コンビの片方を闇堕ちさせないと生きていけない魔神系TS転生者 作:鐘楼
その時は、驚きと疑問が頭の中の大半を占めていて、トリアを信じてやれなかったことへの後悔は、せいぜい一割くらいだった。
現れた襲撃者は、本当に魔族へと変じたカトルだった。
警戒を緩めずに、会話を試みた。
話してみても、変わらないカトルのままだとしか思えなかった。
なぜ魔族になってしまったのか、なぜこんなことをするのか問い詰めた。
前者には蘇生の代償だと答えてくれたが、後者の問いに答える気はないらしく、カトルは襲いかかってきた。
それでも俺は反撃せずに言葉で食い下がった。甲斐あって、カトルはその動機を教える気になってくれた。
条件として、聞いた話をトリアに言わないという縛りを課せられ、よく分からない魔法を使ってまで念入りに制限されたが、その時は大した問題だとは思わなかった。
そして俺は、今まで守ってきたものが、使ってきたものが、悍ましく、価値がなく、不釣り合いで、無力で悪で尊くて踏みにじって無知で欺瞞で酔っていて騙されて加害者で被害者でしょうもなくて言い訳じみていて反吐が出て──
☆
縛られていたのは、あくまでトリアに打ち明けることだけ。帰還の後、俺がとる行動は決まっていた。
「どういうつもりだてめぇ! 説明してもらおうか……!」
「……何の話かな?」
団長。ハイネス・ウィブロアシア。真っ先に問い詰めることにしたのは、こいつだった。もっと首謀者に近い教会関係者なら、もっと他にいるのだろう。今から探すのも面倒だし、そもそもそんな相手の言葉なんて聞きたくもない。いざ目の前にすれば、頭に血が上って万が一、という可能性を否定できないという理由もある。
事情を知っていそうで、信頼できる……いや、していた人間。それで一番に思い浮かんだのがこの男だった。
「
自らの心臓を指し示し、核心に迫る。
「……どこでそれを?」
「っ……! 本当なんだな……」
ハイネスが悲痛な顔をしているのが、唯一の救いだった。もし何の感情も示さなかったり笑いでもしていたら、手が出ていた。
「カトルだよ……! 施設とやらを襲ってるのは魔族になったあいつだ! で、その施設ってのは……!」
「……そうか。真実を知った彼女が、炉心の関連施設を潰して回っている、と……」
ハイネスは納得しているようだが、こっちはなにも納得できていない。こんな報告をしてやりにきたんじゃない。俺はハイネスに掴みかかり問い詰める。
「……何故だ!? なんでこんなことを……いや、なんで黙ってやがった!?」
「こうなるからさ」
「っ!?」
俺の全力の睨みを、ハイネスは鋭い目で見返す。掴みかかった俺の手が掴み返される。
「換光炉心の適合者は貴重なんだ。その全員に犠牲を背負う覚悟を求めていたら回らない。分かるだろう? 足りないんだ。魔族に対抗するには、聖騎士の数が」
「っ~~! だとしても、こんなやり方間違ってるに決まってるだろうが……!」
「それは、なにか代案があって言っているのかな?」
「……っ」
ハイネスの瞳は、揺らがない。
「聖騎士と同等以上に効用があり、かつ犠牲も生まないプラン。そんなものがあるならば、その方が良いに決まっている。でも、ないんだ。魔族を野放しにすれば、犠牲の数は今の比では済まない。手は打たなければならない。それは動かせない。できる手で最善の方法。それが現状なんだ」
「正気で言ってんのか……?」
「だったなら、背負った命を最大限有効活用するのが我々にできる手向け。そのはずだ」
「んなわけねぇだろうが……!」
反論にもなっていない捨て台詞を吐いて、俺は部屋を後にする。
……少なくとも、団長はすべてを呑み込んだ上で確固たる信念を抱いていた。だが俺は、ただただ間違っていると喚くことしかできない。それどころか、心のどこかではあちらに理があるのかもしれないと、そう思ってしまっていた。
カトルなら。覚悟を決めて聖騎士を滅ぼそうとするカトルであれば、ハイネスに正面から言い返すことができたんだろうか。
分からない。半端者の俺は、行く先も分からないままだった。
☆
そして、今。
俺は、トリアにされるがままに張り倒されたその場所から、動くことができなかった。
カトルの意図は、想像がつく。トリアに罪を背負わせたくないんだろう。自分の定めた昏い道に、妹を巻き込みたくないんだろう。単純に、普通に幸せになって欲しいんだろう。
けどそれは、全部トリアの心を無視している。
「バカカトルが……っ」
できることも、やるべきことも分からないまま、俺は遠い場所に行ってしまった大馬鹿者に恨み言を吐いた。