天使なデンジ   作:一般冒険者

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映画特典が第7弾まで決定されたそうですね、マキマさんの特典来てくれると嬉しいですねぇ


六話 スタンド・バイ・マキマ

「猫を殺されたくなければ人間を連れてこい」

 

そうコウモリに言われ、パワーは走った。

人の街を探して長い道路を走り続けた。

 

(命は平等に軽い、たかが猫じゃ)

 

自問自答する。

たかが猫のために何故こんなにも必死に走っているのか。

そんなバカみたいな理由でどうして走れているのか。

自問自答する。

 

(血は好きじゃ……味も匂いも、死を感じるのも)

 

記憶が流れる。

目が合ったもの全てを殺していった記憶。

悲鳴と共に息絶えた獲物の血肉を食らう記憶。

ニャーコと出会った時の記憶。

ニャーコに飯をやった記憶。

 

(それで……それで最近、初めてわかったんじゃ)

 

そして、ニャーコを抱きしめて眠った記憶。

 

(血は暖かくて……気持ちがいい)

 

そこで初めて、パワーは宝物に気付いた。

 

 

 

 

 

 パワーの目が開く。

視界にはニャーコ、血と臓物の海、そして自身を抱きかかえるデンジの姿が写った。

 

「なぜワシを助けた……ウヌを殺そうとしたのに」

 

聞かれたデンジはパワーの胸を一度指差し、その後手を何度か握るジェスチャーをした。

それを見て、パワーはデンジの言いたいことを理解した。

 

「バカみたいな理由じゃな……騙してすまんかった……ニャーコは助かったからの、胸は揉ませてやるわ」

 

その福音が耳に届き、全身に歓喜が巡る。

デンジの目は徐々に見開かれ、やがて全身が爆発するような感情が生まれる。

その衝動のままにデンジは、喝采と共に拳を高々と掲げた。

 

「よっしゃあああああああああ!!!」

 

しかし突如、掲げた右腕が半ばから破裂するかのように弾け飛ぶ。

 

「あああああああいってえええええええ!!!」

 

突然襲い掛かった痛みにデンジは悶絶し、痛みのあまり右腕を抱え込む。

吹き飛んだ腕にどこから来たのか何者かが手を伸ばすが、その手は異形そのものであった。

肉々しくブヨブヨとしたミミズや、ヒルのような質感を感じるそれは間違いなく悪魔のもの。

それも異様に長く、デンジたちの背後から伸びてきているようだった。

振り返るとそこには、先程の異形の腕で体を作られたような醜悪な姿の悪魔がおり、丁度デンジの腕を口へ放り込んでいるところだった。

 

「……動けっか?」

 

「指も動かせん、ニャーコを連れて逃げとくれ……!」

 

デンジはニャーコもパワーも諦めるつもりなど欠片も無かった。

ようやく願いが叶いそうなところまで来ているのだから。

躊躇いなくデンジは胸のスターターを引いた。

 

「げ、チェンソーが出ねえ……」

 

胸のスターターを思い切り引くが、チェンソーは頭から少し出た程度。

先程のように変身することが出来なかった。

 

(……血が足りねえのか……?)

 

デンジは疑問を抱きつつも、パワー達を出来るだけ巻き込まないためにも悪魔へと近づく。

 

チェンソーになれるというのは冗談ではなかったのか。

デンジのような者は見たことも聞いたこともなく、初めてその姿を見たパワーは驚いていた。

チェンソーの音に気付いた悪魔が顔をこちらへと向けた。

 

「やあ~っと見つけたのにぃ……あんたでしょ?コウモリちゃん殺したの、私の男だったのにぃ~!」

 

どうやら目の前のヒルのようなこの悪魔はコウモリの恋人だったようだ。

吸血カップルでお似合いである。

 

「……あら、よく見ると可愛い顔、好みの顔してるから逃してあげる!」

 

ヒルは顔をデンジの近くまで近づけ、値踏みしていたようだ。

 

「後ろのやつらは?」

 

自身を見逃すといったヒルにデンジはそう聞いてみた。

聞かれたヒルは顔を歪め、ニヤつくとたった一言。

 

「殺す」

 

そう言い放った。

デンジはダメ元で聞いただけのようで、唾を吐くと無言で構えた。

それがヒルからの提案に対するデンジの答えであった。

 

「じゃあ死にな」

 

ヒルはそう言うとデンジへと腕を素早く伸ばすも、デンジは軽快な身のこなしにより直撃する寸前で躱す。

躱した勢いそのままにデンジは、続々と攻撃を仕掛けてくるヒルの足元へと全力で駆け抜ける。

デンジはこれまでの経験から、巨大な相手との戦闘ではひたすら相手の足元で動き回り、翻弄し続けるのが最善であると学習していた。

そのため今回も同じように挑んだが、ヒルの腕は鞭のようにしなりながら迫ってくるため避けきれず吹き飛ばされてしまう。

何とか着地することに成功するも、ヒルの攻撃はデンジに息つく暇を与えない。

ヒルは周囲の瓦礫をいくつも投擲してきたのだ。

道路標識、瓦礫、果てには電柱まで。

 

デンジはひたすら走り続けることで狙いを絞らせないようにしていたが、進行方向に瓦礫を投げつけられたことで足を強制的に止められてしまう。

さらにデンジの視界が土煙に覆われてしまい、周囲の様子が分からなくなってしまった。

そこへヒルの触腕が襲い掛かるが、辛くも腕による防御を成功させ攻撃を受けきる。

だがその代償に腕からは嫌な音と共に血が流れる。

しかしデンジは腕を気にするそぶりも見せず、再度の吶喊を敢行した。

触腕を伸ばし切ったヒルはこれに対応できず、空中へ飛び上がったデンジからの殴打をまともに顔面へ受けてしまう。

その衝撃は凄まじく、まるで車が事故を起こしたかのような轟音が響き渡る。

だがヒルもやられっぱなしではない、空中で身動きの取れないデンジをその触腕で薙ぎ払った。

デンジはその勢いのまま吹き飛ばされるが、コウモリの散らばった内臓の上に落ちたため受けた衝撃は比較的少なかった。

 

(たかが胸を揉むために……こんな戦えるのか……?)

 

パワーは果敢に悪魔へ挑み続けるデンジの原動力を理解する事が出来なかった。

だがその戦いからは何故か、目を離すことは出来なかった。

 

「嘘でしょ!?こんな子犬ちゃんにコウモリは殺されちゃったの?……コウモリは私と一緒に人間を全て食べる夢を見ていた……無謀だけど崇高で素敵な夢、それを子犬程度にぶち壊された……殺すにはもったいない顔だけど、死んでちょうだい」

 

ヒルはコウモリを殺した男が思っていたよりも弱かったことに驚いた。

なぜこのような男に殺されてしまったのかヒルには分からなかったが、二人の夢を壊した張本人には死をもって償わせることをヒルは改めて心に決めた。

 

「胸揉む前に死ねっかよ」

 

「くだらなぁい、低俗な欲望を持つやつに殺されたものね……かわいそう、コウモリ」

 

ヒルのその反応にデンジは既視感を覚える。

バカみたいな理由だと吐き捨てたパワー、全員本気なんだと言ったアキ。

デンジは一つ一つ思い出していくたびに、頭の奥底に強い熱を感じ始めていく。

 

ヒルの攻撃が再開された。

触腕を伸ばしての刺突、デンジはこれに対して左手を盾に受け流す。

何度目かの吶喊を行うもヒルの触腕に打ち据えられる。

しかしデンジはこの攻撃を逆手に取り、触腕を伝ってヒルへと特攻を仕掛ける。

この特攻は見事成功し、頭から半端に出たチェンソーでヒルの首らしき部分を切り裂いた。

この戦闘でようやく悪魔に血を流させることに成功するも、デンジは勢いのまま地面へと叩きつけられる。

 

「み~んな俺んやること見下しやがってよお……復讐だの、家族守りたいだの猫救うだの、あーだのこーだの、みんな偉い夢持ってていいなア!じゃあ夢バトルしようぜ!夢バトル!!」

 

出血に苦しむヒルを見ながら立ち上がったデンジは、ここにきてとうとう溜まったストレスが爆発した。

プッツンしてしまったのだ。

 

「俺がてめえをぶっ殺したらよお~!てめえの夢え!胸揉むこと以下なあ~!?」

 

「吠えてて可愛いわ!子犬ほど吠える吠える!いいわ!アタシが食べてあげる!!」

 

「ウハハ!いいぜ!俺に夢バトルで勝ったらなアアア!!」

 

ヒルの悪魔は両腕の触腕をデンジに向け、とてつもない速度で伸ばす。

これに対してデンジは無茶無謀の突撃を仕掛けた。

向かってくる触腕を次々と飛び越え、乗り越え、時には触腕の上を走り回りながらヒルへと向かっていった。

時にはその触腕で打ち据えられ、吹き飛ばされても決して倒れることなくデンジは悪魔に立ち向かい続けた。

だがその姿は英雄的なものではなく、狂気染みたものであった。

 

「グハハハ……!ウハハハ……!」

 

「ハハハハ……!ホホホホ……!」

 

ついには悪魔も人も、どちらからともなく笑い声が響き始める。

戦場を狂気が覆い始めた。

 

「……悪魔じゃ……」

 

その有様にパワーは自身が魔人であるにもかかわらず、悪魔と笑いながら殺し合いを続けるデンジを見てそう思ってしまった。

 

ヒルは次々とデンジに向かって触腕を振り下ろすが、さすがにデンジも慣れてきたのか攻撃を避けていく。

土煙と瓦礫が舞い上がるほどの威力で振り下ろされる触腕の一撃は凶悪であったが、ここでヒルは自身の失策に気づいた。

加減のない打撃によって舞い上げられた土煙によって、周囲が覆われてしまったのだ。

ヒルは見失ったデンジの姿をきょろきょろと探すもどこにも見当たらない。

 

ヴヴン

 

どこからか地獄の唸り声が響く。

突如として轟音をチェンソーから撒き散らしながらデンジが飛び出してきた。

両腕からチェンソーを生やしたその姿は先ほどとは違い、頭も赤いチェンソーに覆われている。

飛び出した勢いそのままにデンジは両腕のチェンソーをヒルへと突き立てた。

ブチブチと肉の繊維を断ち切る感触が刃からデンジの腕に伝わる。

唸るエンジンが最高速になると、耳鳴りのような切断音を響かせながら生温かい粘着質な体液を爆発的に撒き散らした。

 

「ぎいぃっ、あああああアアアア!!」

 

ヒルはたまらず絶叫を上げながら身を捩り、苦痛から何とか逃れようとするも当然デンジはそんなことを許さない。

腹の奥底で溜め込み続けたフラストレーションの狂気的なまでの開放。

今、デンジの気分は最高潮に達した。

 

「ギャハッハハッハハハハハハハハハ!!!」

 

藻掻けば藻掻くほど、悪魔の血潮がチェンソーの遠心力で放射状に飛び散る。

濃密なゼリーを切り裂くようなねばりつく感触を感じながら、デンジは深く深くチェンソーを突き立てていく。

肉片と内臓が嵐のように巻き上げられ、戦場に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 あの時何が起こったのか。

ヒルがデンジを見失った際、デンジはコウモリの内臓を喰らうことで血を補充し、回復と変身を行っていたのだ。

これによりヒルの悪魔は見事討伐され、デンジはこの日二体の悪魔を討伐するという結果を出したこととなる。

その後やってきたアキ達により、現場は戦闘後の後処理へと移っていった。

 

場所は変わり、現在デンジは公安本部にてアキに事情聴取を受けていた。

アキはデンジがパワーに騙され、殺されそうになっていたと半ば確信していたため詳しいことをデンジに訊こうとしていたが、何故かデンジはしらばっくれるばかり。

その言動はあからさまに不審で、アキにはなぜデンジがパワーを庇おうとしているのか理解に苦しんでいた。

 

もっと追及することも出来たが、デンジが悪魔を討伐したのも事実。

さらに言うならデンジに救われた人がいたのも事実。

功罪どちらもあったためアキは二人をどうするか決めかねていた。

しばらくアキが悩んでいると、部屋の扉が開かれた。

顔を出したのは両手に紙コップを持ったマキマだった。

 

「二人ともお疲れ様、丁度休憩中だったから様子を見に来ちゃった」

 

「マキマさん!俺悪魔を倒しましたよ!二体!」

 

デンジはマキマを見た途端、露骨に元気な様子を見せた。

アキはそんな調子のいい姿に、溜息を吐いて呆れていた。

 

「連戦だったって聞いてるよ、よく頑張ったね」

 

褒められたデンジは分かりやすく上機嫌になっていた。

マキマは両手に持った紙コップのうち片方をアキに、もう片方をデンジに手渡す。

 

「はい、早川君はブラックで良かったよね」

 

「ありがとうございます」

 

「デンジ君はこっち、砂糖マシマシミルクたっぷりのやつ」

 

「あざっす!」

 

マキマはそう言い、アキへは黒く澄んだ色のものを、デンジへは濃いベージュ色のものを渡す。

アキとデンジの反応は正反対ではあったが、嬉しいのは二人とも同じ様子だった。

 

「それで、早川君はそんなに難しい顔をしてどうしたのかな」

 

マキマのその問いにアキは暫し沈黙し、口を開いた。

 

「...デンジとパワーの処分について、判断を決めかねています」

 

アキは手に持ったコーヒーカップをじっと見つめている。

黒く澄んだ水面には、アキの顔は映らない。

 

「デンジと血の魔人は今回、明らかな違反行為を犯しました……本来なら処分すべきです」

 

デンジはアキのその言葉に背中を丸め、コーヒーに口を付けた。

 

「でも結果としてデンジ君は二体の悪魔を討伐、人命も救った……この結果は彼の有用性を示すに値するものだと思うんだ」

 

マキマはそう言いながらデンジに歩み寄ると、デンジの頭に手を乗せてゆっくりと撫でた。

デンジはマキマのその行動にどう反応すればいいのかが分からず、ハムスターのようにフリーズしてしまった。

そんな様子のデンジを眺めながら、マキマは撫で続ける。

 

「私としてはこの件で上に良い報告が出来るし、今回は大目に見ても良いんじゃないかな?」

 

マキマの発言にアキはしばし考える。

 

「……俺の言うことは素直に聞くこと」

 

「あ?」

 

アキがぽつりと呟いた声にデンジは反応した。

 

「お前、今回みたいなことを繰り返してたらそのうち本当に悪魔として処分されるぞ……だから俺の言うことは素直に聞いとけ、そうすりゃお前は今の生活を守れるぜ。それで今回の件は手を打ってやる」

 

「……頭に入れといてやらあ」

 

デンジは横目でアキを見た後、大人しくマキマに撫でられながらそう言った。

 

「早川君、少し柔らかくなったね」

 

「……別に、面倒を増やしたくないだけですよ」

 

 

 

 

 

 

「おうおうおう!狭い家じゃの!」

 

ある日の休日、平和で静かだった早川家の日常を破壊する破城槌が撃ち込まれた音が響き渡った。

アキはマキマに電話で抗議をするも、速攻で丸め込まれる。

パワーはまさしく暴れん坊であった。

その破天荒ぶりは、デンジですらアキの側に立つほどである。

 

「野菜は残すし、風呂にも入らねぇし、クソも流さねえ、何がしてえんだあの悪魔……」

 

文句を言いつつトイレ掃除をしていたデンジの背後から、パワーが話しかけてきた。

 

「おいウヌ」

 

「あ!おい!クソ悪魔!てめえのクソこびりついて取れねえんだよ!」

 

「約束だったじゃろ、胸を揉ませてやるから揉め!」

 

パワーはそういうと、トイレに座り、自身の胸を持ち上げながらデンジを上目遣いに挑発する。

 

「ほれどうした?嬉しいじゃろ揉め揉め」

 

今パワーに言われるまですっかりデンジは忘れていたが、今日デンジはこの為に悪魔と戦っていたのだ。

ついにデンジの頑張りが報われる時が今来た。

さっそく胸に手を伸ばしたデンジだが、パワーがそこに待ったをかけた。

 

「胸を揉んでいい回数は三揉みじゃ!」

 

パワー曰く、ニャーコ救出、コウモリ殺し、アキから自身をかばったこと。

これが三揉みの理由だそうだ。

今のデンジにはたとえ三揉みだろうと揉めるのであればそれで構わなかった。

デンジはゆっくりとパワーの胸に手を伸ばし胸を揉んだ。

緊張と興奮で張り裂けそうな胸を鬱陶しく感じる。

パワーがワザとらしい嬌声を上げるのを聞きながら、デンジは夢中でその豊かな胸を揉んだ。

 

ポトリ。

軽やかな音を立てながら何かが落ちた。

デンジがそれを拾うとパワーがその正体を明かした。

 

「胸パッドじゃな、着けると胸が大きくなる不思議アイテムじゃ!」

 

胸パッドの取れたパワーの胸は、デンジにとって残念なほどに控えめであった。

パワーが続きを催促したためデンジは再開したが、その顔は虚無を宿していた。

二揉み、三揉みと揉み終えると、パワーはデンジの首に腕を回して色々と話し出すが、デンジの耳には何も入らずただただ呆然としていた。

 

その夜デンジは一睡もできずに朝を迎えた。

朝食時もパトロール中も、デンジは心ここにあらず、といった状態であった。

 

 

 

 

 

 時刻は夕方、デンジはマキマと共に資料室にて悪魔との戦闘における各種始末書や、書類へとハンコをひたすら押し続ける機械と化していた。

このような状態でも茫然自失のデンジをマキマは見て、少し考えてから声をかけた。

 

「書類ばっかりで嫌だね、コウモリの悪魔とヒルの悪魔を倒したのに悪い事したみたい……デンジ君、何か悩みでもあるの?」

 

「……俺は……ずっと追いかけていたもんを、やっとつかんだんです……」

 

マキマに聞かれたデンジはゆっくりと話し始める。

やっと手に入れたものが思っていたほどのものではなく、これから先何か手に入れても同じではないのかという不安。

手に入れない方が幸福であるのかもしれない。

そういったものへの胸中の憤りをデンジは吐露した。

 

「デンジ君は何の話をしているの?」

 

「初めて胸を揉んだら大したことが無かったって話です……」

 

その言葉を聞いたマキマはデンジの手を取り、椅子ごと体を自身へと向かせた。

驚き固まるデンジにそっとマキマは顔を近づける。

 

「それでデンジ君は昨夜、あの公園のベンチにいなかったんだね」

 

「え……?あ、すみません……」

 

デンジは自身を見下ろすその瞳につい反射で謝罪してしまう。

黄色くて妖しい、綺麗なその瞳からデンジは目が離せなかった。

 

「……デンジ君、エッチなことはね、相手のことを理解すればするほど気持ちよくなれると、私は思うんだ」

 

そう言いながらマキマは、自身の指をデンジの手の平にゆっくりと這わせる。

 

「相手の心を理解するのは難しいことだから、最初は手をじっくり観察してみて」

 

手の平を這ったマキマの指はやがて、貝合わせのようにデンジの手を優しく握った。

 

「指の長さはどれくらい?手の平は冷たい?温かい?耳の形は?」

 

デンジの手をマキマの手が優しく愛撫する。

やがてデンジの左手はマキマの顔へ導かれていく。

 

「指を嚙まれたことはある?……覚えて、デンジ君の目が見えなくなっても……嚙む力で分かるくらいに……覚えて」

 

口元へと誘われたデンジの指をマキマは噛んだ。

噛まれた左手の指に全身の血が集まったかのように熱い。

部屋の温度が急に上がったように感じられてデンジは汗を流した。

 

「……覚え……ました……」

 

その言葉を聞いたマキマはゆっくりと、デンジの右手を自身の胸へと導き、そっと押し当てた。

マキマの胸にデンジの指が沈み込む。

 

一瞬何が起こったのか理解できなかったデンジは直後、弾かれたように後ろへ倒れこんだ。

鼓動が痛いくらいに煩くて、飛び出しそうな心臓を左手で抑え込もうとしてしまう。

耳の中で血管が脈打つような感覚と、熱をもったように熱い右手の感覚にデンジは襲われた。

言葉にならない声が口から勝手に出てきて止まらない。

 

その様子を微笑みながら見ていたマキマはゆっくりとデンジへ歩み寄り、跨るようにして腰を下ろした。

ほんのわずかでもどちらかが動けば、唇が重なるほどに二人の距離は縮まっていく。

甘い果物と柔らかい花のいい香りがする。

 

「デンジ君」

 

唇が当たる寸前。

 

「今夜、うちにおいで」

 

マキマはデンジへ囁いた。




マキマさんが淹れてくれたデンジ君のコーヒーは、マックスなコーヒーと同じくらいの甘さです。多分。
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