このまま国内も100億突破してほしいですねぇ!
窓から柔らかい朝日が光を射し、寝室の二人を照らし出す。
いつの間にか眠りに落ちていたデンジの意識は少しずつ覚醒していく。
心地よい微睡みに意識の半分を浸かりながら、目を開いた。
「おはよう、デンジ君」
目の前にはマキマの顔があった。
可哀想なことに寝起きのデンジの脳は、ろくに働いてもいないというのに覚醒直後に処理しきれない情報を叩き込まれてしまったため、完全にフリーズしてしまった。
哀れである。
「おはようございマス……」
挨拶を返せただけ上出来であろう。
今までは朝に目を開けてまず視界に入るのはポチタだった。
それが美女に代わっているのだ。
健康優良日本男児であるデンジには少々刺激が強すぎた。
「デンジ君は意外と積極的なんだね、少し驚いたよ」
しかも昨夜マキマを抱きしめた体勢のままだ。
現在進行形でデンジはマキマを抱きしめている形である。
マキマは常と変わらぬ微笑を浮かべ、胸の中からデンジを見上げていた。
「づみぇ!すんませんっ!俺っそんなつもりじゃ……!」
寝る直前までそのつもりしかなかった男とは思えない言葉だった。
デンジは慌ててマキマから距離を取り、ベッドから降りた。
今のデンジにはマキマに触れていたい気持ちよりも、嫌われるかもしれないという気持ちの方が強かった。
「デンジ君も起きたし、顔を洗ったら朝ご飯を食べようか」
対してマキマは特にこれといった反応もなく、ベッドから降りて部屋を出て行ってしまった。
緊張から解放されたデンジは胸を撫で下ろし、ほっと一息ついた。
マキマのいなくなった部屋に一人残ったデンジはふと思う。
マキマはいったいいつ目を覚まして、どれだけの時間あの体勢のままだったのか。
目を覚ました時に目が合ったということは、自分が目を覚ます前からこちらを見ていたはず。
まさか……目を覚ましてからずっと腕の中から自分の事を眺めていたんじゃ?
(アレ!?もしかしてマジのマジで脈ありなんじゃねえか!?だってマジで嫌だったら今頃俺ぁ……)
恐ろしい想像をしてしまったデンジは、その考えを振り払うためにも、マキマを待たせないためにも急いで洗面所へと向かった。
朝食は食パンにバターとジャム、目玉焼きとソーセージ、サラダにコーヒーとデザートのオレンジがトレイに乗せられていた。
デンジは目の前の朝食を見て硬直していた。
トーストされた食パンなど初めて見るし、新鮮で瑞々しいサラダなんて想像もしたことない。
フォークとバターナイフ、スプーンが置かれていたが、デンジにはバターナイフを何に使うのかも分からなかった。
「デンジ君と初めて会った時に朝食の話をしたよね。これがそうだよ、どうかな?」
「最高です……」
過去最高の朝食を前にデンジは釘付けとなっている。
マキマは横に座ってその様子を微笑みながら眺めていたが、待てをされた犬のような状態のデンジは、放っておくといつまでも食べ始めそうにない様子だった。
「冷めちゃう前に食べようか」
「ワン……」
今は人としてのデンジはお休みのようだ。
さっそく食べようとするデンジだったが、手を合わせていただきますの挨拶をするマキマを見て少し考えた後、見様見真似でいただきますの挨拶をした。
デンジは最初に目についたトーストをまずは味わってみることにした。
食パンをそのまま食べることしか知らなかったデンジは、最強のパンを昨日食べたばかりだがはたしてどうか。
そのまま食いつこうとしたが、マキマがトーストにバターを塗ってから、ジャムを塗っているのを見て二枚あるうちの一枚を真似して食べてみる。
サクサクとした表面のトーストは、軽快な音とともに歯が入ると内側のもっちりとした食感を感じられる。
そしてやってくるのは甘いイチゴジャムと、その中にいるバターのジャムとは違う甘味。
「ウッマァ……!」
最強パンは最強ではない、真の最強パンはこのパンだった!
いや!もはやこれは無敵パンだ!
もうデンジはこの無敵パンに夢中だった。
そんな様子のデンジを眺めていたマキマは手を伸ばし、デンジの口元についたジャムを指で拭い取り、舐めた。
「デンジ君、パンと一緒にソーセージや目玉焼きを食べるのも美味しいから食べてごらん」
「……ハイ……」
マキマの言動に頬を染めながらデンジは勧められたソーセージを食べてみた。
噛むとパキリと音を立てながら温かい肉汁が口内に広がる。
フランクフルトに似ているが、こちらの方が食感が楽しい。
その後にジャムを塗っていない方のトーストを食べる。
(最高だ……)
ただ美味いだけじゃない。
ハスキー達に囲まれながら綺麗な所作で一緒に朝食をとるマキマを横目で見る。
犬たちに囲まれながら美女と共にとる最強朝食は格別、その至福たるや筆舌に尽くしがたいだろう。
ここはデンジにとって完璧な世界だった。
デンジは喉を潤すためにコーヒーを手に取った。
初めて見る飲料だったが、昨日の紅茶のようなものだろうとデンジは迷いなく口に含み、直後噴き出しそうになった。
しかし何とかとどまり飲み込むも表情まではとりつくろえず、舌を出して明らかに不味そうな顔をした。
「飲むのは初めて?」
「マキマさん……これなんすか……」
「コーヒーだよ、デンジ君にはまだ早かったかな」
「舌がピリピリします……」
「デンジ君のために淹れたから、全部飲んでほしいな」
「……クゥーン……」
朝食を食べ終えた後、二人は並んで皿を洗っていた。
「デンジ君、もう少し先の話にはなるんだけれどね、君に会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人っすか?」
「うん、デンジ君にはバディを組んでもらおうと思っててね」
「バディ……」
マキマから洗い終わった皿を受け取り、布巾で水分をふき取りながらデンジは話を聞く。
「公安では小規模任務とかパトロールは安全のため二人一組で行動することになるんだ」
「あれ、それじゃアキは違うんすか?」
「今早川君はデンジ君と組んでいるけれど、元々は別の人とバディを組んで仕事をしてたんだ。デンジ君にはそのうち早川君とではなく、紹介する子とバディを組んでもらうことになるよ」
「へー……」
「気を付けてね。その子は魔人だから」
「魔人……」
デンジはぼんやりと、自分と組む相手がどんな人物になるかに思いを馳せた。
どうせなら美人がいいなぁ。
その後デンジはマキマと共にデビルハンター本部へ向かい、制服を持ってきたアキから家を勝手に抜け出した上にマキマの世話になった事などをこっぴどく叱られたり、そこにマキマの仲裁があったりなどの一幕があった。
あの夜からデンジはアキの家を抜け出しては、マキマに会えることを期待して公園に行ってはベンチに座って待ち続けた。
マキマが来ない日もあったが、大体は会うことが出来たデンジはその都度マキマの家へ招待されていた。
家では犬たちと遊んだり、他愛もない話をしては一緒に眠っていた。
マキマは一緒に眠る時、涙を流すことを知ったあの夜からデンジは、せめてもの慰めとなることを祈って眠る時にはマキマを抱きしめて眠ることにしていた。
少しでも恩を返したくて、でも涙の止め方を知らない彼が考えた、たった一つの方法だった。
彼女は今でも涙を流して眠る。
現在デンジは、アキと共に悪魔事件の対処に向かっていた。
場所は東練馬区、魔人が住宅内に立てこもっているとのこと。
現場ではすでに警察が規制線を張りめぐらせ、何台かのパトカーもありそこそこの騒ぎとなっていた。
デンジは先ほどから気になっていた事をアキに聞いてみることにした。
「なあ、魔人って何?」
「……はぁ?お前義務教育受けてないのか?」
「お〜俺受けてねえよ」
予想していなかった返答にアキは驚き戸惑う。
たとえ悪魔被害により孤児となった場合でも、国の制定した法と福祉により義務教育くらいは受けられる。
自身がそうだった。
義務教育を受けなかったという事実が、法に守られず、周りにまともな大人もいない子供時代を送ったということを示唆していた。
「……人の死体を乗っ取った悪魔、それが魔人だ」
「ふ〜ん、え……あぁそれじゃ俺魔人じゃね?」
「違う、魔人は頭の形状が特徴的だ……まあ見れば一発でわかる」
そう言って魔人がいると情報のあった部屋の扉をアキは蹴り開けた。
中には報告通り魔人がおり、おそらく生前飼育していただろう鳥を貪り食っていた。
その顔からはクワガタのハサミのようなものが生え、目は血走っていた。
「魔人の人格は悪魔だ。今回はお前が殺せ、悪魔になって力を見せてみろ……それで使えるモンかどうか判断する」
「見るな!殺すぞ殺すぞ殺すぞデビルハンター共が!」
アキの言葉に反応したのか、魔人が襲い来る。
それに対してデンジは動ずることもなく淡々と斧をふるい、首を刎ね飛ばした。
床に頭が転がり、体は力を失い倒れこむ。
「おい、何で悪魔の力使わなかった?」
アキの疑問にデンジは言葉を選びながら答える。
「あ〜…俺の力使ってで悪魔を殺すとよぉすっげえ痛そうなんだわ。だから〜あ〜俺もこいつみてえな魔人になってたかもしれねえからな。それでなんか楽に殺して……やりたくて……」
言葉を言い切るかどうかの途中でアキはデンジの頭をつかみ、窓へと押し付ける。
その目は見開かれ、目の奥の激情が垣間見えそうだった。
「いいか覚えとけ、魔人も立派な悪魔だ。デビルハンターが悪魔に同情するな」
頭を握る手に力がこもる。
「俺の家族は全員目の前で悪魔に殺された」
肺の奥から出たように、押し殺された声だった。
自身の中で暴れる感情を何とか押しとどめようとするかのような声だ。
相当な悪魔への恨みが今のアキからは感じられる。
いくら抑えようとも全身から憎悪が滲み出ているのだ。
「下にいる警察とも飲み行ったことあるけどな、奥さんとか子供を守る為に命がけで仕事をしてる……お前以外全員本気なんだよ」
「俺は悪魔をできるだけ苦しむように殺してやりたいぜ……お前は悪魔と仲良しにでもなりたいのか?」
「友達になれる悪魔がいたらなりてえよ、俺友達いねえもん……」
デンジは知っている。
この世には例外があるということを。
だがそれは例外であって世の常識ではない。
悪魔と家族になったデンジと、悪魔に家族を奪われたアキではお互いの思いが交じり合うことは無かった。
デンジのこの返答に、最早問答は無用とばかりにアキは踵を返す。
「その言葉、覚えとくぜ」
最後に一言、そう言ったアキは部屋を出ていく。
それを見送ったデンジはしゃがみこみ、床に落ちている雑誌へと手を伸ばした。
「あープッツンさせちゃったよ……ホントはエロ本に血ぃつけたくなかっただけなのに……チェンソーになると血ぃ飛び散って汚れちまうからな〜楽に殺してやったんだ、これはもらってくぜ!……よしエッチ確認」
デンジはエロ本を脇に挟み持ち帰ろうとするが足を止めた。
あの日、デンジの夢を私に見せてくれと言ったポチタの言葉を思い出す。
「俺もマジでやってるぜポチタ、契約どーり夢みてーなイイ生活してるモンな?」
(俺はもう夢にゴールしちまってるからなあ。アイツはまだ追いかけてんだ。
風呂も毎日入れていいモン食えて、ツラの良い女も近くにいて一緒に寝たりして……もう百点の生活なのに……なんか足りない気がする)
デンジはぼんやり考える。
なにか喉の奥に引っ掛かったような、脳みその奥に沈んだものがあるような感覚。
(なんかあったか?マジでマジのゴール……あいつはきっと復讐的なアレだ。下のやつらは家族を守ること……マキマさんもなんかあるのか?マキマさんも……)
脳裏に思い浮かぶのは、優しい微笑を湛えてこちらを見つめるマキマの姿。
(胸ぇ揉んでみてえ……とっくの昔に俺にゃ無理だと諦めていたが……今のまともな仕事してる俺なら揉めるんじゃねぇか?)
鈍かった思考が加速する。
錆びた歯車が油を注され、火花を散らしてグルグル回りだした。
(いきなり女抱くのは俺には難しい……でも胸なら……胸なら強い意志と行動力がありゃ揉めるんじゃ……)
お前以外全員本気なんだよと言った先ほどのアキの言葉が脳裏をよぎる。
気付きを得たデンジの目が大きく見開かれた。
(そういうことだったのか、見つけたぜ……俺の本気!俺のゴール!それは……!)
「胸だ!!」
「ムネダ?」
「おい!話聞けバカ!」
「はなし……?」
場所はマキマの執務室。
目の前には不思議そうな顔で体を傾けるマキマ、隣にはデンジを叱るアキがいた。
いつからここに自分がいるのかデンジには分からなかった。
胸の事ばかり考えすぎである。
「以前にも伝えた通り、デンジ君には今日からバディを組んでもらう」
「あー……前に言ってたやつっすか」
「そう、その魔人の子とデンジ君はこれからバディを組んでパトロールをしてもらうことになります。……ちょうどよかった、来たみたい」
マキマがそう言い切るか否かのタイミングで扉が勢いよく開かれる。
「おうおう!ひれ伏せ人間!!ワシの名はパワー!バディとやらはウヌか!?」
そう名乗りを上げながら入室し、見栄を切った魔人は一見人間の少女に見えたが、頭の上に赤い角を生やしていた。
「パワー!?名前パワー!?つーか魔人なの!?魔人がデビルハンターなんてやってもいいのか!?……まあいいか!!よろしくなあ!」
最初こそ困惑したデンジであったが、パワーの豊かな胸を一目見て元気よく前言撤回した。
マキマの執務室にてパワーを紹介され、バディを組んだデンジは現在歩道ではなく、人目を避けるようにして屋上伝いにパトロールしていた。
「人間!早くなんか殺させろ!ワシは血に飢えておるぞ!」
しばらく歩いていると、あちこち忙しなく動き回っていたパワーが突拍子もなくデンジの頭をはたきつつ、そのようなことを要求してきた。
(ある程度の理不尽ならツラ良けりゃ許せる……問題はどうやって胸を揉むかだ……)
デンジはそうぼんやり考えながらビルの屋上を歩いていたが、次の飛び移れる建物が近くになかったので一度下に降りることにした。
下に降りると巡回中の警察官に出くわした。
武器を所持しているデンジと魔人であるパワーを確認すると、彼等は職務質問のために近づいてくる。
(確かこういう時は……)
「魔人は悪魔と同じ駆除対象なんだけど、パワーちゃんは理性が高いから早川君の隊に入れてみたんだ。頭の角が目立つから人通りの少ない場所だけパトロールすること……もし民間のデビルハンターに会ったり、警察官に職務質問された時は──」
「公安対魔特異4課で〜す」
「──って言って手帳を見せれば嫌な顔して帰っていくよ。前にも言ったけど、公安対魔特異4課は実験的部隊なの。結果を出せなかったらすぐにでも上の方々が解体しちゃうかもしれない……そうなったら君たちがどうなるかはわかるよね?」
マキマに言われた通りの事をすると、警察官達は本当に嫌な顔をして帰っていった。
この様子なら執務室で言われた解体の件も本当なのだろう。
せっかく夢みたいな生活を手に入れた上に、毎日とはいかずともいい女と眠れる日々が過ごせているというのに、それを失うなんて事はデンジには許容出来る事ではなかった。
何としてでも悪魔を倒し、結果を出さなくてはとデンジは意気込んだ
「全っ然悪魔いねーじゃん!」
あれからいくら探しても悪魔は見つからなかった。
アキとパトロールを行っていた時には割とすぐ、悪魔を見つけたりしていたというのに。
今日に限って影も形もない。
不満を口に出していると、なぜかパワーは得意げな顔をして言った。
「多分ワシのせいじゃのお!ワシは魔人になる前は超恐れられてた悪魔じゃったからのお!ワシの匂いで雑魚悪魔は逃げてくんじゃろう!」
「はあ〜!?じゃ俺たち結果出せねえじゃん!」
ここでデンジは最後にマキマが言っていた事を思い出した。
「何か聞きたいことがあったら、早川君に聞きな。彼が君たちを組ませたから」
そうだ、確かにそう言っていた。
ここでデンジは気付いた。
全ては早川アキの策略、自分はまんまと手の平の上で転がされていたのだ。
(ヤロぉ〜……俺をハメやがったなア…!パワーと組ませて俺を活躍させないようにして、俺を辞めさせる気なんだ!)
デンジの脳内では超絶極悪人である早川アキが、下品に舌を出してこちらを見下す姿が鮮明に想像されていた。
「血の匂いじゃ!!」
「あっおいおい!テメエ!どこ行く!?……足速っ!」
しばらく罠に嵌められていた悔しさに身をよじっていると、唐突にパワーが走り出した。
慌ててデンジは彼女を追いかけ始めるも、意外に足が速く追いつけない。
「勝負じゃ!勝負じゃ!勝負じゃ!」
パワーは何階もの高さがあるビルから躊躇いなく飛び降りる。
落下の最中に自身の血を巨大なハンマーへと変え、落下の勢いと共に地上にいる悪魔へと叩きつけると、悪魔はトマトのように潰れてしまった。
周囲には飛び散った血と臓物で溢れかえった。
「どうじゃ!!わしの手柄じゃ!!ゲハハハハ!ガハハハハ!ゲヘヘ……ゲヘッゲヘッ……ガーハッハッハ!!」
止める間もなく悪魔に攻撃を仕掛け、全身を血で染め上げ哄笑するその様を見てデンジはドン引きしていた。
「民間が手をつけた悪魔を公安が殺すのは業務妨害、普通だったら逮捕されちゃうよ。パワーちゃんはもうちょっと考えて行動しないといけないね……デンジ君も彼女を制御しないと」
パワーが殺した悪魔は、既に民間のデビルハンターが対応していたものであったことが判明した為、責任者であるマキマが対応の為に現場に来ていた。
そして今はパワーとデンジの二人と話をしており、今回の件は手綱を握れ切れなかったデンジにも責任があると教えていたところであった。
もちろんデンジからすれば不服な話である。
「え?おれも〜?」
「パワーちゃんは魔人になる前は血の悪魔だったから血を使った戦いが得意なんだけど……すぐ興奮しちゃうし、デビルハンターには向いてなかったのかな?」
常と変わらぬ微笑みを浮かべるマキマであったが、最後の言葉とともに静かな圧が放たれているのを感じたパワーは、先程までそっぽを向いていたというのに途端に態度が急変した。
「っこ!?きょっ、こいつが殺せって言ったんじゃア〜」
そうして責任を全力でデンジに擦り付ける方向へと走り出した。
「はあ〜!?俺言ってないです!言ってねぇ!よくんな嘘が言えたモンだなあ!?」
「嘘じゃないわい!!言った!!この人間が悪魔を殺せと言ったんじゃア!!本当じゃあ!!」
「コワっ!?はあ〜!?マキマさんこの悪魔嘘つきですぜえ!?逮捕だ逮捕!!嘘なんとか名誉なんとか罪で逮捕だテメエ!!」
「違う!こいつがヤレって言ったんじゃ!悪魔は嘘をつけない!嘘をつくのは人間だけじゃ!!」
全力で全責任を擦り付けたいパワーVS全力で責任を擦り付けられたくないデンジによる押し付け合いが始まった。
お互い一歩も譲らずボルテージはどんどん上がっていく。
「静かにできる?」
激しくなる二人の口論はマキマの一言により、冷水を浴びせられたように静かになった。
「でで、でっ、できるっ」
「あぁ……!?」
デンジは明らかにマキマに怯えた様子のパワーを不審に思う。
「偉いねパワーちゃん、正直どっちが足を引っ張ったとかはどうでもいいかな……私は2人の活躍を見たいんだ。私に活躍見せられそう?」
「みせ!みせっ見せるっ」
「デンジ君、パワーちゃんの事お願いね。私はデンジ君になら安心して任せられると思ってパワーちゃんと組ませたんだ……頑張ってね」
「!……はいっ…!」
怯えて身を竦ませるパワーとは対照的に、応援されたデンジは嬉しそうに元気よく返事をした。
(胸を揉みたいとか思っている場合じゃないかもしれない)
先程の元気なデンジの姿はそこにはない。
あれから悪魔を探せども探せども一向に見つからなかったのだ。
今は自販機で飲み物を買って休憩をしていた。
パワーは猫と遊んでいる。
「ジュース飲めるなんてよお、俺にとっちゃ夢みたいなことだぜ……だけどこんままヘマ続けたらジュース飲めなくなる所の話じゃねえぞ?……だからって嘘つき女と協力なんてできねえけどな……」
デンジは飲み切った缶ジュースを眺めがら言う。
少し前まではこんな上等なもの飲めなかったのだ。
結果を出せなければこれともオサラバとなるし、そんなのはデンジとしてもごめんだった。
「ワシが仲良くできるのは猫だけじゃ……人間は嫌いじゃ!人間がワシに何かしたからではない、悪魔の本能みたいなモンで嫌いなんじゃ。そして悪魔も嫌いじゃ、悪魔はワシの飼ってたニャーコを連れ去ったからの!……ニャーコを取り戻す前にワシはマキマに捕まってしまった」
パワーはデンジの言葉に対して捲し立てるように言葉を返すものの、最後には意気消沈するかのように声が小さくなってしまう。
そこにデンジは小さな子供を幻視した。
「……もう殺されてるかもしれんが諦めきれん。ワシは悪魔からニャーコさえ取り戻せるなら人間の味方でも何でもしてやる!……猫ごときにとウヌには分からぬ感情じゃろうがな」
「猫ォ?くっだらねえな〜。俺は胸揉めるつー事なら何でもできるけどよ」
「……やはり人間とは分かり合えぬのお」
「んー、あ〜でも犬だったらまだわかるかもな……」
缶ジュースの中にまだ残っていないか見ていたデンジは、マキマの飼っているハスキー達を思い出した。
そのデンジの様子を観察していたパワーは一つの提案をデンジに出した。
「……ニャーコを悪魔から取り戻してくれたら胸を揉ませてやる、と言ったらどうする?」
その言葉にデンジは目を丸くして驚いていたが、しばらくしてから言葉の意味を飲み込んだのか、持っていた空き缶を握りつぶした。
「……悪魔がよぉ!」
「おお」
「猫をよお!さらうなんてよオ!!」
「おお!?」
デンジはズンズンとパワーへと近づいていく。
その気迫にパワーは気圧された。
「んなこと許せねえよなあ!?」
「おお!!」
「デビルハンターとして許せねえ!!」
「おお!!」
デンジの中で激情が渦巻く。
悪魔をできるだけ苦しむように殺してやりたいと言ったアキの言葉の意味を今十全に理解した。
これは、デンジのこれまでのデビルハンターとしての活動の中で、最も本気となった瞬間だった。
「そん悪魔俺がぶっ殺してやるぜ!!」
なるべく口調がキャラクターから外れないようにしたいのですが中々難しい……
特にデンジが難しい……