励みになってます!
誤字報告もありがとうございます!
助かります!
書いて気付いたのですがビーム君難しすぎます……。
あのおバカな感じどうやったら出せるんだ?
この子だけ何度も書き直したし、それでも納得できる出来のものが中々だせない……。
今回あまり話が進んでいませんが、ここからレゼ編の始まりです。
胃が爆発しそうですが、避けては通れぬと覚悟して頑張ります……!
早朝の薄暗い洗面所に、水の音が虚しく響いている。
蛇口から容赦なく流れ落ちる水は、排水口へと吸い込まれていく。
その一定の、どこか無機質な音が、湿った空気の中で先程から絶え間なく続いていた。
洗面台の前に立つ早川アキは、鏡に映る自身の顔――とりわけ、姫野から譲り受けた黒い眼帯をじっと見つめていた。
早川アキはここ最近の記憶を掘り返した。
姫野の笑顔が浮かんで消えて、デンジの手が浮かんで消えて、パワーの声が浮かんで消えた。
だんだんと、日を経るごとに小さくなっていく。
自分の中のマキマという存在が、心を占める割合が小さくなっているのを感じる。
最初は不誠実な男だと自分自身を嫌悪していたが、マキマの存在が小さくなるのと同時に、マキマとの記憶に違和感を抱くようになっていった。
彼女との記憶は写真のように動かないのだ。
その前とその後に何もないかのように。
姫野たちとの記憶は映像のように思い出せる。
煙草の臭い、体温と声、周りの景色。
だがマキマとの記憶にはそれが無い。
まるで新聞や日記を見るような感覚さえ覚える。
先日、姫野宅でそれを自覚した日からこの感覚は、時間が経つごとに強くなっていった。
記憶がひび割れて、破れる感覚。
これはなんだ?
一体何なんだこれは?
段々と何が本当で何が嘘なのか分からなくなり、あらゆる疑念に襲われる。
強烈な目眩で視界が歪み、ぐらりと足元が揺らいだ。
咄嗟に、洗面台へ両手を叩きつけるようにしてしがみつく。
背中を丸め、血管が浮くほど冷たい陶器の縁を強く握りしめた。
「……くっそ……」
思わず口から悪態が零れる。
記憶の真実と虚偽の境目が分からないのは、恐ろしい。
今の自分を形作るのが過去の記憶なら、偽りの記憶が与えるアイデンティティへの影響は計り知れない。
早川アキの胸中に恐怖が足音を立ててやってくるような、そんな感覚がよぎる。
「ガハッ!」
何かが叩きつけられる音と同時に、デンジの絶叫が居間から聞こえてアキの肩が揺れた。
床に物が派手に散らばる音が、洗面所にまで響いてくる。
「なアんじゃこのパワーは!?」
続いて聞こえてきたパワーの声に、アキは溜息を吐いた。
強張っていた体の力が抜けていく。
「朝からアイツら……」
思わず気だるげで、憂鬱な声が出てしまう。
居間へと足を向けたアキは思う。
今日もまた、騒がしい一日が始まるだろうと。
だが彼はこの日常を悪くは思っていなかった。
少なくともその間だけは、この恐怖から解放されるのだから。
朝の明るい日差しが差し込むキッチンに、フライパンで卵とソーセージを焼く音だけが響いている。
白いマグカップに注がれるコーヒーから、香ばしい香りが柔らかな湯気と共に広がり、マキマの鼻を擽った。
サラダを盛り付けて、果物をカットすれば朝食の用意は終了だ。
一人分の朝食をマキマは黙って机へと運ぶ。
カサリ、と新聞をめくる音が静かな部屋に響く。
彼女が口を開くのは食べ物を運ぶ時だけで、部屋に満ちる静寂は妙に居心地が悪い。
少し前まではそれが当たり前だったのに、ここ最近は違和感を抱くようになった。
マキマは食事の手を止めると、視線を横へと向けた。
そこはいつもデンジが座っている席だ。
家には彼の残り香だけが薄く漂っている。
彼がいない朝というのは別に今日が初めてではないし、違う家に住んでいるのだから同じことはこれまでもあった。
それが明確に変わったのは、デンジが傘を捨てたあの日。
あの日を境に、マキマの中の何かが激しく火花を散らして回り始めた。
彼女はあの雨の中、濡れることを選んだ彼の姿を、これからも忘れることは無いだろう。
「昨日は楽しかったな……」
無意識に口からそんな言葉が出る。
昨夜デンジにピザを食べさせた記憶が蘇る。
あれはすごく楽しかった。
病みつきになりそうなほどに。
「美味しかったな……」
目を細めてあの味を思い出す。
チーズとトマトソースの味、そして指から伝わった唇の感触。
マキマは思わず想像してしまう。
あの汚れた唇に噛みつけば、それはどれほどの美味だったろうか。
彼はどんな反応をするだろうか。
どんな目で見てくるだろうか。
つい、想像してしまう。
「おっと、いけない。もうこんな時間」
ふと気付けば、家を出なければいけない時間になっていた。
マキマは手早く食器を片付けると、サッと公安の制服へと袖を通す。
視界の端に見慣れないものが映り視線をそちらへ向けると、そこにはデンジから貰ったネックレスが置かれていた。
マキマはそのネックレスを手に取り、暫し眺めた後に首へ通した。
ひんやりとした温度を伝える黒のチャームが、彼女の白い鎖骨の間にすとんと収まる。
そっとトライアングルのチャームに触れる。
―――お揃いですよ。
鏡で自分の姿を確認すると、彼の言葉が蘇った。
その言葉にマキマは頬を緩めると、シャツのボタンを一つずつ留め、黒いネクタイを結びあげる。
見えなくなったネックレスをネクタイの上から撫でると、硬質な感触がその存在を指先へ伝えた。
彼女は玄関へ向かい、ドアを開いた。
開けた瞬間、初夏の気配を孕んだ湿った風が、マキマの赤髪をふわりと靡かせる。
普段なら鬱陶しいくらいのその風が、今日は一段と心地よく感じられた。
ネクタイの裏で、小さな三角形が静かに揺れていた。
「ちょっとアキ君、それどうしたのさ」
場所は公安本部内、特異四課のために用意された居室。
そこでアキを見つけた姫野が朝の挨拶をした際、振り返った彼を見た彼女の口から驚きの声が出た。
彼と合流した姫野が見たのは、手当てをした頬の怪我。
右頬を覆う白いガーゼと医療用テープだった。
「今朝、パワーと取っ組み合いの喧嘩をした時に殴られました」
その怪我に驚いた姫野へ、正直に今朝あった事をアキが話すと、理由を知った彼女は堪えきれずに噴き出した。
目尻に涙を浮かべて笑う彼女に、アキは不満気な声で文句を口にする。
「笑い事じゃないですよ」
「ごめんごめん!怪我の理由が子供みたいだったからつい、さ」
銃の悪魔への復讐のために、自分が持つものを削ぎ落していくようなアキの姿は見ていて苦しいものだった。
彼の目の奥には、いつも燻る昏いものがあった。
姫野なりにどうにかしようとしたが、結局は隣で見ている事しか出来なかった。
だがデンジとパワーの二人と出会ってから、アキは変わった。
彼の目の中に、別の何かが輝き始めているのに姫野は気が付いたのだ。
過去に囚われていた彼の目が前に向くのは嬉しい事だ。
姫野にとって、その変化は歓迎出来るものだった。
惜しむらくはその変化のきっかけが、自分ではなかった事だろうか。
「朝から元気だな、お前達」
アキと姫野の間に割って入るようにして、低く焼けたような声が響いた。
二人が声の方向に視線を向けると、そこにいたのは岸辺ともう一人。
「あれ、師匠どうしたんです?それとその子は……」
アキと姫野、隻眼の二人が岸辺の隣にいる存在へと視線を向ける。
頭上には黄金の光輪、背中には純白の翼。
少女のようで少年のようなその人間離れした美貌には、どこか気怠げな色が浮かんでいる。
それが彼の美しさに翳りを入れることは無く、むしろその美しさを引き立てるかのようだった。
「確かお前は……天使の悪魔だったか」
アキの言葉に岸辺が頷く。
「先日のテロ事件あっただろ、あの件で四課はバディ制度をスリーマンセル制度へと強化することに決定した」
そう言って岸辺は、くたびれたコートの懐から銀色のスキットルを取り出す。
慣れた動作でキャップを回すと、口をつけて喉を潤した。
朝から酒を浴びるように飲むその姿に、姫野は血液が酒と置き換わっているのではないかと、内心で疑いながら見つめていた。
岸辺は飲み口から唇を離すと、酒臭い溜息を漏らし、ふう、と一息ついた。
「で、こいつはお前のとこの三人目ってわけだ」
アキと姫野へ、人差し指を差した岸辺が口にした内容に、二人は驚く。
顎に指を当てたアキが少し考える素振りを見せると、口を開いた。
「四課限定ですか?」
「ああ、だから追加の人員はもれなく魔人や悪魔だ。大方、上手く運用できるかの実験もウチで試したいんだろう……ウチはそういう部隊だからな」
「……提案者は誰ですか?」
「マキマだ」
その名が岸辺の口から出ると、アキは視線をついと下へ向けた。
アキの脳内では、様々な情報が整理されパズルのように構築されていく。
バラバラのピースが脳内で噛み合おうとするも、核が見えない。
アキは無意識に、眼帯の奥の失った右目がじわりと熱くなるような、そんな感覚を覚えた。
思考の海に沈むアキをよそに、姫野が天使に歩み寄る。
「一応、あのビルで一緒に仕事したけどこうやって話すのは初めましてだよね。私が姫野であっちがアキ君、よろしくねー」
そう言って天使の悪魔に近づく姫野に、岸辺が何でもない事のように言う。
「気を付けろよ、こいつは触れた相手の寿命を吸って武器に変えちまうからな」
「アブなっ!?」
その言葉に姫野は思わず後ずさる。
思考に沈んでいたアキも、その言葉には思わず下へ向けていた視線を上げた。
ぼんやりとした天使の悪魔の様子からは、話に聞くような危険性を感じられない。
「コイツは
岸辺はそう言うと踵を返して去って行ってしまった。
その場に残されたのはアキと姫野、そして天使の悪魔の三人。
突然告げられた新制度と新たなメンバーを前に、視線を交わす姫野とアキの瞳には困惑が滲んでいた。
「ねえ」
そんな二人に天使の悪魔が声をかける。
「顔合わせも終わったんだし、今日の仕事はもう終わりで良いよね?僕帰りたいんだけど」
なるほど、これは厄介そうだ。
あの岸辺が、酷い怠け癖と言うのだから相当なものだろう。
パワー達とは別方向に面倒な気配を感じたアキは、先の事を考えて重くなる気分を切り替える様に、腹の底から出るような大きなため息を吐いた。
「あれ、早パイと姫野じゃん……誰?」
アキが溜息を吐いたとほぼ同時、扉が開かれるとデンジが姿を見せた。
彼は天使に視線を向けると、怪訝な表情を浮かべる。
「キャキャ!チェンソー様!こいつエンジェル!マキマ様の手下!」
「エンジェルぅ?ふーん……じゃあ仲間か」
「デンジ、そいつは誰だ。それにパワーはどうした」
「パワ子ならマキマさんに預けてきたぜ、血抜きしなきゃゴーマンになんだってさ。んでこいつはビームっつって、アイツがいない間の俺んパートナーなんだってよ」
「傲慢……?元からだろ……今より傲慢になるってことか?」
「らしいぜ」
デンジの言葉にアキは天井を見上げた。
嫌がり、激しく抵抗するパワーを引き摺りながらも連れてきて良かったと、心の底から思ったのだ。
「ビーム君だっけ?たしか伏さんとこにいた子だったよね」
「会話もできないくらい凶暴だって聞いてたが……」
「俺ん言うことなら何でも聞くんだってよ」
「チェンソー様の言うこと絶対!!」
「何で?」
「知らね」
ビームの言葉に姫野は首を傾げるが、何も知らないデンジも首を傾げた。
鏡写しのように二人が首を傾げていると、部屋に新たな人物がやってきた。
「あ、あれ?皆さん集まってどうしたんですか……?」
「おおー!コベニちゃん!それに……荒井君じゃん!怪我はもういいの?」
「は、はい!幸い致命傷は免れていましたので……本日から復帰です!」
「いやー死ななくて良かったねぇ」
「コベニちゃんのおかげです。彼女は命の恩人ですよ」
「そんな……わ、私はただ必死だっただけで……」
「その必死さが荒井を助けたんだ。感謝は素直に受け取っておけ」
「そうそう、もっと気楽に生きましょうよーってね」
恐縮した様子で小さくなっていたコベニだったが、姫野とアキからの言葉に小さく頷いた。
ヤクザ襲撃の際、東山コベニを凶弾から咄嗟に身を挺して庇った荒井ヒロカズは、銃弾を身に受けるも幸運なことに致命傷には至らなかった。
コベニが襲撃者の老婆から拳銃を奪い射殺するも、アスファルトを真っ赤に染める荒井の傷口から溢れ出る血の量はあまりにも多く、失血死してもおかしくはなかった。
この危機を救急車が来るまでの間、コベニがその小さな両手で必死に止血を続けていたお陰で、荒井ヒロカズは一命をとりとめたのだ。
「どーもー、そろそろ俺も入っていいかな?」
彼らの会話に割り込むような軽快な声が聞こえた。
声の方向へ視線を向けると、扉の向こうからひょっこりと覗き込んでくる顔があった。
より正確に言うならばそれは顔ではなく、仮面だった。
黒死病の流行した十七世紀ヨーロッパにて、治療にあたった医師が着用していたペストマスクと同じ形状の仮面が、廊下から覗き込んでいる。
「アッ、ごめんなさい暴力さん。中に入ってください」
「皆さんに紹介します。彼はうちの三人目……暴力の魔人です」
「よろしく~!」
荒井に紹介された暴力の魔人が、気さくな挨拶と共に手を振っている。
その様子を見た姫野が、腰に手を当てて口を開いた。
左目は魔人を警戒するように細められている。
「これまたイカついのが配属されたねぇ」
「ぼっ、暴力さんは名前は怖いですけど、いい人なんですよ」
「そ、そうです!コベニちゃんの言う通り悪い奴ではないんです!」
「え~?ホント~?」
「ホントホント!俺悪い悪魔じゃないよ!やっぱ暴力より平和が一番だって!ラブアンドピース!」
「ふーん」
姫野の様子に、コベニと荒井は暴力の魔人を庇うような言葉を口に出した。
二人の後ろでは、ピースサインを掲げた暴力の魔人が愛と平和を謳っている。
当然、姫野は暴力の魔人の言葉を鵜呑みにはしなかった。
そもそも悪魔とは人を騙して当然の存在なのだから、猫を被っているだけの可能性は十分にあった。
この魔人の知能が高そうなのも疑心に拍車をかけている。
逆にパワーとビームに関して、姫野はそこまで警戒していなかった。
理由はお察しである。
天使の悪魔、暴力の魔人、鮫の魔人。
さして広くもない室内に、人外達がこれほど集まっているのは中々見られない光景だ。
「ヤッホー!お二人さんこれからよろしくね~!」
「僕はよろしくしたくないんだけど」
「まま、そんなこと言わないでよ!君あの二人のとこの子?」
「まあ、そうだよ」
「そっちの君は?」
「チェンソー様ァ!」
「チェンソー様?」
「あっちの人間君の事だよ。チェンソーの悪魔に変身するんだってさ」
「へ~、痛そ!色んな意味で!」
どうやら暴力の魔人は社交的な人格らしい。
姫野は交流をしている彼らを見渡すと、感心したような様子で口を開いた。
「しっかしこうして見ると、スリーマンセルの話ってマジなんだって実感が湧くねぇ」
「こうなると、どこにどんな奴が配置されたか気になりますね」
アキは、伏や円たちの所にはどのような悪魔が配置されているのかが気になり始めたようだ。
その言葉を聞いた荒井が、自身が聞いた情報を口にする。
「たしか伏先輩の所には、蜘蛛の悪魔が配置されたと聞きました」
「蜘蛛の悪魔……理性的なヤツだとは聞いているな」
「円さんたちの所にはどんなのが来たんだろ?こないだの作戦に投入された悪魔ではないんだろうけど」
姫野とアキ、荒井がまだ見ぬ悪魔や魔人について話をしている横では、コベニがデンジに話しかけていた。
「あれ……デンジ君、パワーちゃんはどうしたの?」
「アイツ、血ィ飲みすぎたらしくて血抜きが必要なんだってよ。その間はコイツが俺のバディ」
そう言ったデンジが床へ指をさすと、いつの間にか、水面のように波打つ木目の床からヒレが飛び出していた。
それはまるで主人の周りを回る忠犬のように、ぐるぐると泳ぎ回っている。
「そうなんだ……あれ?デンジ君だけバディのままって事?」
「ん……そーいや俺聞いてねぇな……まあしばらくしたらパワーの奴も帰ってくるらしいし、それまではバディなんじゃね」
「そっか……デンジ君強いから大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
「…………おぁ」
当面の間、デンジのみバディ制が続くことに対して、コベニが身を案じる言葉をかけた。
デンジはしばらくの沈黙の後に、「おお」と「おう」と「ああ」の間のような、間抜けた声で返事をした。
二人の身長差から上目遣いに見上げてくるコベニの気弱な瞳に、デンジは不意にドキリと心臓を高鳴らせ、温かいものがじんわりと胸の中に滲むのを感じた。
コベニにとっては軽い社交辞令に過ぎなかったその言葉は、デンジに動揺を与えたのだ。
今までのデンジの人生で、心配の言葉をかけられることは一度として無かった。
それはマキマであっても同じだ。
マキマは、デンジとその力への信頼から応援の言葉はあっても、身を案ずるような言葉をかけることは無かった。
ポチタもそうだ。
心配したポチタに寄り添われることはあった。
そこには思いやりがあった。
優しさがあった。
愛があった。
言葉は無かった。
だからこそ、不意にかけられたコベニからの心配の言葉に、デンジは心を揺らされる。
生まれて初めてかけられた身を案じるその言葉は、それほどの衝撃だったのだ。
デンジの人生は搾取される人生だった。
その生まれからマキマに出会うまで、奪われ続ける人生だった。
だから人一倍、嬉しかったのだ。
初めてかけられたその言葉を、嬉しいとデンジは感じたからこそ胸が高鳴った。
しかし、この時自身が感じた感情を、彼は無知故に理解できなかった。
だからそれが異性への好意なのだと、自身の知る中で最も馴染み深いものにラベリングしてしまう。
そうやって、その温かさをそっと引き出しへと収めた。
順序の狂ったその認識は、彼にこれまで与えられなかったものの大きさを物語っている。
だが同時に初めて手にしたその言葉を、少年が誰よりも大切に扱おうとしている証でもあった。
規則正しい時計の運針の音だけが、静まり返った室内に響いている。
公安退魔特異課、マキマの執務室。
パワーに必要な処置を施すよう送り出したマキマは、一人この部屋にいた。
椅子に腰掛けたマキマは、机の上に横たわるものを見つめている。
証拠品として押収されたそれは、軍用自動拳銃の傑作――コルト・ガバメント。
使用される.45 ACP弾は、重く、速度の遅い弾丸だ。
口径が大きく、体内へ侵入した際には大きく太い損傷経路を作り出すことにより、高い制圧力と殺傷能力を誇っている。
あの日、咄嗟に前に出たデンジの胴体を貫通せず、アキたちを守れたのは、この強大なストッピングパワーが肉体にすべて吸収されたからに他ならなかった。
人間工学に基づいた握りやすいグリップは、手の小さな人間でも容易に扱えるようになっている。
例えば老婆だとか。
アメリカの誇る傑作銃だ。
そして、この銃が最初に活躍したのは。
「第二次世界大戦か……」
一瞬だけ、頭のおかしな姉に思いを馳せたマキマは、銃を手に取ると物言わぬ冷たい鉄の塊を観察した。
シリアルナンバーは丁寧に消されており、流通経路の追跡は不可能。
銃自体はアメリカのものだが、彼らがこれ程までに露骨な足跡を、このような杜撰な形で残していくだろうか?
少しでも情報を撹乱したいが故か。
狙いは心臓。
ヤクザたちに銃を売れる組織。
売るための密輸ルート。
何らかの方法で隠して運んだのか、あるいは賄賂で黙らせたか。
それが出来る規模の存在は。
「ソ連か、中国か」
思考を口に乗せ、すぐに中国の可能性を消す。
向こうには最強がいるのだから、それを差し向ければいい。
つまり、今回の件を裏で糸引いていたのは。
「ソ連かな」
今回、保身的で迂遠な手段が失敗した彼らは、次からはより直接的な手段に出るだろう。
彼等らしい、いくつもの状況をマキマは脳内でシミュレートする。
「歓迎してあげようか」
マキマは嗤う。
私のものに手を出そうなどと。
それがどれほどの間違いなのかを、教えてあげよう。
伏せるようにして細まるその目の奥、黄色い瞳が妖しく揺らめいた。
規則正しい時計の運針の音だけが、静まり返った室内に響いている。
黙示録の四姉妹って、お互いにお互いの事を頭がおかしいって思ってそう。
それで自分の方がマシだなって思ってそう。
本作では暴力さんの体は荒井君によく似た赤の他人です。
いえ、まぁ原作もそうかというとアレなんですけどね。