コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者   作:鐘楼

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でもほら、死別よりマシだから……

 

 シテ……コロシテ……。

 

 はい。転生しました。わーい美少女だーなんて呑気に思っていたのも昔の話。自分がとっても罪深い生物だと気づいてしまってからは毎日こんな調子だ。

 

 その冠は『愛憎』の魔神。異なる性質を持った者が想い合ったままに戦うことで発露する感情を糧にする上位者。ちなみに糧にできないと消滅する。上位者とは?

 

 要するに、闇落ちした元仲間と泣きながら戦うところに立ち会うと元気になるのが俺という存在だ。うん、お前のような者は生まれてさえ来ないでくれ。

 

 まぁそんなことを言っても、俺はどうしたって死にたくない。経験して分かったが、アレはキツい。二度目はもう御免だ。いくら自分が悲劇を撒き散らす存在であろうとも、ハラキリスピリッツを持てるほど俺は特別じゃないのだ。

 

 というわけで、運命に従って俺は魔神としての在り方を全うする。おあつらえ向きに人間の性質を反転させる権能も備わっていることだし……うーん、やっぱ死んどいた方が良いカモ。

 

 だが俺も、別に好き好んで悲劇を作りたいわけではない。ので、考えました。なるべく悲劇にならなくて、俺も元気になれる方法を。その結果、これだ! となる手段を思いつくことができたのだ。

 

 

 死別よりはマシなのでは?

 

 というものである。実際、親しい相手との永遠の別れよりも実は生きてた相手が敵の手に堕ちてて戦う羽目になる方がちょっとだけマシだよね。マシだと言え(豹変)。

 

 そういうわけで、いよいよ消滅しそうなんで生きるためにちょうどいいコンビを探そうと思う。え? そんな都合のいい人間が存在するのかって?

 

 そこについてはまぁ、あんまり心配していない。

 

 俺がなにかしなくても、この世界は悲劇に満ちているから。

 

 

 何が悪いのかと言えば、運が悪かった。

 

 驕りも、多少はあったと思う。新進気鋭の聖騎士コンビとして持て囃されて、期待されて。私もトリアも良い気になっていた。だけど、だからと言って気を張っていればこうならなかったのかと言えば、それは違うだろう。現れるはずもない場所に現れた強敵、巻き込まれた市民を守るための逃げられない戦闘。

 

「姉様……! 目を開けて! 姉様ッ!」

「トリ、ア……」

 

 でも。それでも上出来だったと、泣き腫らすトリアの顔を見て思う。持てるすべての力を使い果たして、格上を撃退し、この子を守れた。たとえこの命が尽きても、トリアが生き残って私の分まで聖騎士として大成してくれれば、十分だ。

 

「良かった……あなたが、無事で……」

「良くない! 姉様が、姉様が一緒じゃなきゃ、あたしは……っ!」

 

 勝手に閉じようとする瞼を意地で開くと、滲んだ視界にトリアが映る。トリア。血は繋がっていなくとも、かけがえのない最愛の妹。教会の孤児院で物心ついた頃から私にくっついて離れなかった甘えん坊。それが、共に聖騎士になったときからすっかり頼もしくなっていて、こんなに泣いているこの子を見るのは久しぶりだ。

 

 力を振り絞り、動かない腕を持ち上げる。手でトリアの涙を拭い、すっかり薄くなった手の感覚からトリアの温度をたぐり寄せる。

 

「トリア……聞いて。あなたは凄いわ。きっとどこまでだって行けるはずよ。私なんか、いなくても……っ」

「姉様! 喋らないでよ、まだなにか……なにか方法が……!」

 

 咳き込む私に、トリアは取り乱す。残念だけど、方法なんかない。私は聖騎士の力の源である『炉』の力を限界を超えて行使した。それをしてしまったが最後、じきに死ぬのが必定だ。そんなの、トリアだって分かっているはずなのに。こんな調子では、一人でやっていけるのか心配になってしまう。

 

「……無理、よ。トリア、分かっているでしょう?」

「いや……いやだよう……姉様が一緒にいてくれなきゃ、無理……一人でなんて無理だよお……!」

 

 泣き叫ぶ妹の頭を撫でてあげようとしたけれど、持ち上げた腕は糸が切れたみたいに落ちてしまった。どうやらもう、本当に潮時みたいだ。色んな思い出が、頭の中を駆け巡る。孤児院、叙任、聖騎士、旅。そこには全部、トリアの顔がある。最後に、昔のように泣き虫なトリアが見れて良かったな、なんてことを思いながら、眠気に屈しようとして。

 

「かわいそうに」

「……ッ!?」

 

 最後の力を振り絞るかのように、脳から稲妻のような緊張の信号が放たれ、意識が叩き起こされた。

 

「だ、誰!?」

 

 格上だと思っていた、あの魔族が子供のように思えるほどの、暴風のような力の奔流。圧倒的な存在感。それらはすべて、突如としてトリアの背後に現れた少女から放たれていた。

 

「トリア……逃げ、なさい……!」

 

 どう考えても、敵う相手ではない。無理かもしれない。絶対に無茶だ。だけど、それでもやるしかない。

 

「ここは、私、が……」

 

 トリアの腕から離れ、謎の少女との間に庇うように立ち塞がる……はずが、耐えきれずに足が崩れ、また倒れてしまった。

 

「無理だよ! できるわけない! それに、姉様を置いていけるわけない!」

 

 そう言って、トリアは動けなくなった私を守るように前に出て、臨戦態勢になる。バカな子だと、叱りつけてやりたかった。ここは、死に体の私を置いて生き残るべきなのに。でも、もうそんな力も残っていない。ここは私が、なんて言っておいて、このザマだ。

 

「食らえ……! 光芒一閃!」

 

 不浄を灼き祓う、聖騎士の光。トリアが自らの『炉』の力を使い、渾身の一撃を放つ。トリアの実力は折り紙付きだ。普通の相手であれば、為す術なく光に呑まれていただろう。だけど、このレベルの相手にそれが通じるわけもない。

 

「嘘……」

 

 必殺の一撃であるはずの光が直撃して尚、謎の少女は無傷で立っていた。それどころか、攻撃をしてきたトリアに憐れむような視線を送っている。

 

「……なるほどね」

 

 そして次の瞬間、その姿が消えたかと思えば少女はトリアのすぐ側まで移動していた。注視していたはずなのに、全く見えなかった。それはトリアも同じだったのだろう。実力の差に愕然として動けなくなっていた。そんなトリアに対して少女は手を出すわけでもなく、ただ一言を囁いた。

 

「この程度なら、姉を守れないのも無理はないかな」

「ぁ……」

 

 その言葉だけで、戦意を喪失したトリアが崩れ落ちる。

 

「ト、リ……ア……」

 

 こんなところで、終わるのか。私たち二人ともが。死を受け入れていたというのに、自分だけでなくトリアまで死んでしまうとなれば、後悔は尽きない。

 

 崩れ落ちたトリアに、少女が今度こそ手を下す……こともなく、代わりに私の身体が宙に浮いた。

 

「……これは、一刻の猶予もないかな」

 

 いや、違う。私は少女の腕に抱かれていた。崩れ落ちたトリアには目もくれず、少女は私の方へやってきたのだ。

 

 何をする気なのか、少女の目的が全く分からない。戦える聖騎士よりもこんな死に損ないを優先する、その意図が。だが、なんでもいい。狙いが私なら、トリアは助かるかもしれない。頼むから、今のうちに逃げてほしいと願っていたのに。

 

「ま……待て! 姉様に……姉様から離れろ!」

 

 嗚呼……つくづく、私の妹だ。恐怖と挫折で動けなかったはずなのに、私が危ないとなれば自らを奮い立たせ動くことができる。早く逃げてほしいのに……逆の立場なら自分も同じことをするだろうと考えて、かけるべき言葉が見つからない。

 

 そんな私の葛藤も、トリアの覚悟も意に介さず、私を抱き上げた少女は不意に。

 

「……むぐっ!?」

「は……?」

 

 私に、キスを落とした。

 

「な、な、ねっ、姉様に何を……!?」

 

 狼狽えるトリアの声が、随分と遠くに感じる。私だって同じ気持ちだ。初めてだったのに、だとか半死人には似つかわしくない思考が走る。

 

 だが、そんなことを考えていられるのもそこまでだった。

 

「う、あ……? あ、あぁぁぁぁぁぁ!」

 

 突然襲ってきた衝撃に、思わず叫ぶ。つい先ほどまで感じていた、死の淵へ徐々に近づいていく喪失感とは全くの逆。溢れんばかりのなにかが抜け殻だったはずの身体を暴れ回り、満たしていく。

 

「姉様!? 貴様ぁ……!」

 

 私の異常を認めたトリアが、なりふり構わずこちらに向かってくる。だが、その気迫だけで覆せる実力差ではない。

 

「それ」

「ぐぁっ……」

 

 子供をあしらうかのようにあっさりと、抱き上げられている私の方に衝撃が一切来ないほどの余裕さで、少女はトリアを無力化した。

 

「ぐ、ぁ……トリア……ァァ!」

 

 死んでは、いない。少女にトリアを殺す気はないようだ。そこまで確認したところで、私は自分に流れる力の激流に耐えられず、意識を手放した。

 

 

 

「それじゃ、姉様はもらっていくけど。最後に自己紹介しておこうか、か弱い聖騎士。ボクはスティーア。魔神スティーアさ」

 

 

 




ハイパー⭐︎ハーメルン⭐︎ガラパゴス小説、はじまるよー!

あ、マジの息抜きなんでよろしく
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