コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者 作:鐘楼
ぱちりと薄目が開かれ、カトルが目を覚ました。その瞳いっぱいに、魔性の少女(俺)のやたらいい顔が映る。
「スティー……ア……?」
「おはよう、カトル」
昨日あれだけのことがあったからなのか、はたまた単に寝起きが良い方ではないのか。寝ぼけ気味だったカトルの頭が冴えていくにつれて、次第にカトルの顔が赤くなっていく。
「なっ……何をして……」
お互い薄着で同衾。至近距離で密着。おまけに俺の手は意思とは関係なくカトルの背中をフェザータッチしている。まるで事後なので、勘違いしてもおかしくない。
「キミを見ていただけさ。キミの寝顔より見るべきものなんて、ここにはないからね」
文字通り、マジで娯楽ないからね、ここ。というかこの世界。どっちかというとち○ち○よりスマホが恋しい。あ、言っとくけどマジでヤってないよ。童貞だからやり方とかわかんねぇし、あんまり興味もない。……悪戯の手が段々カトルのお尻の方に伸びていることを思うに、この身体はそうじゃないのかもしれないが。
「ひっ、一晩中こうしていたのですか!?」
「まぁね。昨日のキミは、随分と不安定だったから」
「……あ」
思い出したらしい。昨日、俺はカトルをこの部屋に運んできた後、たっぷり話を聞いてあげていた。誘導とかは考えない、本当に彼女を落ち着かせるだけの時間だ。孤児院のこと、教会のこと、家族のこと、後悔、罪。色んなことを話してくれた後、泣き疲れたカトルを寝かせて今に至る。ちなみに魔神は寝ないので、マジで一晩中カトルの顔をガン見してた。暇なんだもん。
そのことと、そして辛い現実を思い出したのだろう、カトルの表情が陰る。あんまり良くない方向とはいえ、とりあえず落ち着いたカトルは、俺の手を丁寧にどけて起き上がり、申し訳なさそうな顔をした。
「その……今まですみませんでした」
「なんのことかな?」
「考えてみれば、そもそもあなたは命の恩人で……知るべきことを気づかせてくれた相手……私はそんな相手に、最低限の敬意すら払えていなかった」
いや、自分を魔族にした奴相手にしては大分態度良かったと思うけど。カトルちゃんは真面目だなぁ。
「それで……結局、あなたは私をどうしたいのですか?」
「どういう意味かな?」
「どんな意図があって私に……あの真実を気づかせたのか。その答えを、まだ聞いていません」
真っ直ぐな目線が、俺に向けられる。これ以上ないほどに心が傷ついている少女の瞳とは思えないほど真摯で、誠実さを以て誠実さを返してもらうことを望んでいるようだ。
うーん……ちょっと悪い気はするけど、これからのプランを組むためにここは一旦はぐらかすか。
「それよりまず、キミはどうしたい?」
「どうしたい……ですか?」
「キミがやりたいことをまず教えてほしい」
目的を果たすために、どう言葉をかけるべきか。落ち着いた今のカトルの心境次第で、それは決まってくる。俺は、なるべくウィンウィンを目指したいのだ。
「私は……罪を……償うべきだと、思います。ですが、償うべき相手は……もういません」
懺悔するかのように、辿々しく言葉を紡ぐカトル。償うべき相手というのは、知らずに命を消費していた家族や、他の孤児たちのことだろう。
「教会のどこまでが聖騎士の真実に関わっていたのか分かりませんが……私はもう、教会を信じられない。私には、すべての軸がうしなわれてしまった」
「……」
「ですが少なくとも……聖騎士は、存在してはならない」
宣誓か、強迫観念か。強い口調で言い切ったカトルの瞳は冷たい光を帯び、そこには強固な決意があった。
「分かっていると思うけど、聖騎士は王国が魔族に対処する上で欠かせない存在だ。それでも?」
なるべくフェアでいたいという気持ち半分、その覚悟の程を見る意図半分で、その決意がどういう意味を持つのか指摘する。けれども、カトルの瞳は揺らがない。
「あの子たちを犠牲にした平和など、無価値です」
それでも良いと、彼女ははっきりと言い切った。どうやら決意は固いようだ。
「気高いね。ますます好きになってしまうな」
「好っ……!?」
「じゃあ、最後に。キミの最愛の妹についてはどうかな。彼女も聖騎士のはずだけど」
「っ……」
カトルの瞳が、初めて揺らぐ。当然だ。彼女のトリアに対する愛は、何も変わっていないのだから。……それを失われたら多分『愛憎』判定に引っかからなくなるので、頼むからそのままでいてほしい。
「これは……エゴです。私の身勝手な……傲慢なわがままです」
「うん」
「妹には……トリアには、罪を知らずに、聖騎士なんてやめて、何も知らずに平和に暮らしてほしい」
罪深さを痛感するような表情で、嘘偽りのない気持ちを吐露するカトル。それで良い。あんまりこういう言い方はしたくないが、好都合だ。だって、トリアちゃんは絶対にそれを素直に受け入れるような子じゃないから。
「……分かった。正直に言ってくれてありがとう」
聞くべきことは聞いた。気持ちを伝えてくれたことを感謝するように、俺はカトルの頭を抱き寄せる。すると、カトルは戸惑いがちに抱き返してくれた。
さて……カトルちゃんは思ったよりも強く、真っ当だ。彼女はただただ、贖罪をしようとしている。
これだったらまぁ、俺が必要以上にカトルの心をコントロールする必要もなさそうだ。彼女が妹に何も知らないでいてほしいと望む以上、二人が戦う理由は既にある。
だったなら、騙すよりも俺の目的を話し、交換条件を提示して俺に協力させる方が都合が良さそうだ。別に話そうとすると心臓撫でられるとかないんで、ここは正直に俺や魔神のことについて話してしまおうか。