コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者   作:鐘楼

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ほら、近い人ほど逆に一側面しか見えていなかったりとかあるから……

「スティーア様。カトル、ただいま戻りました」

「あぁ、うん。お疲れ様、カトル」

 

 戻ってきたカトルに、ヤキメの笑みが深まる。スティーア(俺)も微笑が貼りついているタイプではあるけれども、スティーアはニコニコって感じであって、ヤキメはこう……ねちっこい笑みというか、ニタニタという擬態語が似合うというか。(主観)なんとなくカトルに見せたくなかったので、ヤキメを背に隠すように立って応対する。

 

「これで、『炉』にエネルギーを補給することができる施設は半分ほど潰したということになるのかな」

「場所まで調べていただいて、本当にありがとうございます」

 

 心臓を摘出してエネルギーに変えて聖騎士の『炉』に補充するなんてこと、場所を選ばずできるわけもなく。それは教会本部と、一部の支部にある地下施設でしかできない行為だ。そこを狙って襲撃し、ついでに研究資料ごと研究者を抹消すれば聖騎士を運用し続けることは事実上不可能となる。それが、もっとも穏便に聖騎士というものを終わらせる道であると判断して、俺はその施設の場所をカトルに提供していた。

 

 とはいえ、俺もそこまで事情通というわけではないので……頑張って足で情報収集して場所を突き止めたりしている。ちゃんと協力するって契約だから、これくらいはね?

 

「それに、西方の誓約術まで教えてくださって……」

「必要なものだったからね。ボクにとっても、キミにとっても」

 

 西方の誓約術。王国より西の方ではまた違った魔法体系が発展していて、その中の一つ……というややこしい話は置いておいて、要するに口止めの手段だ。

 

 カトルは、あくまでこれ以上犠牲となる子供を増やしたくないだけ。何も知らない一般聖騎士まで殺して回りたいわけではない。むしろ真実を伝えるべきだと思っているのだが、トリアの耳にまで入ってしまうことは避けたい。

 

 そこで、この誓約術。契約を遵守させる魔法で、今回施設を守っていたあの名も知らぬ聖騎士くんには説明をする代わりにトリアにはその内容を言えない制約をかけさせてもらった、というわけだ。

 

「……スティーアはん、あないな欠陥魔法教えたん?」

 

 と、今まで大人しく黙っていたヤキメが怪訝な顔でそう言った。こいつが言わんとしていることは分かる。実のところ、誓約術はそんなに凄いもんじゃない、という話だ。

 

「欠陥とされて廃れたからこそ、逆に対処法は知られていないものさ」

 

 誓約術は、知ってれば割と簡単に解呪ができる。破られる可能性が拭えない誓約術なんて意味がないので、もはや西方でも廃れた魔法らしい。が、だからこそこの国で解呪の方法を知っている者はいないだろう。……まぁ、ぶっちゃけ時間の問題だろうし、それなりに遅延できれば良いのだ。

 

「あの……そちらの方は……?」

 

 ヤキメが会話に口を挟んできたため、当然ながらカトルの注目がヤキメに向く。まぁそうなるよねぇ……。

 

「初めまして。うち、スティーアはんのお友達のヤキメ言うんよ。よろしゅうに、カトルちゃん?」

「友達ではないけど。……カトル。魔神だ。敵視する必要はないけれど、ボク以外の魔神は信用しないように、ね?」

「は、はぁ……」

 

 俺がヤキメの言葉を即座に否定したせいで困惑するカトルだが、その真面目さからかすぐに真剣な表情を作り、ヤキメに向き直る。

 

「よく分かりませんが……スティーア様の御友人……かはともかく、お知り合いのご様子。私はスティーア様の忠実なる僕、カトルと申します」

「ふぅん、僕、なぁ?」

 

 俺の知り合いだから目上だと判断したのか、カトルはヤキメに綺麗なお辞儀をしながら自己紹介をした。……こうして見ると本当に俺の眷属みたいで……って、そうじゃなくて。

 

「……カトル。それはあくまでフリだろう? ボクとしては、トリアの前でだけ演じてくれれば十分なんだけど……」

「いえ。この命はスティーア様あってのもの。それに、常日頃から意識していなければ、いざという時にボロが出てしまうかもしれないので。私はこの三年間、誠心誠意スティーア様に仕えると決めています」

「……そうか。嬉しいね」

 

 律儀か。ずっと律儀だったわ……。と、そこでカトルの表情が初めて揺らぐ。何か言いにくいことを言い出そうとしているような。ここからが、演技ではない本音だということか。

 

「それでその……スティーア様」

「なにかな?」

「スティーア様の『目的』とは、相反してしまうかもしれませんが……」

「いいよ。言ってみて」

 

 ぶっちゃけそれは結構困るが、聞いてみないことには始まらない。俺だってカトルの意思は尊重してあげたいので、彼女の言葉を待つ。

 

「もし、もしもトリアが今日の戦いで自ら聖騎士を辞めた際は、もうあの子のことは……解放していただけませんか……!」

「………………え、あ、あぁ」

 

 ……いかん、ありえん仮定すぎて思考がフリーズしてしまった。そうか、カトルはその可能性があると思ってるのか……そうだよな、だから頑張ってトリアに自分を諦めるように振る舞ってたんだもんな……。

 

「ダメだと仰るのであれば、代わりにこの身、三年と言わず永遠に……!」

「い、いや。頭を上げるんだ、カトル。もちろん、戦いから身を引いたトリアを縛るつもりはないし、そんな彼女にキミの方から戦いを仕掛ける必要もない。ボクはそこまでしてボクの『目的』を達成する気はないよ」

 

 嘘は言っていない。そうなったら潔く他の餌を探そう。十中八九、そんなのありえないだろうけど。

 

「っ……! ありがとうございます……!」

 

 そう言って、涙を流すカトル。なんかめちゃくちゃ俺が寛容な主みたいになってて正直心が痛いが、仕方がない。そんなこんなで話もついて一件落着……を邪魔する魔神が、ここにはいた。

 

「ふふっ……カトルちゃん、ほんまに? ほんまにあの妹ちゃんが大人しく力を手放すって思てはるん?」

「ヤキメ……」

 

 こいつ……さっきの一幕しか見てないはずなのに、よく二人の関係を分かってるな……さすがババア……ではなく、何余計なこと言おうとしてんだてめぇ!

 

 くっ……ここがテーブルだったらカトルの見えないところで思いっきり足踏んでやるのに……! やっぱ足絡めてきそうでヤダ……!

 

「……どういう、意味ですか?」

「そうやなぁ……例えば? 妹ちゃんがカトルちゃんに追いつくために、もぉ~っと力を求めたり? 炉心の秘密を知ってしもうても、カトルちゃんに追いつくためならって言うて止まらへんかったり? そういう可能性は考えはらへんの?」

 

 カトルの表情が歪む。それは、久々に見る彼女の純然な怒りだった。

 

「……たとえスティーア様のお知り合いでも、今の言葉は我慢なりません! 撤回してください! トリアは……あの子は優しい子です! もし本当のことを知ったら、きっと私以上に苦しむはず……!」

「へぇ~、そうなん?」

 

 カトルの言葉に、ヤキメの嫌な笑みが加速する。でもまぁ……これに関してはぶっちゃけ、カトルのトリアに対する解像度が低いというか……近すぎたが故の弊害なのか……それを利用している俺に言えることはないというか……。

 

「なんてな、ごめんごめん。撤回するよ。うちが悪かったわ。よう考えたら、妹ちゃんのことよう知らんうちなんかよりカトルちゃんの言うことの方が当たってはるに決まってたわぁ。……姉妹、やもんなぁ」

「そう、ですか……」

 

 心底愉しそうな笑みのまま、ヤキメは挑発的な雰囲気だけを引っ込めて、あっさり謝罪した。カトルも、思いのほか素直に謝られたことで拍子抜けするも、すぐに謝罪を受け入れる。

 もちろんヤキメは一切悪いとも思っていないだろうし一生反省なんかしないだろうが、表向き平和的な空気を取り戻した俺たちはとりあえずの帰路についた。

 

 あ、カトルがヤキメに質問攻めにされている。すまんカトル、俺はダル絡みされたくないからしばらく代わりに相手してくれな。

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