出来るだけ近いうちに続きを出します。
デンジとパワーは現在路面電車に乗っていた。
先程パワーの外出許可を取り、ニャーコ奪還の任務に二人で向かっているところだ。
「ニャーコをさらった悪魔の場所は分かっとるんじゃ!問題はウヌしか戦えないことじゃ。ワシの姿を見られたらニャーコを盾にされちゃうからのお、そうなったら詰みじゃ」
デンジはパワーの胸を見ながら考える。
少し考えて、仲良くなった方がいいとデンジは判断した。
仲良くなれば胸を揉む機会がまた来るかもしれないという下心と、バディを組んでいるのだし仲良くなっておいて損はないと考えたのだ。
「……俺もポチタっつー悪魔がいてさ、もう撫でる事ぁ出来ねえんだけどいーんだ、俺のココで生きてるからな!」
デンジはそう言いながら自分の胸に拳を当てた。
「人間は愚かじゃな!……それは死んだってことじゃろ~?死んだ命は無じゃ!心の中にいるだのなんだのは浅ましい慰めじゃ!」
「……へえへえ、そーだな」
パワーからの言葉はデンジが想像していたものとは大きく違ったものだった。
デンジはもう一度パワーの胸を見た。
胸を見て、目を逸らした。
(ぜってぇ~仲良くなれねえな……コイツ)
席に座る二人の距離は、遠かった。
「米国の件でソ連はタカ派の声が大きくなっている。悪魔を軍事利用しているという噂も聞く……願わくば、日本の敵は悪魔だけでありたいものだがな」
広い部屋、スーツに身を包んだ壮齢の男達の前にマキマが立っている。
彼らは公安幹部であり、マキマへ現状報告を求めていた。
「マキマ君、君にあげた部隊の犬は育っとるかね」
「期待に答えられそうなのが1匹、面白いのが1匹」
「面白い……?」
マキマの口からでた言葉に、一人が反応した。
「最近拾った子犬です」
「君の仕事は犬を育て使うことだ……くれぐれも、情は入れてくれるなよ」
その言葉にマキマは、常と変わらぬ微笑みを浮かべた。
報告会からの帰り、マキマはアキの運転する車に乗って一息ついていた。
アキは部屋の外でマキマが幹部達と話すのを聞いていたのか、口を開いた。
「デンジは不快なだけで面白くないですよ」
「そうだね……どちらかというと面白いより可愛い方だよね」
「は?」
一瞬アキは呆けたが、すぐに聞き間違いだと考え話を続けた。
「……どうしてそんなに期待をするんですか?」
なぜデンジに期待するのか。
アキからの質問にマキマは窓の外を眺めながらしばし黙考する。
一口、手に持っているコーヒーを飲んで唇を潤すと口を開いた。
「全ての悪魔は名前を持って生まれてくる……その名前が恐れられているものほど、悪魔自身の力も増すという」
マキマは手元のコーヒーをくるりと一つ回し、揺れる水面を眺めてから一口飲んだ。
「コーヒーは怖いイメージは全くないからコーヒーの悪魔がいたら弱いだろうね……でも車の悪魔がいたらどうだろう?タイヤに轢かれて死ぬイメージがあるから強いかも」
アキはその様子をバックミラー越しに眺めながら静かに言葉の続きを待つ。
「デンジ君はチェンソーの悪魔になれる……面白いと思うけどな」
マキマは窓の外を眺めながらそう言った。
その視線は遠くを見ていて、景色を眺めているのか、それとも何か別のものを見ているのかはアキには分からなかった。
アキは視線を前へと戻す。
「面白いだけで使えないやつですよ……公安は目標や信念があるものだけしかいない。でもあいつはだらだらと生きたいだけと言っていました……公安にはふさわしくないです」
マキマは静かにコーヒーを飲みながら、アキの様子をバックミラー越しに眺めていた。
「それに悪魔と仲良くなれると思ってる……まだガキなんですよ、ガキ」
アキの視線は目の前の何かを睨んでいるかのようだった。
「そこの家じゃ!あそこにニャーコと悪魔がいる!」
バスから降りたパワーの指さす方には一軒の建物が建っていた。
外観は朽ちて古めかしい家がポツンと建っている。
何者かが隠れ潜むにはぴったりの場所であった。
「は~ん、じゃあさっさと行くか」
デンジは早速建物へ向かって歩き出した。
人質を取ったという悪魔がどのようなものか、デンジは想像した。
あまり強くないのが良い、楽して胸を揉めたらそれが一番だ。
だがいざとなったらチェンソーを使わないといけないだろう。
「貧血なるからチェンソーにゃなりたくねーな……」
「おお?チェンソー?」
「あー、俺チェンソーなれんの」
「人間の冗談は笑えんなあ」
そこで会話は途切れた。
しばし二人は無言で歩くが、ここでデンジはあることに気付いた。
「ああ?」
「おお?どうした?」
「てめえが姿見せたら猫を人質にされんだろ?こんな近くまでついてきたらダメでしょ?」
「おお?そういう設定じゃったか?」
「……設定?」
「言い間違い、じゃ」
沈黙。
瞬間デンジは斧をふるう。
しかしパワーは血でハンマーを作り、体を捻るようにしてデンジの斧を避けつつその頭を殴打した。
頭部に強い衝撃を受けたデンジは、まともに立てなくなり呻き声をあげながら倒れてしまった。
「バカじゃが、勘は良かったのお……」
パワーは倒れたデンジを見下ろしながら笑みとともにそう言って、建物の中にデンジを引きずり込んだ。
家屋の奥まった場所、闇の中に潜むようにして佇む黒く巨大な影の前へデンジを運んできたパワーは、声を掛けられる。
「随分と私を待たせたな……血の悪魔よ……逃げたのかと思ったぞ……」
「文句を言うな!わしもやっと外に出れたんじゃ……コウモリ!望み通り人間を連れてきたぞ!」
影の正体はコウモリの悪魔。
隆々とした巨躯を誇る悪魔だった。
「久しぶりの食事、若い男か……精力の出る血を飲めそうだな」
コウモリはそう言うとデンジを鷲掴みにし、自身の屈辱の証たる傷を見せつけた。
「この腕の傷を見ろ人間、貴様らにつけられた傷……!この私を隠れざるを得なくさせた忌々しい傷だ!」
右腕が半ばから欠損しており、痛々しい傷跡となっている。
コウモリの声には強い怨嗟が籠っていた。
「知るかバーカ」
「食事が吠えるな!人間に刻まれた傷……人間の血で癒させてもらう……!」
デンジはそれに対して物怖じもせず、そう吐くもそれに対してコウモリは激昂し、まるで果物を絞って果汁を飲むかのようにデンジを強く握りしめ、血を絞った。
悲鳴とともに漏れ出るデンジの血を口にした瞬間、コウモリは口内に広がる血の味に対しくぐもった声をあげた。
「ぬっ!不味い!?不味い血で!復活してしまったではないか!口の中が気持ち悪い!他の人間で口直しをしなければ!」
コウモリの傷は瞬く間に癒され、欠損していた腕も生えるがコウモリは余程不味い血だったのが不満だったようで、天井を破壊して出ていってしまう。
「よくワシの話を信用したモンじゃの……やはり人間は愚かじゃ」
パワーは投げ捨てられ、床に転がるデンジにそう吐き捨てた。
この時デンジは、アキから言われた悪魔と仲良くなりたいのかという言葉を思い出していた。
「タバコの匂い……化粧と薬の匂い……悪くない匂いだな……口直しは子供に決めたぞ」
「コウモリの悪魔!約束通り人間は連れてきたんじゃ!ニャーコを返してもらう!」
「ん~?ああ、そういう話だったか……私に不味い血を持ってきた罰がまだだったな」
コウモリの悪魔は言われて今思い出したかのようにそう言うと、パワーの目の前で人質にしていたニャーコを呑み込んでしまった。
パワーの脳裏にニャーコと出会い、共に過ごした日々が蘇る。
「ニャーコ、ウヌの名はニャーコじゃ!」
「ヒョロいナリじゃのお……もう少し太らせてから食ってやるか!」
出会った時には骨と皮しかないような状態だった子猫に名を付けた。
猫にしては美味そうな匂いがしたから、食いでのある大きさになるまで育ててから食おうと思った。
「早く大きくなれ!ニャーコをを殺すのが楽しみじゃなあ……!」
日に日に大きくなるニャーコと過ごす日々は、何かが満たされて楽しかった。
「目があった奴はすべて殺してたからのお……悲鳴じゃない声を聞くのは不思議な感じじゃな……」
あのやせ細った姿から見違える程大きくなったが、不思議と殺す気持ちにはなれなかった。
「不思議な……」
「──血の悪魔よ……血が足りない……猫を殺されたくなければ人間を連れてこい……」
そして、
「ポチタはもう二度と撫でれんと言っとったな……ウヌの気持ちがわかったぞ……ひどい気分じゃな」
パワーはそう言うと、コウモリに掴まれそのまま丸呑みにされてしまった。
「不味い!不味い血ばかりだ!口の中が気持ち悪いぞ……子供の血でうがいをしなければ!うがいをした後は前菜に生娘だな。スープは熟した健康な女、メインは肉付きのいい男……デザートは妊婦がいい」
コウモリはこれから味わうフルコースに胸を高鳴らせ、飛び立ってしまう。
向かう先は人口密集地である街中だ。
このままでは数え切れないほどの犠牲者が出てしまうだろう。
しかしコウモリは異変に気付く。
自身の足に何かがある違和感を感じたのだ。
「オレの胸ェ返せ!」
ふと見やると、先ほどの不味い血をした男が自身の足にしがみついて血を啜っていたのだ。
「私の血を飲んでる……!?気持ち悪い!貴様の血なぞ飲む気も起こらんわ!」
まるで自身の血を吸うダニを見てしまったような嫌悪感を抱いたコウモリは、すぐさまデンジを引き剝がし、このまま地面へ叩きつけてしまおうと考えた。
コウモリに掴まれた時、デンジの心中にあったのは過去の記憶。
(ポチタがいなくなった時があった。朝起きたらポチタはいなくて、町中を探しても見つからない……悪魔に食われちまったって思ったけど、家に帰るとポチタは泣きながら俺を待っていた。ホッとしてそのまま一緒に寝たのを覚えている……)
まだデンジが小さい子供だった時の記憶。
焦燥感に苛まれながら走り回っていた。
あれほど必死になったのは、人生でもあの時とゾンビに殺された時だけだった。
泣いていたポチタを抱きしめて、心底から安心して寝た夜だった。
(あいつはニャーコを悪魔に奪われて、どんな気持ちで眠ってたんだろう)
スターターが力の限り引かれる。
瞬間デンジの体からチェンソーが飛び出し、自身を鷲掴みにしていたコウモリの右腕をバラバラに切り刻んだ。
「な、あっ、悪魔だと!?」
右腕を失い、飛ぶことの出来なくなったコウモリは、デンジと共にそのまま地上へと落下した。
ビルを何階も突き抜けてようやく止まる。
墜落現場には不運にも働いていた女性がおり、突然の事態への驚きと恐怖により動けなくなっていた。
「バカが……!食っちまうぞ!」
「人を逃がしたアア……!?悪魔のくせに何がしたいんだア……!?」
その女性に対してデンジは半ば脅すように声を張り上げる。
その声に弾かれたように、女性は逃げ出した。
コウモリは、人を逃がすなどという不可解な行動に驚く。
「テメん腹ァ裂いて!胸揉むんだ!よ!!」
そんなコウモリへの疑問にデンジはそう吠え、コウモリを蹴り飛ばした。
チェンソーの悪魔へ変身した影響からか、自身の何倍もの巨躯を誇るコウモリを容易く壁ごと吹き飛ばす。
吹き飛んだコウモリをチェンソーの唸りが追いかける。
コウモリも迎撃のため残った左手を掲げ勢いよく地面へ叩きつけると、その衝撃で大地が割れる。
迸る衝撃波が直線状にあったビルを倒壊させるほどの威力だ。
しかしその一撃は当たらず、土煙にまぎれて吶喊を仕掛けてきたデンジにコウモリは胸部を切り裂かれる。
自身の不利を悟ったコウモリは、先ほど人を逃がしたデンジの行動から人間を利用することにした。
逃げ遅れた人間を、乗っていた車ごと投げつけてきたのだ。
「人間を逃がすようなやつにぃ、これは切れるか!?」
飛んできた車に驚いたデンジは、咄嗟にチェンソーを引っ込めて受け止めることに成功した。
今まで出しっぱなしだったチェンソーの刃が引っ込んだことに、デンジ自身そんな事が出来たのかと驚いてもいた。
「体にそぐわぬ怪力……その力でなぜ人間を助ける!?」
「誰が助けたってェ~!?野郎の命なんざ、知るかア!」
そう言うやいなや、デンジは車をコウモリに向けて投げ返す。
寸前で車に乗っていた男性は車から何とか飛び出すことに成功し、車はコウモリの顔面に激突。
直後爆発し炎上した。
デンジはすかさず追撃を加えるために飛び出す。
「うおっ……うぅあぁっ……ポポパパパパパ……ポウ……波ア!!」
コウモリは爆発と炎に焼かれたが、何とか顔を燃やす炎をかき消すと顔面が変形し、筒状に伸びた口から破壊を伴う音響攻撃を放った。
この攻撃の威力は今までの攻撃の中でも桁違いで、何棟ものビルに大穴を開けてしまう程。
まともに受けてしまえば肉片すら残らないだろう。
コウモリもこれで勝負はついたと思ったのか、先ほど逃げ遅れて車ごと潰されそうになった男を鷲掴みにした。
「まずは回復だ……タバコ臭い血だが今は許そう……!」
ヴヴヴン
コウモリが今にも人を喰らおうとしたその時、低い唸り声が響いた。
「なぜ……生きてる……」
確かに仕留めたはず。
先の一撃に大きなダメージを負っているようにも見えない。
瓦礫と砂煙の向こうから現れたその姿に、コウモリは慄いた。
「散々な目ぇばっか遭ってよお……我慢しかしてねえのに……まだひと揉みも!してねえええんだよおおおおっっ!!!」
ヴヴヴヴヴヴギギギギイ゙イ゙イ゙イ゙イイイイィィィィ!!!
絶叫。
高速回転するエンジンの雄叫びとともに放たれたそれは、魂からの咆哮であった。
一歩踏み出す。
訳が分からない、理解不能の敵に。
その歩みに、コウモリは恐怖した。
恐怖を抱いてしまった。
「ヒィッ……!近寄るなアア!」
コウモリは近くにあった瓦礫を咄嗟に投げつけるも、チェンソーによって容易く切り裂かれる。
コウモリへと飛び込むデンジ、これをコウモリは迎撃のために左手で殴り掛かるも、拳にチェンソーを突き立てられ、そのまま肩まで切り裂かれ左手を切断される。
たまらずコウモリはたたらを踏み、体勢を崩してしまう。
何とか立ち上がろうとするコウモリであったが、吶喊してきたデンジのチェンソーによる猛撃が体を切り刻んでいく。
ヴイ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙ギイ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙!!!!
悪魔の断末魔と不協和音の絶叫が、血と臓物と共に撒き散らされた。
はやくマキマさんとデンジ君の話が書きたい……