不死身の可能性もある!カースは使えないか……!)
そう考えたアキはこの戦闘においてカースの能力を使わず、単純に刺突武器として釘刀を使うことに決めた。
姫野のゴーストによって動きを止められた異形の男へ、アキは体重と慣性を乗せた一撃を放つ。
「オオオオォォォォ!!」
しかし男は往生際悪く、叫びをあげ必死の抵抗を見せる。
結果、心臓を狙って放たれた釘は狙いを大きくそれて右の胸へと突き刺さった。
若頭は痛みに喘ぐが、アキは構わず釘を引き抜くと今度こそ心臓へ狙いを定める。
今度こそ止めかと思われたその時、複数の銃声が鳴り響いた。
崩壊した店の階段から二人の人相が悪い男達が、アキへ向けて拳銃を発砲していたのだ。
幸い訓練もしていない人間が当てられるような距離ではなかったために、アキに銃弾が当たることは無かったが、後退を余儀なくされる。
「若!大丈夫ですか!?」
「あぁ、大したことはねぇ」
胸を貫通したというのに立ち上がるその姿に、アキ達の警戒度がまた一つ上がる。
銃口を向けられ、物陰から動けないアキ達へにじり寄るヤクザ達の足音が聞こえる。
近づいてくる足音に知らずアキは生唾を飲み込み、姫野は汗を一滴流す。
ヴヴゥン
空気を引き裂く咆哮が響いた。
「いってぇな~……人ん事馬鹿みてぇに撃ちやがって……お前悪い奴だよなぁ?悪い奴は好きだぜ~?ぶっ殺しても誰も文句言わねぇからな~」
「……次は切り殺してやるよ……」
生き返ったデンジがそう言うと、若頭も低く唸るような声で応えながら構える。
糸がぴんと張るような、一瞬の睨み合い。
その糸を最初に断ち切ったのは、デンジの方だった。
猛然と回転する刃で床を削りながら一直線に突進してくる。
周囲の手下たちが咄嗟に引き金に指をかけ、向かってくるデンジに向け発砲した。
何発もの銃弾がデンジをかすめてゆくが、姫野のゴーストによって銃を持つ腕を薙ぎ払われる。
乱暴に銃を叩き落された手下たちがたじろぐ間に、接近に成功したデンジが空中へと超人的な跳躍力で飛び上がった。
「死ねえぇ!」
全体重を乗せて落下してくるデンジの一撃。
若頭は交差させた両腕の刀で防ぐ。
唸るチェンソーがギャリギャリと激しい火花を上げるが、刀は刃こぼれしない。
凄まじい切削を受けてなお揺るがない刀身は、それが尋常のものではないことを証明するかのように、鈍い銀色の光を放っていた。
若頭は力づくでデンジを弾き飛ばすと、すぐさま追い打ちをかける。
怪人同士の火花散る激しい応酬が始まった。
姫野先輩ゴーストの右手使えるって言ってたけど何本使えるんだろ、やっぱ一本だけなのかな?
でもEDだと複数本使ってるんだよなぁ……