コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者   作:鐘楼

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帰ってください。お願いします。

 いや、やりすぎだよね。

 

 離れた場所でカトルがトリアを泣かせている光景を見て、俺は率直にそう思った。いや、分かっている。カトルに眷属ロールを提案したのは俺だし、それがトリアの心に()()と考えた故の提案であったので、こうなることは俺の狙い通りではある。

 

 でもでも、やっぱりカトルもカトルなんじゃないだろうか。彼女は完璧に俺の下僕になりきっていて、もうそうにしか見えない。俺との契約を全うするために自己暗示でもしているんだろうか。多分、カトルは自分に愛想を尽かしてもらおうとそのように振る舞っているんだと思われるが、完全に逆効果である。トリアの脳は破壊されて心はボロボロだ。マジで可哀想。

 

 ……可哀想だと、そう思っているはずなのに。

 

「くっ……ハハッ……アハハハハハハッ!」

 

 この貌は、嗤っていた。この身体は、法悦に震えていた。

 

 ちぐはぐだと、自分でも思う。この美少女ボディは魔神で、どうしようもない悪性。それは動かせない事実なのかもしれない。それでも俺は人間だ。人間だと、信じ続ける。……そうしなければ、この、自分のものでないはずの悦びが『俺』を呑もうとするから。

 

 というか、俺はよくやっている。だって、まだプラスなのだ。カトルが死んでしまって、二度と言葉を交わせなくなって、真実を知る機会もなくて、心に孔を開けたトリアが自暴自棄になって戦死するとか、はたまた失意の果てに後を追うとか、そんな結末に比べれば。

 

 ちょっとよくわからん魔神が姉様を魔族に変えて自らの所有物みたいにベタベタしているところを目の前で見せつけられた挙げ句、当の姉様が下僕を自称して魔神への忠誠と自分への失望を口にしだしてそれをおかしいと言ったらボコボコにされたくらいがなんだというんだ。やっぱり死別よりマシだ。(正当化)

 

 ……などと、醜い思考を巡らせていた、そんな時だった。

 

「スティーアはんも、そないな顔しはるんやねぇ」

「……ッ!? ヤキメ(夜鬼女)……」

 

 げ。嫌な奴が出たと、俺の心は露骨に嫌な顔をする。が、スティーア(この身体)の表情はせいぜい無表情に戻るだけ。

 

 上からかけられた声の主は木の上から俺の目の前に降り立つと、こちらの顔を覗き込んでくる。そして、まるで中にいる『俺』を捉えたかのような眼で、口を開いた。

 

「……ふぅん? 順調に混ざってきてはるみたいやねぇ」

「……」

 

 混ざる。何のことを言っているのかは分かる。『俺』と『スティーア』のことだ。失恋ちゃんと違い、別に前世カミングアウトとかしてないのにコイツは自力で中身に人間がいるということを見抜き、それから度々ちょっかいをかけてくるのだ。

 

「先の笑いのことを言っているのなら、的外れだと思うけど。魔神として、生きるために必要なモノを回収する、貴重な機会だったから。それだけのことだよ」

「ほんまに? ほんまに腹ぁ膨れたからってだけで、あないに愉しそうにしてはったん?」

 

 ……うっさいなぁコイツマジで。俺が真剣に悩んでるところを突っつくのはやめてほしい。これで迂闊に悩みとか弱みを見せると更に弄られるので本当に面倒くさい。はぁ、雑に再会するなら失恋ちゃんが良かった。……まぁ、ヤキメは魔神の中だと割と話せる方なんだけど。話が通じる魔神偏差値55くらいだ。

 

 こうなったら、口で追い払うしかない。罵倒してればスティーアのキャラ補正でいい感じの嫌味になるので、カトルが帰ってくる前になんとか帰ってもらおう。

 

「はぁ。暇だね、キミも。ここにはキミの糧になるものなんてないと思うけど」

(訳:帰れ帰れ。いつも通り戦場で男漁りでもしてればいいだろほんと)

「そうでもあらへんよ? うち、スティーアはんと一緒におるだけで愉しいし。特に、スティーアはんが人間ごっこを辞めて自分を受け入れる瞬間なんかは見逃せへんなぁ」

「……羨ましいね。キミの世界は楽しさであふれていそうだ」

(訳:こっちの気も知らねーで……! このクソイージーモード魔神が……!)

 

 突然だが、魔神の『目的』には三つタイプがある。

 

 一つ、レアなニートタイプ。暗躍成金カスモヤシ男……じゃなくて、『経済』の魔神のように、世界全体に『目的』達成の判定があるタイプ。このタイプは人間や魔族の社会構造が『目的』に適している限り、何もしなくても腹が膨れる勝ち組だ。死ね。しかし、こいつらは寝てても生きていけるくせに、『目的』のために社会システムを管理・誘導しようと暗躍する傾向がある。要するに、権力を持とうとする。人間の指導者とどっちがマシかは場合によるのだが、今はいい。

 

 そして、ハードモードタイプ。俺や失恋ちゃんがこれで、『目的』の判定が個人にあるタイプ。俺たちは、餌になりそうな人間にマーキングをしないと『目的』を達成できない。つまり、生きるために自分が動き続ける必要がある。クソが。一応、ニートタイプと比べると回収効率や腹持ちは格段に良いが、それでも個人と世界の差は大きすぎる。死ね。ちなみに、ここでいうマーキングはカトルに使った権能発動とは別なので、キスとかではなくただ触れるだけで完了する。今の俺でいうと、カトルとトリアの二人にマーキングをつけている状態だ。カトルの方は演技なのでそこそこだが、トリアの方はもうすごくすごい。

 

 最後に、自家発電タイプ。

 

 例えばそう、目の前の、『享楽』の魔神ヤキメ。

 

 こいつは自分が愉しいと感じるだけで腹が膨れる。この世界は不公平だ。(今更)

 

 このタイプは、唯一人間や魔族に依存していない。ので、やり過ぎて魔神レイドバトルの対象になるのは大抵このタイプだったりする。

 

 ヤキメに関して言えば、見所のある人間で遊ぶのが趣味の魔神だ。グロもエロも大好物で、壊した人間は数知れず。だがしかし、国一つ滅ぼしかねないレベルじゃないと魔神レイドバトルは発生しない。そういうわけで、なんでも愉しめるその気質とイージー目的が合わさって無駄に悠久の時を生きてきたのが『享楽』の魔神である。

 

「ところで、見せてもらったよ? うちが見込んだとおり、趣味がええなぁ。あれ、どこで見つけてきたん?」

「危うく失われそうな命だったから、ボクのモノにしたのさ」

 

 どう考えてもカトルとトリアのことなので、適当に答えておく。正直、これ以上興味を持ってほしくない。

 

 ……という考えは、もう手遅れだったようで。

 

「けど、いくら綺麗やからって、そないに見せびらかすもんとちゃうよ? だって、なぁ?」

 

 言葉が続くより前に、手が出ていた。

 

「……欲しくなってまうやん?」

「カトルもトリアもボクのモノ、なんだけど」

 

 俺の拳を軽く受け止めながら、ヤキメは心底愉しそうに笑う。

 

「ふふ、うち、嬉しいんよ? スティーアはんに守るべきもんが出来て。うちの誘い、断れへんやろ?」

「随分と、愉しそうだね」

「そらね? うち、スティーアはんのことだぁ~いすきやから。どないする? 壊し合ってから融け合うか、融け合いながら壊し合うか」

 

 遊び。全く洒落にならない話だ。こいつが見境ないのか、スティーアの中の『俺』に目をつけているのか、ヤキメは度々エロい感じで殺し合いに誘ってくる。いい迷惑である。その都度断るか逃げてきたが、今回はマズい。カトルを出汁に脅してきやがった。

 

 やるしかないのか? 年季が違いすぎて普通に勝てないんだけど、やるしかないか……!

 

 なんてピリピリしていると、不意に俺の拳を掴むヤキメの力が緩み、同時に纏う空気感も弛緩する。

 

「なぁ~んて、冗談よ? あないなおもろいもん見せられて、摘まみ食いするほど堪え性あらへんと思っとったん? 傷つくわぁ」

「……意図してそう誤解されるような振る舞いをするキミに問題があると思うけど」

「むしろ、他の魔神の横槍からうちが守ったげるよ? あの姉妹のこと、そんくらい気に入っとるん、ほんまやで?」

「……えっ」

 

 い、いらねぇ……! そういうのは俺がやるから、マジで帰って欲しい……!

 

 という、俺の心情も虚しく。後ろから、向こうの戦いの場から、足音。カトルが、戻ってくる。

 

 え、マジで? マジでコイツとカトルを引き合わせるの? い、嫌すぎるんだが?




・『経済』の魔神の好きなもの
ババ抜き、シャボン玉、禿鷹、イナゴ
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