天使なデンジ   作:一般冒険者

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戦争の悪魔が絆の力で戦ってる!
支配の悪魔だって絆の力で戦ってたぞ!合体攻撃で銃の悪魔倒したし!


デンジにラブソングを3

鳥のさえずりと共に朝がやってきた。

デンジは早くに起きて、マキマのために朝食を作っていた。

初めてマキマに朝食を作った時には、酷いものを食べさせてしまったと後悔したデンジはあれから練習を重ね、卵焼きはマーブル模様にはならなくなったし、盛り付けだって意識するようになった。

酷評されていたコーヒーも、アキから教えてもらいながら練習し、飲めるものにはなったとアキに評価されている。

今回はあの時のリベンジだとデンジは意気込んでいた。

 

「おはよう、デンジ君。朝ご飯を作ってくれてるの?」

 

柔らかな日の光が差し込むキッチンで、そんな言葉と共にマキマがデンジの手元を覗き込んできた。

デンジの鼻を甘く、柔らかい匂いがくすぐる。

デンジは今、丁度目玉焼きを作っているところだった。

フライパンの上では、二つの目玉焼きがジュウジュウと軽快な音を立てながら焼けている。

 

「綺麗に焼けてるね」

 

マキマはデンジの横に並ぶと、作業の邪魔にならないようわずかに距離を保ちながらフライパンの中を覗き込んだ。

その口元には、穏やかで静かな微笑みが浮かんでいる。

 

「マキマさん、今回はうまく作れたんで楽しみにしててくださいよ!」

 

褒められたデンジは、得意げにフライ返しを握りしめて答える。

 

「うん、楽しみにしてるね」

 

マキマはそう静かに頷くと、キッチンを離れてソファへ向かいハスキーたちに囲まれる。

それからしばらく、マキマが犬たちの相手をする声と、デンジが朝食を作る音だけが静かな朝に響いていた。

 

しばらくすると、出来上がった料理をデンジが運んできた。

メニューはいつものだったが、出来は前回のものとは雲泥の差だった。

目玉焼きは黄身が破れることもなく綺麗に焼けているし、ソーセージも破れや焦げも見当たらずキチンと焼けている。

サラダは食欲をそそる盛り付けになっていて美味しそうで、コーヒーは澄んだ色をしている。

トーストも最初から切られていて、食べやすいようにというささやかなデンジの気遣いを感じられる。

 

「すごいねデンジ君、前より上手になってる」

 

「あん時マキマさんにはとんでもないモン食わせちゃいましたからね、めっちゃ練習しましたよ!」

 

デンジは胸を張って答えた。

ソーセージを破かず焼くのはすぐに出来たが、目玉焼きは何度も黄身を破いてしまっていた。

彼の料理練習により出来た失敗作は、アキと二人で美味しくいただいた。

弊害としてアキはしばらく卵料理を体が受け付けなくなっていた。

 

「それじゃあ冷めないうちに食べよっか」

 

マキマはそう言ってからコーヒーを一口飲み、デンジはフォークを握りソーセージに突き刺した。

二人はそろって朝食を食べ始め、しばらくは食器の音だけが聞こえる。

マキマはある程度食べ進めた後、今日の予定についてデンジに話しかけた。

 

「デンジ君、ご飯を食べ終えたら食後の運動もかねて皆の散歩に行こっか」

 

「散歩ですか?」

 

「うん、この子たちも家にずっといるとストレスが溜まっちゃうし、健康にもよくないからね」

 

そういいながらマキマはハスキーたちの中の一頭を撫でる。

微笑みを浮かべたまま、マキマはデンジを見つめた。

それから、まるで決定事項を伝えるかのようにデンジをデートへ誘う。

 

「それでお昼はデートをします」

 

「もちろんオッケーっすよ!」

 

喜ぶデンジを見ながらマキマは、デンジの淹れたコーヒーを最後まで飲み切った。

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオ!?」

 

今デンジは7匹のハスキーに引っ張られ疾走していた。

外に出た途端に犬たちは一斉に走り出し、咄嗟にリードを握ったデンジは抵抗虚しく引っ張られて走る羽目になっていた。

 

「その子たちは私と散歩する時はそんなふうに走らないの。デンジ君と散歩出来るのがよっぽど嬉しいみたい」

 

そんなデンジたちの様子を、マキマは少し後ろから歩いてついてきていた。

公園の並木道を駆け回るデンジと飼い犬たちが、グルグル回ったりジグザグに走っている光景を彼女は眺めている。

自覚があるのかないのかは分からない。

だがマキマはその時、何か大切なものを慈しむような、そんな穏やかな微笑みを浮かべ彼らを見守っていた。

 

「マキマさん助けてえええええ!!」

 

マキマからのあまり嬉しくない言葉に、転んでもリードを離せずそのままズザザザザザと引きずられていくデンジは悲鳴で返した。

 

デンジが引きずられ続けてから少しして、デンジはマキマにより無事救出されるが、服は土と砂で汚れてしまっていた。

 

「カウボーイに引きずられる盗賊みたいで凄かったよデンジ君、100メートルくらい引きずられてたね」

 

そう言いながらマキマはデンジの髪にくっついた葉っぱを一つ一つ取っていた。

今犬たちのリードは彼女が握っており、先ほどまでデンジを引きずり回していたとは思えないほどに大人しい。

大体10秒と少しくらいの時間引きずられていたデンジは、なんだか納得いかない表情でその様子を見ていた。

 

「さ、綺麗になったよ。デンジ君怪我はしてない?」

 

「大丈夫っす」

 

デンジはピースサインで返した。

マキマはデンジの服についた汚れをポンポンと手ではたいて落とそうとしていたが、中々落ちない泥汚れが所々に付いてしまっていた。

 

「結構汚れちゃったね……家に帰ったら汚れを落とさなきゃ」

 

「……すんません、マキマさん」

 

「うん?」

 

何やら元気の無いデンジの言葉に、マキマはどうかしたのかと下げていた頭を起こした。

デンジはバツの悪そうな顔で口を開いた。

 

「この服……マキマさんが用意してくれたっつーのに……こんななっちまって……」

 

昨日、制服のまま連れられたデンジは着替えを持っていなかったため、昨夜着ていた服も今着ている服もマキマが用意したものだ。

デンジは自分のために、マキマが買い与えてくれたこの服を汚してしまったことを酷く気にしていた。

 

「洗えばいいんだし、気にしないでいいよ」

 

落ち込んだ子供をあやすような口調で、マキマはデンジに声をかける。

慰められて少し元気を取り戻したデンジの様子を見たマキマは、リードを持って散歩を再開した。

それからしばらく、二人と七匹は休日の穏やかな朝の時間を過ごした。

 

「そろそろいい時間だしお昼を買っちゃおうか」

 

マキマはそっと左手の華奢なミニウォッチに視線を落とした。

文字盤は手首の内側にあり、時間を確認するために彼女が軽く手首を返す動作は、小さくも洗練された女性らしい優雅さにあふれていた。

 

「そっすね、昼はなんにします?」

 

「この近くで買える場所だと……あそこかな?少し騒々しいけれど美味しい所があるんだ」

 

マキマは顔を上げ、考えるように視線を空へ彷徨わせると目星がついたのか、その店を提案した。

もちろんデンジに反対意見はないので、昼はマキマの提案した店へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

「家族で食べようファミリーバーガー!」

 

「パパママ大好きファミリーバーガー!」

 

「トマト!」

 

「レタス!」

 

「チーズ!」

 

「パン!」

 

「主役はハンバー……!」

 

「グー!!」

 

「お待たせしました!マジデカファミリーバーガーとポテトL、コーラLのセット二つです!」

 

「うおお……」

 

「ありがとうございます」

 

そこは確かに騒々しい店ではあった。

だがデンジの考えていた騒々しさとは少々毛色が違っており、初めて見るその光景にデンジは軽く気圧されてしまった。

デンジが店の独特な熱気と賑わいに圧倒され、一歩も動けずに立ち尽くしている間にマキマは会計を済ませていた。

彼女はデンジのもとへ戻ると、出来上がったハンバーガーの紙袋を彼に手渡し、二人はそのまま家への帰途についた。

 

家についたデンジは、服を着替えて汚れを落としてからマキマの用意した新しい服に着替えた。

マキマを探すと、彼女は散歩帰りの犬たちの足を濡れタオルで拭いていた。

 

「マキマさん俺も手伝いますよ!」

 

「ありがとう、それじゃあこの子たちをお願いできる?」

 

デンジとマキマは、手分けして七匹いる犬たちの足を綺麗にしていく。

一通り綺麗に出来たことを確認したマキマ達は昼食をとることにして、紙袋からそれぞれのハンバーガー、ポテトとドリンクを取り出す。

マジデカファミリーバーガーは、デンジの手の平に収まりきらないほど大きく、食べ応え抜群だろうことが見るからに分かり、デンジはごくりと喉を鳴らした。

紙包みを取ると、パンに挟まれた食材肉や野菜、ソースが視覚から暴力的なまでに食欲を呼び覚ます。

 

「ウマそ~、俺腐ってないハンバーガー食うの初めてですよ」

 

何気なくデンジはそんなことを言ったが、それを聞いたマキマは軽く視線を落とした。

幼少期、ゴミ箱に廃棄されたハンバーガーをポチタと分け合って食べた記憶がデンジの脳裏に蘇る。

酸っぱい匂いをしたものや糸引くものを空腹のあまり、食べては腹を壊した経験は数知れず。

そのたびにポチタに心配されていたことを思い出した。

 

「そっか……ならきっと気に入るよ、何せ世界一美味しい食べ物だからね」

 

「世界一?」

 

「そう、世界一。なんて言ったってこのハンバーガーは世界一売れている食べ物で、こっちのコーラは世界一売れてる飲み物、つまりこれは世界で一番美味しいものだということだからね」

 

「へ~!すげえ!世界一がこの両手に収まっちまったって事かぁ!」

 

デンジはマキマのそんな言葉に素直に驚き、右手にハンバーガーを、左手にコーラを持って喜んだ。

マキマはそんな彼の様子をいつもの微笑みを浮かべて見ていたが、どことなくその微笑みにはイタズラっぽいものが混じっていた。

そんなマキマの表情に気付かずデンジは、大口を開けてハンバーガーにかぶりついた。

食感も味も違うものを一度に口に含んだというのに、デンジの口内では絶妙な味のハーモニーが奏でられた。

レタスのシャキシャキとした食感と、あふれる肉汁、濃厚なチーズとトマトの甘味がパンの下にまとめられ、ソースが味をさらに引き立てる。

そしてコーラで口の中のものを胃へと洗い流すと、デンジは思わず目をつぶって舌の上の幸福に酔いしれた。

 

「ウンッ……マァ~~~……!」

 

「うん、美味しいね」

 

デンジが夢中でハンバーガーを頬張る様子を見ていたマキマは、自身も一口かぶりつきゆっくりとその味を楽しんだ。

あっという間にハンバーガーを食べきったデンジは、ポテトをつまみながらコーラを飲んでいた。

ポテトの油もコーラの炭酸で洗い流すと、いくらでも食べられる気がした。

 

「マキマさん、昼はどこに行くんです?」

 

朝食の時に、デートに行くと宣言されていたデンジは行き先が気になり、尋ねてみた。

 

「実はどこに行くか決めてないんだ。デンジ君はどこか行きたいところとかある?」

 

「俺ぁマキマさんと一緒ならどこでもいいです!」

 

「うーん、それじゃあ買い物とかにいこっか。ショッピングデートとかどう?」

 

「買い物?」

 

「うん、デンジ君の服とか買いに行こうかなって思うんだけれど、どうかな」

 

「え?でも服ならもう持ってますけど……」

 

「もっとかっこいい服とか着てみたくない?」

 

マキマは、両手を顎の下で組みながら首をかしげ、上目遣い気味にそう言った。

デンジがそんな風に見つめられてしまえば、返す言葉はYES以外になかった。

 

 

 

 

 

 昼食を終えた二人は今、デートの最中であった。

先程までラフな格好をしていたマキマは、デートをするのだからと今はフェミニンなパンツスタイルへと着替えている。

キャメルカラーのテーパードパンツは、ロールアップされてマキマの細い足首が見えていて、ヒールの低いパンプスが足元を魅力的に飾る。

トップスには七分袖のパフスリーブブラウスを組み合わせ、落ち着いたネイビーカラーは上品で知的な雰囲気を醸し出していた。

マキマの魅力に溢れたその姿に、先ほどからデンジは視線を奪われている。

 

「デンジ君?ボーっとしてるみたいだけど、どうしたの?大丈夫?」

 

「え、あ、いやー……マキマさんがキレイだったんでその、見惚れてたっつーかなんつーか……」

 

デンジは言いなれない言葉に照れているのか、頭を掻きながら視線を右往左往させて言葉を濁した。

そんなデンジの様子を見たマキマはいつものように微笑を浮かべる。

 

「えと、マキマさん、買い物ってここでするんですか?」

 

デンジは気恥ずかしさを誤魔化すように、話題の転換を図った。

二人が今いる場所は、服飾店をはじめとして様々な店が軒先を並べている大通り。

 

「この辺りにはいろんなお店があるから、デンジ君にぴったりのものが見つかると思うんだ」

 

「へえ~」

 

正直デンジとしては、あまりそういったものに興味がないため反応が鈍い。

ショーウインドウに並んだマネキンの着ている服を見ても、特に着てみたいだの欲しいだのそういった感情は彼の中には生まれなかった。

 

「おいで、デンジ君、まずは見てみよう」

 

デンジは店先で手招きするマキマに誘われるまま、初めてアパレルショップへと足を踏み入れた。

店内は間接照明で照らされ、落ち着いた雰囲気のBGMが流れている。

見本の服が壁にかけられ、綺麗に折りたたまれた服が並べられており、主に男性向けの商品を取り扱っているショップのようだった。

デンジは見慣れない店内の様子にキョロキョロと視線をさまよわせていたが、マキマは既に服を選定し始めていた。

店員は話しかけてこないタイプの店のようで、客から呼ばれた時に対応出来るようにスタンバイしている。

マキマはいくつか見繕うと、店員に試着室を使用する旨を伝え、次々とデンジに自身が選んだ服を試着させていく。

デンジは言われるがまま試着していき、やがてマキマは満足するといくつか服を買っていった。

 

「デンジ君は少し目つきが悪いけれど素材が良いし、足も長くてスタイルいいからどんな服も似合っちゃってどれにするか迷っちゃうね」

 

とマキマから言われたデンジは、最初こそ乗り気ではなかったものの褒められると悪い気はしなかったようで、段々と乗り気になっていった。

最後には調子に乗って自らポーズを取ったりするほどに楽しんだデンジだった。

 

(服選ぶのって案外楽しいんだなぁ……)

 

これを何店か繰り返していくと、あっという間に夕方になってしまった。

その頃にはデンジはすっかりファッションを楽しむようになっていたが、これもマキマに誘われなければ知ることのなかった楽しみだ。

デンジはなんだか無性に嬉しくて、横を歩くマキマを見て笑みを深めた。

視線に気づいたのかマキマはデンジに振り向いた。

 

「デンジ君、今日は楽しめた?」

 

「そりゃあモチロンっすよ!」

 

「そう……うん、良かった」

 

そう言うマキマの言葉には、ほんの少しだけ安堵の色が見えた気がした。

そんな彼女の様子を見たデンジは、少し考える仕草を見せるとマキマに話しかける。

デンジは以前ドラマを見た影響から、マキマから貰ってばかりの自分で良いのかと自問自答したことがある。

今日も、マキマはデンジの知らないものを教えてくれた。

だからデンジはそのお返しをしたいと考えていた。

あるいは、それ以上のものを与えたいとも。

 

「マキマさん、今度は俺がデート誘ってもいっすか」

 

デンジはそう言うと、顔を少し持ち上げてニヤリと笑った。

その笑みはいたずらっ子のようにも見えるし、頼りがいのある一人の男の笑みのようにも見えた。

今のデンジは普段の子供っぽい姿とは違い、ほんの少しだけ大人びた雰囲気をまとっている。

 

「今日はマキマさんに楽しませてもらいましたからね~!安心してくださいよ、俺が最強のデートプランを考えときます」

 

マキマはそんなデンジに少し驚いた様子だった。

それから彼女はデンジと視線を合わせる。

 

「うん、楽しみにしているね」

 

そう答えたマキマの表情を見たデンジは、頬を少し赤らめた。

家までの帰り道、言葉は少なかったが、二人の間には穏やかな風が吹いていた。

 

 

 

 

 

 帰宅すると、時刻は夕食をとるには丁度いい時間だった。

二人は交代で一日の汚れと疲れを流しては、留守番をしていた犬たちの相手をして遊んでいた。

 

「デンジ君、夕飯はミートソースパスタでも良いかな」

 

「マキマさんが作ってくれるもんならなんでもいっすよ!」

 

デンジの適当なようで本気で言っている言葉から、今晩の夕食はパスタで決まりのようだ。

マキマは冷蔵庫から作り置きしていたソースを取り出し、温めている間にパスタを茹で始めた。

それからしばらくマキマが料理を作る音と、デンジが犬たちと遊ぶ声だけが、夜の静けさに包まれた室内に穏やかに響いていた。

しばらくすると料理が出来上がったようで、マキマはデンジを呼んだ。

テーブルの上に並べられた料理は、綺麗に盛り付けられていて食欲をそそる。

ミートソースパスタは、細かいひき肉以外にも食べ応えのありそうなミートボールも入っていて、上から粉チーズとみじん切りされたパセリがかかっている。

一緒に出されたサラダにはプチトマトやダイスカットされたチーズ、キュウリを混ぜた上からオリーブオイルをかけられていて色鮮やかだ。

 

「ウマそ~」

 

デンジは相変わらず美味そうなマキマの料理を前に、涎を垂らしてその味に期待していた。

そんな様子を見ながらマキマも席についた。

 

「じゃあ食べようか」

 

マキマがそう言うと、デンジはさっそくフォークで大きめのミートボールを突き刺し、口に放り込んだ。

絶妙な弾力で押し返すそれは、デンジの口を楽しませる。

次にパスタを食べようとしたデンジは、マキマがフォークで麺を巻き取るのを見て自身も同じように巻き取った。

危うくラーメンのように啜るところだったデンジは、彼女の真似をして行儀よくパスタを食べる。

もっちりとした食感はデンジの初めて味わう食感だったが、ソースと良く絡まったそれに舌鼓を打った。

次にデンジはサラダへ手を伸ばした。

オリーブオイルのかかったサラダは、油なのにさっぱりとしていてオリーブの良い香りが鼻から抜けていく。

みずみずしいキュウリとトマトはチーズとも相性が良く、デンジにはこれだけでも十分満足できる代物だった。

 

「マキマさんこれ最高に美味いです!」

 

「まだあるからたくさん食べてね」

 

料理の感動をマキマに伝えようとするデンジに、彼女はお代わりがあることを伝えるとそれを聞いたデンジは、嬉しさのあまり目を大きく輝かせてからパスタを頬張った。

しばらく後、食事の手を止めてデンジはマキマに話しかけた。

 

「マキマさん、今日この後も映画見ません?」

 

「いいよ、次は何を見たい?」

 

「うーん……あの殺し屋のやつが見てみたいです」

 

「それじゃあビデオ用意しておくね」

 

「ありがとうございます!」

 

快く承諾してくれたマキマにデンジは礼を言うと、片付けはすべて自分がやると言って後のことは引き受けた。

その後、食事が終わりデンジは皿を洗っていた。

今マキマは映画の用意をしている。

ふとデンジは今の状況を、どこか俯瞰しているような視点で見ているような気がした。

 

(なぁポチタ、今の俺スゲー幸せだぜ。まるで夢でも見てるみてぇだ……)

 

本当の自分はあのゴミ箱にいて、今の自分はくたばるまでの間に見てる夢なんじゃないかと、デンジは柄にもなく考えていた。

そんな風に考えてしまう程に今のデンジは満たされ、幸福だった。

 

(あの日、ポチタに語った夢がほとんど叶っちまうなんてよお……ホントすげえよな……でも、でもさポチタ、俺──)

 

「デンジ君、用意終ったよ」

 

一人考えるデンジにマキマが声をかける。

デンジは、落としていた視線を上げてマキマを見た。

自分に無いもの全部をくれた人、デンジが生まれて初めて好きになった女性、彼女はいつもの微笑みを浮かべてデンジを見つめている。

 

(──俺、もっといい夢を見ちまってんだ)

 

彼女は初めて出会った時から、変わらぬ微笑みをデンジに向けていた。

 

 

 

 

 

 ソファに並んで座ったマキマとデンジは今、映画を見ていた。

画面の中では男が少女に銃の撃ち方を教えていた。

二人の関係は奇妙なもので、時折殺し屋の男が純朴な子供に見えたり、少女は妖艶な大人の女性に見える時がある。

 

 テレビの明かりがデンジとマキマを照らす。

明滅する光の中に、マキマの横顔が現れては消える。

デンジの視線はついついそちらへと向かっては、画面に戻るのを繰り返していた。

映画の場面は次々移り変わり、物語は進んでいく。

 

 画面の二人は同じベッドで眠っていた。

少女は男に抱きしめられて、安心したように眠りについていた。

二人は師弟の時もあれば、親子のようでもあり、恋人のようにも見えた。

それは世界で二人だけの、特別な関係。

 

 ふと、肩が重くなり、デンジは身を固めた。

暖かな体温が伝わってくるとともに、鼻をくすぐる花と果物の香りも漂ってきた。

柔らかな髪が首にさらさらと触れる。

左肩にマキマが頭を乗せていた。

デンジの体温が上がり、心臓の奥が苦しくなる。

途端に映画の内容が頭に入らなくなって、背中に汗をかいてしまう。

映画はそれでも続く。

 

 二人の関係は長くは続かない。

男は光の下に出れず、最後に爆弾のピンを敵に手渡し、そのまま死んだ。

少女は逃げ切ったが、一人ぼっちになってしまうところで映画は終わる。

 

「デンジ君、どうだった?」

 

マキマは肩に頭を乗せて画面を見たまま、デンジに感想を尋ねた。

 

「なんつーか……なんつーかあの二人、なんかすごいモンを見た気がします」

 

途中からは完全にマキマに気を取られていた。

しかし、物語が終わりに近づくにつれデンジの意識は、徐々に映画にのめり込んでいった。

デンジはこの映画で特に、泣いたり笑ったりする事は無かった。

しかし、自身にも説明のつかない何かが、物語の光景と共に胸の奥に焼き付いていた。

別離を選んだあの二人の何かが、デンジの心に強い余韻を残していた。

 

「そうだね……私もあの二人の関係性が好きでね、デンジ君にも見せてあげたかったんだ」

 

あの二人を見て感じたこの気持ち、これはきっとマキマも同じだったのだろうと、デンジは感じていた。

デンジはマキマが好きなものを、自分と共有しようとしてくれたことを嬉しく思う。

これでまた一つ、デンジはマキマの事が理解できた気がするから。

エンドロールが終わるまでの間、二人は寄り添って座っていた。

 

 

 

 

 

 映画を見終わった二人は、余韻の中ポツリポツリと感想を言い合っていた。

やがて言う事も無くなってきた頃、時間も丁度良かったこともあり二人は寝ることにした。

ベッドへ横たわったマキマは、いつものようにデンジが自身を抱きしめながら眠るのだと考えていたが、今夜は違った。

デンジは抱きしめてくることは無く、その代わりに右手を差し出してきた。

 

「マキマさん……今日はその、手を……握って寝ても、いいすか」

 

そんな風に言ったデンジは、照れているのか少しだけ頬を赤くしている。

視線もマキマを見たり見なかったりと泳いでいた。

 

「どうして」

 

抑揚のないマキマの声がデンジへと送られた。

どんな思いがその言葉に込められていたのかは、彼女にしか分からない。

彼女の黄色い瞳はじっとデンジを見つめ続けている。

 

「マキマさんが前に言ってました……エッチなことは相手の事を理解すればするほど気持ち良くなんだって……俺、マキマさんの事をもっと理解したいし、マキマさんにも俺ん事もっと知って欲しくて……それで……」

 

デンジはたどたどしくも言葉を紡いでいく。

恥ずかしいのか緊張しているのか、あるいは両方なのか汗をかき、最後には言葉も詰まらせ、マキマの視線に耐えきれないかのように視線が泳いでいた。

マキマはデンジの差し伸べられた手のひらを見つめる。

彼女の視線は、どこか遠くを見つめているようだった。

やがてマキマは自身の左手をそっと、まるで割れ物を扱うようにデンジの手に重ねた。

 

「……いいよ」

 

ゆっくりと手を握ると、優しく握り返される。

手のひらから伝わるその温かさは、初めてのものだった。

抱きしめられるのとも違う。

まるでそこだけ熱を持って、腕を伝い胸の中に沁み込んでいくような温かさ。

 

「デンジ君、泣いているの?」

 

「え?」

 

マキマがデンジの顔を覗き込むと、彼は涙を流していた。

理由を聞いても彼自身、なぜ涙を流しているのか分かっていないようだった。

ただただ、流れた涙が月の光を静かに反射していた。

 

マキマは、繋いでいない方の手でそっと、涙を拭きとる。

デンジが彼女にそうしていたように、溢れて零れ落ちるその涙をぬぐい続けた。

彼が流した涙は、まるでマキマの代わりに流した涙のようで。

今夜、彼女が涙を流すことはなく。

 

その夜二人は、初めて誰かと手をつないで眠った。




大人の女性と、十代半ばくらいの青年のカップリングって良いですよね……。
個人的には青年の方が大人の女性のために、料理したり掃除したりお世話して家庭的なのがツボです。
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