コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者 作:鐘楼
最悪だ。
「……トリア」
……何が?
身体に響く鈍痛か。
肉体的な痛み以上に、心を抉られた蹴りを反芻し続ける脇腹か。
夢の中の姉様に浸ることすら許さない、変わってしまったあの眼か。
きっと今も、あの魔神が姉様の隣にいることか。
一人じゃ何も出来ない、弱いあたし自身か。
ベッドの側であたしを見下ろすひとが、姉様じゃないことか。
「どうだ……? 身体、痛むか……?」
そんなの、全部に決まってる。
「……先輩」
ちらりと目を向けると、いつもと印象が違っていて少し驚く。お節介な先輩はどこかやつれていて、あたしを見る眼は疲れ切っているように見える。それがちょっと気持ち悪いけど、置いておく。そんなのは、全然重要なことじゃない。
「あれから、どうなりましたか」
「……任務は失敗。施設は破壊されて、奴は……カトルは、俺たちを見逃して去って行った。後は、傷の浅い俺がお前を回収して本部まで逃げ帰って……このザマだ」
「そうですか」
まぁ、大体想像通りだ。聞くべきことは聞いた。やるべきことのために、あたしは痛みを無視して立ち上がろうと力を込める。
「っ! おい……!」
「邪魔です。どいてください」
動こうとするあたしを、制止してくる先輩を睨む。
「どこ行く気だよ……! また当てもねぇのに……」
「当てならあります。まずは本部の人に相談して、出力を上げてもらいます」
「ッ……!」
「やれることはなんでもやります。力を得るためならなんでもやります。そうしなきゃ、姉様を取り戻せない……姉様が見てくれない、姉様が行っちゃう、姉様が姉様が姉様が……っ」
「トリアッ!」
頭に響く大声で名前を呼ばれて、否応なく意識が現実に引き戻される。それだけじゃなくて、ただでさえ焦燥感に狂いそうなのに声のせいで頭がガンガンして、苛立ちが募っていく。
「うるさいですね。大きな声出さないでくださ……」
「なぁ、トリア。やめちまえよ……聖騎士」
「────は?」
声が漏れる。まさか、言われたの? 今、一番言われたくない言葉を。先輩に?
「カトルも……言ってたろ。お前には向いてないから、さっさと辞めて戦いから身を引けって。ちょっとは言うこと聞いて、その通りにしてみねぇか? そりゃ、彼氏がどうとかはすぐに考えらんねぇかもしれないけど、まずは趣味なんかを探すことから初めて──」
「黙れッ!」
「ぐっ……」
感情のまま、先輩に掴みかかって壁にぶつける。拍子抜けするほど抵抗がなく、先輩はあっさりと叩きつけられた。その瞳は虚ろで、目線も合わない。
「あたしは……っ! 姉様以外のものなんて必要ない! 姉様のいない世界になんか価値がない! 邪魔するな!」
吐き捨てるようにそう言って、あたしは先輩を放した。腹立たしいけど、それ以上に今日の先輩は気味が悪い。こんな人に関わっても時間の無駄だと思って、あたしは医務室から出ることにした。
☆
「何故ですか!?」
上手くいかないことばかりだ。まずは『祈り』の補給をしようと申請に行った矢先にこれだ。『祈り』の補給は出来ない、と。ここは本部なのに。
「ですから、これは物理的な問題で……我々ではどうしようもなく……」
「はぁ!? 『祈り』が集まるのが本部じゃないんですか……!?」
「それは、その……」
話にならない。なぜダメなのかも具体的に言わないし、態度も煮え切らない。苛立ちが加速し続けてどうにかなりそうだったその時、聞き覚えのある怜悧な声が響いた。
「騎士トリア。控えなさい」
声の主なんて、決まっている。謎めいた黒いベール、長身、場の雰囲気を一瞬で塗り替えるほどのプレッシャー。
「教皇様……!?」
「猊下、なぜ……」
教皇様は受付の神官を手で制すと、あたしの方へと近づいてくる。
「……」
「な、なんですか……」
何を考えているのか、教皇様は無言であたしを見下ろしてくる。ハッキリ言って、あたしはこの人が嫌いだ。魔神は追うなとか言ってきたし、謹慎もこの人のせいだから。だけど。
「騎士トリア。更なる力を望みますか?」
そんな好き嫌いなんて、この手が姉様に届くなら些細なことだ。