マキマさんモルペコされててうぉデッッッッ!ってなりました。
マキマさんって何を食べるかよりも、誰と食べるかを大事にしてそうなイメージあります。
なので人とごはん食べる描写をついつい書いてしまいますね。
光の届かない水底から見上げる水面は明るく輝いている。
水面へと手を伸ばす。
すると、沈んでいた体がゆっくりと浮上していった。
光に手が届くその瞬間、意識が覚醒する。
ゆっくりと瞼を開くと、白い布地がマキマの視界いっぱいに広がった。
デンジの穏やかな寝息が聞こえる。
「すぅー……っ」
彼女はおもむろにデンジの胸元へ顔をうずめると、深く息を吸った。
「すぅー……っ」
深く吸って、深く吸って……。
「すぅー……っ」
まだ吸う。
どうやら呼吸の仕方を忘れてしまったらしい。
「けほっけほっ」
当然、おかしな呼吸をしていた彼女はむせた。
咳が落ち着くと、彼女はまた吸い始める。
まるでいけないヤツの中毒者だ。
「すぅーーーーーーー……っ」
今度はむせないよう慎重に吸っている。
デンジの匂いには危険な物質が含まれているのかもしれない。
しかし、どれだけ慎重に息を吸おうとも限界がある。
肺活量の限界に達したマキマは、おそろしく細い息を吐き出し始めた。
ゆっくり、ゆっくりと、吐き出すのが惜しいとばかりに息を吐き出す。
完全に息を吐き切る前にまた息を吸う。
まるでこの香りを、身の内にいつまでも閉じ込めておきたいかのように。
何度か異常行動を繰り返すと、多少は満足したようでようやく普通の呼吸を始めた。
朝から一服、喫デンジをキメた彼女は顔を埋めたまま、さてどうしようかと思案する。
凛とした顔つきだ。
彼女としてはこのまま微睡みに身を任せ、二度寝を貪っても良いのだが。
ふむ、と心の内で頷く。
今日は私が朝ごはんを用意してあげようか。
マキマはもう一度、深く息を吸うとデンジを起こさないよう、気を付けながら胸の中から這い出ようとした。
しかし彼女には、一緒に寝ている相手を起こさずに抜け出す経験もスキルもない。
不慣れな彼女がもぞもぞと腕の中で蠢けば、デンジが目を覚ますのも当然であった。
「んぁ……?マキマさん……おふぁようございます……」
くあ、と欠伸をしながら、デンジがマキマへと声をかけた。
マキマはピクリと一瞬、動きを止めると微笑みと共に視線をデンジへと向ける。
彼の髪は寝ぐせで方々に乱れ、寝起きの瞳は半分閉ざされていた。
「おはようデンジ君。ごめんね、起こしちゃったね」
「いーっすよ……今何時です?朝メシ作りますよ」
「ああ、デンジ君はゆっくりしてて。今日は私が作るから」
「エッ……いいんです?」
「うん」
頷くとデンジの表情が綻んだ。
朝から良いものが見れたと彼女はゴキゲンだ。
洗顔を済ませ、軽く身だしなみを整えると、彼女はフライパンを手に取った。
「廊下にまでメッチャイイ匂いしてきましたよ~」
そう言いながらデンジが部屋へ入ってくる。
身だしなみも簡単にではあるが整えていて、寝ぐせもある程度直されていた。
「ふふ、そろそろ作り終えるからもう少し待っててね」
「いつまででも待ちますよ!」
寝ぐせを直してきた姿に少し、残念な気持ちを抱きつつマキマがそう言うと、元気いっぱいなデンジの言葉が返ってきた。
マキマに返事をしたデンジは食器の用意をしていく。
そんな彼の様子を、彼女は微笑みと共に見つめていた。
「おまたせ」
言葉と共に料理が机の上に並んでいく。
焼き魚に漬物、白米と味噌汁のシンプルな和食セットだ。
これまでマキマの朝食はパンだった。
だがデンジが朝食を用意するようになってからは、時々和食が出るようになっている。
これはマキマを喜ばせようとデンジがアキから料理を教わり、彼女のために用意していたのが理由だ。
デンジの手料理に影響を受けたマキマは、いつかデンジを喜ばせようとこっそり覚えたレシピで作ったのだ。
「うおぉ……マキマさん美味そうっすねコレ!」
「ふふ、ありがとう。冷めないうちに食べようか」
感嘆の声を上げるデンジに、マキマはそう言いながら席に着いた。
二人揃って食前の挨拶をすると、早速デンジは焼き魚に箸を伸ばす。
ぷつりと皮から伝わる抵抗を突き抜けると、柔らかな身がほぐれた。
箸につまめば湯気を上げる白い身が、朝の柔らかな日差しを艶やかに照り返している。
期待と共に口へ運ぶとまず舌の上に脂の甘味が広がり、丁度いい塩気が後味を引き締めた。
「ウマッ!マキマさんこれメッチャ美味いです!」
そう言って一心不乱に箸を進めていくデンジ。
パクパクと美味しそうに食べていくが、その食べ方は綺麗だ。
数か月前、アキの家で机を汚しながら最強のパンを作っていた時とは雲泥の差だった。
これは少しでもマキマに好かれたかったデンジが食事の礼儀作法を学び、身に着けるため努力した結果だ。
ちなみに、デンジがそのような考えに至ったのはパワーのおかげである。
人の振り見て我が振り直せとはよく言ったもので、彼女のきったねー食事を見たデンジは、マキマさんの隣でこんな風に自分がメシ食ってたら嫌だなァ……と自身を改めたが故だった。
「?マキマさん食わないんすか?」
ふと、デンジが食事に手を付けない彼女に気付き、不思議そうな声音で尋ねる。
見ればマキマは頬杖をつき、じっとデンジを眺めていた。
口元は柔らかく弧を描いている。
どうやら彼女は、自分の作った料理を食べるデンジを眺めていたようだった。
夢中になって食事をしていた自分をずっと見られていたことに気付いたデンジは、僅かな羞恥が頬に赤みとなって現れた。
「食べるよ。ただ……私が作った料理を美味しそうに食べてるデンジ君が……ね」
「お、俺が……?」
「ふふ、何でもないよ」
マキマはそう言うと、箸を取り食事を始めてしまった。
彼女の言葉の続きが気になるデンジだったが、何となく聞く勇気が出ずに食事を再開する。
ただ、先程までがっつく様を見られていたのを気にしているのか、食事のペースが落ち着いていた。
「あっ、そーだマキマさん!こないだサムライソード達に勝ったじゃないですか、それで今度ウチで祝勝会するんですよ!そんでマキマさんが来てくれたら良いなーって思うんですけど……どうすか?」
思い出したように言うデンジの言葉に、マキマはキョトンとした表情を浮かべる。
それから少し思案すると彼女は頷いた。
「良いの?……うん、それなら参加させてもらおうかな」
「やった!」
その返答に喜んでいるデンジをマキマは微笑みと共に眺めていると、少ししてからその目が下に向いた。
視線が左下に向けられた後、右下へと動く。
それから再度デンジに向けられると、彼女は口を開いた。
「ねえデンジ君、今度の休みにデートしようか」
「します!」
食い気味の返答にマキマは微笑んだ。
この子はいつだって自分を肯定してくれる。
この子はいつだって自分を一番に扱ってくれる。
この子はいつだって自分の傍にいようとしてくれる。
この子はいつだって、自分と対等であろうとしてくれる。
「楽しみだね、デート」
「はい!」
自身の力とは無関係な彼の在り方が、マキマには心地いい。
今やデンジは彼女が最も信頼し、心安らげる場所となっていた。
本日は祝勝会当日。
時刻は夕方。
暮れる夕日が世界に別れを告げる中、マキマは早川家の玄関ドアの前に居た。
片手には手土産のケーキが入った袋が揺れている。
特にこれといった事件もなく、無事に今日という日を迎えられたことをマキマは喜んでいた。
ドアのチャイムを押すと、軽快な足音が中から聞こえる。
跳ねるようなその足音のリズムから、マキマは足音の主がデンジだと看破した。
感情が伝わってくるようなその音に、デンジの表情を想像した彼女から、フッ……と思わず不敵な笑みがこぼれる。
彼女の脳内ではデンジがどのような表情を浮かべ、どのように動いているかが容易に想像できたからだ。
きっと寛いでいたところ、チャイムに反応した彼はパッと顔を輝かせ、一目散にやってきたに違いない。
足音だけですべてを想像する女、マキマである。
やがて玄関のドアが開かれると、喜色に満ちた顔が現れた。
「マキマさん!」
「デンジ君こんにちは、時間は大丈夫だったかな?」
「全然オッケーっすよ!入ってください!」
「うん、お邪魔します」
デンジに促されるままマキマが足を踏み入れると、良い匂いが漂ってきた。
奥からは楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「姫野ちゃんはもう来てるんだね」
「そっすね、姫野は結構前から来てましたよ」
「あれ?いつの間に姫野ちゃんを呼び捨てするようになったの?」
「ん~……少し前の飲み会ん時くらい……っすかね?」
「…………ふぅん」
記憶を掘り起こすように、視線を天井に向けたデンジの様子をマキマは見つめる。
デンジは気付いていない。
飲み会の後、消息を絶った男女二人がその後、名前を呼び捨てし始めているのを外から見た時どう見えるのかが。
これは極めて自然で当然の話なのだが、マキマは支配下にある小動物を使ってデンジウォッチングをしている。
趣味と実益を兼ねたこのデンジウォッチングだが、姫野がデンジをお持ち帰りした日の夜も当然見ていた。
そのため、姫野がデンジの青少年保護育成条例棒で、法律の穴を貫通していないことを彼女は知っている。
だが実際に致していなかったとて、肌を重ねたのは事実だ。
マキマの内側に、先日の心臓から広がっていく熱とは真逆の、心臓へ冷たいものが集まる感覚がする。
どうしよう。
何が。
どうしよう。
何がどうしようなのか。
彼女自身にも分からない焦燥感が胸を焦がす。
嫌な感覚が、脳みそに渦を巻いて広がる。
悪い想像が重なって、肺が重い。
「マキマさん?」
デンジの声が聞こえ、マキマの視線が持ち上がる。
彼女は知らずの内に俯いていたようだった。
デンジは不思議そうな表情でマキマを見つめている。
何か、何か声をかけようとしても喉が引き攣ったようになって言葉が出ない。
マキマの様子に、デンジは怪訝な表情を浮かべる。
だがその直後、何かを思いついたようにあっ、と声を出すとマキマの耳に顔を近づけ、内緒話をするように顔の横へ手を立てた。
「マキマさん、これ秘密なんですけど……実は俺、姫野と同盟組んでるんです。アイツはアキん事が好きみたいなんでくっつく手伝いしてるんすけど……マキマさんも手伝ってくれませんか?」
そう言って顔を離したデンジは、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
数瞬、言葉の理解に時間がかかったマキマは、その言葉が意味するところを理解すると笑みを浮かべた。
「うん、もちろんだよ。二人で応援しようか」
「オッシャー!ありがとうございます!マキマさん!」
異様に喜ぶデンジ。
実は彼がマキマを誘ったのには狙いがあった。
姫野の恋路を応援するという名目で、マキマとの時間を作ろうと今思いついたのだ。
俺って天才じゃ~ん。
デンジはこの発想に至った自分自身が心底誇らしかった。
そんなデンジにマキマが声をかける。
「ところでデンジ君」
「はい?」
「デンジ君は姫野ちゃんに何を手伝ってもらっているのかな?」
「エッ!?」
「同盟ということは、何かデンジ君にもメリットがあるんだよね?」
「い、やぁ~それはその……」
マキマさんとくっつけてもらえるよう手伝ってもらってます!
などと流石に本人には言えなかったデンジは、言い訳をしようとするが何も思いつかない。
底の浅い天才である。
ちなみにマキマは気付いた上で聞いていた。
「こんなとこで何してんだデンジ……」
救世主アキの声が二人の立っている廊下に響いた。
呆れた顔でデンジに視線を向けている。
「早川君。はいこれ、中身はケーキだよ」
「お気遣いありがとうございます。どうぞ中で寛いで下さい」
そう言うと、アキはマキマを奥へと誘導した。
アキのおかげで追及から逃れる事が出来た、とデンジは安堵のため息を一つ吐き、自身も向かう。
居間では姫野とマキマが話をしていた。
パワーはなるべく、マキマと姫野から距離を離す位置に座っている。
以前マキマに野菜を食わされ、姫野にゲロをかけられたことからそれを警戒しているのだろう。
デンジはマキマから上着を預かるとハンガーに吊るし、台所へと向かった。
そこではアキが夕食の盛り付けをしている最中だった。
「デンジ、食器を並べておけ」
「へーい」
手元から視線を離さないままアキが指示を出すと、間延びした声でデンジは返事を返した。
目を離さないままアキが口を開く。
「玄関で何を話してたんだ」
「あー?別に……姫野が先に来てたんだなって話だけど」
「……そうか」
アキの意図が分からず眉を顰めるが、すぐにデンジの意識から外れた。
そんなどうでもいい事より、優先するべきものがあるからだ。
食器を抱えたデンジが鼻歌を歌いながら居間に向かうと、もうすぐ料理が来ることを知ったパワーと姫野の二人が喜ぶ声が聞こえてくる。
アキは食器を並べるデンジと、彼を眺めるマキマを台所から静かに見つめていた。
「わーっおいしそう!」
卓上に並べられた料理の数々に姫野は黄色い声を上げた。
今食卓にあるのは、どれも姫野がアキにオーダーしたものだ。
山のように盛られた唐揚げとフライドポテト、彩り豊かに盛られたコブサラダ、それからチェーン店の大きなピザが並んでいる。
ジャンクな食欲をそそる匂いが机を囲む者たちを誘惑していた。
「ピザはアキ君の手作りじゃないんだ?」
「無茶言わないでくださいよ……うちにピザ窯なんて無いんですから」
姫野の冗談に、アキは飲み物を配りながら返す。
やがて配り終えるとアキも席に着いた。
席順はマキマ、デンジ、パワー、アキ、姫野の順で机を囲んでいる。
マキマとデンジが並び、対面にアキと姫野、お誕生日席にパワーといった形だ。
おもむろに姫野が立ちあがった。
前回のパーティーに続き、彼女が乾杯の音頭を取るつもりのようだ。
「えー新生四課の初任務、暴力団組織によるテロ事件を無事に解決できたことを祝いまして!カンパーイ!」
そう言って黄金色に輝くビールの入ったグラスを掲げると、皆の乾杯の声が後を追うように続いた。
姫野は皆が乾杯を言い終わらないうちにグラスへと口を付ける。
喉元からゴキュゴキュと音を鳴らし、胃袋へと流し込んでいった。
みるみると、グラスの中の冷えたビールがその姿を消していく。
「ップハーッ!美味い!もう一杯!」
「はいはい……」
なにやら芝居がかった言い方の姫野が、アキに空になったグラスを突き出した。
アキは呆れながらも受け取ると、グラスにビールを注いでいく。
マキマはそんな二人の様子をじっと見つめていた。
「なんだか二人はいつもと雰囲気が違うね、何かあったのかな?」
「へへー、そう見えます?」
「姫野先輩は誤解されるようなことを言わないでください。別に何もありませんよ」
「嘘をつくなチョンマゲ!おヌシら絶対あの日交尾したじゃろ!」
「黙れ!してねぇ!」
「ふーん……なんだか二人の距離感が近いなって思ったんだけど……」
騒がしい彼らの応酬を頬杖をついて見ていたマキマは、少し思案すると口を開いた。
「ねえ早川君。姫野ちゃんのこと、好き?」
マキマからの突然の質問に、アキは飲んでいたビールを噴き出しそうになった。
何とか堪えたが、動揺して目が若干泳いでいる。
「そ、それは」
「えー?アキ君私のこと好きなのぉ?」
アキの様子を見た姫野がニヤーっと笑うと、アキに絡み始めた。
言うだけ言ったマキマはというと、グラスを口へ運んでその様子を目を細めて眺めている。
ここまでの一連のやり取りを見ていたデンジが、何かに気付いたようにハッとした。
(もしかしてマキマさん……さっきの俺からのお願いをもう……!?)
今のマキマの言葉は、ヒューヒュー!お二人さんお熱いねぇ!を彼女なりにアレンジした言葉だったのだ、とデンジは遅まきながらも気付いたのだ。
今のやり取りで姫野のテンションが少し高かったのも、それを察知したからなのではないか。
さすがマキマさんだぜ!
デンジはそう結論づけた。
マキマたちの前では、少々テンション高めの姫野がアキにポテトを差し出していた。
アキは恥ずかしがって、視線をきょろきょろと彷徨わせている。
「アキ君、あーん」
「姫野先輩もう酔ってるんですか?皆見てるんですよ」
「大丈夫だよ早川君、私たちは気にしないから」
「そうだぜ、俺たち気にしねえからよぉ、大人しくあーんされろよな~」
「男を見せる時じゃぞ〜?」
「くっ……」
微笑むマキマとは対照的に、デンジとパワーはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。
興味津々とばかりにアキと姫野のやり取りを眺めているのだ。
羞恥に染まっていたアキの頬が、段々とその赤みを増していく。
「分かりました。分かりましたから……」
味方がおらず、ようやく諦めたのかアキは抵抗をやめると、大人しく口を開いた。
「あ、あーん」
「分かれば良いのよ分かれば……あー、ん!」
まるで雛鳥のように口を開けたアキに、ポテトを食べさせた姫野はご満悦だ。
「ギャハハハ!ガキじゃ!チョンマゲはガキじゃのぉ!」
恥ずかしそうに食べるアキを見たパワーが、行儀悪く先割れスプーンをアキに向けながら爆笑した。
言い返したいアキだったが、口の中にあるポテトのせいで喋れない。
彼は行儀が良いのだ。
アキがポテトを飲み込んだのを確認した姫野は、ふふんと鼻息荒く二つ目のポテトを取り出した。
「あーん!」
「まだやるんですか……」
「え~、いーじゃーん!満足するまでやらせてよー!」
「はぁ……わかりましたよ……」
そう言って姫野が駄々をこねると、アキは疲れたのか白旗を掲げた。
ただその表情には疲れの色こそあれど、嫌な色などは無く、姫野の我儘を受け入れる優しさがあった。
「やたー!」
姫野はアキの答えに喜ぶと、キャッキャッと少女のように楽しそうに食べさせていく。
頬を染めながらも、諦めたアキはパクパクと口を開け閉めする機械と化した。
その目がどこか遠くを見ていたのは印象的だった、と後にデンジは語った。
「マキマさん!俺も!俺もアレやりたいです!」
そんな二人を見ているうちに、羨ましくなったデンジがマキマにそう強請った。
彼の脳内では、自身がマキマにポテトをあーんしている映像が再生されている。
「うん、いいよ」
マキマはデンジの様子に微笑むと、ピザを一切れ取り出しデンジに向けた。
「はい、あーん」
「……あーん」
違う、そうじゃない。
デンジはそう言いたかったが、悲しいかな、マキマにNOと言えない彼は大人しく口を開いた。
(まァ~これはこれでいっか)
そう考えながらデンジは、口の中に差し込まれたピザに嚙みついた。
デンジが噛みついたのを確認したマキマがそのままピザを引くと、黄金色のチーズで出来た橋が架かる。
引けば引くほどチーズの橋が伸びていった。
「んん~!」
「すごいすごい、デンジ君チーズがすごく伸びてるよ」
自身の口から伸びるチーズに目を丸くするデンジは、どうすればいいのか分からずに手をあわあわと動かし呻き声をあげるばかり。
マキマもここまで長く糸を引く姿を初めて見たのか、感嘆していた。
チーズはよく伸びたが、ある程度まで伸びると弛んで落下した。
「おっと」
落下したチーズがカーペットを汚す前に、なんとかマキマが手で受け止めることに成功した。
だがチーズの架け橋は、デンジの口からマキマの手に架けられる形になっている。
どうすればいいのか分からないデンジは動けなくなってしまった。
固まっているデンジを、マキマは微笑みと共に見つめる。
彼女は細い指先で糸引くチーズをくるくると巻き取っていくと、デンジの口元のチーズも拭い取った。
そのまま指先を自身の口元へと運び、味わう。
「……美味しいね、デンジ君」
ちろりと、姿を見せた彼女の小さな桃色の舌が唇を愛撫した。
色香を纏う瞳にまっすぐ射抜かれる。
デンジはマキマから目が離せなかった。
彼女の黄色い瞳に吸い寄せられて、マキマ以外のなにもかもが世界から消え果てる。
「はい、あーん」
またも口元へ差し出されるピザに、デンジは無意識に噛みついた。
上手く噛み切れず、口から垂れ下がったチーズがマキマの指に掬われると、口の中に優しく押し込まれる。
唇を擦るように口内へ侵入してくるマキマの指が、ぞりぞりと削るような快楽を背骨に響かせた。
自身の鋭い歯が、マキマの指に当たる感覚に脳みそが痺れる。
甘い震えがデンジの喉を揺らし、唇を通して掠れた声が漏れ出た。
「ふふ」
喉の奥で密やかに漏れた、吐息のような彼女の笑い声。
デンジを見つめるマキマの笑みは普段と変わらないはず、なのに。
じっと見つめてくる彼女の、その双眸の奥に潜む何かが、ゾクゾクとするような視線を投げかけてくる。
(あれ……食わせてもらってんだよな、俺……)
どろりと溶けたチーズの背徳的な甘みが舌に広がった。
いやに甘いそれはチーズの味か、それともマキマの指の味か。
口内から指が引き抜かれて、咀嚼して、震える喉で緊張と共に飲み込む。
「あーん」
また、差し出される。
口元でわずかに揺れたピザの切れ端が、デンジの唇をトマトソースで赤く汚した。
それを見たマキマは、その白く細い指で汚れた唇をゆっくりと拭う。
彼女のその姿は、子供の汚れを拭う母親のような慈しみで満ちたものだったが、唇を愛撫するようなその指先は男を味わう女のそれだった。
そしてマキマは赤く濡れた指先を、僅かに開かれた自身の口内へ滑り込ませる。
ちゅ、と彼女が指先を舐めとる音がいやに響いた。
「美味しいね」
吐息交じりの言葉と共にその微笑みを向けられたデンジは、鎖で縛られたように動けない。
身体の奥がじんじんと痺れるような熱を持つ。
(なんか……俺がマキマさんに食われてるような……そんな気がする……)
自分が食べさせてもらっているはずなのに。
自分が食べられているような、そんな錯覚に陥る。
ドクン、と。
見たことのないマキマの微笑に、心臓が一際強く高鳴る。
ピザの味なんてもう、しなかった。
先程まで元気いっぱいに両手に先割れスプーンを持ち、お誕生日席で美味しく唐揚げを食べていたパワーちゃん。
気付けばなんかキャッキャウフフしてる二人と、なんかエッチな雰囲気になってる二人を前に彼女は一人、FXで全額溶かした人のような顔になっていた。
人んちで何やってんだ!
パワーちゃんが虚無っちゃっただろ!
原作にもあるひょいぱくシーンはお気に入りです。
マキマさんが江の島に二人で行こうか、とデンジ君誘うとこのヤツですね。
個人的にマキマさん初手デンジ君に支配の力使いましたよね?と疑っています。
キミがこれやったの?ってとこ、あそこだけ”命令です”と同じフォントに変わってますしね。
その後デンジ君が抱かせてって言った時、え?みたいな顔してましたし。